金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(伯爵)14

2023-01-01 09:08:17 | Weblog
 俺はダンカンに尋ねた。
「さてダンカン、君はどこを希望する」
「岐阜の近くをお願いします。
人手は実家に相談します」
 ダンカンの実家はポール細川子爵家の執事を務めていた。
しかも男爵なので姓持ち。
「姓は実家のかい」
「実家に相談しますが、出来れば新たな姓を興したいと思います」

 残りはウィリアムのみ。
「ウィリアム、君はどこを希望する」
「特にありません」
「それでは僕が決めるよ。
木曽を手薄にする訳には行かないから、
隣接する地に信頼できる者を置きたい。
だから君に頼みたい。
気心が知れてると思うから、イライザと隣り合わせだ。
カール、そうしてくれるかい」
 当人もイライザも異存はなさそうだ。
カールが頷いた。
「承知しました。
二人を木曽に隣接する地に配します。
そして私とアドルフ、ダンカンの三人は岐阜に隣接する地に」

 俺はもう一つの問題を確認した。
「伯爵と行動を共にしなかった寄子貴族達の処遇は」
 寄親伯爵は反乱するにあたり、
動員力が望み薄な寄子貴族に声を掛けなかった。
それなりの兵力を有する寄子貴族のみを招集した。
お陰で反乱に巻き込まれなかった貴族達は、
反乱終息後にホッと胸を撫で下ろした。
兄・ポールから情報を得ているカールが応じた。
「傍観していただけなので何もありません」
「本領安堵、という事かな」
「はい、そのままです」
「そうか、致し方なしか。
ところで、美濃の半分程が領主不在になるけど、その手当ては」
「近い将来の褒賞に備えて空けて置くそうです。
その間は寄親伯爵が代官として治める事になります」
 つまり俺に治めろと・・・。
まあ、いいか、カールに丸投げだ。
俺が成人するまでには、それなりの形にしてくれるだろう。

 翌日、俺達は礼装で箱馬車二輛に乗り込んだ。
一輛目に俺とカール、イライザ、メイド長・バーバラ。
二輛目にダンカンとアドルフ、ウィリアム、メイド・ジューン。
護衛の騎兵は六騎。
先頭に三騎、後尾に三騎。
勿論、この六騎も馭者も関係者なので礼装だ。
屋敷の者達全員の大きな喜びの声で見送られた。
「いってらっしゃいませ」
 屋敷の留守は、二人の執事見習いのうちの年嵩、コリンに預けた。
それを俺付きのメイド・ドリスが補佐する体制にした。
これなら問題ないだろう。

 通常、馬車では王宮区画へ乗り入れは出来ないのだが、
叙爵陞爵の当事者という事で乗り入れが許され、
内郭南門の詰め所から近衛兵一名が案内に付いた。
「私に付いて来て下さい」
 彼に従って臨時の馬車寄せに駐車した。
他にも十数輛が駐車していた。
近衛兵が俺に告げた。
「控室にご案内します」

 ダンタルニャン佐藤子爵家に割り当てられた控室に入った。
広い。
住む訳ではないが、内装も家具も揃えられていた。
中でも特に目を引くのが大きな姿見鏡。
2メートルクラスでも全身が映せる。
思わずなのだろう。
ジューンが呟いた。
「まるで伯爵家の控室ですね」
 俺もそう思った。
と、左の続き部屋から女官とメイド二名が出て来た。
俺達に深々と頭を下げた。
「暫くの間、私共がお世話いたします」
 女官とは面識があった。
王妃様の傍近くで何度か顔を合わせていた。
俺は答礼した。
「お久しぶりです。
本日は宜しくお願いします」

 案内の近衛兵は行事慣れしているようで、卒なく熟してくれた。
「それでは私はこれで」
 袖の下は禁止なのだが、案内を終えて戻ろうとする近衛兵に、
バーバラが自然に歩み寄った。
小声で囁く。
「ご苦労さまでした。
これを詰め所の皆様で」
 軍服のポケットに小袋をそっと入れた。
前以ってバーバラに告げられていたので、俺達は視線を逸らした。
近衛兵の声が聞こえた。
「これは」

 カールが近衛兵に気を遣った。
大きな声で女官に告げた。
「これが当家の者達の一件書類です。
全員の分を揃えて置きました。
お受け取り下さい」
 持参した書類を女官に渡した。
叙爵陞爵する者達の姓名、家紋、領都、縁戚諸々に関する書類だ。
それらは全て寄親伯爵が目を通して朝廷に提出するのだが、
俺はまだ寄親伯爵ではない。
資格がない。
ないのだが、今回は致し方なし、とのこと。
俺が仮寄親伯爵として提出する事が許された。
最終的に国王の決裁待ちになるが、今回は王妃さま。
修正されるとか、却下される事はないだろう。
「直ぐに届けます」

 バーバラが近衛兵を宥めた。
「お祝いのお裾分けです、ねっ。
内緒ですよ。
早く戻らないと上官の方に叱られますよ」
 退出する女官が近衛兵に声掛けした。
「祝い事です。
目を瞑るのも役目の内ですよ。
さあ、参りましょう」

 今回の式典の会場は変更されていた。
これまでの会場がワイバーンの襲来で使用不能となり、
取り壊され、更地にされたからだ。
新たな会場は王宮本館に隣接する建物。
大勢の土魔法使いや各種スキル持ちを動員し、
大々的にリホームしたと聞いた。
聞いていたのだが、見て驚いた。
外装まで手を加えていた。
真新しいではなく、歴史と威厳を感じさせる為に、
重厚さに力点が置かれていた。
そしてそれが成功していた。
これではまるでギリシャの遺跡ではないか
たぶん、これが王妃様の趣味なのだろう。

 俺は会場の建物を見上げて溜息を付いた。
リホーム費用は如何ほど。
ここに注ぎ込んで肝心の戦費の方は大丈夫なのか。
案内は戻って来たあの女官だ。
彼女に声を掛けられた。
「佐藤子爵様、感心なさっていますね。
この建物が気に入りましたか」
「ええ、今の僕には似付かわしくありませんが、
何れ似合う年になったらと」
「この様な建物がお好きなのですね」

 会場周辺は近衛による厳重な警戒が行われていた。
要所要所には立哨、絶え間なく行き交う巡回。
許可のない者は入れない王宮区画なのに、これは・・・。
現状が複雑なのは理解出来るが、行き過ぎではないか。
疑心暗鬼を生ずる輩も出兼ねない。
その点を考慮してないのだろうか。
俺はカールに視線を転じた。
俺の意を察したのだろう。
カールが深く頷いた。

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