金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)12

2024-02-11 09:35:41 | Weblog
 小隊は五十名編成。
ところが庭園を包囲しているのは、それよりも遥かに多い。
中尉に尋ねると、ボルビンが近衛軍から五個小隊を抽出したという。
おそらく不服従を懸念し、連携せぬように図ったのだろう。
失敗したので徒労に終わった訳だが、俺様的には丁度いい数だ。
 俺は全小隊長を呼び寄せ、イヴ様への忠誠を確認した。
ボルビンが消えた今、敢えて反抗する者はいない。
というか、互いに顔を見合わせ、雰囲気に迎合した。
そう、忖度。
全員が忠誠を誓った。

 俺は中尉五名に大まかに指示した。
一個小隊をイヴ様の警護の為にここへ残し、
残りの四個小隊にはそれぞれ仕事を割り振った。
王宮本館と別館の制圧、拘束された者達の解放、死傷者の搬出と治療、
そして関係各所への告知と情報交換。
やることが山盛り。
非常事態なので彼等に自由裁量権を与えた。
人手が足りないので、それを補う方策もだ。
「各部署に必要な人材提供を要請しろ。
確とした言がない部署は、命令系統を素っ飛ばして、
個々人を引き抜け。
ボルビンの手法を真似ても構わない」

 素人の俺が細かく口出しするより、
大まかな指示の方が彼等が快く働いてくれる、そう信じた。
武器は武器屋と言う。
パンはパン屋とも。
たぶん、大丈夫。
責任は俺が取る、だからしっかり働いてくれ。
念押しした。
「責任の所在を明確にする。
全て僕が負う。
その上で大事な点を説明する。
ここでの今までの遣り取りもだけど、これからの全てを記録して欲しい。
交渉の際は必ず書記を置いて、自分達の言動と、
相手方の言動を余すところなく文字化すること。
その際の対応は二つ。
不服従は放置。
抵抗する意志を示した場合は是非もなし。
その場の判断で無力化すること。
非常時なので殺しても差し支え無し。
以上。
これは君達の立場を守る為だ、そこを理解して貰えたら嬉しいかな」

 まず別館を制圧した。
敵は同じ近衛であった為に説得に応じたそうで、
流血の事態は避けられた。
エリスの率いていた男性騎士二十名が解放され、
複雑そうな表情でこちらに合流した。
エリスが彼等を慰めた。
「気にするな。
同僚の部隊に拘束されるとは誰も思わない」
 その通りなのだ。
同僚の部隊まで疑っていたら、きりがない。
俺もエリスの言葉に同意した。
「不可抗力だ、忘れろ。
さあ、気を取り直してイヴ様警護に専念してくれ」

 うちの者達も解放された。
執事のスチュアート、メイド長のドリス、メイドのジューン。
そして護衛のユアン、ジュード、オーランドの三名。
こちらも反省しきり。
スチュアート達が揃って謝罪した。
「「「申し訳ございません」」」
「とにかく全員が無事で良かった。
無駄死を避けられて嬉しいよ」

 庭園に残した小隊が、目の前で本営設置に奔走していた。
自由裁量権を与えたのが効いたらしい。
思った以上の働きで、こちらの期待に応えてくれた。
庭園の真ん中に大型軍幕を五張り設置し、
新たに招集した近衛の土魔法使い達で、
土壁で周囲を囲む徹底した仕事振り。
 あっれれ、・・・、見守っているだけで完成した。
ここは戦場ではないんだけど、それは言わぬが花か。
土壁の入り口は一つだけ。
その入り口の大型軍幕が本営。
最奥の軍幕がイヴ様専用。
エリス中尉が俺に耳打ちした。
「みんな張り切ってますよ。
自由裁量権が与えられていますからね。
・・・。
普段はただのマリオネット。
上から命令されて動くだけ。
ところが伯爵様は違う。
自分が軍事の素人だと自覚している」
「褒めてるのかな」
「そうですよ」
「丸投げしてるだけなんだけどね」
 エリスが笑う。
「でも責任は負って下さるのでしょう」

 続けてもう一つの小隊が王宮本館を制圧した。
ボルビンに従っていた近衛部隊を説得し、
無血で支配下に置いたと報告が来た。
それを受けてもう一つの隊が拘束された者達を解放し、
死傷者の搬送と治療を開始するとも。
 五番目の小隊も大忙しだ。
限られた五十名という人員で、関係各所への告知と情報交換。
こちらの小隊は中尉一名、少尉五名、他は兵卒のみ。
対して相手方は、部局の責任者ともなると佐官か上級貴族。
彼等との面接の際に威力を発揮したのが、書記の存在。
その理由を説明すると、態度を一変させて大方が協力してくれたと。

 近くに人の耳がないのを確認したエリスが俺に問う。
「管領殿を始めとして幾人もが急に姿を消したけど、あれは」
「相手方の魔法じゃないかな。
たぶん、高度な魔法の遁走術。
例えば韋駄天とか、疾風、神走。
だから消えたように見えるんだ。
興味があるなら管領殿に直接尋ねた方が良いよ。
僕では魔法方面の力にはなれない。
商売方面なら力になれるんだけどね」
 エリスは疑問の眼差し。
それでも渋々感たっぷりに頷いた。
「ふ~ん、そういう事にして置くわ」
 全員が疑問に思っているだろう。
俺に。
それでも面と向かって尋ねる奴はいない。
例外は気安い間柄のエリスくらい。
ああ、爵位は助けにはなる、ほんとうに。

 王宮で拘束されていた者達のうち、数名が俺に面会を求めた。
亡くなった国王の侍従や秘書、女官として勤めていた者達だ。
侍従が二名、秘書が四名、女官三名。
断る理由はない。
本営に招いた。
彼等彼女等は自分達の事ではなく、王妃様やイヴ様を心配していた。
「つい先ほど、山陰道山陽道の双方へ使者を派遣したばかり。
王妃様からのご返答を遅くなると思う。
イヴ様はご無事です。
この本営の後方の軍幕にて休まれています。
会われたいのであれば、エリス中尉にお願いして下さい。
彼女が護衛騎士の筆頭です」
 彼等彼女等が納得したのを見て、俺は提案した。
「皆さん、拘束されてお疲れとは思いますが、
宜しければ僕を助けてくれませんか。
・・・。
非常事態なので取り敢えずは僕が仕切っています。
ところがご覧のように周りは近衛の武官、軍事の専門家ばかり。
しかも数が少ない。
そこで皆さま方にお願いしたい。
本営に加わり、事態収拾を手伝って頂きたい」

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