金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(テニス元年)11

2023-04-16 09:18:09 | Weblog
 センターホールは満席であった。
双方の家族、縁戚、友人、職場の者達、寄子の貴族、土地の有力者、
伯爵家の主立った者達が顔を揃えていた。
ただ一頭、チョンボのみは除外されていたが、誰も気にしない。
 列席者は左右の隅の小さな方のドアから入った。
ホール真ん中の観音開きのドアは締め切られていた。
そのドアの前に、邪魔にならぬ形でブースが置かれ、
楽器を手にした者達が位置に着いていた。
バイオリン二名、ヴィオラ一名、チェロ一名。
もう一名は楽器なしの楽団課長。

 俺はダンカンを連れていた。
そのダンカンが俺の目色を読み、演奏課長に合図した。
演奏が始まった。
歩き易さを眼目とした曲。
小さな編成だが、ホールを満たすには充分だった。
高音部が天井へ走って下へ跳ね返る。
低音部が足下を擽り、横壁を揺るがせる。
そんな中をダンカンは俺から離れ、ゆっくりした歩みで、
センターの赤い絨毯を踏み、最前列に向かった。
大階段下の司会者の立ち位置に付いた。
「新郎新婦のご入場です。
皆様、立ち上がってお出迎え下さい」

 観音開きのドアが大きく左右に開かれた。
向かって左側から本日の主役、
白いウエディングドレス姿のイライザが現れた。
エスコート役はこちらも白装束の司祭様。
付き従う白装束のベルガールが四名。
 右側からは白いタキシード姿のカールが現れた。
エスコート役はこれまた白装束の宮司様。
付き従う白装束姿のベルボーイが二名。

 直前までは緊張していたイライザも、元々が図太い性格。
開始と告げられるや、態度を一変させた。
臆することなく、しっかりと歩を進めた。
 一方のカールは淡々としたもの。
自分が主役ではないと理解してからは余計にそう。
余裕の笑みでイライザにウィンクした。
 双方共に気を付けたのは、歩みのみ。
歩幅を合わせ、笑顔で赤い絨毯の上を静々と進む。
皆の祝福の声を受けて、センターを抜けると、そこからは大階段。
その高さは中二階程度。

 奥まった所の、嵌め殺しの窓からの陽射しが降り注ぐなか、
階段の上に辿り着いた二人は、エスコート役の指示で足を止め、
ゆっくりと背後を振り返った。
立ち位置はイライザとカールが最前列中央。
二人の斜め後ろに宮司と司祭。
そしてベルガールとベルボーイ。
 司会者・ダンカンが声にした。
「ご起立の皆様方全員が立会人となります」
 合わせて演奏曲が変わった。
厳かさを眼目とした曲。

 ここまで来れば滞りなく進むだろう。
俺はダンカンに後を委ね、演奏ブース後方から次へ向かった。
隣接する大ホールだ。
挙式の後はここで披露宴が行われる。
 テーブルのセッティングは事前に終えているが、
生物の配膳はただ今真っ最中。
スタッフだけでは足りないので、屋敷のメイド達も狩り出されていた。
彼等彼女等の手により、蓋つきの物が次々に配膳されて行く。
飲み物やグラスもだ。
その全てを仕切っているのはメイド課長。

 最後は厨房。
料理課長が俺に気付いた。
早足で寄って来た。
「できました」
 巨大なイミテーションケーキが台車に載せられていた。
その台車にしてもウェディングを意識して、華美な装飾が施されていた。
イミテーションケーキの背後には、本物のイチゴショートが山を成し、
出番を今か今かと待ち構えていた。

 三度目のカラ~ン、コロ~ン、カラ~ンが聞こえて来た。
フラワーシャワーを浴びてる頃だ。
俺は大ホールに戻った。
何故か、侍女長のバーバラがいた。
それも涙を拭いていた。
俺に気付いて、気まずい顔をした。
「すみません、見苦しいところをお見せしました」
「いいよ、気にしないで」
「伯爵様のせいですよ。
こんな素晴らしい挙式を演出なされるなんて・・・。
齢は取りたくないですわね」
 零れる涙に耐え切れず、ホンターホールから抜け出して来たらしい。
「ありがとう、誉め言葉をありがとう」
「もうちょっとを若かれば、ここで挙式したかったですわね」
「今からでも遅くないと思うけど」
 閃いた。
思わず口にした。
「ああ、そうだ、そうだよバーバラ。
例えば結婚してから二十年目とか、三十年目とかの節目だ。
身内だけを集めて小ホールで披露するのはどうだろう」

 バーバラが固まり、近くで働いていたスタッフ二名が歓声を上げた。
そして謝った。
「「すみません、仕事中でした」」
「いいよいいよ、どうかな今の考えは」
 バーバラも再起動した。
三名揃って、「「「良いと思います」」」賛同した。
 商売にするか。
表現は悪いが、貴族の子供を唆し、両親の挙式二十周年、
三十周年をお祝いさせる。
ついでに嫡子への爵位相続も合わせれば・・・。
それをこの施設で。
ああ、なんて素晴らしい。
お金の匂いがする。
投下した資金の回収が早まる。

 全てを滞りなく終えた。
身内のみを集めた席でカールとイライザが俺に感謝した。
「「ありがとうございました」」
「気にしないで、これも商売の宣伝の一つなんだからね」
 カールに言われた。
「本当にダンは昔のまんまだな。
照れないでそこは素直に受け取って欲しいな」
「まあまあ、話しを変えよう。
この施設名をオメガ会館とします。
商会長は当然、僕。
取締役を三名置きます。
筆頭はイライザ。
残り二人はカールに選んで貰います」
 カールが難しい顔をした。
「商売に精通してる人材ね」
 するとそれまで黙っていたポール殿が口を開いた。
「ここで足りなければ私の方から回そうか。
心当たりならタップリ」
 社交の幅が狭い、浅い、そんな俺は頷くしかない。
「お願いします」

 国都に戻って三日目、ポール殿から五名斡旋された。
何れも大手商会や商人ギルド由縁の人材ばかり。
俺はラファエルとルベンを選んだ。

 この件では商人ギルド口座に5000万ドロンを入金した。
株主は俺一人。
俺以外の八名、キャロル、マーリン、モニカ、シェリル、ボニー、シンシア、
ルース、シビルは巻き込まなかった。
個人の私情からの設立だったので、敢えて巻き込まなかった。
だから怒らないと思う。
でも儲かったら怒るんだろうか。 

 そんな所にシンシア、ルース、シビル三人からの先触れ。
「お戻りと聞きました。
至急面会を求めます」と来た。

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