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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)5

2023-10-01 14:16:58 | Weblog
 アリスは自分を襲ったワイバーンを探した。
直ぐに見つけた。
近くで低空を旋回飛行している奴だ。
その下、地上には別のワイバーンがいた。
それはドタンバタンと藻掻き苦しんでいた。
断末魔か、・・・。
ああ、股間をロックオンした個体か。
それを旋回飛行している成体が見下ろしながら、
時折、アリスの方を警戒していた。
様子から二頭は番と判断した。

 アリスは片割れも撃墜する事にした。
この位置からでは腹部が狙い辛い。
相手を刺激せぬ様にやっくり着地した。
よし、着弾点は狭いが狙える。
妖精魔法を起動した。
とっ、相手がこちらの意図に気付いた。
素早いブレス。
ウィンドスピアを放たれた。

 【自動回避】はなし。
【探知、察知、魔力障壁ドーム】を選択した。
これでワイバーンのブレスに耐え切れるか、たぶん、耐え切れる。
試した。
 ブレス・ウィンドスピアが風魔法を纏い、襲来した。
速い、大きい。
中々の威力だと分かった。
 即、術式が立ち上がった。
魔力障壁ドームが、寸前で、ブレスを押し返す感じで張り巡らされた。
円形で機体を覆い、ブレスを押し返しつ、流す様に逸らした。
離れた地点に着弾した。
土塊が幾つも飛び、土埃が舞い散った。
そこに残ったのは小規模のクレーター。

 アリスは機体を奴に合わせつ横へスライド、上を飛ぶ奴をロックオン。
これまた股間に光槍・ライトスピアを三連射した。
一射目で奴のシールドを破壊、
二射目、三射目が奴の股間に着弾。
 奴の悲鳴。
上空で血肉が飛び散った。
アリスは慌てて離脱した。
危ない危ない、機体を汚してしまう。
【防寒、防暑、防水、防塵、防汚、防刃、防火】の術式が施されているが、
ワイバーンの血肉は御免被る。

 アリスは仲間達を見た。
全機がノルマを達成したのか、気儘に戦っていた。
速度を上げて遊ぶ様に追い込む機体、蝶の様に舞って戦う機体、
戦いにそれぞれ個性が出ていた。
緩くはあるが、逃す気はなさそうだ。
 そんなアリスに再びの危機。
低空飛行なので、森に潜む魔物の好奇心を刺激したのだろう。
大きなオーガが飛び出して来た。
角を持つ二足歩行の魔物だ。
こちらを魔物・コールビーと認識し、
頭上に振り翳す太い棍棒で叩き落すつもりらしい。
実際のコールビーよりちょっと大きいのだけど、たぶん、誤差の範囲かな。
まあ、良いけど。

 アリスは余裕。
まずライトスピアで棍棒を真っ二つ。
続けてオーガの額にもライトスピア。
豆腐でもあるかの様に貫通した。
大きな個体がドッと倒れた。
せっかくだから魔卵を採取した。
ハッピーが傍に寄って来た。
『プップー、楽しいッペー』
『アンタもね』
 皆を見回した。
残りのワイバーンは少ない。
一頭、二頭、三頭。
手が空いた妖精達はワイバーンの部位と魔卵の採取に励んでいた。
熱心なのは、お土産を期待しているダンジョンスライムを慮ってのこと。
何せ彼等彼女等は錬金による模倣も可能なのだが、
何よりもオリジナルを好む。
技術者としての拘りなのかも知れない。

 後始末を終えた仲間達が一堂に会した。
誰からともなく、これからどうする、となった。
アリスは即答。
『人間の戦の帰趨を確認するわよ』
 関わるつもりは毛頭ないが、気には掛かる。
早速、戦場へ引き返した。
それ程こちらとは離れてはいない。
森を一つ挟んだだけ。

 ワイバーン群とあれだけの空戦を繰り広げたと言うのに、
人間は自分達の戦を止めなかった。
そして終始一貫して戦い抜いた結果がこれ。
あちらこちらに屍を晒し、大量の負傷者を放置していた
その負傷者に魔物が喰い付いていた。
屍より、新鮮な負傷者なのだろう。
魔物は正しい選択をしていた。
戦はと見ると、西の都城へ移動し、様相を変えていた。
野戦から攻城戦へと。
 でもそれもそろそろ終わる。
決着ではなく、疲労の蓄積だ。
早朝から激戦続き。
朝駆け、陣地移転、突撃敢行、スタンピード、疲れない訳がない。
まだ昼前だというのに国軍が退いた。
外壁攻撃を止め、包囲陣構築に転じた。

 キャメルソン傭兵団は城郭都市の中にいた。
練兵場らしき広い場所を占有していた。
当初は千余の頭数だったものが、眼下では半減。
手当てを受けている個体も多い。
それを見て妖精の一人が口にした。
『ちょっと皆、傭兵団にしては被害が多過ぎるわね』

 その妖精が説明した。
傭兵団を維持するには、大きな被害を被る前に敗走するのが常識。
あれれっ、もしかして、傭兵団は隠れ蓑。
であれば納得できる。
西から、砂漠に点在するオアシス国家群を通って稼ぎに来た。
それにどれだけの経費が掛かるのか、誰も不審に思わないのだろうか。
そして、この被害。
これで収支を黒字にするには、・・・。

 別の妖精が応じた。
『少なくても、九州の一角に足場が欲しいわね』
 三人目の妖精。
『足場』
『そうよ、この先もこの国で傭兵活動できる足場がね。
そうすれば永続的に営業できるでしょう。
でなければ、傭兵団は隠れ蓑で、その正体は、西の方の国家かもね』
『国家の先兵だったら大変じゃない。
島津伯爵はそれを承知してるのかしら』
『どうなのかしらね』
『目の前の戦で一杯一杯か、だったら本当に大変だわ。
私達、どうしよう』

 アリスは決断した。
『面倒臭いわね。
訳が分からないけど、潰せば問題解決でしょう』
 ハッピーが呆れた。
『パー、訳が分からないから潰すの。
それで解決になるの』
『そこ、ぐちゃぐちゃ言わない。
問題は拳で解決するのよ。
これ世界の鉄則』

昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)4

2023-09-24 08:48:57 | Weblog
 アリスは高みの見物、野次馬気分でいた。
そこへハッピーからの知らせ。
興が冷めた。
矮小な人間共が地域の覇権の為に、
魔物共を巻き込んでまでして戦っているというのに、
そこへ空から介入しようだなんて、とんでもない。
許せない。
ハッピーに確認した。
『キングやクイーンはどうなの』
『プー、この群れにはいないっペー』
 キングやクイーンは生まれていないようで、一安心。
『直ぐに戻って頂戴、迎え撃つわよ』 

 ワイバーンの成体の体長は5メートルから10メートルほど。
翼を広げれば10メートルから20メートル。
武器は体力と鉤爪、尻尾、風魔法。
ブレスの形でウィンドスピアを放つ。
群れとしては、広範囲攻撃のウィンドストームがあるので、そこは要注意。

 対してエビスは頭部、胸部、腹部を合わせて全長が70センチ。
胴回りは50センチ。
これに羽根と足。
二対四枚羽根、三対六本足。
 材質は竜の鱗とミスリルを混ぜたセラミック。
頭部にコクピット、後尾にカーゴドア。
動力源は二つ、ワイバーンのキングとクイーンの魔卵を錬金で精錬し、
仕上げた魔水晶。
口の両端から覗く二つの牙が魔法の放出口、
所謂ところの搭載された航空機関砲。
攻撃魔法、防御魔法を自在に放つ。

 エビスは機体が小さいので侮られるかも知れないが、MPは200。
冒険者ならSランク。
そしてなによりも回復が早い。
加えて、搭乗員たるアリス達妖精は種独自の妖精魔法を使う。
ハッピーに至っては滅多に見られないスライムダンジョン魔法。
これらが初見殺しとなり、多くの戦いに打ち勝って来た。
当然、航空戦力としてだ。
ダンタルニャン佐藤が主戦力であったが邪龍を討伐した。
ワイバーンの巣も壊滅せしめ、キングとクイーンも討ち取った。
誇るべき戦果を上げて来た。

