小隊は五十名編成。
ところが庭園を包囲しているのは、それよりも遥かに多い。
中尉に尋ねると、ボルビンが近衛軍から五個小隊を抽出したという。
おそらく不服従を懸念し、連携せぬように図ったのだろう。
失敗したので徒労に終わった訳だが、俺様的には丁度いい数だ。
俺は全小隊長を呼び寄せ、イヴ様への忠誠を確認した。
ボルビンが消えた今、敢えて反抗する者はいない。
というか、互いに顔を見合わせ、雰囲気に迎合した。
そう、忖度。
全員が忠誠を誓った。
俺は中尉五名に大まかに指示した。
一個小隊をイヴ様の警護の為にここへ残し、
残りの四個小隊にはそれぞれ仕事を割り振った。
王宮本館と別館の制圧、拘束された者達の解放、死傷者の搬出と治療、
そして関係各所への告知と情報交換。
やることが山盛り。
非常事態なので彼等に自由裁量権を与えた。
人手が足りないので、それを補う方策もだ。
「各部署に必要な人材提供を要請しろ。
確とした言がない部署は、命令系統を素っ飛ばして、
個々人を引き抜け。
ボルビンの手法を真似ても構わない」
素人の俺が細かく口出しするより、
大まかな指示の方が彼等が快く働いてくれる、そう信じた。
武器は武器屋と言う。
パンはパン屋とも。
たぶん、大丈夫。
責任は俺が取る、だからしっかり働いてくれ。
念押しした。
「責任の所在を明確にする。
全て僕が負う。
その上で大事な点を説明する。
ここでの今までの遣り取りもだけど、これからの全てを記録して欲しい。
交渉の際は必ず書記を置いて、自分達の言動と、
相手方の言動を余すところなく文字化すること。
その際の対応は二つ。
不服従は放置。
抵抗する意志を示した場合は是非もなし。
その場の判断で無力化すること。
非常時なので殺しても差し支え無し。
以上。
これは君達の立場を守る為だ、そこを理解して貰えたら嬉しいかな」
まず別館を制圧した。
敵は同じ近衛であった為に説得に応じたそうで、
流血の事態は避けられた。
エリスの率いていた男性騎士二十名が解放され、
複雑そうな表情でこちらに合流した。
エリスが彼等を慰めた。
「気にするな。
同僚の部隊に拘束されるとは誰も思わない」
その通りなのだ。
同僚の部隊まで疑っていたら、きりがない。
俺もエリスの言葉に同意した。
「不可抗力だ、忘れろ。
さあ、気を取り直してイヴ様警護に専念してくれ」
うちの者達も解放された。
執事のスチュアート、メイド長のドリス、メイドのジューン。
そして護衛のユアン、ジュード、オーランドの三名。
こちらも反省しきり。
スチュアート達が揃って謝罪した。
「「「申し訳ございません」」」
「とにかく全員が無事で良かった。
無駄死を避けられて嬉しいよ」
庭園に残した小隊が、目の前で本営設置に奔走していた。
自由裁量権を与えたのが効いたらしい。
思った以上の働きで、こちらの期待に応えてくれた。
庭園の真ん中に大型軍幕を五張り設置し、
新たに招集した近衛の土魔法使い達で、
土壁で周囲を囲む徹底した仕事振り。
あっれれ、・・・、見守っているだけで完成した。
ここは戦場ではないんだけど、それは言わぬが花か。
土壁の入り口は一つだけ。
その入り口の大型軍幕が本営。
最奥の軍幕がイヴ様専用。
エリス中尉が俺に耳打ちした。
「みんな張り切ってますよ。
自由裁量権が与えられていますからね。
・・・。
普段はただのマリオネット。
上から命令されて動くだけ。
ところが伯爵様は違う。
自分が軍事の素人だと自覚している」
「褒めてるのかな」
「そうですよ」
「丸投げしてるだけなんだけどね」
エリスが笑う。
「でも責任は負って下さるのでしょう」
続けてもう一つの小隊が王宮本館を制圧した。
ボルビンに従っていた近衛部隊を説得し、
無血で支配下に置いたと報告が来た。
それを受けてもう一つの隊が拘束された者達を解放し、
死傷者の搬送と治療を開始するとも。
五番目の小隊も大忙しだ。
限られた五十名という人員で、関係各所への告知と情報交換。
