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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)3

2023-12-10 10:57:20 | Weblog
 俺は書類の確認を終えた。
帳簿等には問題はない。
「トランス、仕事は完璧だよ。
ここの仕事量だと暇だろう。
もう少し増やしてみようか」
 するとルースに阻まれた。
「駄目ですよ。
それはオメガ会館の事でしょう。
ダン様、それには賛成できません。
それに、ここもこれから増々忙しくなります。
トランスは手放しませんよ」
 オメガ商会は俺が岐阜に、個人的に設立した商会だ。
あちらとの人材交流を考えてのトランスなのだが、時期尚早だったかな。
俺は苦笑いで収め、珈琲に手を伸ばした。
うっ、苦い。
大人の味が増々か。
でも飲み込む。
誰かの失笑が漏れ聞こえた。
敢えて追及はしない。

 俺は会計関係以外の書類から、それを取り上げた。
「忙しくなるのは、これかな」
「ええ、それです」
 テニスの次に流行らすのはバドミントン、と考えていた。
テニスに類似しているので、用具開発からすると安易に進められるのだ。
それを下請け工房の親父たちに大まかに伝えたの一ヶ月前。
なのにどういう訳か、それなりのタイムスケジュールが組み上がっていた。
まあ、テニスでの成功体験が大きいのかも知れないが、
それにしても早過ぎないか。
商売への熱意か、ただ単にお金儲けへの執着か。

 利益が出るのは嬉しいが、それに伴う弊害も噴出する。
多いのは特に外からのもの。
その中でも一番避けたいのはお貴族様絡み。
俺はクレーム処理の書類を指で指し示した。
「ねえルース、よそ様からの手出しは減ってるかい」
 これにはルースが顔を顰めた。
「表だっての行動は減りましたが、それでも色々と仕掛けて来ています」
「例えば」
「工房の技術を盗もうとする方々が一向に減りません」
「職人に直接的な被害は」
「伯爵様がオーナーという事が知られて来たので、
そちらは無くなりました。
この所の問題はコピー商品ですね。
後追い参入の商会の製品が脆いのです。
一ㇳ月と持ちません。
その尻拭いがこちらに来ます。
どうしてくれる、そちらで買ったんだ、何としても無償で修理しろ、
交換しろと。
それを宥めて説明するのが手間ですね」
「クレーム処理には誰が」
「相手によりけりです。
強面には元冒険者、理屈を申し立てる者には商人ギルドの元窓口嬢、
幸い利益が出ているので人材には事欠きません」

 うちの下請け工房には粗製濫造を禁じているので、
品質には自信があった。
二年や三年で壊れる物は製造していない。
その下請けへの原材料は全てうちから支給する形にしていた。
うちが関係各所から原材料を大量購入して保管、適時に支給する。
必要な時に必要な量を、である。
無駄を省くのは正しいが、それにも限度がある。
適正な余裕が必要なのだ。
所謂、ハンドルの遊びだ。
車を製造しているメーカーなら常識だ。
 下請けから製品を仕入れる際は、三方良し、とした。
売り手よし、買い手よし、世間よし。
皆が笑顔になれば嬉しい。

 トランスが挙手した。
「宜しいですか」
「いいよ」
「保管倉庫の拡張は如何でしょうか」
「目的は」
「事業拡大です。
取り敢えずは業務用の原材料の販売です」
「所謂、卸業で間違いないかな」
「そうです。
下地は出来ています。
原材料を入手する川上に伝手が出来ました。
これを活かさないのは勿体ないです」
 川中では下請け工房が機能している。
そして川下にはアルファ商会がある。
この短い期間にうちの商会だけでなく、
この元冒険者も一皮剥けたみたいだ。

 保管倉庫は国都の外に構えていた。
隣には当家の騎士団の宿舎と馬場があり、
警備の観点からも申し分ない立地だ。
さらには敷地を広げる余地も残っていた。
俺はトランスに指示した。
「トランス、目の付け所が良い。
稟議書を取締役会に提出してくれ」

 俺は飲み物をジュースに替えた。
えっ、おう、炭酸入りか。
飲み易い。
ついでに話題も変えた。
「ねえルース、ポーションも売れてるけど、先行きはどう」
 うちの取締役三人、ルース、シンシア、シビルは元々は国軍士官。
それが、ポーションショップ開設を目指して退官、転職した。
冒険者に。
なのに今は俺の誘いで商会取締役。
ポーション工房とショップを併設したのが効いたみたいだ。
「売り上げが平時に戻ると見込んで、減らしています」
 反乱特需の終わりか。
「元国軍士官として、近々反乱が収まるとの判断かい」
「そうです、特に関東は虫の息ですね」
「籠城したけど、あれは」
「知人の多くは、悪足掻きと貶しています。
ただ、一部は、西の反乱との連携を疑っています」

「その西の様子は」
「九州の反乱軍は旗色が悪いそうです」
 当初、反乱した島津伯爵軍が官軍を押していた。
それが、官軍の主体が三好侯爵派閥になってからから変わった。
押し合いへし合いから、遂には官軍が押し始めた。
「一時は官軍を破る勢いだっそうだね」
「ええ、ですがそこは流石、三好侯爵家ですね。
ここ最近は戦線を押し上げているそうです」

 駐車場で待機中の警護の兵が、商会のスタッフに案内されて、
この個室に入って来た。
「お屋敷から使いの者が来ました」
 俺に薄い封書を差し出した。
裏書きは執事長の手跡。
封を切り、中を読んだ。
「宮廷より先触れが参りました。
迎車を遣わすので、直ちに、密かに参内するように、との事です」
 ふむふむ、急ぎ且つ、内密の事が生じた訳か。
で、俺、・・・か。
相談でないのは確かだ。
手駒として動けだろう。
人使いが荒い。
前世なら労基に訴えてる案件だ。
まあ、文句言っても今更か。

昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)2

2023-12-03 13:27:07 | Weblog
 俺がカブリオレに乗り込むと同時に供回りの者達が騎乗した。
騎士達は職業ながら慣れているので、すんなり騎乗した。
従者のスチュアートも。
俺はそのスチュアートを呼び寄せて指示した。
「先触れとしてアルファ商会に向かってくれ。
取締役への伝言は、私人なので出迎えは不要。
伝えたら、そのまま事務所で待機、分かったな」
「私人なので出迎えは不要ですね。
承知しました。
伝言後はあちらで待機します」

 カブリオレがスムーズに発進した。
驚いた事にジューンの手綱捌きに問題はない。
「ジューン、慣れてるね」
「はい、馭者は本来は専門職ですが、当家では今回の様に、
一頭立てカブリオレは私達メイドが馭者を務めます。
特に遠出の買い物や雨の日に利用します。
これを機に、ダン様も私人の時には、この様にご利用くださいませ」
 俺は初耳だった。
ん、待てよ、・・・。
厚生福祉の観点から当家の代官、執事長、侍女長、各将校等々には、
俺から通達をしていた。
当家に仕える者達全員が働き易い環境にして欲しい、と。
一つ、年に一度は、職場別に話し合いの場を設けること。
二つ、どんな意見にでも耳を傾けること。
三つ、職場段階で判断できる事は、現場の長の差配に委ねる。
四つ、現場で判断に困る案件は、代官か執事長に上げ、
その判断に従うこと。
五つ、出来れば当主の前段階で解決して欲しい。

 特に大事なのは最後の五つ目。
面倒事は当主に上げないで欲しい、そう希望した。
へへっ、やったね。
だから俺の耳に届いていないのだ。
良かった、確立していた。

「女子達の遠出の買い物はこのカブリオレか」
 ジューンが余裕の笑顔。
「はい、執事長を説得するのに大変でしたが、そこは何とか、
私達女子総出で認めさせました」
 ああ、ダンカンを押し切ったのね。
ご苦労様。
それで遠出の買い物は女子達のレクレーションの一つになった訳か。
まあ、厚生福祉の観点から良しとしよう。
でもダンカン、女子達に押し切られたので、言い難いのか。
「馬車に何か注文は」
「今のところはないですね。
特にあるとしたら、お尻が痛い、そこですね」