 エビス飛行隊は十五機編成。
ハッピーが戻ると横隊になった。
大きなワイバーン群が相手なので、左右に広がった。
戻ったハッピーがアリスに言った。
『ペー、駄目駄目、だっめー。
正面からだと硬い外皮ばかりだっペー』
 妖精の一人がそれに応じた。
『着弾面が狭いわね。
狙うとしたら下からね、腹部を狙いましょう』
 正面から見えるのはワイバーンの硬い頭と、線にしか見えない翼。
狙おうとすれば狙えるが、弾かれるのは確か。
アリスは二人の意見を取り入れた。
『直ちに降下。
森に逃げ込む恰好でね』

 ワイバーンの群れは前方にエビス飛行隊を発見していた。
しかし、蜂の種から枝分かれした魔物・コールビーの群れ、そう認識した。
ちょっと大きいが、翼の一振りで払い落せるとも。
それが急降下し、森に逃げ込んだ。
その時点で関心を失った。
荒ぶる戦気の地へと急いだ。

 アリスの森の中から上を見上げていた。
散開した仲間達もだ。
念話で確認しなくても、やる気で満ちていた。
バイオレンス~♪ バイオレンス~♪ ゲバゲバ。
燃える燃える・・・ルンルン。
 ワイバーンの群れが警戒する事もなく、腹部を晒して飛んで来た。
『成体を狙うわ。
攻撃箇所は腹部に限定、良いわね』
『『『ラジャー』』』
『使う魔法は光。
ワイバーンは風魔法を無自覚に纏っているから、光で突き破るわ』
『『『ラジャー』』』
『攻撃方法は一撃離脱、それを繰り返して撃墜する、これも良いわね』
『『『ラジャー』』』
『ただし、各自一頭撃墜したら、次は好きにして』
 ワイバーンは成体二十四頭、子供七頭、計三十一頭。
こちらは十五機。
それぞれがノルマをこせば、後は甚振るだけ。
『出撃』
『『『ラジャー』』』

 アリスは機体を急上昇させた。
標的は群れの先頭を飛ぶ成体。
狙う箇所は腹部。
最接近し、妖精魔法を起動した。
人間に例えれば股間、ロックオン。
光槍・ライトスピアを放った。
そして成果を見る暇がないので離脱。
速度のまま、擦れ違う様に航空路を斜め上に取った。
 擦れ違う際、成体の周囲の空気が揺れるのを感じ取った。
身体を覆っている風魔法のシールドは、本来は攻撃を逸らすのだが、
失敗したようだ。
シールドが弾け飛んだ。

 好機。
アリスは機体を急転回した。
標的を見下ろし、急降下。
擦れ違う際、標的の様子を見た。
シールドの再生が成っていないようで、慌ててる感じを受けた。
 アリスは梢の手前で再び転回した。
手は緩めない。
再急上昇。
標的がこちらの意図を理解した。
脅しの様な咆哮を上げ、航空路からの離脱を図った。
遅い。
さっきより離れてはいるが射程距離。
股間をロックオン、三連射。

 標的の悲鳴。
股間が弾け、血肉が飛び散った。
三連射なので悲惨の一言。
きっ、汚い。
アリスは逃げる様に標的への航空路から逸れた。
 とっ、大きな黒い影。
別のワイバーンが最接近していた。
相手を見るに、衝突を厭わない様子。
この近距離では反撃は難しい。
アリスの選択は逃げの一手。
相手の来るルートから離脱を図った。

 エビスに施された術式が起動した。
【自動回避】で直撃から逃れた。
それでも相手の風圧に晒された。
機体の軽さの弊害が出た。
風に巻き込まれて制御を失った。
アリス自身もコクピットから振り落された。
幸い畿内は【光体】で満たされているので、怪我はない。
光体の中で浮遊を余儀なくされただけで済んだ。

 ハッピーからの念話が届いた。
『パー、アリスアリス、怪我したの』
 アリスは泳ぐ様にしてコクピットに戻った。
操縦席に腰掛けた。
『ええ、心配かけたわね。
でも怪我はないわ。
直ぐに戻るわ』
 アリスは各種機器を見た。
全て正常に機能していた。
異常なのは自分のみ。
自分で自分に活を入れた。
それから辺りを見回した。
墜落ではなかった。
愛機は地上付近を漂っていた。

昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)3

2023-09-17 11:07:46 | Weblog
 キャメンソルの群れは傭兵団であるが、
途中で居合わせた魔物達にとっては脅威そのもの。
遭遇した弱者はたちどころに逃走を開始した。
追い立てられる様に先頭を切って走った。
弱者でない者達はその尻馬に乗った。
遊び感覚でキャメンソルの群れに加わった。
これは、傍目には魔物のスタンピードにしか見えない。

 河沿いに展開した国軍が膨れ上がる魔力の南下に気付いた。
魔物のスタンピード、・・・か。
直ちに偵察部隊が発せられた。
その中の魔法使いが探知スキルを駆使し、全体像把握に務めた。
程なく解明した。
「魔物のスタンピードです。
その中核はキャメンソル傭兵団です。
魔物を追い立てながら、こちらに向かって来ています」

 国軍の、北側の部隊が迎撃態勢に入った。
キャメンソル傭兵団対策として、前以って用意していた荷馬車五十輌を、
前面に広く並べ、次々に横倒しして防御陣を構築した。
そして、その後方に槍部隊、弓部隊、魔法部隊を置いた。
更には騎馬隊。
万全の態勢。
 弓の射程に入るや、スタンピードの群れに一斉射。
それを抜けて来た魔物には攻撃魔法。
荷馬車に辿り着いた魔物を槍衾がお出迎え。
キャメンソル傭兵団を見つけると騎馬隊が投入された。
迂回して傭兵団に突っ込む。

 キュメンソル傭兵団は、先頭を走る魔物の崩壊は予想の範囲内。
止まる気配はなし。
速度を緩めず、方向を変えもしないでただ真っ直ぐ突き進む。
それは傭兵団の先鋒が弓の射程に入ってもお構いなし。
 キャメンソルの背中には瘤が二つ。
一つは水魔法のタンク。
一つは風魔法のタンク。
タンクには魔力が溜められていた。
それは本来、キャメンソル自身が使用する物だが、
使役する立場の者もある程度であれば利用できた。
であるので傭兵団内では、風魔法で防御できぬ奴が悪い、との認識。

 傭兵団は、魔物や仲間の死体を踏み潰して遮二無二攻撃一辺倒。
真っ正直に敵本陣を目指した。
かと言って、彼等に自殺願望がある訳ではない。
島津軍と共に滅亡の道を歩む趣味もない。
傭兵団指揮官は、消耗を抑える為、的確に隊列の入れ替えを行った。
負傷者は後方へ下がらせて治療を受けさせた。
 それは国軍も同じ。
防御陣を維持する方向で、巧みに補充と入れ替えを行った。
そんな戦場に変化が訪れた。
西からであった。
早朝、南北からの朝駆けを受けた島津軍が、遂に逆襲に転じた。
敗走する国軍を追って来たのだ。

 高みの見物のアリスであったが、油断はなかった。
新たな魔力の塊の接近を感じ取った。
東と北の二つ。
『私が東に向かう。
ハッピーは北を頼むわよ』

 東へ飛んで直ぐに見つけた。
アピスの群れ、二百余。
牛の種から枝分かれした魔物の種だ。
こちらに騎乗していたのは国軍、全員が三好兵で編成されていた。
【潜伏】を装着している事から、彼等も伏兵であると判明した。
数は二百余と少ないが、それでも組織された魔物の群れ。
今の状況であるなら国軍の力になる事は確か。
 こちらもスタンピードを発生させていた。
先頭には魔物が百余。
その真後ろにアピスの隊列。
更に後ろに四百余の魔物を引き連れていた。