こちらの小隊は中尉一名、少尉五名、他は兵卒のみ。
対して相手方は、部局の責任者ともなると佐官か上級貴族。
彼等との面接の際に威力を発揮したのが、書記の存在。
その理由を説明すると、態度を一変させて大方が協力してくれたと。
近くに人の耳がないのを確認したエリスが俺に問う。
「管領殿を始めとして幾人もが急に姿を消したけど、あれは」
「相手方の魔法じゃないかな。
たぶん、高度な魔法の遁走術。
例えば韋駄天とか、疾風、神走。
だから消えたように見えるんだ。
興味があるなら管領殿に直接尋ねた方が良いよ。
僕では魔法方面の力にはなれない。
商売方面なら力になれるんだけどね」
エリスは疑問の眼差し。
それでも渋々感たっぷりに頷いた。
「ふ~ん、そういう事にして置くわ」
全員が疑問に思っているだろう。
俺に。
それでも面と向かって尋ねる奴はいない。
例外は気安い間柄のエリスくらい。
ああ、爵位は助けにはなる、ほんとうに。
王宮で拘束されていた者達のうち、数名が俺に面会を求めた。
亡くなった国王の侍従や秘書、女官として勤めていた者達だ。
侍従が二名、秘書が四名、女官三名。
断る理由はない。
本営に招いた。
彼等彼女等は自分達の事ではなく、王妃様やイヴ様を心配していた。
「つい先ほど、山陰道山陽道の双方へ使者を派遣したばかり。
王妃様からのご返答を遅くなると思う。
イヴ様はご無事です。
この本営の後方の軍幕にて休まれています。
会われたいのであれば、エリス中尉にお願いして下さい。
彼女が護衛騎士の筆頭です」
彼等彼女等が納得したのを見て、俺は提案した。
「皆さん、拘束されてお疲れとは思いますが、
宜しければ僕を助けてくれませんか。
・・・。
非常事態なので取り敢えずは僕が仕切っています。
ところがご覧のように周りは近衛の武官、軍事の専門家ばかり。
しかも数が少ない。
そこで皆さま方にお願いしたい。
本営に加わり、事態収拾を手伝って頂きたい」
ところが庭園を包囲しているのは、それよりも遥かに多い。
中尉に尋ねると、ボルビンが近衛軍から五個小隊を抽出したという。
おそらく不服従を懸念し、連携せぬように図ったのだろう。
失敗したので徒労に終わった訳だが、俺様的には丁度いい数だ。
俺は全小隊長を呼び寄せ、イヴ様への忠誠を確認した。
ボルビンが消えた今、敢えて反抗する者はいない。
というか、互いに顔を見合わせ、雰囲気に迎合した。
そう、忖度。
全員が忠誠を誓った。
俺は中尉五名に大まかに指示した。
一個小隊をイヴ様の警護の為にここへ残し、
残りの四個小隊にはそれぞれ仕事を割り振った。
王宮本館と別館の制圧、拘束された者達の解放、死傷者の搬出と治療、
そして関係各所への告知と情報交換。
やることが山盛り。
非常事態なので彼等に自由裁量権を与えた。
人手が足りないので、それを補う方策もだ。
「各部署に必要な人材提供を要請しろ。
確とした言がない部署は、命令系統を素っ飛ばして、
個々人を引き抜け。
ボルビンの手法を真似ても構わない」
素人の俺が細かく口出しするより、
大まかな指示の方が彼等が快く働いてくれる、そう信じた。
武器は武器屋と言う。
パンはパン屋とも。
たぶん、大丈夫。
責任は俺が取る、だからしっかり働いてくれ。
念押しした。
「責任の所在を明確にする。
全て僕が負う。
その上で大事な点を説明する。
ここでの今までの遣り取りもだけど、これからの全てを記録して欲しい。
交渉の際は必ず書記を置いて、自分達の言動と、
相手方の言動を余すところなく文字化すること。
その際の対応は二つ。
不服従は放置。
抵抗する意志を示した場合は是非もなし。
その場の判断で無力化すること。
非常時なので殺しても差し支え無し。
以上。
これは君達の立場を守る為だ、そこを理解して貰えたら嬉しいかな」
まず別館を制圧した。
敵は同じ近衛であった為に説得に応じたそうで、
流血の事態は避けられた。