 故郷の村に馬車製造工房があるので、このところの発注は、
カスタマイズが多い。
六頭立てや四頭立ての兵員輸送車輌がその代表例だ。
二頭立てや一頭立てのカブリオレなんてのは可愛いもの。
けど、お尻が痛い、ね。
その内に改良されると思う。
工房から馬車を納品しに来た者に、
四輪独立懸架方式を研究してると聞いた。
 そうそう、工房のエンブレムは始祖を彷彿させる、ジョナサン佐藤様、
弓馬の神を象ったもの。
前世なら、ジョナサン佐藤からJ、戸倉村からT、だったな。
ああっ、「J」も「T」も拙いか。
グローバルメーカーじゃもんね。
「J」はイギリスの老舗メーカー、「T」はアメリカのお電気自動車メーカー。

 先導が二騎、カブリオレと並走が一騎、後ろに二騎。
たぶん、陰供も付けられている。
今回の様な私人としての移動でも堅苦しい。
前の騒ぎがあるだけに、皆が慎重なのだ。
文句は言えない。
それを癒してくれるのが馭者のジューン。
隣で囁いてくれた。
「ダン様、このところお休みの日がないですよね」
 そうなんだよな。
身体は一つしかないのに、忙しい忙しい。
寄親伯爵、生徒、冒険者、商会長。
内緒のダンマスで手を抜いていられるから、ちょっとは楽かも知れないが、
でも、纏まった休みが取れない。
児童虐待案件発生です。
「ジューン、少し仕事を増やしてあげようか」
「それは御免被ります、勘弁して下さい」
 馬に軽く鞭が入った。
馬の足がちょっとだけ早まった。

 アルファ商会の所在地は外郭南区にあった。
繁華街の外れに大型店舗を構えていた。
商会事務所、テニスショップ、ポーションショップ、駐車場、
そして二面のコートがあるテニス室内練習場。
更につい最近、個室のあるレストランとフードコートを増設したばかり。
 相変わらず繁盛していた。
駐車場がほぼ埋まるだけでなく、往き来する人も多い。
貴族や平民富裕層の来店だけでなく、中間層も増えたということだ。

 俺が商会長で、キャロル、マーリン、モニカ、シェリル、ボニー、
シンシア、ルース、シビルを含めた九人が株主だ。
もっとも、未成年が多いので、成人していたシンシア、ルース、シビル、
この三人に取締役に就いてもらった。
そのルースが馬車寄せで出迎え、エスコートしてくれた。
「ようこそ、ダン様」
「お邪魔でなかったかい」
「いいえ、このところご無沙汰ではないですか。
皆が首を長くして待ってましたよ」

 ルースが案内してくれたのはレストランの個室。
必ず一つは身内用に確保してるとのこと。
俺とスチュアート、ジューン、警護二名でそこに入った。
 個室で一人が待っていた。
トランス・アリだ。
元冒険者で現在は商会の会計チーフ。
テーブルには書類の山。
トランスが立ち上がった俺を出迎えた。
「お待ちしてました」
 俺は彼と書類を交互に見て、苦笑いするしかなかった。
「ああ、待ってたのは書類の山だったか」
 付いて来た者達が苦笑するが、一人だけ、ジューンは声を上げて笑う。
良いな、軽い役目の者は。

 ルースが言う。
「トランスは演算スキル持ちですので、計算に間違いはありません。
ですが、最終的にはダン様のサインが必要になります。
よくお改め下さい。
・・・。
お食事も運ばせます。
新メニューの確認もお願いします」
 目と舌に仕事させろと、無慈悲な。
それでも俺は表情には出さない。
「みんな、座って楽にしてくれ。
警護も試食に強制参加だ」

 ます飲み物が運ばれて来た。
「珈琲の種類を増やしました」
 ルースの言葉が終わると、真っ先にジューンが口をつけた。
「うん、大人の味が増し増しね。
私はこれも好き」
 時刻柄か、ランチも運ばれて来た。
警護の一人が感心した様に言う。
「これ野営にも持って行けませんか」
 魔物の肉を調理したホットドッグ。
それを横目に俺は書類と格闘していた。
当のトランスは余裕なのか、ホットドックを頬張っていた。
いいなあ。
するとジューンがホットドッグを俺の前に差し出した。
「はい、あ~ん」

昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)1

2023-11-26 12:05:44 | Weblog
 俺は執務室に入ると真っ先に、
関東の反乱に関する件の報告書に目を通した。
美濃地方の寄親伯爵代理・カール細川子爵から送られてきた物だ。
執事長・ダンカンが先に目を通して説明してくれたが、それは概要だけ。
こちらの報告書はそれをより詳細に記していた。
 今のカールは多忙なはず。
美濃地方の寄親伯爵代理、そして領都・岐阜の代官。
美濃地方全体を統括し、治める役儀。
文字にすると簡単だが、実務となるとそうではない。
地方の、所謂、三権の長なのだ。
加えて自身の、子爵としての領地もある。
妻もいる。
ありがとうカール、ちゃんと休養は取っているよね。

 カールは国軍出身だけに、的を得た報告書に仕上げていた。
俺は念の為、二度読みした。
そして一つの疑問に辿り着いた。
どうして籠城・・・、援軍が来る訳でもないのに。
悪足掻きか、それとも単に意地か。
 カールはその点に関しては、報告書では何も述べていない。
判明した事柄を時系列で正確に記しているだけ。
カールが自説を述べれば、それに俺が引き摺られる、
それを避けたのだろう。
ありがたいことだ。

 俺はダンカンに尋ねた。
「これを読んで思った事は」
 ダンカンが即答した。
「籠城の意味が分かりません」
「だよね、僕もそう思う。
籠城した三人の性格を知っていれば、それなりの解釈が出来ると思うが、
生憎、年代が違う上に、伝手もない。
だから、俺達の脳味噌をフル回転させるしかない」
 ダンカンは一考した上で述べた。
「私共にとって最悪の状況を考えましょう。
それは、一つ、援軍が加勢に来る。
二つ、長期籠城していると取り巻く状況に変化が生じる、ですかね」
 その二つの指摘はもっともだ。
まず援軍。
その可能性があるのは。
距離からすると東北代官所そのものか、その傘下の寄親伯爵になる。
しかし、東北代官所は旗幟を鮮明にした。
官軍への味方を宣し、兵糧を提供した。
となると、寄親伯爵の誰かが籠絡されたのか。
それは一人か、二人か、それとも三人。
人数はともかく、挙兵すれば東北代官所に潰されるは必定。
その様な状況での挙兵は現実的ではない。

 二つ目の、取り巻く状況が変化し、それが反乱軍に有利に働く。
それは、・・・。
考え得るのは西の反乱。
現状は五分であるらしいが、それは官軍が無理押ししないから。
戦線各所で地道にコツコツと前線を押し上げ、時に応じて下げ、
一進一退を繰り返していた。
地力の差があるので、反乱軍の疲弊を狙っているのだ。
その様な状況下で覆せるのだろうか。
さっぱり分からない。
だから俺はダンカンに丸投げした。
「この手の分析が出来る人材が欲しい。
急がなくても良いから、しっかりとした者を家臣として雇用してくれ」
「参謀ですね」
「贅沢かも知れないが、軍事だけでなく、
経済や農業などの知識がある者が欲しい。
幸い、当家はお金だけは余ってる。
足りないのは有能な専門家だ。
それぞれの専門家を複数名雇っても問題ないだろう」
 ダンカンが良い笑顔。
「はい、承知しました」

 当家はお金だけは余ってる。
大樹海を抱える木曽からの収入が桁違いに多いのだ。
これは、これまで曖昧だった官民のボーダーラインを、
明文化して定めた事が大きい。
お陰で官は、無駄が省け、支出が減った。
対して民は、法の範囲内であれば自由に商売が出来るようになった。
原材料が近場で狩れる大樹海の魔物なので、
目端の利く者達の流入が増え、新たな商会や工房が設立された。
 明文化はカールが主導した。
税収が跳ね上がった事で、明文化の意義が立証された。
そのカールは現在、美濃地方の寄親伯爵代理、領都・岐阜の代官兼任。
頼むぞカール、俺が成人するまで。
たぶん、十四か、十五、十六の何れかで成人する見込みだから。

 お金に関してだが、俺個人の資産も大きく膨れ上がった。
一つは、ポーション工房とテニス工房を営むアルファ商会。
もう一つは岐阜にて貸しホールとレストランを営むオメガ会館。
この二つからの上がりも桁違いなのだ。
東西三か所で反乱が勃発しても、遠隔地との判断なのか、
この山城を中心とした畿内経済圏は無風の様で、
殊に富裕層が俺の店に行列を成すのだ。
ありがたい、ありがたい。

 俺の仕事量は、ダンカンとカールの肩代わりもあり、意外と少ない。
ほとんどは確認作業と署名。
でもそれらしく、立ち上がって肩を回した。
「これからアルファ商会に顔を出す。
ダンカン、手配宜しく」
 急に行きたくなった。
なのにダンカンは嫌な顔一つしない。
「承知しました。
馬車と警護の手配をします」
 そのダンカンを、俺のメイド・ジューンが呼び止めた。
「執事長、ちょっと待って。
馬車は天気が良いからカブリオレにしましょう」
 初期からの使用人同士なので遠慮がない。
ダンカンは俺にも聞かずに了承した。
「スチュアートは馬に乗せましょう」

 現在、ダンカンの下に平の執事が二人付いていた。
コリンとスチュアート。
コリンはダンカンの補佐。
残ったスチュアートが俺の従者。
馬車がカブリオレとなると、馭者は当然スチュアートなのだが、
今回の様にメイドが出しゃばって来る。
特にジューンが。
 バーバラが侍女長、ドリスがメイド長に昇格した事により、
ジューンは遠慮がなくなった。
俺を弟の様に扱う。
それを周りも許す。
まあ、仕方のないことだが。

 お茶で一服してから玄関に下りるとアブリオレが待っていた。
ところが馭者席にジューンの姿がない。
不審顔の俺に見送の一人、バーバラが言う。
「申し訳ございません。
ジューンがちょっと遅れています。
女性だから着替えに時間がかかるのかも知れませんわね」
「着替え・・・」
「ええ、着替えです」
 そこへ息せき切ってジューンが駆け込んで来た。
メイド服から乗馬服に着替えていた。
ジューンが頭を下げた。
「遅れて申し訳ございません」
「それは良い。それよりその乗馬服は」
「馭者服が地味なので、皆の意見の結果、乗馬服になりました。
似合いませんか」
 皆の意見なのか。
それはそれは。
似合ってるから良いか。
バーバラが俺に手を差し出した。
「さあ、お乗りくださいませ」
 エスコートされた。
ジューンを見遣ると、彼女はあたふたとした足取りで馭者席に収まった。

昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)12

2023-11-19 11:24:39 | Weblog
 アリスは珍しく思慮に思慮を重ねた。
結果、『もう一つの方へ行こうか』そう口にした。
『『『は~あ』』』
 妖精達の目が点になった。
噴き出すハッピー。
『プップップー』
 アリスは言葉足りずだと気付いた。
狼狽えながら言葉を繋いだ。
『あれよあれ、えーと、そうそう、もう一つの反乱の方よ』
 妖精の一人が突っ込んだ。
『つまり名前も地名を忘れたのね』
『そうとも言う』
『仕方ないわね。
良いわよ、行きましょうか』 
 別の妖精がその妖精に突っ込んだ。
『で、もう一人の反乱首謀者の名前は』
 妖精達が口を揃えた。
『『『・・・、そう言う貴女は知ってるの』』』
『知らんがな。
そもそも興味がなかったから、聞いてないでしょうよ』
 誰も名前も地名を覚えていなかった。
それを、誰も聞いてない、そう結論付けた。

 そんな訳でアリスのエビス飛行隊十五機は王都上空から飛び立った。
一旦、薩摩に戻るのではなく、新たな航空路に挑んだ。
ナビを頼りに北東へ向かった。
『ペー、大雑把だっぺー』
 ハッピーが先行きを心配した。
アリスが言い返した。
『そんなに心配すると禿げるわよ』
『ポー、失礼な、スライムは禿げへんだっぺー』
『そうか、最初から禿げてるんだっけ』
 ハッピーが機体をアリスの方へ向けた。
機首で体当たりして来た。
『パー、天誅天誅、天誅虫の産婆』
 アリスは機体を反転させて躱した。
『およよ~ん体当たり君』 
『プップップーだ』
 ハッピーが執拗にアリスを追う。

 妖精達やダンジョンスライムは睡眠や食事は嗜好品であって、
必ずしも必要とする物ではない。
興味が湧けば食べるし、昼夜関係なく寝ようと思えばどこでも寝れた。
エビス飛行隊は眼下に広がる砂漠に飽きていた。
食指をそそる物がないのだ。
特に果物、魔物が。
オアシスで休むなんてのは論外だ。
人や四つ足共の声や臭いが特にだ。
 アリスが先頭を逃げ、それをハツピーが追う展開が続けられていた。
この二人は遊びに飽きない性格のようで、他の者の顰蹙を買っていた。
突然、アリスが声を上げた。
『お~お、砂漠の終わりが見えた』
 遥か彼方に緑の山塊があった。
『パー、九州だっぺー』

 飛行隊は速度を上げた。
瞬く間に山塊の頂き。
ホバリングして先を見た。
どこまでも続く山々々々・・・・。
妖精の一人が呟いた。
『もしかして北の大山岳地帯・・』
 ハッピーが同意した。
『ピーピッピッピー、ピンポン。
アリスが飛行経路を間違えたっぺー』
 別の妖精が断言した。
『その様ね、少し北へ逸れたみたい。
ここは大山岳地帯の最西端ね』
 アリスが言い訳した。
『女神さまのお導きね。
きっと、里に寄りなさい、ということね』
 このまま飛ぶと妖精の里の上空に達するだろう。

     ☆

 このところ、俺は朝のルーティンに一つ、ナビ確認を追加した。
アリスとハッピーの移動経路を確認する必要性からだ。
あの二人は尋ねないと説明しない。
だから眷属のマスターとしては当然のこと。
 ナビは正直に眷属の行動を記録していた。
何処を通過したか、今どこに居るのか。
四国から九州へ至り、砂漠地帯、コラーソン王国、砂漠地帯。
何を仕出かしたかは分からないが、
飛行経路は手に取るように把握できた。
今、その飛行隊は妖精の里方向へ向かっていた。
たぶん、里帰りなのだろう。

 今日は学校はお休み。
だからといって気は抜けない。
伯爵として二度寝は許されないのだ。
ダンタルニャンが起きると同時に伯爵家が本格的に動き出すからだ。
 何時もの様に軽くラクニングで身体を解し、
執事長・ダンカンのブリーフィングを聞きながらモーニング。
ああ、なんて味気ない。
それに気付いたのか、ダンカンが苦笑いしながら言う。
「関東の反乱の最新情報を執務室に届けて置きました」
 首謀者は関東代官のトム上杉公爵。
一時は関東全域を支配下に置く勢いであった。
しかし、その勢いは長くは続かなかった。
ヒュー細川侯爵とレオン織田伯爵の投入により勢いに陰りが出た。
関東の北からヒユー細川侯爵率いる関東遠征軍が南下。
西から密かに浸透開始した織田家が南関東を解放して北上。
そして、アリス飛行隊の乱入もあった。
あろうことか反乱側の一人、ドリス北条伯爵を戦死に追い込んだのだ。

