こ も れ び の 里

長崎県鹿町町、真言宗智山派、潮音院のブログです。平戸瀬戸を眼下に望む、人里離れた山寺です。

目暗ケ原(めくらがはる)ものがたり 巻きの 3

2006年04月25日 | 教育

 

潮音院縁起

 

~目暗ヶ原ものがたり~

 
    ここの里人たちは、とても親切な人たちでした。

大けがを負ってしまった光盛をみるや、

里の女たちは、傷口の手当をしたり、

汚れた体をきれいに拭き取ったり。

ある者は、ボロボロになった着物を縫いつくろい、

ある者は、ご飯を炊いてにぎりめしを食べさせました。

 

 「かたじけない・・・。」

光盛は、里の人々の親切に思わず涙を流します。

 

「実は、盗賊に出くわしてしまい、応戦している間に、

同行の僧とはぐれてしまった。」

 歩くこともかなわない光盛は、

里人たちに、ことの顛末をつぶさに伝えました。

 話を聞いた里の男たちは、翌朝すぐに、

琵琶法師を探しに高原へ出かけました。

 

 光盛に聞いた場所へ到着した男たちは、

すぐに法師を発見しました。

「・・・、なんともおいたわしい。

 思い半ばにしてこのような形で果てなさるとは、

 さぞかし無念であられたろう。」

 

 琵琶法師は、胸を矢で射抜かれ、ススキの中にうつ伏せに

倒れていました。

 ススキの葉に付いた朝露が、朝の光に反射して、

まばゆいばかりに輝いています。


 よく見ると、背中の琵琶はまっぷたつに割れています。

 

「だれか、お連れの坊様にこのことを知らせてきなさい。」


 あわれに思った里人たちは、ねんごろにその亡骸を清め、

割れてしまった琵琶ともども、その場で荼毘にふすことにしました。

 

 琵琶が燃え出すと、あたり一面には、えもいえぬ

高貴な香りがただよいました。

 その香りは、たちまち野山に広がり、里全体にただよいました。

 

「お坊!申し訳ござらん!

 私がついておりながら、無念でございます。 ・・・許して下され。」


 白檀でつくられた琵琶の香りは、煙とともに光盛の心の傷にしみ入り、

言いようのない無念さは、炎とともに燃えさかります。


 そのとき、一陣の強風が吹き、その香りは風に乗って平戸の瀬戸をこえ、

対岸の平戸島までただよいました。まるで、琵琶法師の魂が、

平通盛の住む宇久島まで届きたいという一念で、

この妙なる香りを遠くまで漂わせたかのようです。


 光盛と里の人々は、あらためて涙を流し、静かに手を合わせました。


                                               つづく 
 

 

 

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目暗ケ原(めくらがはる)ものがたり 巻きの2

2006年04月23日 | 仏教

 

潮音院縁起

 

~目暗ヶ原ものがたり~

 突然、濃い霧の中に何かが動いたように感じました。

と同時に、シュッ!と風を切りながら一本の矢がとんできました。

 光盛は、琵琶法師をとっさに引き寄せ身をかがめ、

瞬時に周囲を見渡しました。

 その身構えといい、物腰といい、とてもただ者ではありません。

 

 「ワァ~!!」

 霧の中から声を張り上げながら、何者か現れました。

 「何者じゃー!名を名乗れい!!」

 それは、日頃からこのあたりにたむろして、旅人から金品を奪い取る

盗賊の一団でした。

 光盛は、頭陀袋の底にしまっておいた短刀を片手に持ち、

襲いかかる盗賊に応戦します。 予想だにしなかった光盛の強い応戦に、

驚いた一団は、一斉に引き上げ始めました。

  

 盗賊が逃げた後、あたりはもとの静けさを取り戻し、

そしてすっかり日も暮れてしまいました。

 光盛は、歩くのも困難なほど足に矢傷を負っています。

「お坊ぉ~、お坊ぉ~!おったら、返事をなされえ~。」

返事がありません。

あわてて琵琶法師を探しますが、あたりはすっかり暗くなるし、

とうとう探し出すことがかないません。

 「矢で射られでもしたのだろうか・・・。お坊ぉ!」

 光盛は、仕方なくひとりで高原を下り、里の人々に助けを求めました。

 

                                      つづく

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目暗ケ原(めくらがはる)ものがたり

2006年04月20日 | 教育

潮音院縁起

 

