金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(伯爵)12

2022-12-18 08:02:03 | Weblog
 妖精の仲間から緊急連絡が入った。
『アリス、聞こえるアリス。
下にイドリス北条伯爵がいるわよ』
 アリスはそちらに機首を向けた。
『あの小勢ね』
『小勢でもそれぞれがスキル持ちよ』
 もう一人が近付いて来た。
『精鋭を率いて官軍の不意を突くつもりね』
『だとすると本隊は囮ね』
『ピー、囮っパー』
 探索と鑑定の為に散開飛行していた。
それが功を奏した。
アリスは全機に指示した。
『全員集合、奴等の上空よ』

 アリスが疑問を口にした。
『官軍はゴーレムを周囲に配しているのよ。
奇襲が成功するとは思えないんだけど』
 妖精の一人が応じた。
『スキル持ちに火魔法使いが多いわ。
だぶん、ゴーレム陣の突破じゃなく、
遠間からの火魔法攻撃じゃないの』
 もう一人が応じた。
『あの連中のスキルからすると、精々が中距離の火魔法攻撃ね。
射程が長距離の魔法使いは一人もいないわ』
『つまり、ゴーレム陣を突破せずに、
しょぼいファイアボールを数撃って大火事にするつもりね』
『忘れないで、弓士もいるから火矢攻撃もあるわ』
『本陣は丘の上だから、下に火を点ければ効果覿面かも。
ゴーレムでの消火は無理だものね』
 アリスは結論付けた。
『後腐れなく全員始末しましょう。
私がイドリスをお仕置きしたら、それに続いて。
一人も逃さないでよ』

 アリスが真っ先に急降下した。
イドリス北条伯爵を射程内に捉えた。
危険を察知したのだろう。
風魔党の党首が庇うように立ち塞がった。
 アリスにとっては問題ない。
妖精魔法を起動した。
エビスの口の、両端の牙が魔力を帯びた。
選択したのは火槍・ファイアスピア。
アリスは、人間に本気の火魔法を見せつけてやる、そう思って放った。
その一撃が党首を貫き、イドリスをも葬った。
 仲間達がアリスに続いた。
こうなると狩りでしかない。
強者が弱者を甚振る。

     ☆

 王宮で叙爵と陞爵の儀が執り行われると告示された。
西に反乱二つ、東にも反乱一つ、計三つを抱えているが、
それでも王家の威信を示す為に盛大に催すのであろう。
権力を維持するのが如何に大変か察せられる。

 各地から馬車に乗った人々が国都に続々と集まって来た。
大方はこれから叙爵される者とその関係者か、
陞爵される者とその関係者であった。
 屋敷を持たぬ者はホテルか、旅館へ。
縁戚を頼れる者はその屋敷へ。
国都に屋敷を持つ者は、当然ながら自分の屋敷へ。
門を過ぎると、それぞれが思い思いに散って行く。

 ダンタルニャン佐藤子爵家もそういう客達を受け入れた。
まあ、家臣であるから当然なのだが。
木曽の代官・カール細川男爵一行がそれだ。
彼が連れて来た妻・イザイラ。
領地の領軍を率いるアドルフ宇佐美騎士爵。
この三人は美濃寄親伯爵の反乱を鎮めた功績で、
カールとアドルフは陞爵、イザイラは叙爵との内示を受けて上京した。

 それとは別にこの屋敷からも三人が内示を受けた。
ダンタルニャン本人と執事・ダンカン、小隊長・ウィリアムだ。
ダンタルニャンは陞爵で伯爵、ダンカンとウィリアムは叙爵で男爵。
ダンカンとウィリアムは先ごろの争乱の際、王女・イヴを屋敷に匿い、
反乱軍を退けた功績を賞されたもの。
早い話、屋敷を代表してお貴族様の末席に加わる事になった。

 ダンカンは謙遜した。
「子爵様、あれは皆の働きによるものです。
私が受けるのは違う様に思います」
 だから俺は言った。
「それでも受けるんだ。
それが上に立つ者の役目の一つだ。
皆には職場環境の改善で返せばいい」

 ウィリアムの場合はもっと酷かった。
内示を受けた瞬間から固まった。
「子爵様、こんな田舎者で良いんですかね。
尾張と三河の国境の鄙な田舎ですよ。
そんな田舎から出て来たのは、ついこの間ですよ。
それが爵位持ちになるんですよ」
「忘れちゃいけないよ。
元々、ご先祖様は姓持ちだろう。
その姓を復活させるだけだ」
 俺の記憶に間違いがなければ、彼の実家は、
我が実家・佐藤家の重臣の家柄だった筈だ。
その血筋は誇っても良いものだ。

 その点、イザイラは気楽だった。
ベティ様やイヴ様と面識があるせいか、獣人特有の性格かは知らないが、
比較的のんびりしていた。
「叙爵は良いけど、姓はどうしようかな」
 居合わせたカールが茶化した。
「チョンボをテイムしてるんだから、大チョンボかな」
「酷い酷い、ダン様、うちの人を叱って下さいよ。
どこか遠くへ左遷して下さいよ」
 俺は甘い空気に晒された。
嫌だ嫌だ、こんな空間。
「好きにすれば」

 この異世界、大多数派である平民はそもそも姓がない。
問題は生じない。
貴族の場合も、・・・、大らかと言っても差し支えない。
財産を相続する者のみが、その姓をも受け継ぐ義務が課せられる。
他は、男性側の姓にしても、女性側の姓にしても、
どちらでも一向に構わない
イライザの様に新たに叙爵される者は、新たな姓を起こしても構わない。
売爵の者もだ。
騎士爵を与えられた者、上大夫爵ないしは下大夫爵を購入した者は、
公機関に届け出れば済む。
宮廷か、最寄りの役所に紙切れ一つ提出すれば受理される。

 俺は事前に彼等五名を応接室に招いた。
「今も忙しいと思うが、王宮に参内した後はもっと忙しくなる。
だから今の内に打ち合わせて、二度手間を省こう」
 皆を見回すと、異存はなさそうだ。
まずカールに確認した。
「特にカールが忙しくなる。
僕が成人するまでは僕の領地だけでなく、
美濃全体をも見てもらわなければならない」
 カールがうんざりした顔で頷いた。
「ダン様が幼年学校を卒業するまでですよ。
約束ですよからね」
 この異世界の成人に達する年齢は幅が設けられていた。
それぞれに事情があるだろうからと考慮され、
十三才から十七才までの何れかで、と緩かった。
俺の場合は十一月卒業なので、十四才の冬に成人だ。
「分ってる、約束は守る。
それでねカール、君はこれまで領地持ちになる事を固辞していたけど、
これからはそれが許されない状況になった、分かるよね」
 慣例では、状況が許す限り、寄親の下に付く寄子貴族は領地持ちだ。
俺が寄親になると、重臣となる代官・カールには好き嫌いが許されない。
領地持ちにならざるを得ない。
 子爵家に生まれた彼は実直に国軍へ進んだ。
しかし、何かがあったらしい。
心境の変化で冒険者となった。
そして運が良いのか悪いのかは知らないが、鄙な村で俺と巡り合った。

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