「反乱軍は壊滅同然で、武蔵地方へ逃走した、そう聞いたが」
「はい、会戦は大勝利でした。
デリー小笠原伯爵、ジェイソン宇都宮伯爵、アンセル千葉伯爵、
この三伯爵を討ちました」
 反乱軍を構成するのは六人の伯爵と首謀者の侯爵。
四人の伯爵の戦死に伴い、
残りはトム上杉侯爵、ウィル太田伯爵、アンドリュー熊谷伯爵の三人だけ。
が、その三人が手強い。
特にトムとアンドリュー。
代官と関東軍司令官であっただけに関東の地理に精通していた。
それだけに良き地にて再起を図るだろう。
そしてウィル、彼はトムの実弟なので降伏は望めない。
最後までトムに従う、そう見られていた。

「その最新情報は」
「反乱軍が忍城郭都市に籠城したそうです」
「袋の鼠か」
「はい、ですが、かなり練られているそうです」
 ダンカンの表情が緩む。
関東の状況を楽しんでいるようだ。
まあ、他人事だし。
「その練っている、とは」
「忍城は北に利根川、南に荒川が流れていて、
その影響で小さな川が無数にあります。
さらに沼地も同じく」
「つまり平野部ではあるが、大軍の展開には不利ということか」
「はい、それだけではありません。
反乱軍が全ての河川の堤防を切り崩し、
城郭の周囲を水で満たしたそうです」
 水に浮かぶ城、・・・か。
「随分と思い切ったな」
「はい、周辺は元々が湿地帯。
今回の事で更に地盤が緩くなりました」
「すると織田家のゴーレムの出番はなくなった訳か」
 重量のあるゴーレムが沼地を平然と歩く姿が思い浮かばない。
だけでなく、水が引いても大軍は動かせない。
沼地が人の足で汚泥と化すからだ。
となれば水を塞き止め、地盤が乾燥するまで待つしかない。
しかし土地勘のある反乱軍なら、
闇夜に紛れて塞き止めた箇所の破壊が出来る。
これでは千日手ではないか。

昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)11

2023-11-12 12:21:21 | Weblog
 アリスは迷った。
すると別の妖精が言う。
『攻撃魔法だと瓦礫の山は築けるけど、殲滅の確認が出来ないわ。
瓦礫と瓦礫の隙間や、地下で生き残る可能性があるでしょう』
 確かにそうだ。
地下室や下水道等に逃れれば生き残れる可能性が高い。
アリスは王宮を見下ろした。
逃げる騎士団を追ってライトニングタイガーが王宮区画侵入を果たした。
これにその家族が続いた。
アリスは決断した。
『王都全体を大樹海にするわ。
だから皆で公園や庭園の木々や草を急成長させるわよ。
ついでに個人宅の小さな庭や、窓際の鉢植えもね』
 妖精魔法で植生を急成長させる。
水堀と外壁、そして急成長させた植生があれば火災から王都は守れる。
大樹海大樹海、おお愉快。
ハッピーが大喜び。
『パー、任せて任せて。
食虫植物を増やしてやっぺー』

 アリスはやる気満々のハッピーに別の指示をした。
『ハッピーには跳ね橋を頼みたいの。
あれが壊れると困るのよ』
 ハッピーが応じた。
『ピー、そうか、地竜だッペー』
『そう、そうよ。
体重のある連中がそろそろご到着よ。
だから跳ね橋がどこまで耐えられるか分からないの。
水の流れを狭めても構わないから徹底して強化して。
百年とは言わないわ。
千年でも万年でも持つ様にして』
『プップー、無茶苦茶な注文だっぺー。
ほんでも任せて、任せて、やっぺーよ』

 植生の急成長と聞いて妖精達は大喜び。
破壊より物作り。
これは妖精やダンジョンスライムにとっては習い性のようなもの。
即座に散開し、競う様に公園や庭園を見つけては降下して行く。
 仲間達の様子をアリスは指を咥えて見ているだけ。
それは指揮官としては当然のこと。
状況の推移を見て必要とあらば適時に修正の指示を出す。
それが指揮官の役割。
アリスとしても理解していた、が、深く長い溜息。

 ドスドスと地響き。
恐れていた地竜の群れが来た。
ワイバーンの種から枝分かれした魔物だ。
翼がないだけで、攻撃力はワイバーンにも匹敵する。
早い話、大型トラック。
 それが跳ね橋の耐久性を考慮せず、火災から王都に逃れようと、
必死こいて跳ね橋を渡った。
その様子を、アリスは妖精魔法で鑑定した。
一頭目異状なし、二頭目異常なし、三頭目も異状なし。
結果、群れ十二頭が渡り終えた。
跳ね橋の耐久性に変化なし。
どこから来たのか、ハッピーがアリスの背後に回り込んでいた。
『ペッペー、大丈夫だっぺー』
『そのようね、感謝するわ。
ついでにもう一つ、頼まれてくれる』
『ポー、ぽっぽー』
『外郭に人間のエリアが必要だと思うの。
魔物が入れないエリアがね』

 ハッピーは暫く考えた。
けれど理解出来ない様子。
それはアリスが肝心の事を言わないのだから仕方がない。
『パー、分かんない』
 アリスは説明した。
『大樹海に育つまでの間、魔物達の食糧が不足すると思うの。
獣達も逃げ込んで来たけど、それでも初期は確実に不足よ。
そこで人間よ。
エリアで美味しい生餌として育って欲しいの。
どうかしらね』
 ハッピーが小躍りした。
『パー、アリス、頭良い。
やるやる、生餌のエリア作るっぺー』
 飛ぼうとするハッピーにアリスは注意した。
『作るのは外郭だけよ。
内郭には作らなくて良いからね。
エリアに貴い血とか青い血は必要ないからね』
『ピー、分かった、でもどうしてだっぺー』
『人間は青い血は持たないの。
青い血は水棲の生き物に多いの。
タコやイカがそうね。
それを食べると魔物でもお腹を壊すわ。
だから赤い血限定』

 アリスは王都の周辺を見回った。
間近に火災が迫っているので、避難民も魔物達も必死。
喰い争うのではなく、逃げ足を競う様にして駆けた。
我先に、我先に、我先に・・・。
足の遅い家族や仲間に背を向け、躊躇い一つなく駆けて行く。
送れたもの、疲れて倒れたもの、
それらが赤い炎に飲み込まれて行く。
 
 アリスは再び王都に入った。
全体を見回した。
仲間達が得意分野に集中した成果が見えた。
至る所で緑が増えていた。
公園や庭園の樹木や芝生が野生の様に伸びていた。
個人宅の生垣もそう。
縦に横に育っていた。
蔦に覆われた家屋も散見された。
一挙に十年ほどの成長ではなかろうか。
 あっ、池の鯉が跳ねた。
バッシャーン。
亀が迷惑そうに池の縁から顔を出した。
・・・、鯉も亀も成長が著しい。
2メートルに3メートル。
えっ、まあ、1メートルの蜻蛉や蝶は可愛いもの、目を瞑ろう。
んっ、・・・蜻蛉や蝶も食用になる感じがした。
羽根が目立つが、太い部分もあるのだ。
ここはこのままでは魔境になるのではなかろうか。

 アリスが呆れていると仲間達が次々に集まって来た。
『どうよどうよ、アリス。
私の傑作を見てくれた』
『いやいや、私の方こそ傑作よ』
『なら私のは芸術だわね』
 姦しい仲間達だ。
褒めるべきか否か、とっ、下で樹木が走り出した。
アリスは思わず尋ねた。
『誰よ、トレントを造ったのは』
 一人が手を上げた。
『拙かったかしら』
『驚いたのよ、よく造れたわね』
『へっへっへー、でしょう』

