俺は書類の確認を終えた。
帳簿等には問題はない。
「トランス、仕事は完璧だよ。
ここの仕事量だと暇だろう。
もう少し増やしてみようか」
するとルースに阻まれた。
「駄目ですよ。
それはオメガ会館の事でしょう。
ダン様、それには賛成できません。
それに、ここもこれから増々忙しくなります。
トランスは手放しませんよ」
オメガ商会は俺が岐阜に、個人的に設立した商会だ。
あちらとの人材交流を考えてのトランスなのだが、時期尚早だったかな。
俺は苦笑いで収め、珈琲に手を伸ばした。
うっ、苦い。
大人の味が増々か。
でも飲み込む。
誰かの失笑が漏れ聞こえた。
敢えて追及はしない。
俺は会計関係以外の書類から、それを取り上げた。
「忙しくなるのは、これかな」
「ええ、それです」
テニスの次に流行らすのはバドミントン、と考えていた。
テニスに類似しているので、用具開発からすると安易に進められるのだ。
それを下請け工房の親父たちに大まかに伝えたの一ヶ月前。
なのにどういう訳か、それなりのタイムスケジュールが組み上がっていた。
まあ、テニスでの成功体験が大きいのかも知れないが、
それにしても早過ぎないか。
商売への熱意か、ただ単にお金儲けへの執着か。
利益が出るのは嬉しいが、それに伴う弊害も噴出する。
多いのは特に外からのもの。
その中でも一番避けたいのはお貴族様絡み。
俺はクレーム処理の書類を指で指し示した。
「ねえルース、よそ様からの手出しは減ってるかい」
これにはルースが顔を顰めた。
「表だっての行動は減りましたが、それでも色々と仕掛けて来ています」
「例えば」
「工房の技術を盗もうとする方々が一向に減りません」
「職人に直接的な被害は」
「伯爵様がオーナーという事が知られて来たので、
そちらは無くなりました。
この所の問題はコピー商品ですね。
後追い参入の商会の製品が脆いのです。
一ㇳ月と持ちません。
その尻拭いがこちらに来ます。
どうしてくれる、そちらで買ったんだ、何としても無償で修理しろ、
交換しろと。
それを宥めて説明するのが手間ですね」
「クレーム処理には誰が」
「相手によりけりです。
強面には元冒険者、理屈を申し立てる者には商人ギルドの元窓口嬢、
幸い利益が出ているので人材には事欠きません」
うちの下請け工房には粗製濫造を禁じているので、
品質には自信があった。
二年や三年で壊れる物は製造していない。
その下請けへの原材料は全てうちから支給する形にしていた。
うちが関係各所から原材料を大量購入して保管、適時に支給する。
必要な時に必要な量を、である。
無駄を省くのは正しいが、それにも限度がある。
適正な余裕が必要なのだ。
所謂、ハンドルの遊びだ。
車を製造しているメーカーなら常識だ。
下請けから製品を仕入れる際は、三方良し、とした。
売り手よし、買い手よし、世間よし。
皆が笑顔になれば嬉しい。
トランスが挙手した。
「宜しいですか」
「いいよ」
「保管倉庫の拡張は如何でしょうか」
「目的は」
「事業拡大です。
取り敢えずは業務用の原材料の販売です」
「所謂、卸業で間違いないかな」
「そうです。
下地は出来ています。
原材料を入手する川上に伝手が出来ました。
これを活かさないのは勿体ないです」
川中では下請け工房が機能している。
そして川下にはアルファ商会がある。
この短い期間にうちの商会だけでなく、
この元冒険者も一皮剥けたみたいだ。
保管倉庫は国都の外に構えていた。
隣には当家の騎士団の宿舎と馬場があり、
警備の観点からも申し分ない立地だ。
さらには敷地を広げる余地も残っていた。
俺はトランスに指示した。
「トランス、目の付け所が良い。
稟議書を取締役会に提出してくれ」
俺は飲み物をジュースに替えた。
えっ、おう、炭酸入りか。
飲み易い。
ついでに話題も変えた。
「ねえルース、ポーションも売れてるけど、先行きはどう」
うちの取締役三人、ルース、シンシア、シビルは元々は国軍士官。
それが、ポーションショップ開設を目指して退官、転職した。
冒険者に。
なのに今は俺の誘いで商会取締役。
ポーション工房とショップを併設したのが効いたみたいだ。
「売り上げが平時に戻ると見込んで、減らしています」
反乱特需の終わりか。
「元国軍士官として、近々反乱が収まるとの判断かい」
「そうです、特に関東は虫の息ですね」
「籠城したけど、あれは」
「知人の多くは、悪足掻きと貶しています。
ただ、一部は、西の反乱との連携を疑っています」
「その西の様子は」
「九州の反乱軍は旗色が悪いそうです」
当初、反乱した島津伯爵軍が官軍を押していた。
それが、官軍の主体が三好侯爵派閥になってからから変わった。
押し合いへし合いから、遂には官軍が押し始めた。
「一時は官軍を破る勢いだっそうだね」
「ええ、ですがそこは流石、三好侯爵家ですね。
ここ最近は戦線を押し上げているそうです」
駐車場で待機中の警護の兵が、商会のスタッフに案内されて、
この個室に入って来た。
「お屋敷から使いの者が来ました」
俺に薄い封書を差し出した。
裏書きは執事長の手跡。
封を切り、中を読んだ。
「宮廷より先触れが参りました。
迎車を遣わすので、直ちに、密かに参内するように、との事です」
ふむふむ、急ぎ且つ、内密の事が生じた訳か。
で、俺、・・・か。
相談でないのは確かだ。
手駒として動けだろう。
人使いが荒い。
前世なら労基に訴えてる案件だ。
まあ、文句言っても今更か。
帳簿等には問題はない。
「トランス、仕事は完璧だよ。
ここの仕事量だと暇だろう。
もう少し増やしてみようか」
するとルースに阻まれた。
「駄目ですよ。
それはオメガ会館の事でしょう。
ダン様、それには賛成できません。
それに、ここもこれから増々忙しくなります。
トランスは手放しませんよ」
オメガ商会は俺が岐阜に、個人的に設立した商会だ。
あちらとの人材交流を考えてのトランスなのだが、時期尚早だったかな。
俺は苦笑いで収め、珈琲に手を伸ばした。
うっ、苦い。
大人の味が増々か。
でも飲み込む。
誰かの失笑が漏れ聞こえた。
敢えて追及はしない。
俺は会計関係以外の書類から、それを取り上げた。
「忙しくなるのは、これかな」
「ええ、それです」
テニスの次に流行らすのはバドミントン、と考えていた。
テニスに類似しているので、用具開発からすると安易に進められるのだ。
それを下請け工房の親父たちに大まかに伝えたの一ヶ月前。
なのにどういう訳か、それなりのタイムスケジュールが組み上がっていた。
まあ、テニスでの成功体験が大きいのかも知れないが、
それにしても早過ぎないか。
商売への熱意か、ただ単にお金儲けへの執着か。
利益が出るのは嬉しいが、それに伴う弊害も噴出する。
多いのは特に外からのもの。
その中でも一番避けたいのはお貴族様絡み。
俺はクレーム処理の書類を指で指し示した。
「ねえルース、よそ様からの手出しは減ってるかい」
これにはルースが顔を顰めた。
「表だっての行動は減りましたが、それでも色々と仕掛けて来ています」
「例えば」
「工房の技術を盗もうとする方々が一向に減りません」
「職人に直接的な被害は」
「伯爵様がオーナーという事が知られて来たので、
そちらは無くなりました。
この所の問題はコピー商品ですね。
後追い参入の商会の製品が脆いのです。
一ㇳ月と持ちません。
その尻拭いがこちらに来ます。
どうしてくれる、そちらで買ったんだ、何としても無償で修理しろ、
交換しろと。
それを宥めて説明するのが手間ですね」
「クレーム処理には誰が」
「相手によりけりです。
強面には元冒険者、理屈を申し立てる者には商人ギルドの元窓口嬢、
幸い利益が出ているので人材には事欠きません」
うちの下請け工房には粗製濫造を禁じているので、
品質には自信があった。
二年や三年で壊れる物は製造していない。
その下請けへの原材料は全てうちから支給する形にしていた。
うちが関係各所から原材料を大量購入して保管、適時に支給する。
必要な時に必要な量を、である。
無駄を省くのは正しいが、それにも限度がある。
適正な余裕が必要なのだ。
所謂、ハンドルの遊びだ。
車を製造しているメーカーなら常識だ。
下請けから製品を仕入れる際は、三方良し、とした。
売り手よし、買い手よし、世間よし。
皆が笑顔になれば嬉しい。
トランスが挙手した。
「宜しいですか」
「いいよ」
「保管倉庫の拡張は如何でしょうか」
「目的は」
「事業拡大です。
取り敢えずは業務用の原材料の販売です」
「所謂、卸業で間違いないかな」
「そうです。
下地は出来ています。
原材料を入手する川上に伝手が出来ました。
これを活かさないのは勿体ないです」
川中では下請け工房が機能している。
そして川下にはアルファ商会がある。
この短い期間にうちの商会だけでなく、
この元冒険者も一皮剥けたみたいだ。
保管倉庫は国都の外に構えていた。
隣には当家の騎士団の宿舎と馬場があり、
警備の観点からも申し分ない立地だ。
さらには敷地を広げる余地も残っていた。
俺はトランスに指示した。
「トランス、目の付け所が良い。
稟議書を取締役会に提出してくれ」
俺は飲み物をジュースに替えた。
えっ、おう、炭酸入りか。
飲み易い。
ついでに話題も変えた。
「ねえルース、ポーションも売れてるけど、先行きはどう」
うちの取締役三人、ルース、シンシア、シビルは元々は国軍士官。
それが、ポーションショップ開設を目指して退官、転職した。
冒険者に。
なのに今は俺の誘いで商会取締役。
ポーション工房とショップを併設したのが効いたみたいだ。
「売り上げが平時に戻ると見込んで、減らしています」
反乱特需の終わりか。
「元国軍士官として、近々反乱が収まるとの判断かい」
「そうです、特に関東は虫の息ですね」
「籠城したけど、あれは」
「知人の多くは、悪足掻きと貶しています。
ただ、一部は、西の反乱との連携を疑っています」
「その西の様子は」
「九州の反乱軍は旗色が悪いそうです」
当初、反乱した島津伯爵軍が官軍を押していた。
それが、官軍の主体が三好侯爵派閥になってからから変わった。
押し合いへし合いから、遂には官軍が押し始めた。
「一時は官軍を破る勢いだっそうだね」
「ええ、ですがそこは流石、三好侯爵家ですね。
ここ最近は戦線を押し上げているそうです」
駐車場で待機中の警護の兵が、商会のスタッフに案内されて、
この個室に入って来た。
「お屋敷から使いの者が来ました」
俺に薄い封書を差し出した。
裏書きは執事長の手跡。
封を切り、中を読んだ。
「宮廷より先触れが参りました。
迎車を遣わすので、直ちに、密かに参内するように、との事です」
ふむふむ、急ぎ且つ、内密の事が生じた訳か。
で、俺、・・・か。
相談でないのは確かだ。
手駒として動けだろう。
人使いが荒い。
前世なら労基に訴えてる案件だ。
まあ、文句言っても今更か。