 ハッピーから連絡が入った。
『パー、霧島山地上空にワイバーンを見つけたっピー』
 日向地方との境に跨る山塊だ。
大樹海の一つでもあったので、境は定められていない。
『その数は』
『プー、上空に八頭ペー。
ホバリングしてる様子から、仲間が揃うのを待ってるのかも』
『こちらに来るかも知れないわね』
『ポー、まず間違いなく』
『了解、引き続き見張って頂戴』
『ポー、こちらも了解』

 アリスは引き返して仲間達に事情を説明し、取るべき方策を示した。
『ワイバーンが来る前に移動するわよ。
奴等の好む高度ではなく、その上よ』
『ワイバーンか、討伐したいわね』
『私も』
『私も、私もよ、アリス』
 アリスは一刀両断した。
『ワイバーン如き、私達の敵じゃないわ。
ただ、少し我慢してね。
全体の流れを見たいの』

 傭兵団はアピスのスタンピードに気付かない。
ただ真正面の突破に拘り、視野狭窄に陥っていた。
それが悪いと言う訳ではない。
効果が出始めていた。
今にも敵防御陣の一部を突き崩す勢い。
攻撃魔法を繰り出す者続出で、遂に一角に穴を開けた。
「あそこに飛び込め」
 小さな穴を押し広げ、後方の仲間達を呼び込む。

 キャメンソルのスタンピード群の後尾に、
アピスのスタンピード群が勢い良く喰い付いた。
魔物と魔物だが、種も雑多、スタンピードとしての群れも違った。
単純に敵認識した。
当然だが、誰何もなければ、遠慮会釈もなし。
一方がドッと当たれば、もう一方がやり返す。

 国軍本陣に傭兵団の穂先が届いた。
彼等の目的は敵指揮官の捕縛でも、本陣掃討でもない。
敵陣中央を突っ切ること。
混乱に陥らせる事が主目的であった。
序に敵指揮官を捕縛すれば、ボーナス、だがそれは無理な相談。
傭兵団の壊滅に繋がる道。
選択肢には入れない。
「団を二つに分ける。
後尾は負傷者を守って右方へ離脱、都城へ入れ。
我等はこのまま突っ切る。
手近の負傷者を真ん中に入れて突っ切り、山中に伏せる」

 国軍本陣が二つに切り裂かれた。
それを見て取った島津軍が鬨の声を上げながら渡河を開始した。
国軍本陣は混乱に陥ったが、他の部隊は違った。
個々に対処した。
多くが島津軍の迎撃に向かった。
本陣の立て直しに奔走し、その混乱に巻き込まれる事を嫌った。

 それら下々の争いはアリス達にとってどうでも良いこと。
彼女達の視線は、キャルンソル単体とアピス単体の争いに向けられた、
足の早いアピスが後尾に居たキャメンソルに襲い掛かったのだ。
魔物としての意地か、乗り手に攻撃魔法を放つ暇を与えなかった。
共に体躯は2tサイズ。
それがドドンと当たった。
 勢いに乗った低重心のアピス。
対して腰高のキャメンソルだが、闘争慣れしていた。
グッと腰を落として、受けて立った。
右肩と左肩、余りの衝撃に二頭の乗り手が振り落された。

 これからって時にハッピーから悪い知らせが届いた。
『ピー、ワイバーンが編成を終了。
大人二十四頭、子供七頭。
仕草からそちらへ向かう可能性大。
僕も急ぎ戻るっペー』

昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)2

2023-09-10 11:31:09 | Weblog
 別の妖精がアリスを止めた。
『アリス、いい加減にして、道草し過ぎよ』
 これにはアリスも心当たりがあった。
『ごめんごめん、悪かったわ。
でもね、下の気配がね、何か潜んでいるみたいなの』
『それが何か、・・・。
敢えて探す必要があるの。
それを起こして、住民達に迷惑は掛からないの』
『ないか、・・・』
『そうよ、ないのよ』

 飛行隊は湾の奥の城塞都市に向かった。
鹿児島。
薩摩地方と大隅地方、そして薩南諸島を治める島津伯爵家の本拠地だ。
高々度から市内の様子を窺った。
桜島の噴火には慣れている様で、混乱は見られない。
港から漕ぎ出す船もあり、至って正常。
駐屯地にしてもそう。
馬場で騎馬隊が調練に勤しんでいるが、乱れはない。
アリスは皆に同意を求めた。
『戦塵の気配がないわ。
たぶん、戦場は東ね』
『夕暮れ前には見つけたいわね』

 飛行隊は東へ飛んだ。
すると、島津家は日向地方で王国軍と対峙していた。
正確には、大隅へ侵攻して来た王国軍を日向まで押し返し、
都城盆地にて争っていた。
 盆地の城塞都市・都城を島津軍が占領したのに対し、
それを王国軍が奪還せんと、盆地の北東部に陣地を構築していた。
その兵力は十万余。
大淀川の対岸の丘に本陣を構え、都城を睨んでいた。
押し返された割には意気は軒昂、とても敗軍には見えない。
 島津軍は一部を都城に残し、王国軍を壊滅せしめんと、
大淀川へと前線を押し上げていた。
兵力は五万余。
王国軍の半分ではあるが、それは致し方ないこと。
王国軍が肥後地方から薩摩地方へ侵攻すべく、機を窺っていたので、
これ以上、兵力を割けなかったのだ。

 上空より手分けして偵察していた飛行隊が、
刻限と共に集合地点に集まった。
彼女達は戦に介入する為に来た訳ではない。
目的は魔物・キャメンソルにあった。
砂漠に棲むという駱駝の種から枝分かれした魔物を討伐せんと、
遥々、関東より飛行して来た。
相手はキャメンソルに騎乗した傭兵団なので、
直ぐに見つけられると高を括っていた。
ところが島津軍の野営地には影も形もなかった。
『どこに隠れているのか知らね』
 アリスの問にハッピーが応じた。
『千近い数の傭兵団なんだよね。
それなら飼葉や給水の観点から探して見ようか』

 夕暮れが迫っていた。
そんな中、飛行隊は分散して懸命に捜索を行った。
見つけられない。
現在の野営地から明日の展開を推測し、傭兵団の在り処を探し回った。
それでも見つけられない。
更に範囲を広げても空振り。
妖精の多くが疑問に思った。
『明日の戦闘に参加させないつもりなのか知らね』
 妖精の一人が口にした。
『もしかして、潜伏スキル持ちなの』
 キャメンソル自体が潜伏スキル持ちなのか、
傭兵団がそれらの魔道具を所持しているのか、詳しくは知らない。
知っているのはキャメンソル自体が臭い唾を吐くということ。
アリスは隊長として断を下した。
『今日はここまで。
夜襲に備えて国軍の後方に宿営するわよ』
 夜襲される国軍に味方する訳ではない。
夜襲するなら傭兵団の仕事と判断しただけ。

 国軍を見下ろせる山の峰で一夜を明かした。
その明かした早朝、広がる朝靄を縫って国軍が出撃した。
北へ迂回して浅瀬を渡河、島津軍の北側面への朝駆け。
一気に前線を抜いた。
 島津軍はもたつくも、適切に対応した。
遅滞戦術に切り替え、前線の再構築に着手した。

 数に勝る国軍が打った手は一つではなかった。
敵の耳目が北に向けられた瞬間を狙い澄ました一撃。
南からも大軍による攻勢に出た。
 島津軍はそちらへの対応は早かった。
北からの朝駆けを受け、そう読んでいたのだろう。
素早く前線を放棄し、第二列まで下がった。
そしてそこで隊列を厚くしての徹底抗戦。

 丘の上の国軍本陣も動いた。
何しろ敵勢は国軍の半分。
北と南に人員を割いているので、対岸には一万余しかいない。
チャンス到来とばかり、丘から本陣を前進させた。
川を挟んで圧力を加えるつもりでいた。

 観戦していたアリスは魔力の起こりを感じ取った。
なかなかに強烈な物。
複数の魔力が寄り集まり、一つの群れを形成していた。
それが四つ。
北で起こって、こちらへ向かって来ていた。
駆けて来る感じ。
『初めての感じる魔波ね』
 ハッピーが応じた。
『キャメンソルかも知れないな』
 群れは四つ。
魔物であり、同種である事は確か。
アリスはそちらに偵察を飛ばした。