~目暗ヶ原ものがたり~

 

  秋の夕暮れ、遠くからこずえをわたる風の音が聞こえてくる。

そんなとき、ひいばあちゃんは決まって話してくれる。

「ありゃなー、法師さまのひきよらす琵琶の音ばい。

いっときすると、よかにおいのしてくるけん、

じーっとしとってみんねー。」

 

 

 遠い昔、船の村は目暗ヶ原でおこった事件です。

 霧はますます濃くなってきました。乳の色をした重々しい霧でした。

とつぜん突風が吹きあがり、そこにふたつの人影がおぼろげに浮かびあがります。

 ふたりとも長い旅の果てに、着物はひどくいたんでいました。ひとりのお坊様は、由緒あるお方でしょうか、りっぱな風格をそなえております。

 もうひとりは、目が不自由な琵琶法師。背には、金襴の袋に包まれた琵琶を背負っています。

 

 「光盛殿!貴殿は濃い霧で道も見えないと嘆きなさるが、わたしには、霧も夜も昼も、皆同じにございます。目明きは不自由なものでございますなあー。はっはっはっはっは。」

 琵琶法師の言葉に

 「まこと、お坊の申されるとおり、この霧には難渋いたす。

何となく、霧の中に潮の香りが感じられますゆえ、

この峠を下れば海岸に出られるやも知れません。」

と光盛りは返しました。

 実は、このふたりは、源平の争いに敗れた平家ゆかりのものでした。

 この西海の五島宇久島には、都を逃れた平道盛が宇久道盛りと名乗り、近辺の島々へ勢力を伸ばしておりました。

 このことを風の便りに聞いたふたりは、道盛がもと宇久島へ渡らんと、はるばる鹿町の地へとたどり着いたところでありました。

 この時代、鹿町へ乗り入れるための陸路は、佐々町から山越えして、この目暗ヶ原を通るしかありませんでした。

                 

                                        つ づ く

 

 

 

 

 

 

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神様は、子どもが大好き

2006年04月14日 | 教育

 

 まもなくすると、年かさの子が両手を突き上げたちあがり、足をふみな

らしながら、言葉にならないことを叫びながら社殿の中をクルクルと回り

だすではありませんか。

 すると、ほかの子どもたちもそれにつられるように、両手を突き上げ足

踏みならしクルクルと、とても陽気にまわりだしました。

 そのうち誰ともなく、草刈り鎌を腰にさし、刈り取った草を束ねるため

の葛のツルを首にかけ、それぞれが思い思いに踊り出しました。

 それはそれは、大にぎわい。普段は静かな里の山に、子どもたちの楽し

い唄声や歓声がひびきわたっています。

 

 さてそんな時、神社の方向からいやに騒がしい声が聞こえるものですか

ら、この神社の総代さんがあわてて見回りにやってきました。

 と、この総代さん。おどろいたのおどろかないのって。

腰を抜かしておどろいてしまいました。


 あろうことか、まっ赤な顔をした子どもたちが、酒のにおいまき散らし

大騒ぎ。

子どもたちのとんでもない姿に、腹を立てたのなんのって。

 「クォラー!なんばしよっとかあ!!」 そりゃ~もう、すごいけんまくで、

 「子どものくせんしとってぇ、酒ばのむとはあ、なんちゅうこっちゃあ!

こりゃあ神さまん酒ぞお!バチんあたっぞう!」

 ひとりひとりの子どもをつかまえて、

「おまえはどこの子かあ?!親ん顔に泥ばぬるごたることばしよってえ!!」

と、ゲンコツ振り落としながらさんざん叱りとばしました。

 子どもたちはいっぺんに酔いもさめ、すっかりしょげかえりながら牛の

草刈りへと行きました。

 

 さて、数日ほどたったある日。

 総代さんの家ではたいへんなことが起こっておりました。

 この総代さん、原因不明の高熱におかされていたのです。床の中では、

わけの分からないことを口走り、日がな一日ウゥ~ウゥ~とうなされています。

 総代さんの家族は、遠くから医者をよんであれこれと治療をほどこして

もらいますが、いっこうに良くなる気配がありません。

 すっかり困り果ててしまった家族の人は、

山寺の坊さんに祈祷を頼みます。

 読経をしながら太鼓をたたき、さらに護摩をたきつつ一心に祈祷。

と、やおら顔を上げた坊さんは、とても神々しい調子で語りはじめます。

 「これ、鎌倉神社の氏子よ!
  神社で楽しゅう遊んでおる子どもたちをば、
  叱りつけるとは何事じゃあ!
  子どもは元気が一番じゃあ。
  自由に遊ばせえ~。
  ユメユメ疑うことなかれ~~~。」