 最後にハッピーが来た。
『プー、エリアを作り上げたっぺー』
『魔物は侵入できないのね』
『ペー、当然だっぺー』
 ハッピーが皆をエリア上空に案内した。
王都外郭の四分の一近くが新たな土壁で囲われていた。
魔物の数が少ない所を選んだ様で、ハッピーにしては慧眼だ。
その少ない魔物の討伐に人種は躍起になっていた。
頑張ってくれ、そうアリスは願った。
妖精の一人がアリスに尋ねた。
『次は国軍の殲滅ね』
『そうなのよね、・・・。
でも、もういいかな』
『どうしたの』
 別の妖精が言う。
『国軍は、本国との連絡が途絶えれば、戻って来るしかない訳でしょう。
つまり、殲滅する意味がなくなった、そう言いたいのでしょう』
『『『そうか、そうよね』』』
 アリスも同意した。
『なのよね、次はどうしよう。
どこへ行こうかしらね』

昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)10

2023-11-05 12:48:31 | Weblog
 上番長の大尉は此度の火災を隣国の謀略と判断した。
火災に乗じて隣国の工作員が避難民に扮して王都に多数潜入する。
国軍多数が出兵した今なら占領できなくても、確実に混乱に陥れられる。
痛手を与えて国力を削げる。
大尉は、それへの対策として四つの門全てを出入り禁止にした。
町や村の平民より王都の平安を優先した。

 北門でも厳しく警戒していた。 
押し寄せた平民に富裕な者や貴族由縁の者等も混じっていたが、
それらの選別は放棄した。
行列が出来るからだ。
押し寄せる者達には、平等に、差別なく、区別なく、
一律に槍の穂先を答えとした。
「それより先へ進めば処断する」
 これには避難民が困惑した。
目の前には槍衾、後ろには火災。
幸い、火災とは距離があった。
彼等は王都迂回を選択した。

 避難民と入れ替わる様に、小型軽量の魔物達が姿を現した。
猫種、兎種、狸種、狐種、犬種、猿種等から枝分かれした魔物達だ。
何れも王都周辺に生息していて、此度の騒ぎに勘を働かせ、
安全地帯に逃げ込もうとした。
それを見て取り、隊長が命じた。
「一匹とて通すな」
 初手は外壁の上に配された弓士と攻撃魔法使いの混成部隊。
削られても魔物達は諦めない。
死に物狂いで跳ね橋に殺到する。
それと相対するのが盾と槍の防御陣。

 北門と東門を担当していたアリスが第三者として参戦した。
妖精魔法を起動した。
得意の風、風玉・ウィンドボールを大雑把に放った。
外壁の上の部隊を一掃した。
続いて跳ね橋の防御陣も一掃した。
殲滅が目的ではないので気楽なものだった。
 魔物達は目の前の事態を見ても、疑いも恐れも抱かない。
ただ、後ろから迫る火災にのみを気にしていた。
跳ね橋の上で倒れている衛士達を飛び越え、王都に難なく侵入した。

 アリスはもう一つ担当した東門に飛んだ。
こちらでも町や村からの避難民が殺到し、
槍の穂先を突き付けられての交渉が続けられていた。
この門を受け持った隊長が優柔不断なのだろう。
その様子を物陰から魔物達が見守って、突入する機を窺っていた。
 アリスは気軽に行動した。
風玉・ウィンドボールで阻む者達を一掃した。
外壁の上も、跳ね橋の上も。
 避難民は魔物達と違って目の前の事態に驚いた。
それでも命は惜しい。
疑いを棚上げにして王都に駆け込んだ。
それに魔物達が続いた。

 ハッピーからの念話が届いた。
『パー、南門から魔物が入ったっペー。
西門からは避難民と魔物達だっペー』
『こちらも同じよ。
ところで外縁部の魔物はどうなってるの』
『ピー、追い立てられてるッペー』
『雑多で膨らんだ魔力が接近してくるわ、それね』
『プー、足の早い魔物から来るっペー』

 都内に入った魔物達に都民が気付いた。
「なんだよこれ」
「衛士を呼んで来い」
「時間がない。
奥へ入られる前に追い払え」
 遅かった。
猫種が家と家の隙間に逃げ込んだ。
猿種はスルスルと屋根に上がった。
走力に自信のある狸種、狐種、犬種等は面倒回避とばかり、
人々を回避して、都内深くに逃散した。

 明るくになるにつれ、平野の外縁部の町や村から避難民が発生した。
彼等彼女等は故郷の防衛は諦めて王都を目指した。
騎乗できる者は良い。
馬車がある者も良い。
しかし、それらは極少数。
多くは足だ。
重い荷物を担いでの逃避行。
途中で離脱する者が相次いだ。
それらに、ついでとばかり、同じ逃避行の魔物達が喰らい付いた。

 外縁部に棲む魔物で最も足の速いのは狼から枝分かれした種。
草原で狩りをする灰狼・グレイウルフ。
その群れの一つが道草も拾い食いもせず、
避難民を追い越して王都に達した。
阻止する者がいないので、悠々と都内に侵入した。
これに、先の魔物達を追い回していた都民が恐怖した。
「グレイウルフじゃないか」
「逃げろ逃げろ」
「家に閉じこもるんだ」
 グレイウルフの群れは駆け続けて来たので、疲労困憊。
それでも空腹には勝てない。
手近の人間達に襲い掛かった。

 ライトニングタイガーが家族連れで相次いで現れた。
彼等は、虎の種から枝分かれした魔物で、深山に棲み、
森や草原にての狩りを好む。
それが、グレイウルフ討伐の為に王宮から出動した騎士団に目を付けた。
強者大好きなのだ。
早速突進した。
番も子供達も、
 これに騎士団側が恐怖した。
ライトニングタイガーは雷系のバリアを身に纏って襲来するので、
騎士単独では対応できぬのだ。
それが隊列を組む前に突入を許してしまった。
こうなると手に負えない。
指揮官が指示した。
「各自、隣と協力して防御に徹しろ。
二人か三人で組め。
落ち着いたら王宮まで後退する」

 フォレストベアも家族連れで現れた。
熊の種から枝分かれした魔物だ。
森に棲み、森で狩りをし、森で番を得て、子育て、と森で一生を終える。
走力はグレイウルフやラントニングタイガーに劣るが、剛力は負けない。
その剛力を活かして建物に襲い掛かった。
殴る蹴るで玄関を破壊した。
建物内部に向けて吼えた。
居住者を威嚇した。
明け渡せとばかりに。
「怖い、お父さん、どうしよう」
「裏口から逃げよう。
お前は弟達を頼む」
「お父さんは」
「お母さんが地下にいるから連れて来る」

 アリスとハッピーは上空から王都を見下ろしていた。
膨れ上がった火災が間近に迫っていた。
余りの火力に、王都に近付いていた避難民は右往左往するばかり。
光明を見出せない。
仲間の妖精達が惜しみなくファイアボールを連発したからだ。
その仲間達が上空で合流した。
『アリス、次はどうするの』
『ポー、王都にファイアボールっペー』
 一人の妖精が反対した。
『それは駄目よ。
それだとまだ到着してない魔物達が他へ逃げるでしょう』

昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)9

2023-10-29 12:55:07 | Weblog
 アリスの仲間は十三人。
エビスを操縦して平野の外縁部に散開した。
そして躊躇いなく火玉・ファイアボールを放った。
 搭乗しているエビスの動力源は二つ。
ワイバーンキングとワイバーンクイーン、番二頭由来の魔水晶。
施された【自動魔力供給】により、その魔水晶がフル稼働した。
エビスの口の両端の牙から無尽蔵とも思える攻撃魔法を放ち続けた。