 偵察に飛ばした四組が早々に戻って来た。
『キャメンソルと確認したわ。
体長6メートルほど、高さ4メートルほど、背中に瘤2つよ』
『十頭につき一頭が魔道具の【潜伏】を装着してるわ。
それを周囲に配すれば、一つの結界になるかもね』
『分散して野営してた様ね』
『背中の瘤と瘤の間に乗り手がいるわ。
まるで馭者みたいな感じよね』

 アリス達は全員総出で出迎えた。
勿論、高々度から。
今回、手出しするつもりはない。
途中介入は宜しくないので国軍に任せた。
打ち漏らしがあるだろうから、それで済まそうと簡単に考えた。
余裕で上からジッと下を観察した。
 群れの速度が早い。
ああ、あれか、砂漠より草地の方が走り易い。
その四つに分かれていた群れが徐々に一つに纏まって来た。
驚いた事に統率された動き。
前後左右、互いの距離を保って駆けて来た。
これは普通ではない。
快速か、準急か、急行か。
 この群れで、速度に乗った走り、これはスタンピードそのものだ。
キャメンソルのスタンピード。
6メートル4メートルサイズの魔物が千頭余。
河川にするとそれは大氾濫、山にすると大土石流。
その流れの先に居る者達に助かる術はあるのだろうか。

 妖精の一人がアリスに尋ねた。
『どうするの、国軍が飲み込まれちゃうよ』
『人と人の争いによ。
どちらが正しいとか、正しくないとか、訳の分からない理屈で争う連中よ。
ニャンの指示があれば別だけど、今は関与したくないわ』

昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)1

2023-09-03 06:58:08 | Weblog
 俺はカトリーヌの顔を二度見した。
彼女が言外に言わんとする事は分かった。
ぼったくり。
たが、敢えて尋ねない。
じゃがね、じゃがじゃが。
藪を突っついて蛇を出したくない。

「伯爵様、当官は兼任の仕事が増えて忙しくなります。
そこで、伯爵様専用の連絡役を置きます」
 カトリーヌが意外な事を言う。
俺専用の連絡役、・・・なのか。
彼女の背後から副官が前に進み出た。
「エリス野田中尉です」
 疑問顔の俺にカトリーヌが言葉を継ぎ足した。
「調整局の局長兼任を申し渡されたの。
だから急ぎの用がある時はこの野田中尉にね」
 近衛軍調整局は、近衛と国軍、宮廷、三者の調整を担う役職。
アルバート中川中将がその局長だったのだが、
テックス小早川侯爵の一件に加担したのが露見し、
密かに逮捕隔離された。
対外的には病気療養という名目で休職。
実際には【奴隷の首輪】を装着の上、近衛軍内で尋問を受けていた。
おそらく、自白の内容を確認、余罪を調べた後に病死させられるだろう。

 局長が中将だから、カトリーヌも直ぐに中将とは言わないまでも、
何れは中将に昇進か。 
しかし、部外者が大勢いる場所なので、この場で話題にすべきではない。
カトリーヌから視線を外し、エリスに視線を向けた。
顔馴染みだが、改めて挨拶した。
「野田中尉、宜しくお願いします」

     ☆

 アリスとハッピーのエビス飛行隊は西へ向かった。
ただ、真っ直ぐにではない。
途中、寄り道をした。
まず、縁のある妖精の里に立ち寄った。
石鎚大樹海の中にそれはあった。
アリスの里と、こちらの里の長同士が姉妹なので大歓迎された。
 次に鳥形山麓のダンジョンに立ち寄った。
ハッピーがダンジョンスライムなので、
こちらのダンマスが立ち入りを許可してくれた。
こちらは地上に展開された平地ダンジョンで、中々面白かった。
湿地帯と岩山半々のダンジョンで、様々な魔物が生息していた。
所謂、地域限定の魔物も見られた。
勿論、討伐して魔卵や有為な部位を切り取った。
 三つ目は足摺岬の先の先にある大海洋。
そこで海棲の魔物を探した。
エビスの機体の完全耐水を信頼しつつ、
妖精魔法のウォータシールドで機体を覆い、
万全を期して魔物に戦いを挑んだ。
当然、ここでも切り取りを忘れない。

 予定より随分遅くなったが、大海洋からでもそれは見えた。
噴煙を吐く桜島。
山容は関東の富士山に似ていた。
故に西の富士山と呼ばれていた。
そこが寄親伯爵の島津家が治める地だ。
薩摩地方と大隅地方、そして薩南諸島。
王弟の前公爵・バーナード今川が匿われている地でもあった。
 エビス飛行隊の目的はバーナード今川ではない。
砂漠を渡って来たキャメンソルの傭兵団だ。
駱駝の種から枝分かれした魔物・キャメンソルの討伐をせんと、
遥々国都より飛んで来た訳だ。
キャメンソル、別名、唾かける魔物。
それも臭い唾を。

 アリス達は高々度より桜島を眺めた。
それは錦江湾の真ん中にあり、薩摩半島と陸続きであった。
御岳が五つ、綺麗に並んでいた。
真ん中に一際高い中岳、それを囲む様に北岳、東岳、南岳、西岳。
その五岳は今も営業中、噴煙を上げながら、時折、小爆発を起こし、
噴石を飛ばしていた。
『危ない』
 妖精の一人が南岳のくしゃみの予兆を先取りした。
ハッピーが指示した。
『ウィンドシールド展開』
 現在のエビス飛行隊は新隊員が増えて十五機。
うち新顔の妖精は四人。
妖精搭乗の十四機が妖精魔法を起動した。
これまでの訓練の成果か、互いの邪魔はせず、
熟れた順次でウィンドシールドを周囲に張り巡らして行く。

 エビス自体は小さい。
魔物・コールビーを模し、ちょっとだけ大きくしただけ。
大雑把に言えば、大き目のラグビーボール。
頭部、胸部、腹部を合わせて全長が70センチ。
胴回りは50センチ。
これに羽根と足が付いていた。
 材質は竜の鱗とミスリルを混ぜたセラミック。
二対四枚羽根、三対六本足。
頭部にコクピット、後尾にカーゴドア。
動力源は二つ、ワイバーンのキングとクイーンの魔卵を錬金で精錬し、
仕上げた魔水晶。

 エビスの口の両端の牙から妖精魔法が放たれた。
妖精十四人が連携してウィンドシールド層で飛行隊全体を包む。
当然、これにハッピーは参加しない。
ダンジョンスライム魔法が阻害因子になる懸念を考慮した。
飛行隊長・アリスが口にした。
『来るわ、衝撃に備えて』
 
 噴火音の大津波がシールド十四層を揺らした。
機体が揺れた。
『『『キャー』』』
 ほんの少し遅れて噴石が当たった。
速度があるだけに厄介だ、
人の頭ほどの物が一つ、二つ、三つ。
 シールド一枚目が壊れた。
二枚目も壊れた。
三枚目も壊れた。
大海洋の深海でもこんな事はなかった。
大きな魚体の突撃には耐えたのだ。

 それでも妖精達は編隊を崩さない。
誰一人として諦めない。
アリスが檄を飛ばした。
『これくらいで私達は負けない。
最後まで踏ん張るわよ』
 冷静な妖精が指示した。
『壊れた者は内側に新たに張り直すのよ。
絶対に諦めちゃ駄目、自信を持ちなさい』 
 遅れて来た噴煙がシールドを包んだ。
アリスが言う。
『ハッピー、火山の兆候を鑑定して』
『高過ぎて鑑定は無理だよ。
でも、様子から、そろそろ収まるみたいだよ』

