センターホールは満席であった。
双方の家族、縁戚、友人、職場の者達、寄子の貴族、土地の有力者、
伯爵家の主立った者達が顔を揃えていた。
ただ一頭、チョンボのみは除外されていたが、誰も気にしない。
列席者は左右の隅の小さな方のドアから入った。
ホール真ん中の観音開きのドアは締め切られていた。
そのドアの前に、邪魔にならぬ形でブースが置かれ、
楽器を手にした者達が位置に着いていた。
バイオリン二名、ヴィオラ一名、チェロ一名。
もう一名は楽器なしの楽団課長。
俺はダンカンを連れていた。
そのダンカンが俺の目色を読み、演奏課長に合図した。
演奏が始まった。
歩き易さを眼目とした曲。
小さな編成だが、ホールを満たすには充分だった。
高音部が天井へ走って下へ跳ね返る。
低音部が足下を擽り、横壁を揺るがせる。
そんな中をダンカンは俺から離れ、ゆっくりした歩みで、
センターの赤い絨毯を踏み、最前列に向かった。
大階段下の司会者の立ち位置に付いた。
「新郎新婦のご入場です。
皆様、立ち上がってお出迎え下さい」
観音開きのドアが大きく左右に開かれた。
向かって左側から本日の主役、
白いウエディングドレス姿のイライザが現れた。
エスコート役はこちらも白装束の司祭様。
付き従う白装束のベルガールが四名。
右側からは白いタキシード姿のカールが現れた。
エスコート役はこれまた白装束の宮司様。
付き従う白装束姿のベルボーイが二名。
直前までは緊張していたイライザも、元々が図太い性格。
開始と告げられるや、態度を一変させた。
臆することなく、しっかりと歩を進めた。
一方のカールは淡々としたもの。
自分が主役ではないと理解してからは余計にそう。
余裕の笑みでイライザにウィンクした。
双方共に気を付けたのは、歩みのみ。
歩幅を合わせ、笑顔で赤い絨毯の上を静々と進む。
皆の祝福の声を受けて、センターを抜けると、そこからは大階段。
その高さは中二階程度。
奥まった所の、嵌め殺しの窓からの陽射しが降り注ぐなか、
階段の上に辿り着いた二人は、エスコート役の指示で足を止め、
ゆっくりと背後を振り返った。
立ち位置はイライザとカールが最前列中央。
二人の斜め後ろに宮司と司祭。
そしてベルガールとベルボーイ。
司会者・ダンカンが声にした。
「ご起立の皆様方全員が立会人となります」
合わせて演奏曲が変わった。
厳かさを眼目とした曲。
ここまで来れば滞りなく進むだろう。
俺はダンカンに後を委ね、演奏ブース後方から次へ向かった。
隣接する大ホールだ。
挙式の後はここで披露宴が行われる。
テーブルのセッティングは事前に終えているが、
生物の配膳はただ今真っ最中。
スタッフだけでは足りないので、屋敷のメイド達も狩り出されていた。
彼等彼女等の手により、蓋つきの物が次々に配膳されて行く。
飲み物やグラスもだ。
その全てを仕切っているのはメイド課長。
最後は厨房。
料理課長が俺に気付いた。
早足で寄って来た。
「できました」
巨大なイミテーションケーキが台車に載せられていた。
その台車にしてもウェディングを意識して、華美な装飾が施されていた。
イミテーションケーキの背後には、本物のイチゴショートが山を成し、
出番を今か今かと待ち構えていた。
三度目のカラ~ン、コロ~ン、カラ~ンが聞こえて来た。
フラワーシャワーを浴びてる頃だ。
俺は大ホールに戻った。
何故か、侍女長のバーバラがいた。
それも涙を拭いていた。
俺に気付いて、気まずい顔をした。
「すみません、見苦しいところをお見せしました」
「いいよ、気にしないで」
「伯爵様のせいですよ。
こんな素晴らしい挙式を演出なされるなんて・・・。
齢は取りたくないですわね」
零れる涙に耐え切れず、ホンターホールから抜け出して来たらしい。
「ありがとう、誉め言葉をありがとう」
「もうちょっとを若かれば、ここで挙式したかったですわね」
「今からでも遅くないと思うけど」
閃いた。
思わず口にした。
「ああ、そうだ、そうだよバーバラ。
例えば結婚してから二十年目とか、三十年目とかの節目だ。