エリスの率いていた男性騎士二十名が解放され、
複雑そうな表情でこちらに合流した。
エリスが彼等を慰めた。
「気にするな。
同僚の部隊に拘束されるとは誰も思わない」
その通りなのだ。
同僚の部隊まで疑っていたら、きりがない。
俺もエリスの言葉に同意した。
「不可抗力だ、忘れろ。
さあ、気を取り直してイヴ様警護に専念してくれ」
うちの者達も解放された。
執事のスチュアート、メイド長のドリス、メイドのジューン。
そして護衛のユアン、ジュード、オーランドの三名。
こちらも反省しきり。
スチュアート達が揃って謝罪した。
「「「申し訳ございません」」」
「とにかく全員が無事で良かった。
無駄死を避けられて嬉しいよ」
庭園に残した小隊が、目の前で本営設置に奔走していた。
自由裁量権を与えたのが効いたらしい。
思った以上の働きで、こちらの期待に応えてくれた。
庭園の真ん中に大型軍幕を五張り設置し、
新たに招集した近衛の土魔法使い達で、
土壁で周囲を囲む徹底した仕事振り。
あっれれ、・・・、見守っているだけで完成した。
ここは戦場ではないんだけど、それは言わぬが花か。
土壁の入り口は一つだけ。
その入り口の大型軍幕が本営。
最奥の軍幕がイヴ様専用。
エリス中尉が俺に耳打ちした。
「みんな張り切ってますよ。
自由裁量権が与えられていますからね。
・・・。
普段はただのマリオネット。
上から命令されて動くだけ。
ところが伯爵様は違う。
自分が軍事の素人だと自覚している」
「褒めてるのかな」
「そうですよ」
「丸投げしてるだけなんだけどね」
エリスが笑う。
「でも責任は負って下さるのでしょう」
続けてもう一つの小隊が王宮本館を制圧した。
ボルビンに従っていた近衛部隊を説得し、
無血で支配下に置いたと報告が来た。
それを受けてもう一つの隊が拘束された者達を解放し、
死傷者の搬送と治療を開始するとも。
五番目の小隊も大忙しだ。
限られた五十名という人員で、関係各所への告知と情報交換。
こちらの小隊は中尉一名、少尉五名、他は兵卒のみ。
対して相手方は、部局の責任者ともなると佐官か上級貴族。
彼等との面接の際に威力を発揮したのが、書記の存在。
その理由を説明すると、態度を一変させて大方が協力してくれたと。
近くに人の耳がないのを確認したエリスが俺に問う。
「管領殿を始めとして幾人もが急に姿を消したけど、あれは」
「相手方の魔法じゃないかな。
たぶん、高度な魔法の遁走術。
例えば韋駄天とか、疾風、神走。
だから消えたように見えるんだ。
興味があるなら管領殿に直接尋ねた方が良いよ。
僕では魔法方面の力にはなれない。
商売方面なら力になれるんだけどね」
エリスは疑問の眼差し。
それでも渋々感たっぷりに頷いた。
「ふ~ん、そういう事にして置くわ」
全員が疑問に思っているだろう。
俺に。
それでも面と向かって尋ねる奴はいない。
例外は気安い間柄のエリスくらい。
ああ、爵位は助けにはなる、ほんとうに。
王宮で拘束されていた者達のうち、数名が俺に面会を求めた。
亡くなった国王の侍従や秘書、女官として勤めていた者達だ。
侍従が二名、秘書が四名、女官三名。
断る理由はない。
本営に招いた。
彼等彼女等は自分達の事ではなく、王妃様やイヴ様を心配していた。
「つい先ほど、山陰道山陽道の双方へ使者を派遣したばかり。
王妃様からのご返答を遅くなると思う。
イヴ様はご無事です。
この本営の後方の軍幕にて休まれています。
会われたいのであれば、エリス中尉にお願いして下さい。
彼女が護衛騎士の筆頭です」
彼等彼女等が納得したのを見て、俺は提案した。
「皆さん、拘束されてお疲れとは思いますが、
宜しければ僕を助けてくれませんか。
・・・。
非常事態なので取り敢えずは僕が仕切っています。
ところがご覧のように周りは近衛の武官、軍事の専門家ばかり。
しかも数が少ない。
そこで皆さま方にお願いしたい。
本営に加わり、事態収拾を手伝って頂きたい」