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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(劉家の人々)247

2013-06-30 08:41:15 | Weblog
 関羽は桂英に返す言葉がなかった。
乗り出していた身を退き、卓上で両の掌を重ねた。
 見かねた醇包が助け船を出した。
「関羽殿が簒奪するものとは誰も思っていないよ。
若い武官、文官が義をもって行動することは誰もが知っている。
若い時の流行病のようなものだ。
みんなが危惧するのは、力を持つ貴族、外戚、帝の近親者達だ。
奴等は表に出ないで、義憤に駆られた若い者達を操ろうとする。
実に怪しからん奴等だ」
 関羽が頷いた。
「薄々とは聞いていました。
力ある者達に利用されるな、と。
でも、他に手が思い浮かばないのです。
それで聞こえぬ振りをしていました。
・・・。
どうしたら王朝を正せると思いますか」
 桂英が言う。
「争いたい者は争わせて置くの。
滅びるまで争うと良いわ。
巻き込まれるだけ損よ」
「だから無位無冠でいるのですか」
「そうよ。
無位無冠だから、血を流すまでの義理はない。
そうでしょう。
とことん争わせる。
いずれ疲れるか、飽きるまで。
それを待つだけのこと。
難しくないでしょう」
 関羽が目をパチクリ。
「赤劉家は後漢に忠誠を尽くす家柄だと聞いていました」
 桂英が表情を緩めた。
「内緒だけど、正直言うと、それは表向きの話しよ。
劉家の血筋は世の中に一杯あるわ。
犬の糞か、劉家の血筋かってね。
言いたいことは分かるでしょう」
「王朝を継ぐ者は劉家の血筋なら誰でも構わない、という事ですか」
「私は言ってないわ。
分かるわね、関羽殿、貴男が言ったのよ。
・・・。
これも内輪の話だけど、強い者が後漢を継げば良いと思う。
それに我が家は関係したくないわ」
 関羽が溜め息をついた。
「洛陽で聞いていた噂とはまったく違いますね」
「がっかりした」
「いいえ、一族を導くには並々ならぬ覚悟が必要なのだな、と感心しているのです。
これで無位無冠の意味が理解出来ました」
 関羽は心底からそう思っているようだ。
 桂英の表情は変わらない。
「我が家は後漢建国に力を貸しただけで、この領邑はその時の報奨。
それからは自力で何とかしてるわ。
慶事、季節の折々に帝に進物を贈っているけど、それだけの事よ」
「たしかに」
 桂英が関羽に鋭い視線をくれた。
「それで関羽殿はどうするの。
洛陽に戻るの。
洛陽に戻って復職したいのなら、我が家が力を貸すわ。
三公、九卿、将軍、州牧は無理だけど、司隷校尉の配下なら楽勝よ。
それくらいの力ならあるから遠慮はしないでね」
 関羽が立ち上がり拱手をした。
「有り難う御座います。
その折りにはお願いします。
ただ、このまま、真っ直ぐに洛陽に戻るのも気が引けます」
「分かるわ。
それなら北に向かいなさい。
民の困窮振りや太平道の様子を調べて、それを手土産に洛陽に戻りなさい」
 関羽は大いに頷いた。
「たしかに言われる通りです」
「ただし、陰謀には巻き込まれぬように注意するんだぞ」と醇包。
「そうよね」と桂英が、
「宦官を滅ぼすには大軍が必要だわ。
大軍の圧力で帝の介入を阻止し、あっという間に宦官を一人残らず撫で斬りにする。
でも大軍を催すにはそれなりの理由がいる。
大騒乱が必要よね。
私なら太平道を誘導するわ。
ついでに反乱、一揆も。
それらを鎮圧する為の大軍を洛陽に集めて、最初に宦官全員を血祭りに上げる。
それから大騒乱の鎮圧に向かう」と続けた。
「それは・・・。
党人派の誰かが太平道を利用するということですか」
「当然でしょう。
誰もが、我が世の春を謳歌している宦官を恨みに思っているわ。
幸いにというか、巷には不平不満が溢れている。
ちょっと頭が切れる者なら、それを利用するわね。
難なく大軍を集められるのだから」
 関羽が疑問を口にした。
「大軍を率いるとなれば何進様だと思うのですが、あの方に陰謀は無理でしょう」
 何進は、その異母妹、何氏が帝の皇后に立てられたことにより、
外戚筆頭の席についた人物であった。
元々が庶民の出なので文武には疎く、
本人もそれを自覚して政治に口出すことは極力控えていた。
「噂では遠慮深い方のようね。
たとえ本人がそうでも、時勢が許さない。
利用しようとする者達が周りに集まる筈よ」
「そこまで言われると、そうなる気がしてきました。
占星術で占ったのですか」
 桂英が笑顔になった。
「占わなくとも、これくらいは読めるわよ。
時勢に詳しくなりたければ、諸国を回る商人を友人にすることね。
彼等は商売の為なら虎穴にさえ入るから兵よりも頼りになるわよ」
 黙って聞いていたマリリンにヒイラギが囁いた。
「関羽がいるうちに奴と義兄弟の契りを結べ。
奴はお前を気に入ってるから断らない筈だ」
 無理よ。
関羽殿は北に向かうように定められているの。
『桃園の誓い』にね。
「劉備と張飛か。気にせずに横取りすればいいだろう」
 義兄弟になって私はどうするの。
三国志の時代を生きて行くの。
この時代でずっと暮らすの。
忘れたの。私はただの通りがかりよ。
何時かは分からないけど、元の時代に戻るのよ。




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