身内だけを集めて小ホールで披露するのはどうだろう」
バーバラが固まり、近くで働いていたスタッフ二名が歓声を上げた。
そして謝った。
「「すみません、仕事中でした」」
「いいよいいよ、どうかな今の考えは」
バーバラも再起動した。
三名揃って、「「「良いと思います」」」賛同した。
商売にするか。
表現は悪いが、貴族の子供を唆し、両親の挙式二十周年、
三十周年をお祝いさせる。
ついでに嫡子への爵位相続も合わせれば・・・。
それをこの施設で。
ああ、なんて素晴らしい。
お金の匂いがする。
投下した資金の回収が早まる。
全てを滞りなく終えた。
身内のみを集めた席でカールとイライザが俺に感謝した。
「「ありがとうございました」」
「気にしないで、これも商売の宣伝の一つなんだからね」
カールに言われた。
「本当にダンは昔のまんまだな。
照れないでそこは素直に受け取って欲しいな」
「まあまあ、話しを変えよう。
この施設名をオメガ会館とします。
商会長は当然、僕。
取締役を三名置きます。
筆頭はイライザ。
残り二人はカールに選んで貰います」
カールが難しい顔をした。
「商売に精通してる人材ね」
するとそれまで黙っていたポール殿が口を開いた。
「ここで足りなければ私の方から回そうか。
心当たりならタップリ」
社交の幅が狭い、浅い、そんな俺は頷くしかない。
「お願いします」
国都に戻って三日目、ポール殿から五名斡旋された。
何れも大手商会や商人ギルド由縁の人材ばかり。
俺はラファエルとルベンを選んだ。
この件では商人ギルド口座に5000万ドロンを入金した。
株主は俺一人。
俺以外の八名、キャロル、マーリン、モニカ、シェリル、ボニー、シンシア、
ルース、シビルは巻き込まなかった。
個人の私情からの設立だったので、敢えて巻き込まなかった。
だから怒らないと思う。
でも儲かったら怒るんだろうか。
そんな所にシンシア、ルース、シビル三人からの先触れ。
「お戻りと聞きました。
至急面会を求めます」と来た。
双方の家族、縁戚、友人、職場の者達、寄子の貴族、土地の有力者、
伯爵家の主立った者達が顔を揃えていた。
ただ一頭、チョンボのみは除外されていたが、誰も気にしない。
列席者は左右の隅の小さな方のドアから入った。
ホール真ん中の観音開きのドアは締め切られていた。
そのドアの前に、邪魔にならぬ形でブースが置かれ、
楽器を手にした者達が位置に着いていた。
バイオリン二名、ヴィオラ一名、チェロ一名。
もう一名は楽器なしの楽団課長。
俺はダンカンを連れていた。
そのダンカンが俺の目色を読み、演奏課長に合図した。
演奏が始まった。
歩き易さを眼目とした曲。
小さな編成だが、ホールを満たすには充分だった。
高音部が天井へ走って下へ跳ね返る。
低音部が足下を擽り、横壁を揺るがせる。
そんな中をダンカンは俺から離れ、ゆっくりした歩みで、
センターの赤い絨毯を踏み、最前列に向かった。
大階段下の司会者の立ち位置に付いた。
「新郎新婦のご入場です。
皆様、立ち上がってお出迎え下さい」
観音開きのドアが大きく左右に開かれた。
向かって左側から本日の主役、
白いウエディングドレス姿のイライザが現れた。
エスコート役はこちらも白装束の司祭様。
付き従う白装束のベルガールが四名。
右側からは白いタキシード姿のカールが現れた。
エスコート役はこれまた白装束の宮司様。
付き従う白装束姿のベルボーイが二名。
直前までは緊張していたイライザも、元々が図太い性格。
開始と告げられるや、態度を一変させた。
臆することなく、しっかりと歩を進めた。
一方のカールは淡々としたもの。
自分が主役ではないと理解してからは余計にそう。
余裕の笑みでイライザにウィンクした。
双方共に気を付けたのは、歩みのみ。
歩幅を合わせ、笑顔で赤い絨毯の上を静々と進む。
皆の祝福の声を受けて、センターを抜けると、そこからは大階段。
その高さは中二階程度。
奥まった所の、嵌め殺しの窓からの陽射しが降り注ぐなか、