 収まって来た。
アリスが言う。
『私とハッピーで下に向かう』
 妖精の一人が尋ねた。
『危ないわよ』
『下の大樹海を調べるだけよ』
 富士山の大樹海も調べた。
棲むのに適した環境ではなかったが、
それでも活火山に耐性のある魔物は存在した。
例えばドラゴン、フェニックスの類。
火山の一角に堅固な巣を構え、悠々と過ごしていた。
 妖精も少しは耐性があったが、好き好んで棲む環境ではなかった。
暑いのは平気でも、熱過ぎるのは、・・・。
そこへ向かうと言う。
ハッピーが拒否した。
『僕はやだよ。
僕はか弱いスライムなんだ。
焼肉への道連れは止めてよ』

昨日今日明日あさって。(テニス元年)30

2023-08-27 08:59:35 | Weblog
 執事長が書き上げた文書に高山伯爵が署名した。
それをダンカンが受け取り、中身を改め、俺に差し出した。
「問題はございません」
 俺も一読した。
良し良し。
では賠償金を頂こう。
俺は兵士達に壁の絵画を外す様に指示した。
途端、伯爵が声を荒げた。
「何をする」
「ご心配なく、絵ではありませんから」
 執事長も声を上げたそうな様子。
でも、途中で止めた。

 伯爵の執務デスクの背後に風景画が飾られていた。
どこかは知らぬが、夕暮れ時に丘から湖を眺めていた。
湖面を進むボート、飛び立つ鳥の群れ、対岸に一頭のオーク。
意味も価値も分からない。

 既に室内は鑑定済み。
そこでお宝を見つけた。
ふっふっふ。
お宝お宝なんです。
伯爵が、絵画を外そうとする兵士達の前に立ち塞がった。
邪魔臭い。
俺は兵士達に明確に命じた。
「殺すな、部屋の隅に転がして置け」
「「はい」」
 兵士達は素早く伯爵を拘束した。
空樽でも有るかの様に部屋の片隅に転がした。

 絵画が外された。 
絵画跡の壁に、隠し金庫の扉があった。
サイズからすると小物入れ、現金か貴金属。
既に現金で一杯なのも確認済み。
床から伯爵が立ち上がった。
「開けるな」
 執事長は目を閉じた。
諦めの心境に至ったらしい
お利口さん。

 兵士達が伯爵を取り押さえた。
それを横目に俺は金庫の扉に手を当てた。
流石は伯爵家、通常の鍵だけではなかった。
術式も施され、煩わしい事この上なし。
並みの泥棒が手に負える代物ではない。
 俺は、錬金魔法に契約魔法を重ね掛け。
干渉して鍵と術式を無効化した。
とっとと解錠。
「おう、鍵が開いてた」驚いて見せた。

 ダンカンの目が疑惑一色。
それでも迂闊な事は口にしない。
じっと俺を見た。
「それで、・・・どうします」
「現金が有る様だから、賠償金として頂こう」
「もしかして全額ですか」
「おお、良いこと言った。
そうだね、全額だね。
残したら伯爵に失礼だよね。
・・・。
それから、賠償金の領収書は明石少佐に渡してくれ。
今回の件の書類に添付する必要があると思う」
 何故か、カトリーヌ明石少佐の溜息が聞こえた。
呆れている様な、・・・。

 ダンカンが兵士に手伝わせ、執務デスクに積み上げて行く。
最初は小金貨の山。
次に中金貨の山。
そして大金貨の山。
更には見た事のない金貨の山。
おそらくは古銭。
「これで全部です」
「へえ、金塊がないんだね、それは残念。
賠償金は大中小の金貨だけにしようか。
古銭は換金が面倒だから残して」

 ダンカンと兵士が金貨を数え始めた。
カトリーヌが俺の隣に来て、小さな声で囁いた。
「古銭を除外したのは良い判断よ」
「そうですか、それは良かった」
「もし貴方が金庫の中を総浚いしたら、伯爵に同情したわね。
私も、他の方々も、・・・分かるでしょう」
「程々にして置けって事ですね」
「その通り、塩梅が大切なのよ」
「良かった、皆さんを敵に回さずに済みました」

 カトリーヌが続けて言う。
「問題は義勇兵旅団の行方よね。
何か手掛かりがあったのかしら」
 俺としては通告がなかった件だから、どうでも良いこと。
このまま行方不明でも構わない。
所詮は他家の問題。
責められる謂れはない。
だけど世間的なものが、・・・あるよな。
「彼等は、理由は知りませんが、尾張から入り、三河大湿原沿いを進み、
途中から木曽大樹海を抜ける街道に入る予定だったそうです。
ところがその街道に彼等が通行した形跡がない。
遺体は勿論、武具や小荷駄と思わしき物が一つも見つからない。
・・・。
大樹海でも、少人数のキャラバンや冒険者パーティなら、
警戒さえすれば無事に通過できるのです。
大軍であれば魔物の関心を惹きますが、
少人数であれば然程でもありません。
時間との勝負、襲撃される前に通り抜ければ良いのです。
まあ、時たま、魔物の小さな群れとの遭遇はあるでしょうが、
粗方は撃退できます」

 カトリーヌは暫くして口を開いた。
「旅団単位の消失ですものね。
この件にうちの参謀本部も関心を寄せているわ。
・・・。
ところで佐藤伯爵、貴方は大湿原にも大樹海にも詳しいのよね。
そんな貴方の見立ては」
 ああ、彼女もそこに気付いた様子。
でも、もう少し情報が欲しい。
「義勇兵旅団の質は、・・・将校の練度という意味になりますが」
「将校といっても、一口で言うなら素人。
国軍、近衛軍の将校経験者はいない、そういう意味よ」
「だとしても領軍の将校くらいはいますよね」
「それは少ないわ。
領地の留守を任せる者に事欠くもの。
だから多くは貴族の子弟、・・・分かるでしょう」
 経験に乏しい。
そんな連中が難解な土地に挑んだ。
旅団編成で大湿原から大樹海へ至るという。
素人に率いられた大冒険だ。
兵卒の未来は絶望しかない。
「三河大湿原に迷い込んだ、或いは、追い込まれた、そう想定して、
幾つかの捜索隊を派遣しました。
たぶん、何かが見つかります」
「うちの参謀本部も同様の見立てよ。
うちは人手が足りないから派遣はしない。
佐藤伯爵様だけが頼りよ」

 ダンカンがカトリーヌの傍に寄った。
一枚の紙を差し出した。
それを見てカトリーヌが口笛を吹いた。
カトリーヌの背後から副官の一人が覗き込む。
これまた表情を変えた。
カトリーヌが副官を無視して俺に言う。
「賠償金の領収書、確かにお預かりしました」

昨日今日明日あさって。(テニス元年)29

2023-08-20 04:43:10 | Weblog
 俺は死臭や嘔吐の臭いを消す為に窓を全開にした。
冷たい風が頬に当たった。
何てこったい。
全く罪悪感が湧かない。
俺は人の心を失ったのだろうか。
 下から来る複数の乱れた足音から現状を再認識した。
対応を一つでも間違えれば炎上してしまう案件なんだな。
ん、炎上なんだな。
切れ掛かりそうだった演技スキルを継続し、
窓際に立ったままでお偉い方々を出迎えた。
兵士の先導で公的機関の幹部連が入って来た。
カトリーヌ明石少佐と副官、護衛が二名。
名は知らぬが、国軍の大尉と副官、護衛が二名。
こちらも名は知らぬが、奉行所の与力と同心、護衛二名。

 カトリーヌが室内を見回した。
全体を見て取っても表情に変化はない。
死者二名にも納得している風。
彼女が引率した者達を代表して質問した。
「佐藤伯爵殿、これは如何なる事か、説明を求めます」
 俺は冷静に応じた。
「僕はここの伯爵、ホアキン高山伯爵からの召喚状を受け取りました。
それで身の危険を感じ、武装兵を伴って召喚に応じました」
 ダンカンが熟れた動作で召喚状を彼女に差し出した。
カトリーヌは受け取ると、素早く目を通した。
軽く頷き、それを大尉に手渡し、俺に質問した。
「だからといって、あれは何なの」
 彼女は視線を高山伯爵に向けた。