 王都を囲む平野には村や町が点在した。
その村や町に、燃える山や森から逃れた魔物が殺到した。
何れも火災から逃れようと必死。
闇雲に柵や石塀に突進した。
頭が砕けて死ぬ魔物も多いが、遂には圧倒的な数の暴力で、柵は無論、石塀すらも粉砕してしまう。
突入した魔物達は人も建物も区別しない。
目の前にある物全てに当たりに行く。

 妖精達は王都とは反対方向、外へ逃れた魔物達には干渉しない。
好きに走らせた。
しかし、内へ、平野内部へ逃れた魔物達には干渉した。
退路を絶つべく火災に勢いを与えた。
要所要所にファイアボールを放ち、王都へ誘導した。
火の手が村や町を襲っても手を緩めない。

 王都には東西南北の四つの門があった。
門そのものは、外堀と外壁、跳ね橋、門衛で守られていた。
今日も朝日が昇ると同時に跳ね橋が下ろされ、門が開けられ、
大勢が行き交っていた。
早朝から街が目覚めているのは繫栄の証、とも言えた。
 外壁の上には通路があり、昼夜関係なく衛兵が巡回していた。
また物見櫓もあり、常に二人が常駐していた。
櫓に詰めていた一人が相棒に、彼方を指し示して言う。
「火事か」
 相棒が指し示された方向に視線を転じた。
「やけに明るいな。
火事にしては・・・、範囲が広過ぎないか。
これはおかしい。
まるで山火事が下へ降りて、森にも広がった様に見える」
「スタンピードが起きるんじゃないか」
「起きるぞ、通報しよう。
跳ね橋を上げて門を閉じさせるのだ」

 アリスはそれを懸念していた。
跳ね橋と門が今回の作戦の最大の関門なのだ。
跳ね橋を上げられてはならない。
門を閉じられてはならない。
 アリスは北と東の門を見張っていた。
ハッピーには南と西の門。
アリスは離れていたハッピーに告げた。
『北の物見櫓の者に気付かれた』
『パー、了解』
 アリスは直ちに北門に急降下した。
妖精魔法を起動した。
跳ね橋の上げ下げを行う操作盤、門の開閉を行う操作盤、
その二つをロックオン。
火玉・ファイアボールを放った。
狙いを過たない。
二つの操作盤を木っ端みじんにした。
東の門へ飛ぶ。

 ハッピーが担当したのは南と西の門。
こちらはダンジョンスライム魔法を起動した。
ロックオン。
火玉・ファイアポール二つで破壊した。

 外壁の四つの門を終えると、次は内堀の四つの門。
エビス二機が低空飛行で侵入した。
こちらも同様に跳ね橋が下ろされ、門が開けられていた。
出入り業者の荷馬車が吸い込まれ、夜勤の平民が家路を急いでいた。
 門衛の中にはエビスに気付く者もいるが、不審がるだけで、
危険性までは抱かない。
それに、余りに速さので、目で追うので精一杯。
そんな中でアリスとハッピーは破壊工作を成し遂げた。

 十三人の妖精は王都の状況は知る由もない。
ただ、作戦に忠実に従った。
火災を最大にし、魔物達を王都方向へ追い立てた。
肝心の王都へ入るかどうかは魔物次第。
100パーセントは求められていない。
気楽なお仕事だ。
 この作戦において途次にある村や町の住民は二の次になった。
彼等が国軍の動向に関心が薄い様に、妖精達も彼等には関心が薄い。
人族はどうなって良い存在なのだ。
踏まれても踏まれても生えて来る。
まるで麦の様。
主食が麦だからか。
とにかく、彼等は得難い存在ではなく、替えが利くのだ。

 魔物は平野の外縁部に居るだけではない。
少ないが、王都や村、町の周辺にも存在した。
ただし、基本的に大物は生息しない。
騎士団が定期的に駆除するからだ。
それでも逃げ足の早い魔物や、小型の魔物は棲んでいた。
低山や雑木林、川沿いに。
それらが迫る火災に気付いた。
逃れる魔物のスタンピードにも気付いた。
『キュイキュイ』
『バオバオ』 
『ギャオギャオ』
 飛べる魔鳥なら何処へなりとも逃げられた。
ところが飛べない魔物には足しかない。
故に臆病な種は生き残るのに必須な勘が発達していた。
彼等が真っ先に行動した。
火災と魔物のスタンピードから逃れようとした。
向かう先には王都しかない。

 門衛達は火玉・ファイアボールに肝を潰した。
それでも魔蜂・コールビーの大型種だとだけは判断した。
しかし、それが行動する理由が分からなかった。
けれど、考えている暇はない。
王都に最大の危機が訪れようとしていたからだ。
直ぐに次善の策が講じられ。
跳ね橋と門が駄目なら人数だと。
全ての門に門衛や衛兵、魔法使いが動員された。
幸だったのは守備する橋幅が狭いこと。
 万全の態勢で災厄を待ち構えた。
第一列に盾士隊。
第二列に槍士隊。
第三列に盾士隊。
第四列に槍士隊。
そして外壁上に攻撃魔法使いと弓士の混成部隊。
彼等は王都へ逃げ込もうとする者達を拒んだ。
「他へ行け」
「「「そんな事は仰らずに」」」
「これは王命だ。
逆らって王都へ入ろうとする者は、この場で処断する」
「「「何とかお願いします」」」

 門を守備する隊長が断を下した。
「盾で押し返す。
それでも逆らう者は穂先にて押し返せ。
・・・
第一列、前え進め。
第二列、槍を構えて続け」
 槍の穂先で押し返す事態は、平時にては許されないこと。
しかし今は非常時。
守備を任された隊長の言葉が全てであった。
盾士の第一列がゆっくりと進み出た。
第二列が続いた。
盾と盾の間から穂先を突き出し、威嚇した。

昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)8

2023-10-22 12:56:21 | Weblog
 この数の竜巻では正面突破は不可能。
下手すれば巻き込まれる。
エビスが壊れる事はないだろうが、搭乗している自分達が目を回す。
何日かは立ち直れないだろう。
アリスは決断した。
『退避よ、各個に【転移】を選択、方向は左斜め前方、宜しく』
 それぞれが返事をし、行動に移した。
アリスは全員の退避を確認、最後に【転移】した。
取り敢えずは、それぞれの判断による【転移】なので、
距離は一定ではない。
でも、一応は視界の範囲内で収まっていた。

 再び編隊を組んだ。
アリスが言う。
『転移の術式を施してくれたダンタルニャンに感謝ね。
草葉の陰の彼に賛辞を送るわ』
 ハッピーが笑った。
『パー、まだ死んでねえっぺー』
『それはそれとして、コースを戻すわよ』
 
 竜巻が九州方向へ向かうのを尻目に、
エビス飛行隊は本来のコースに戻った。
途中までは竜巻の痕跡が見えた。
砂漠が大きく深く抉られていたので、それと分かった。
しかしその痕跡も、二日か三日もすると砂に呑まれ消えているのだろう。
 途次で竜巻の痕跡とは別れた。
オアシス都市国家を二つ、小さなオアシスを一つ過ぎた。
そして見つけた。
兵装ではないが、異様に長いキャラバン。
魔物・キャメルソンが牽く幌馬車が百輌余。
鑑定で、コラーソン王国軍と分かった。
キャラバンに扮しているとはいえ、余りにもあからさまな行動だが、
通過するオアシス国家には通告済みなのだろう。

 ハッピーがアリスに尋ねた。
『ピー、潰すッペー』
『そうね』
 すると妖精の一人が言う。
『待って、数が少ないわ。
これで九州に攻め込むのは無理よ。
一片の土地も得られないと思う。
だぶん・・・、これは偵察かな。
潰すのは何時でも出来るから先を急ぎましょう。
まずは派遣された兵力を探るのよ』