階段の上に辿り着いた二人は、エスコート役の指示で足を止め、
ゆっくりと背後を振り返った。
立ち位置はイライザとカールが最前列中央。
二人の斜め後ろに宮司と司祭。
そしてベルガールとベルボーイ。
司会者・ダンカンが声にした。
「ご起立の皆様方全員が立会人となります」
合わせて演奏曲が変わった。
厳かさを眼目とした曲。
ここまで来れば滞りなく進むだろう。
俺はダンカンに後を委ね、演奏ブース後方から次へ向かった。
隣接する大ホールだ。
挙式の後はここで披露宴が行われる。
テーブルのセッティングは事前に終えているが、
生物の配膳はただ今真っ最中。
スタッフだけでは足りないので、屋敷のメイド達も狩り出されていた。
彼等彼女等の手により、蓋つきの物が次々に配膳されて行く。
飲み物やグラスもだ。
その全てを仕切っているのはメイド課長。
最後は厨房。
料理課長が俺に気付いた。
早足で寄って来た。
「できました」
巨大なイミテーションケーキが台車に載せられていた。
その台車にしてもウェディングを意識して、華美な装飾が施されていた。
イミテーションケーキの背後には、本物のイチゴショートが山を成し、
出番を今か今かと待ち構えていた。
三度目のカラ~ン、コロ~ン、カラ~ンが聞こえて来た。
フラワーシャワーを浴びてる頃だ。
俺は大ホールに戻った。
何故か、侍女長のバーバラがいた。
それも涙を拭いていた。
俺に気付いて、気まずい顔をした。
「すみません、見苦しいところをお見せしました」
「いいよ、気にしないで」
「伯爵様のせいですよ。
こんな素晴らしい挙式を演出なされるなんて・・・。
齢は取りたくないですわね」
零れる涙に耐え切れず、ホンターホールから抜け出して来たらしい。
「ありがとう、誉め言葉をありがとう」
「もうちょっとを若かれば、ここで挙式したかったですわね」
「今からでも遅くないと思うけど」
閃いた。
思わず口にした。
「ああ、そうだ、そうだよバーバラ。
例えば結婚してから二十年目とか、三十年目とかの節目だ。
身内だけを集めて小ホールで披露するのはどうだろう」
バーバラが固まり、近くで働いていたスタッフ二名が歓声を上げた。
そして謝った。
「「すみません、仕事中でした」」
「いいよいいよ、どうかな今の考えは」
バーバラも再起動した。
三名揃って、「「「良いと思います」」」賛同した。
商売にするか。
表現は悪いが、貴族の子供を唆し、両親の挙式二十周年、
三十周年をお祝いさせる。
ついでに嫡子への爵位相続も合わせれば・・・。
それをこの施設で。
ああ、なんて素晴らしい。
お金の匂いがする。
投下した資金の回収が早まる。
全てを滞りなく終えた。
身内のみを集めた席でカールとイライザが俺に感謝した。
「「ありがとうございました」」
「気にしないで、これも商売の宣伝の一つなんだからね」
カールに言われた。
「本当にダンは昔のまんまだな。
照れないでそこは素直に受け取って欲しいな」
「まあまあ、話しを変えよう。
この施設名をオメガ会館とします。
商会長は当然、僕。
取締役を三名置きます。
筆頭はイライザ。
残り二人はカールに選んで貰います」
カールが難しい顔をした。
「商売に精通してる人材ね」
するとそれまで黙っていたポール殿が口を開いた。
「ここで足りなければ私の方から回そうか。
心当たりならタップリ」
社交の幅が狭い、浅い、そんな俺は頷くしかない。
「お願いします」
国都に戻って三日目、ポール殿から五名斡旋された。
何れも大手商会や商人ギルド由縁の人材ばかり。
俺はラファエルとルベンを選んだ。
この件では商人ギルド口座に5000万ドロンを入金した。
株主は俺一人。
俺以外の八名、キャロル、マーリン、モニカ、シェリル、ボニー、シンシア、
ルース、シビルは巻き込まなかった。
個人の私情からの設立だったので、敢えて巻き込まなかった。
だから怒らないと思う。
でも儲かったら怒るんだろうか。
そんな所にシンシア、ルース、シビル三人からの先触れ。
「お戻りと聞きました。
至急面会を求めます」と来た。