 伯爵は【奴隷の首輪】を装着され、口元喉元は嘔吐まみれ。
疲れ切っている様で、ハーハーヒーヒーと呼吸が荒い。
それでも事態の変化が分かったのか、
縋る様な眼差しを公的機関の面々に向けた。
俺は落ち着いた口調で答えた。
「召喚状の理由が知りたいので、敢えて【奴隷の首輪】を装着しました」
「それで答えは得られたの」
「はい」
「得られた答えを教えて頂けるかしら」
「目下の者に横柄な人物であると分かりました」
「そう、・・・つまりは」
「同格の寄親伯爵を呼び付け、優越感に浸りたかったのでしょう」
「分かりました。
それであの首輪は」

 俺は兵士に、【奴隷の首輪】を外して解放する様に指示した。
外された伯爵は安心したのか、その場に腰を下ろした。
見るからに、衰弱しきったご様子。
すると執事長が解放された伯爵に駆け寄った。
ハンカチで嘔吐を拭う。
でも、そんな小さなハンカチで拭いとるのは無理なんだな。
そこで俺は親切にも、光魔法を起動した。
ラントクリーンで伯爵の汚れを消し去った。
皆の視線が俺に向けられた。
代表してカトリーヌが質問した。
「伯爵、今のは」
「貴族の嗜みです」
「無詠唱ですよね」
「それも貴族の嗜みです」
 何時でも殺せますよ、とは続けない。

 俺は伯爵に通告した。
「高山伯爵、この場を収めるのは貴方です。
自分の非を認めますか」
 高山伯爵は自分の執事長を見上げ、
それから公的機関の方々に視線を転じた。
味方でも探すかの様な目色。
それが無理だとは分からない様子。
俺は分かり易く告げた。
「まず僕への謝罪文を頂きます」
「・・・どう、どうして」
「お分かりの様に近衛軍、国軍、奉行所の方々が来てらっしゃいます。
なのに、何も無いでは方々の出動が無駄足になります。
分かりますよね、無駄足。
貴方の軽率な行動で方々が来られたのです。
無駄足でお帰り願うのは、貴方の爵位では足りません。
せめて公爵であれば、・・・。
よって、上に報告書が必要な案件になったのです」
 全部丸ごと伯爵に押し付けた。

 執事長が伯爵に何事か耳打ちした。
意に反するのか、伯爵の表情が変わった。
それでも執事長は諦めない。
執拗に耳打ちを続けた。
まるで父親と躾される子供。
ついに陥落した。
執事長が俺を見上げた。
「謝罪文で宜しいのですね」
「はい、そうです。
謝罪文は僕宛てにして下さい。
ただ、こちらの方々に提出しますので、
それ相応の書式にしてくださいね。
たぶん、最後は貴族院に回されると思いますので」
 執事長は伯爵と視線を交わし、俺に頷いた。
「承知しました」
 それて終わらせるつもりはない。
「謝罪文一つでは軽すぎるので、これに重みを付け足します」
「重みを、・・・」
 執事長が疑問の目色。
これは伯爵も同様。
いやいや、俺以外の全員がそうだった。
ダンカンにジューン、兵士の皆も。

 俺はカトリーヌを振り向いた。
「謝罪文では軽すぎて鼻息一つで吹き飛びます。
そこで重しを付けます。
賠償金です。
これで事の良し悪しが誰にも分かる筈です」
「事の良し悪しねえ、そうよね」
 カトリーヌだけでなく、その群れの者達も頷いた。
流石は公的機関の方々。
この手の始末の付け方に深い理解がある様だ。

 執事長が伯爵に再び耳打ちした。
他に漏れぬ様に小声で意見を交わし合う。
たぶん、二人の意見は一致しないだろう。
俺は二人に告げた。
「賠償金として伯爵を奴隷に売り払う方法もあるけど、
それだと僕が損をします。
銅貨一枚ですからね」
 受けた。
カトリーヌの群れで失笑が漏れた。
僕は気にせずに続けた。
「もう一つあります。
ここで伯爵の首を落として、伯爵家に買い戻して頂く。
これでも宜しいですよ」

 高山伯爵と執事長が互いに顔を見合わせた。
競う様に口を開いた。
「「賠償金で」」
 俺は二人に指示をした。
「それでは執事長、伯爵様はお疲れの様だから代わりに、
謝罪と賠償を認める公式文書を書いて。
良いよね、高山伯爵。
そうそう、伯爵には最後に署名だけお願い」
 頷く高山伯爵。
問う執事長。
「賠償金の金額は如何ほどですか」
「屋敷の蔵を空にしろなんて無茶は言わないよ。
まず文書がきちんとしているか、それを見てから話し合おう」
 渋々ながら執務デスクに向かう執事長。
俺としては話し合う気は全く無いんだけどね。
それはそうとして、ダンカンに指示した。
「無駄を省きたいから、文書の確認を頼む」
 ダンカンが良い笑顔で頷き、執事長の背後に回った。

昨日今日明日あさって。(テニス元年)28

2023-08-13 10:56:15 | Weblog
 俺の警告が受け入れられた。
室内で本棚を動かす作業が開始された。
ドアが開けられるのに時は要しない。
ドアが少し開けられ、その隙間からこの家の執事長が顔を覗かせた。
「これは何の真似ですか」
 怒っている色だが、仕事柄なのか、言葉は荒げない。
ダンカンが俺の前に出て対応した。
「こちらの伯爵に当家の伯爵様が召喚されたので、
この様な仕儀と相成りました。
出された召喚状の事はご存知ですよね」
 執事長が不思議そうな表情を浮かべ、ダンカンを見返した。
「召喚・・・、何の事ですかな」
「貴方に似た執事が、その召喚状を当家に届けに参りましたのですが」
 途端、執事長が後ろを振り向いた。
「ベレット、お前か」
 室内から答える声。
「父上、その召喚状は私が届けました」
「私は聞いていないぞ」
「伯爵様のご指示でした。
取り急ぎと申されましたので、その日のうちに届けました」

 執事長の顔色は見えないが、肩が落ちた様子から、落胆と窺えた。
それでも仕事への矜持からか、ゆっくりとこちらを振り返った。
「申し訳ございません。
伯爵と申されましたが、どちらの伯爵様ですか」
「貴方は事の経緯をご存知ない様子、お気の毒様です」
 ダンカンは身体を脇に寄せて、俺を紹介した。
「こちらが当家のダンタルニャン佐藤伯爵です。
学校へ通われるお歳ですが、美濃地方を任されております。
同格の寄親伯爵です。
その同格の伯爵への召喚状、実に許し難い。
よって、この様な仕儀と相成った次第です。
既に関係方面には通達済みです。
少々の騒ぎは理解して貰えると思っています」

 思案する執事長。
俺は率いて来た警護の兵士五名に命じた。
「当初の指示通りだ。
突入して敵戦力を削げ」
 待ち構えていた五名はウィリアムが特に選んだ者達、
聞き返しも二の足もない。
即座に行動を開始した。
執事長を押し退けて突入。
それからは早い。
まず、伯爵の護衛二名を問答無用で斬り捨てた。
続いて執事長を含めた三名の喉元に剣先を突き付け、拘束。
最後に伯爵を取り押さえ、【奴隷の首輪】を装着した。

 伯爵や執事達が抗議の声を上げる中、俺は室内に入った。
立派なソファーがあった。
早速、そこに腰を下ろした。
ダンカンはと見ると、伯爵の執務机に手を付けた。
卓上の書類を漁る。
それでも飽き足りないのか、引き出しの書類まで目を通す始末。
どうやら彼は仕事中毒らしい。
お気の毒様。
俺は後ろに控えたジューンに尋ねた。
「どう」
「どうと聞かれましても。
殿方は大変ですねとしか、・・・」

 目の前に引き出された伯爵は、盛大に抗議の声を上げた。
その姿は、【奴隷の首輪】を装着されているので実に滑稽、うこっけい。
俺は【奴隷の首輪】の主人役である兵士に命じた。
「犯罪者として躾てくれ」
 兵士がニヤリ。
この奴隷の首輪は、絞まるタイプ。
命令に従わぬとジワジワと絞まり、絶息寸前にまで追い込む仕様。
手違いで死んだら、それも仕様がない。
お気の毒様。