 と神さまのお告げが伝えられました。

 「ハハーッ!!」

 総代さんはじめそこに居合わせた氏子たちは一斉に頭を下げました。

 それからあわてて村の子どもたちを神社に集め、

社殿で楽しく自由に踊ってもらうことに。

 もちろん甘酒も準備します。

 子どもたちは、はじめ照れくさそうにしておりましたが、

甘酒をなめているうちに、だんだんほっぺに紅が差してきて、

腰に鎌さし、首に葛を巻きつけて、楽しく愉快に踊り出しました。

 そこに氏子が笛や太鼓の音をそえ、子どもたちはますます調子に乗って、

おもしろおかしく楽しそうに踊りまくりました。


 次の日。
 あ~ら不思議!
 うぅ~うぅ~うなっていた例の総代さんは、すっかり病気も治って、
すっかり元気を取り戻しました。

 
 「この鎌倉様は、子どもの楽しい遊び声が大好きでいらっしゃる。

 祭礼の時には、腰に鎌さし、首に葛を巻いた子どもたちの舞を奉納す

  ることにしよう!」

 総代さんは、そう高らかに宣言しました。

 それからというもの、この神社の祭礼には、子どもたちによる葛舞を

必ず奉納することがならわしとなったそうな。

 

 宵祭り。
 拝殿から太鼓が鳴りだす。
 妙なる笛の音も聞こえてきた。
 大きな歓声とともに、拍手がわき起こる。

 長い葛を輪にして首にかけた若者が、
 右手に持った鈴をシャンシャンと鳴らしながら、
 思いのままに舞い踊る。

 白いもも引きにカスリの半纏をはおり、
 腰には荒縄を帯にして、草刈り鎌をさしている。

 踊り手は、最初こそぎこちない踊りだが、
 間もなくすると笛や太鼓の音に合わせつつ、
 その動きはスムースになっていく。

 周囲の観客は、神前であるにもかかわらず、
 にぎやかに手をたたき、大いにはやし立てている。

 

 船の村の鎌倉神社では、今も、みごとな「葛舞い」が
奉納されています。
 くじ引きで決定される踊り手の家には、五穀豊穣、
家内安全の御利益が必ず降り注ぐといわれています。

 

                                お・わ・り

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神様は、子どもが大好き

2006年04月12日 | 仏教

鹿町町の郷土史料には、古より伝わる昔話が数編まとめてあります。せっかくある史料なので、子どもたちに伝わりやすく、語りやすい物語にしてみたいなあ、と思い立ち、少しずつやっていくことにしました。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まずは、

か ず ら 舞    ~神様は子どもが好き~ 

 昔々の元禄時代のお話です。

 船の村にある鎌倉神社では、毎年手作りの酒をこしらえ社殿の奥にしまっておくならわしがありました。

 ある日のこと、村の子どもたちが牛の餌を刈り取りに行くとちゅう、この神社にたちより・・・、

「クンクンクン、お?よかにおいのすっぞお。なんの匂いやろうか?」と、ひとりが言いました。

「おお、こりゃあ、甘酒のにおいばい!」

「どこにあるとやろか?」

ワイワイ騒ぎながら、子どもたちは社殿の奥へと入っていきました。

「お?奥の方からにおいよる!」

あたりをはばかるように、だれかが言った。

「おいっ!あったぞーっ!」

つぼのふたを取りながら、

「お~、こりゃあぁ~うまそうだ!どれどれ・・・。」

「どりゃ、おいにもなめさせろ!」

「こらっ!あんましデカイ声出すな!次はおいのばんたい!」

子どもたちは、かわるがわるつぼの中に指をつっこんで、

大事な神事用の甘酒をなめました。

酒に仕上がる前の甘いどぶろくだったから、子どもたちは大喜び。

 

「ありゃぁ、おまえの顔、まっかっかになっとるぞ~。」

「おまえもたい!」

「ふはははは~」

「はっはっはっはっはあ~」

「へっへっへっへっへぇ~」

「ひっひっひっひっひっひぃ~」

 

               つづく

 

 

 

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