 オアシスとオアシスを繋ぐシルクロードにそれらを見つけた。
こちらは兵装で、長い長い隊列を組んでいた。
五千、五千、五千、五千、五千。
渋滞せぬ様に気を配り、間隔を空けていた。
彼等は基本、城郭都市には入らず、水や糧食の提供を受けるのみで、
郊外にて野営した。
『いるわね』
『長い砂漠をご苦労様ね』
『どうする、潰す』
『まだまだよ、まだ数が少ないわ』
 実際、これで終わりではなかった。
念の為に先へ飛ぶと、日にちを空けて隊列は続いていた。
五千、五千、五千、五千、五千と。

 結局、隊列はコラーソン王国の国境まで続いていた。
最後尾を鑑定で確認した。
『プー、十五万だっぺ』
 これなら確実に九州の一角を切り取れ、状況次第だが、
その橋頭保を長く維持できるだろう。
アリスが言う。
『それじゃ・・・、まず王都を滅ぼすわね』
『ペーーーー』
『ここまで来たんだもの、ついででしょう』
 妖精の幾人かが驚きの声を上げた。
『『『ひえー、なんじゃそれー』』』
 アリスが仲間達を見回した。
『問題があるのかしら』
『『『市民は武装してないのよ』』』
 すると妖精の一人が笑った。
『何を言ってんの、アンタたち。
軍は国のただの手足よ。
理非善悪は考えず、命令に従うのみの大馬鹿集団よ。
その手足をもいでも、国力があれば何度でも再生できるの。
兵士を産み、武器を造り、兵站を満たす。
それが国という生き物よ』

 話し合いの末、王都を滅ぼす事になった。
アリスが全員に再度確認した。
『国土が広いから国を滅ぼすのには時間が掛かるわ。
それは面倒臭い。
だから国そのものは滅ぼさない。
代わりに、王都を灰燼に帰す。
・・・。
まず、周囲を火の海にして魔物のスタンピードを引き起こす。
それを見届けてから王都を攻撃する。
いいわね、みんな』

 コラーソン王国の最東端は砂漠に面しているが、
西へ進むにつれて緑地帯が広がっていた。
初めての地なので、ナビに王都の位置は表示されないが、
飛行隊は街道の上を余裕で飛んでいた。
王都へ続く道だと信じて疑わない。
全ての道は王都へ通ず。
幾つもの町や村を過ぎ、夜を徹して飛行した。
 日の出前、連山の向こうに見つけた。
これまでとは違う大きな街。
遠目に鑑定した。
王都。
平地にて、深くて広い水堀と高い外壁に囲われていた。
 アリスは飛行隊をより高々度に導き、王都を見下ろした。
平野のど真ん中にあり、近くの川の水を引き込んでいた。
外堀、外壁、街区、内堀、内壁、貴族街、王宮。
籠城されれば手古摺りそうな構えの城郭だ。
人口は五十万を数えても不思議ではない。

 平野の周囲は山々と深い森が連なっていた。
魔物が巣くっていると断言できた。
アリスが指示した。
『さあ、やるわよ。
火で魔物を平野に追いやるのよ』
 途端、飛行隊がばらけた。
それぞれが手前勝手に、王都の真上から全方位に散開した。
残ったのはアリスとハッピーのみ。

 東の高山の真上でホバリングした妖精が、妖精魔法を起動した。
山頂をロックオン。
単純だが巨大な火玉・ファイアボールを放った。
大爆発。
山頂全体を深く抉り、火山爆発の様な噴煙噴石を飛ばした。
 昇り始めた朝陽が、その様子を露わにした。
運が悪いのは、裾野の村の早起きした者達。
度肝を抜かれ、恐れおののいた。
 妖精は矢継ぎ早にファイアボールを高山の至る所に放った。
その度に上がる爆音。
迷惑したのは夜なべを終え、これから巣に戻ろうとした魔物達もだろう。
否、迷惑どころではないか。
一瞬、身を固くし、死を覚悟した。
しかし、野生の勘。
次の瞬間には何の考えもなしに足を動かした。
現場から逃れようと必死になった。
闇雲に逃走した。

昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)7

2023-10-15 12:16:48 | Weblog
 ハッピーの質問にルイス・ブラウンは頑強に抵抗した。
嘘を吐く度に、施された術式が起動し、ランダムに、
身体の一部に痛撃を喰らわせるのだが、
彼は泣き叫びながら耐えてみせた。
どうやら尋問対策を講じているようだ。
だが、それは無駄というもの。
妖精の一人が悪い顔をしてルイスに告げた。
『貴殿はコラーソン王国の第三騎士団長、ルイス・ブラウン殿だろう』
 ルイスが涙と涎、嘔吐で汚れた顔を上げた。
見難いが、自我は壊れていないようだ。
「・・・」

 妖精は再び呼び掛けた。
『ルイス・ブラウン殿』
 ルイスが怪訝な表情を浮かべた。
「どう、どうして分かった」
『まず、この念話から驚いて欲しいな』
 ルイスがハッとした。
「念話・・・、これは」
 ようやく我々が口を開いていない事に思い及んだようだ。
『我々は貴殿の頭の中に話し掛けている。
つまり、貴殿の考えている事が手に取る様に分かる』
 怪訝そうな彼に続けた。 
『我々は質問で貴殿の記憶を揺らし、
術式による刺激で更に掘り起こしている。
つまり、貴殿の記憶の全てを露わにしている、そういう事だ。
その上での注意だ。
これ以上続けるとダメージが深部に及ぶ。
要するに、そうなると我々では治癒できなくなる。
今なら正常な身体に戻せるが、これを続ける事はお勧めしない。
さて、貴殿はどうしたい』
 虚と実をこねくり回した。

 ルイスはただの人間。
激しく動揺し始めた。
しめしめ、狙い通り。
ハッピーの術式が虚実の仕分けをしている、と理解してくれれば、
より混乱させられ、尋問対策を突き崩せる。

 ハッピーが冷静に質問を続けた。
『パー、貴殿は妻帯しているのか』
『ピー、国王の名は』
『プー、コラーソン王国の敵国は』
『ペー、嫡男の名前は』
『ポー、無事に帰国できると思うか』
 ハッピーは関連せぬ質問でルイスに混乱を招いた。
その混乱に妖精達が付け入った。
綻びたステータスを糸口に、それぞれが鑑定を利用し、
ルイスの記憶の海をサルベージした。
嘘はハッピーの術式のお陰で分かり易い。
尋問対策用の虚構の外海を回避し、
巧みに隠された真相の内海へ至った。

 この足利国は天然の要害に守られていた。
南には水棲魔物が棲む大海原。
東には大型魔物が蠢く大樹海。
北には深く険しい大山岳地帯。
そして西は広大な大砂漠地帯。
だが古来より、そこを越えて往き来する者達がいた。
一攫千金の商人、冒険者、探索者、学者。
彼等により足利国の豊かさが広く知られていた。
 垂涎の地ではあるが、世界は足利国への侵攻は控えた。
その理由は二つ。
国が長く一つに纏まっていた。
要害を越えるとなると収支が赤。
そこへこの所の内戦勃発の報せ。
世界は色気を見せた。
情報収集に力を入れた。

 西域諸国に属するコラーソン王国はまず侵攻を決めた。
そして先兵として、偽装させたキャメルソン傭兵団を送り込んだ。
彼等の主目的は進軍路調査と、途次の宿営地の選定、
足利国での足場確保の三つ。
傭兵団は前の二つを成し遂げ、三つ目に取り掛かっていた。
戦に託け、島津家の不満分子に密かに接触して、
それなりに手応えを得ていた。

 ルイスは現在の王国の動きは知らないが、現国王の性格からして、
軍勢編成は済んでいると読んでいた。
その軍勢を待機状態にして置く事はない。
兵糧を喰うばかりだからだ。
従い、もしかすると、既に送り出しているかも知れない、とも。