 【奴隷の首輪】の扱いに慣れた兵士を起用した。
「返事は二つだけ。
はい、いいえ、それ以外は認めない。
分かったか、分かったら返事しろ」
 伯爵は自分が置かれた状況が分からないらしい。
目を白黒させるだけで返事をしない。
すると首輪が反応した。
少し絞まった。
「うっ、これは」
「返事はどうした」
「くっ、はっはい」

 兵士が虚実硬軟を盛り込んだ質問を連発し、伯爵を追い込んで行く。
それを横目に、俺は屋敷の執事長を呼び寄せた。
「屋敷全体に触れ回れ、伯爵は無事だと。
騎士団が動かぬ限り、伯爵や家族の安全は保障する。
ただし、不審な動きをしたらその限りではない、そう伝えろ」
 執事長は即座に部屋から駆け出した。
まず三階に向かった。
伯爵の家族を説くのだろう。

「王妃様の悪口を言ってるそうだな」」
「いいえ」
 これで何度目だろう。
首輪が限界まで絞まった。
「げっ、げえー」
 涎か嘔吐か判断が付かない。
お陰で口元喉元が悲惨な状況。
とても伯爵様が置かれる状況ではない。
それでも追い込みを続けさせた。
「義勇兵旅団の発起人の一人なんだろう」
「もう許して下さい」
 余計な発言で首輪が絞まった。
「明日は雨だな」
「許して下さい」
 涙を流しながら首輪を両手で掴んだ。
首輪が絞まるのを阻止しようと図るのは、これで何度目だろう。
一度も成功してないのに。
「やっ、止めぐぇっ」
 また吐いた。
胃は空になっていないようだ。
もう少し行けるかな。

 兵士が要所要所で、こちらが知りたい情報を吐かせた。
それである程度の目安は付いた。
この伯爵は、ただ単に横柄な奴。
こちらを目下の新参者と看做して難癖を付けた、それだけのこと。
なんて人騒がせな。

 伯爵邸本館を占拠し、護衛二名を殺した。
傍目には、伯爵本人を甚振ったと映るだろう。
この落としどころが難しい。
んー、強気で押し通すか。

 カーテン越しに外を見ると、これが大騒ぎ。
玄関前で、敵騎士団と当家の兵が睨みあっているのだ。
近隣の屋敷が気付かぬ訳がない、
貴族を含めた野次馬が周囲に群れていた。

 奉行所や国軍も駆け付けていた。
野次馬を規制し、屋敷を包囲していた。
幸い、事前に関係各所に通告済みなので、
彼等が力押しで入って来る事態は避けられていた。
今の所はだ。
先は分からない。

 下から駆け上がって来る足音。
当家の兵士だ。
「近衛軍のカトリーヌ明石少佐が面会を求められております」
 近衛軍も出動して来た。
カトリーヌ殿なら信頼が置ける。
「奉行所や国軍は」
「包囲するのみで、目立った動きはありません」
「分かった。
少佐を通してくれ。
それとだ、国軍と奉行所の責任者が希望するなら、一緒に通してくれ」

昨日今日明日あさって。(テニス元年)27

2023-08-06 09:53:11 | Weblog
 ホアキン高山伯爵の屋敷は西区画にあった。
寄親伯爵だけあり、仰々しい門構えをしていた。
太い鉄柵で、観音開き、高さは3メートルほどか。
開けられているのは表門脇の通用門のみ。
内側の詰め所で、門衛二名が番をしていた。
 俺達の車列に門衛二名が困惑の表情。
互いに顔を見合わせた後、二名揃って動いた。
通用門から出て来て、片方が質問した。
「何かご用でしょうか」
 もう片方は、こちらの車列を眺めていた。
それを横目に、先頭の馭者が大きな声で答えた。
「ダンタルニャン佐藤伯爵様が参られた。
急ぎ、ご主人に取次を頼む」
「聞いておりません、アポはお取りでしょうか」

 門前での遣り取りとは別に、
一両目の後部ドアからから武装兵六名が飛び出した。
その先頭は隊長のウィリアム。
無言で走り、戸惑う門衛二名を無力化し、拘束した。
手足をロープで縛られても口で抗う二名。
「これは何の真似だ」
「ここは伯爵様のお屋敷だぞ」
 それも猿轡をされ、蹴り倒されると大人しくなった。
門衛二名には用は無いので、門の内側に転がして置いた。
俺達は、門を大きく開け、車列のまま敷地内に入った。

 動員した馬車は計六輌、うちの四輌が兵員輸送車輌。
武装兵は三十八名、馭者が六名。
そして俺とメイド・ジューン、ダンカン、ウィリアム。
 敷地内に入ると邪魔する者は皆無。
アポを取っていると誤解しているらしく、
擦れ違う使用人達は黙って道を譲ってくれた。
それでも幾人かが車輌の多さに怪訝な表情を浮かべた。
が、行く手を遮る勇者はいない。

 本館が見えた。
どっしりした造り。
玄関前には衛士が二名、番をしていた。
俺を乗せたカブリオレ型馬車のみが馬車寄せに入った。
他は手前で待機。
それを見て取った衛士二名が歩を進めて来た。
これから大立ち回り本番なんだが、うちの馭者は暢気者。
「伯爵様、幌を開けますよ」
 言うや手早く幌を全開にした。
ジューンが素早く降りて、俺をエスコートしようと手を差し出した。
「どうぞ、伯爵様」
 伯爵様、伯爵様と二度、これが大事。
衛士二名の足が馬車の前で止まった。
対応に迷っている様子。
まあ、事前にアポがないのだから、しようがないね。

 待機していた車輌よりダンカンとウィリアムが駆けて来た。
ウィリアムは当然、兵装。
ダンカンは執事服。
衛士二名がその二人に気を取られた。
その隙をジューンと馭者が逃さない。
素手で衛士二名の懐に飛び込んだ。
腰を落として諸手突き。
非力な力ではあるが、掌底が顎と鳩尾に決まった。
崩れる二名をダンカンとウィリアムが捕縛し、
これまた猿轡して適当に転がした。

 俺はジューンに声を掛けた。
「エスコートは」
 ジューンが怒った。
「褒めてくださいよ」
 確かに。
今のは想定外だった。
それでも動けるのだから大したもの。
メイドと馭者なのに。
「まだ終わってないよ。
でも、良くやってくれた、ありがとう」
 馭者はニコニコ。
ジューンは渋々といった感で、エスコートしてくれた。
「日頃の訓練には疑問があったのですけど、こうして役に立つとは」

 玄関前の騒ぎなので使用人達の目に触れない訳がない。
表にいた誰もが本館の裏へ逃れて行く。
裏口から上司に報告するのだろう。
 ウィリアムが全兵力を率いて本館に突入した。
それを横目に馭者達も一仕事。
馬車を駐車場へ移動させた。
帰りの足確保は大切な仕事なのだ。
それを終えた馭者達が戻って来た。
カブリオレの馭者が俺に尋ねた。
「手前共は如何いたしますか」
「もうじき屋敷の兵力が向かって来る。
怪我したら困るから、ここの一階で待機してようか」

 屋敷の兵力が押し寄せる前にウィリアムが現れた。
「一階を占拠しました」
 騒ぐ声や悲鳴は聞こえたが、剣戟や攻撃魔法はなかった。
血は流れてない、そんな認識で良いのだろう。
俺はダンカンやジューン、それに馭者達を引き連れて一階に入った。
 中に入った途端、絵画の群れが俺達を出迎えた。
これ程の油絵が見られるとは、・・・。
実写的な風景画が多いが、宗教画や肖像画も散見された。
俺にウィリアムが言う。
「呆れる位の数です。
幸い、どれにも疵は付けてません」
 廊下のあちこちに口から血を流している使用人達が座り込んでいるが、
俺はそれには目を向けない。
彼等は絵画以下の存在。
人の替えは無数にあるが、絵画の替えは利かない。
例えそれが理解に苦しむ画風だとしても。

