潮音院縁起
~目暗ヶ原ものがたり~
突然、濃い霧の中に何かが動いたように感じました。
と同時に、シュッ!と風を切りながら一本の矢がとんできました。
光盛は、琵琶法師をとっさに引き寄せ身をかがめ、
瞬時に周囲を見渡しました。
その身構えといい、物腰といい、とてもただ者ではありません。
「ワァ~!!」
霧の中から声を張り上げながら、何者か現れました。
「何者じゃー!名を名乗れい!!」
それは、日頃からこのあたりにたむろして、旅人から金品を奪い取る
盗賊の一団でした。
光盛は、頭陀袋の底にしまっておいた短刀を片手に持ち、
襲いかかる盗賊に応戦します。 予想だにしなかった光盛の強い応戦に、
驚いた一団は、一斉に引き上げ始めました。
盗賊が逃げた後、あたりはもとの静けさを取り戻し、
そしてすっかり日も暮れてしまいました。
光盛は、歩くのも困難なほど足に矢傷を負っています。
「お坊ぉ~、お坊ぉ~!おったら、返事をなされえ~。」
返事がありません。
あわてて琵琶法師を探しますが、あたりはすっかり暗くなるし、
とうとう探し出すことがかないません。
「矢で射られでもしたのだろうか・・・。お坊ぉ!」
光盛は、仕方なくひとりで高原を下り、里の人々に助けを求めました。
つづく
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます