金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(テニス元年)10

2023-04-09 08:01:18 | Weblog
 屋敷で椅子を暖めている暇はなかった。
毎日、件の施設に出向いた。
そこで各担当者と打ち合わせした。
宮司や司祭は当然として、他には現地雇用の料理課長、メイド課長、
警備課長、楽団課長、雑務から人事経理事務までを担う総務課長。
こういった面々と当日のスケジュールを綿密に組み立てた。

 当日を迎えた。
箱馬車で施設に向かった。
俺にカールにイライザ、ダンカン。
当然、イライザがテイムしたチョンボが馬車脇を並走した。
「クエクエ」と煩い。
 野生の勘で、祝いを述べているのかも知れない。

 ここまで来るとカールも疑問を抱いたらしい。
「ダン、何かおかしくないか」
「なにが」
「何かが・・・、何かが引っかかるんだ。
ここ数日のダンの様子も変だったし、屋敷の者達も」
「そうかな」
 カールは同乗していたダンカンを見た。
「何か隠してないか」
「別に」
 イライザもカールに同調した。
「確かにそうよね。
皆の様子もおかしいのよね」

 そうこうしてる間に馬車が施設の馬車寄せに入った。
施設のメイド達が待ち受けていた。
降りたカールとイライザを取り囲み、それぞれ別個に案内しようとした。
「カール様はこちらに」
「イライザ様はこちらに」
 狼狽する二人。
そんな二人に俺は声を掛けた。
「カール、控室でポール殿がお待ちかねだ。
イライザもそう。
国都から二人の家族が来ている。
抵抗せずに控室に向かってくれ」
 流石の二人も急な事に対応しきれない。
渋々といった感じで従う。
見送ったダンカンが溜息を漏らした。
「もう少しで気付かれそうでしたね」
「ああ、二人が鈍くて助かったよ」

 ダンカンから警備員の一人にチョンボが受け渡された。
立ち去るチョンボを見送りながら、俺は表玄関の総務課長に合図した。
その総務課長から施設内に合図が送られた。
途端、鐘が鳴らされた。
「カラ~ン、コロ~ン、カラ~ン」
 街中に響けと言わんばかりの音量。
ダンカンが俺に尋ねた。
「これが鐘の音論争の着地点ですか」
 神社と教会で鐘の音を巡って論争になった。
高いだ、低いだ、鈍重だ、耳に痛いだ、神々しくないだ、大いに揉めた。
結果、これに落ち着いた。
「そう、これが幸せを招く鐘の音だよ」
「双方がおり合ったと。
これでいよいよ本番ですね」
 そうなんだ。
計画はずっと前にスタートした。
カールとイライザを除け者にして。
そして辿り着いた、当日に。

 ダンカンと連れ立って玄関に足を踏み入れた。
真新しい赤い絨毯が敷き詰められていて、何とも贅沢な気分。
内装にまで口出ししたのは俺なんだけど。
まぁ、成金気分かな。

 総務課長の案内で俺とダンカンは施設内を見て回った。
センターホールの準備よし、大ホールの準備よし、厨房もよし、
楽団もよし。
今のところ問題なし。
総務課長が俺に尋ねた。
「伯爵様、如何ですか」
「良いよ、準備に怠りなし。
このまま何事もなく終わる事を願うよ」
「伯爵様もここで為さいますか」
 俺の結婚式ねぇ、・・・。

 イライザの控室を訪れた。
ウェディングドレスを身に纏い、泣き崩れるイライザがいた。
それを家族三人が生暖かい目で見ていた。
父は八百屋の主人・マルコム、母のオルガ、兄・サム。
俺の入室に気付いたメイドが小走りで寄って来た。
「涙で化粧が崩れました」
 俺はイライザに歩み寄った。
「結婚式は女の戦だよ」
 イライザが顔を上げた。
涙で崩壊した顔で応じた。
「伯爵様、いいえ、ダン、子供に言われるとはね、まさかね。
うわぁ~ん、うわぁぁぁぁぁぁぁ」
 面白い。
もっと泣かせよう。
「ねえイライザ、カールの控室にはポール殿の家族も来ているよ。
屋敷の者達も、もうそろそろ到着する頃だ。
代官所の文官や武官、それに寄子貴族もね」
 イライザが立ち上がって俺を抱きしめた。
「ひどい、ひどい、ひどいわぁ」
「二回目の為に練習だと思えば」
「それはもっと酷いわぁ」
 俺の頭を掻きむしった。
ああ、禿げる禿げる。

 俺はダンカンに髪を整えてもらってからカールの控室に入った。
ポール殿とその家族がいた。
妻一人、俺より年上の子供三人。
執事のブライアンもいた。
全員が俺に気付いて立ち上がった。
その全員を押し退けてカールが俺の前に来た。
何とも白いタキシードの似合うこと。
「ダン、今日まで騙し通してくれて有り難う、と言えばいいのか、
何と言っていいのか、よく分からないが有り難う、・・・かな」
 何時もは冷静な彼も、今は混乱していた。
「いいえ、どういたしまして」
 カールが俺の肩を両手でガシッと掴んだ。
「俺達の為にこれを建てたのかい」
「だったら怒るよね」
「当然だろう、無駄金だ」
「ふっふ、そうじゃない。
カールも何度か内部を見ているよね」
「見てる、代官として設計図の段階から立ち会ってる。
完全に頭に入ってる」
「良かった、それを思い出して。
ここの中心は厨房になるんだ。
今日はこちら側、センターホールや大ホールの営業になるけど、
通常は反対側のレストランやショーホールのみの営業になるんだ。
食文化とショー文化で儲けを出すつもりだよ」

 室内に音符の波が流れ込んで来た。
来客をセンターホールへ案内する合図の演奏が開始された。
総務課長が顔を出した。
「ダンカン様、そろそろです」
 式進行を務めるダンカンが総務課長に連行された。

 二度目の、カラ~ン、コロ~ン、カラ~ン。
施設のメイドが顔を覗かせた。
「来賓の皆様、センターホールへご案内いたします」
 ポール殿ご一家が部屋を出て行った。
手持ち無沙汰のカールを俺は励ました。
「ねえカール、緊張はしてないよね」
「当然だろう」
「結婚式は女の戦、男はただの置物で良いんだよ」
「あー、子供に言われてしまった」
「それからカール、今日まで有り難う。
本当はもっと早く挙げさせて」
「分かってる。
二人で話し合ったんだ。
周囲の状況が落ち着くまで伸ばそうって。
諸般の事情が色々とあったからね。
暇になったら結婚式を挙げる予定でいたんだ。
それがこんな事になるなんてね、先は分らん。
・・・。
ところでこの商会の名前は、商会長は」
 登録するのをすっかり忘れていた。

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