 アリスは決めた。
『こちらから出向いてみよう』
 妖精達は賛成した。
『いいね、進軍路を逆に辿ってみよう』
『そう、見つけたら蹴散らすか』
『多少は手応えがあるのかしら』
 ハッピーも大喜び。
『パー、戦だ戦だ』

 アリス達はエビスに乗り込み、都城の練兵場を見下ろした。
解放したルイスがフラフラと歩いていた。
その後ろを部下達が付いて行く。
手の施しようがないから全員が困り顔。
あっ、ルイスがこけた。
直ぐに起き上がれない。
部下達が慌てて手を貸した。
アリスがハッピーに尋ねた。
『回復できるのかしら』
『ピー、無理無理。
ポーションでも施術でも無理っピー』

 コラーソン王国の進軍路を逆に辿る事にした。
上陸点・枕崎をその上空から見下ろした。
ここからなら鹿児島から程よい距離。
近場には開聞岳と池田湖を擁する大樹海もあった。
兵糧の肉にも不足しないだろう。
良い着眼点だ。
アリスが提案した。
『先に池田湖の魔物・イッシーを狩らない』
 イッシーの餌となる巨大ウナギも気になる。
『それは戻ってから』
『突っ込んで、チャチャッとやっちゃおうよ』
『アリス、寄り道は程々にね』

 真西に飛行した。
下は砂漠なので見るべき物はない。
ただただ砂々砂、一面が砂の海。
時折、大量の砂が吹雪の様に風に飛ばされて来た。
それでもエビスに影響なし。
何事もなく飛行を続けた。
 気が付いた。
棲む魔物がいない。
たぶん、餌となる物がいないから。

 オアシスを見つけた。
小さな泉があり、低木の木々が周囲に生えていた。
家は、家は、と探したが、痕跡一つなし。
面積からして定住は無理だろう。
ただ、宿営地にはなっている様で、
それらしき広さの土地が踏み固められていた。

 妖精の一人が注意を喚起した。
『気を付けて。
右斜め前方に黒い雲が出現した』
 確かに怪しい。
その雲がこちらに向かって来る。
あれは・・・、黒い柱、蛇の様に揺れ動いて・・・。
それも三つ。
『アリス、竜巻よ。
こちらに急接近して来るわ』
 三つの竜巻はそれぞれ速度が違った。
しかも、右に左に揺れ動きながらだから、影響する範囲が確としない。

昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)6

2023-10-08 12:47:13 | Weblog
 アリスの拳発言に一人が反論した。
『人間の争いには関わらない、それがポリシーだったよね』
 ハッピーも同意した。
『ピー、ピーピッピー、そうだそうだ』
 アリスは平然と言い返した。
『それはそれ、これはこれ。
コップの中の争いは、勝手にやってろって話になるけど、
国外からの勢力となると、ちょっと違うのよ』
『ほうほう、どんなに』
『んー、許しもなく入って来るな、かな』
 別の妖精が提案した。
『取り敢えず、探ってみようか』

 キャメルソン傭兵団を探る事になった。
選ばれた妖精三人が機体後尾のカーゴドアから飛び出し、
機体を自分が持つ収納庫に格納した。
そして自らを妖精魔法で透明化し、降下した。

 夕刻前だが、傭兵団は既に業務を終え、
てんでに自由時間を過ごしていた。
特に多いのは、魔物・キャメルソンの手当てをしている者達。
その光景は手酷い敗戦を物語っていた。
それでも士気は低くないようで、随所で笑顔が見られた。
勝利を疑っていないのだろう。

 誰一人、妖精の侵入に気付かない。
その中を三人は悠々と行く。
目指すは情報の集まる所、指揮所の書類棚。
もし傭兵団が何処かの先兵であるとするなら、
何らかの手掛かりとなる書類が存在するはず。
あれば、アリスの言の如く、拳で解決する。
何も無ければ彼等は考えなしの傭兵団。
遥々、キャメルソンと戦う為に来たのだが、価値が半減、
相手する気が失せるというもの。

 下に向かった一人が急いで戻って来た。
『アリス、手掛かりを探す手間が省けたわ。
指揮所に団長が一人で居たから、結界を張って捕獲したの。
尋問を任せて良いかしら』
 アリスに尋問、・・・。
手間を省く以前に問題だろう。
結界もだが、団長は多忙な仕事、用事のある誰かが探しに来ないか。
『イエスって、言えんわ。
騒ぎになるんじゃないの』
『だからパパっとやって』
『私が尋問するのよね』
『そうよ、性格的にアリスかなあ』
 その意味する所が分からない。
アリスはハッピーを思い出した。
アリスは里では村長に次ぐ術者。
けれど今回必要なのは術式。
だとするとハッピーだろう。

『ハッピー、アンタ、術式が刻めたわね』
 唐突な質問にハッピーが面食らった。
『ペーペッペ~、・・・、できるけど』
『だったら付いて来なさい』

 アリスはハッピーを伴った。
二人して機体を格納し、透明化、仲間に案内に従った。
向かった指揮所は騒がしかった。
「団長の姿がないだと」
「「「はい、見つかりません」」」
「とにかく全階の部屋を探せ」
「「「はい」」」
 部下達が団長を探していた。
ところがスキルが下位なので、結界の存在には気付かない。
【神隠し、忌避】が付与されてるので尚更だ。
結界そのものが秘匿され、接近すら許されない。
そんな中、アリス達は結界に迎え入れられた。

 一階と二階の境目に結界の入り口があった。
施された術式と相俟って、これでは余計に見つからない。
その中に一人の人間が囚われていた。
荒々しい空気を纏った大柄な体躯。
人を人とも思わぬ尊大な顔。
団長の地位にあるのが納得できた。
そんな彼が脱出しようと足掻いていた。
「出せー、出さねえと殺すぞ」
 結界を破ろうと殴る蹴る。
しかし、どれも果たせない。
終いには結界に掴み掛る始末。
掴める訳がないのだが、・・・。
表情が次第に焦りの色に変じて行く。

 アリスがハッピーに尋ねた。
『奴に【隷属】の術式を施せるか』
 この場合は魔道具ではなく、身体に刻み付ける物だ。
『ポー、任せて任せてプー』
 魔道具だろうが身体に刻み付けるだろうが、
施す術式はレベル・ランクによって効果が違う。
高位の者ほどそれは深く、持続する。
アリスは村長に次ぐ術者だが、経験が不足していた。
そう、術式に関しては、とても不足していた。
比べてハッピーはダンジョンスライムとして術式の経験に富んでいた。
この場では最適だろう。

 任されたハッピーの行動は早かった。
団長の衣服を切り刻む。
上半身を露わにした。
刀傷、槍傷、攻撃魔法傷が多い。
それでも筋肉は失っていない。
戦士としての証の体躯、実に美しい。
「ギャー」
 背中に術式を施された団長が悲鳴を上げて倒れた。
術式を施された事のないアリスでも分かった。
その痛みが。
身体に施されたくないな、これ。

 ハッピーが尋問の準備に入った。
団長に矢継ぎ早の質問。
『パー、君の名前は』
『ピー、君の年齢は』
『プー、君の仕事は』
『ペー、傭兵団の本拠地は』
『ポー、この地には何故』
 アリス達は団長に鑑定を掛け、ステータスを見た。
それで答え合わせ。
通り一辺倒の答えを得た。
が、それに納得していない。
探す、探す。
 あっ、見つけた、見つけた。
団長のステータスに綻びを見つけた。
微かな文字の重なり、書き換えの痕跡。
これは偽装の証。

「名前、ルイス・ブラウン。
種別、人間。
年齢、四十七才。
性別、雄。
住所、コラーソン王国、王都在住。
職業、王国第三騎士団長。
ランク、B。
HP、145。
MP、110。
スキル、槍士☆☆☆☆、剣士☆☆☆、風魔法☆☆☆」

 本当のステータスを読んだ。
思いがけぬ答え。
彼は砂漠の向こうの国の騎士団長だった。

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