 俺は肝心の事を尋ねた。
「当主はいるの」
 アポなしだったので、それが心配だった。
ウィリアムの後ろから兵士が現れ、使用人を前に蹴り出した。
「執務室にいるそうです。
こいつに案内させます」
 倒れた使用人が俺を睨み付けた。
「誰が案内するか」
 中年で小太り。
長年、この屋敷の主人に仕えていたのだろう。
事情は分かるが、俺は退けない立場。
ここは俺自身が時間制限を掛けた現場でもあった。
屋敷の兵力もあれば、奉行所等々の立場も考慮せねばならないからだ。
俺はここから自身の力を揮う事にした。
全力ではない。
ちょっとだけ。

 探知スキルと鑑定スキルを重ね掛け。
伯爵を探した。
直ぐに見つけた。
 屋敷側も兵力を揃え終えた。
騎士団長を先頭にして本館に駆けて来た。
「ウィリアム、敵兵力は二百余。
交渉にて大人しさせろ」
「材料は伯爵ですな」
「まだだが、二階の執務室の伯爵の身柄を確保したと脅せ」

 一階の防御はウィリアム達に任せて、俺達は二階の執務室に向かった。
俺にダンカン、ジューン、警護の兵士が五名。
これで充分だ。
俺は自ら執務室のドアをノックした。
風魔法で声を中に届けた。
「伯爵様、お客様がお見えです」
 中からの応答はない。
籠っているのは伯爵、執事三名、護衛二名。
内側から施錠し、本棚をドアの前に置いていた。
下の騒ぎで籠る選択を選んだのだろう。
しかし、彼は肝心の事を忘れていた。
俺はそれを思い起こさせた。
「自分一人が助かるつもりか。
屋敷の騎士団も出撃して来た。
このままでは直戦闘になる。
攻撃魔法が飛び交えば何れ火災になる。
これには三階のご家族も巻き込まれる。
お別れは済ませたのか」

昨日今日明日あさって。(テニス元年)26

2023-07-30 11:18:58 | Weblog
 玄関には手空きの者達が出迎えていた。
メイドの一人が馬車のドアを開けてエスコート。
「おかえりなさいませ」
 このエスコート役は人気で、メイド達が争奪戦を繰り広げるのだそうだ。 
ジューンが悔しそうな顔で俺を見ていた。
えっ、争奪戦に負けたのは俺の責任なの、違うだろう。
そのジューンの隣で執事長・ダンカンが、苛立ちを隠し、俺を見ていた。
彼は皆の手前、余計な事は口にしない。
ルーティン通り、俺の後ろに従った。

 着替えより先に、ダンカンの抱えている問題に対処した方が良さそうだ。
「執務室で聞こうか」
「はい」
 エスコート役のメイドに頼んだ。
「二人分のお茶を頼む」

 執務室で二人きりになった。
俺はダンカンにソファーを勧めた。
固辞するダンカン。
でもそれは許さない。
俺が先にソファーに腰を下ろして、ダンカンを見上げた。
「ねえダンカン、上からご主人様を見下ろしちゃ駄目だよね」
 ダンカンは虚を突かれたかの様な顔をした。
結局、渋々感一杯の空気を醸し出して腰を下ろした。
そこへメイドがお茶を運んで来た。
俺には緑茶、ダンカンには珈琲。
お茶請けはマンゴーのショートケーキ。
「今街で人気なんですよ」とはメイド。

 咽喉を潤してダンカンに尋ねた。
「それで話は」
「今お見せします」
 ダンカンは内ポケットから一通の書状を取り出し、俺の前に置いた。
役所仕様の定型封筒で、表には召喚状の文字と俺の名前、
裏には見慣れぬ紋章。
「召喚状ね、誰から」
「ホアキン高山伯爵様からです」
「知らないな」
「和泉地方を治めていらっしゃる方です」
「会ったこともないと思う、それが」
「使いの者が申すには、召喚状だそうです」
「はあ、・・・召喚状」

 俺宛の書状手紙の類は、
受け取った段階で鑑定スキル持ちが検査した。
安全か、否か。
安全と分かった物を、執事長が区分けした。
公的か、私的か。
公的と判断した場合は執事長が職権で開封し、中身を改めた。
今回の召喚状も既にダンカンが目を通していた。

 俺は召喚状を読み進めた。
簡潔な文章なので一目で読めた。
要するに、「直ちに我の下に出頭せよ」とのこと。
 召喚状は公的な書類。
宮廷が発する強制力のある物。
まあ、今回の様に寄親伯爵が発する場合もあるにはある。
が、それは例外的な措置。
範囲は、己に従う寄子貴族のみに限られた。
俺は召喚状をテーブルに置いた。
「ホアキンはアホなの」
「どうやらその様です」
 ホアキンではなくてアホキンらしい。
「使いの者の身分は」
「執事の一人でした。
鑑定スキル持ちに確認させましたので、間違いありません」

 ダンカンは怒りながらも最低限の仕事をしていた。
初手で敵の確認を怠らない。
流石は執事の家柄。
俺はケーキを一口、美味い。
さて、どう対処すべきか。
それも寄親伯爵として。
ダンカンが珈琲を飲み干して言う。
「召喚状とは失礼にも程があります。
同格の伯爵に対する態度では御座いません」
 ダンカンの目色が怖い。
日頃の彼からは考えられぬ色。
許可すれば殴り込むだろう。
俺は火に油を注がぬ様にした。
「使いの執事の様子は」
「・・・慇懃無礼そのものでした。
まるでこちらを格下扱い。
・・・。
私が、同格の寄親伯爵相手に召喚状は失礼だろう、
そう申したのですが、聞く耳を持っておりませんでした。
主人が主人なら、家来も家来、どちらも屑です」

 俺は尋ねた。
「それでも、何らかの調べはしたんだろう。
例えば召喚状に繋がる原因とか」
「適いませんね。
はい、そうです。
こちらが捕えた五名のうちの二名が、ホアキンの寄子貴族でした。
ですからその関係かと」
 ダンカンはきちんと仕事をしていた。
難しい問題ではなくて単純な事だった。
それ以外にホアキンとの間に関係はない。
 ホアキンのレベルは知れた。
これは即行で解決すべきだろう。
俺は執り行う方法をダンカンに詳細に説明した。

 全てを聞き終えたダンカンが疑問を呈した。
「大丈夫ですか。
これが王宮へ知れた場合にお咎めは御座いませんか」
 ホアキンへの怒りより、執事長としての職分が優先したようだ。
「だから誰も暴走せぬ様にダンカンを連れて行くんだろう」

 ダンカンから解放された俺は自室に戻って風呂、着替え。
勿論、メイド達が世話してくれた。
俺に拒否権はなかった。
このところ、メイド達が世話を焼きたがるので、困った、困った。
 着替え終えるをダンカンが待っていた。
彼も覚悟を決めたらしい。
顔色が良い。
「関係各所への書状の手配は」
「済みました。
書くのは書記スキル持ちに、届けるのは兵士に」
 手短に答えた。
まるで軍隊調、気持ちが入っていた。
「ダンカンの役目は、後方からの俺の支援なんだから、
少し肩の力を抜こうか」

 玄関先は大賑わい。
群れ成す兵士の一団。
その周囲には当家の使用人達が溢れていた。
私語が飛び交っていたのだが、メイド・ジューンがドアを開けた途端、
波が引く様に静まった。
「伯爵様のお成りです」
 ジューンの甲高い声。
ウィリアム佐々木の声が続いた。
「整列」
 兵士の一団が踵を合わせ、姿勢を正した。
見送りの使用人達は一斉に、その左右に割れた。
俺はウィリアムに尋ねた。
「抽出した兵力は」
「三十八名です。
うち、スキル持ち二十六名です。
スキルを持たない十二名は、木曽の魔物の討伐に慣れた者達なので、
何等ご心配は御座いません」
「つまり問題がない訳だ」
「作戦行動に支障は御座いません」
目立たぬ様にとのご指示でしたので、全員馬車にて輸送します」

 俺は後ろを振り向いた。
「行くよ」
 侍女長・バーバラが飛び切りの笑顔。
「程々にしてくださいませね」

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