俺がカブリオレに乗り込むと同時に供回りの者達が騎乗した。
騎士達は職業ながら慣れているので、すんなり騎乗した。
従者のスチュアートも。
俺はそのスチュアートを呼び寄せて指示した。
「先触れとしてアルファ商会に向かってくれ。
取締役への伝言は、私人なので出迎えは不要。
伝えたら、そのまま事務所で待機、分かったな」
「私人なので出迎えは不要ですね。
承知しました。
伝言後はあちらで待機します」
カブリオレがスムーズに発進した。
驚いた事にジューンの手綱捌きに問題はない。
「ジューン、慣れてるね」
「はい、馭者は本来は専門職ですが、当家では今回の様に、
一頭立てカブリオレは私達メイドが馭者を務めます。
特に遠出の買い物や雨の日に利用します。
これを機に、ダン様も私人の時には、この様にご利用くださいませ」
俺は初耳だった。
ん、待てよ、・・・。
厚生福祉の観点から当家の代官、執事長、侍女長、各将校等々には、
俺から通達をしていた。
当家に仕える者達全員が働き易い環境にして欲しい、と。
一つ、年に一度は、職場別に話し合いの場を設けること。
二つ、どんな意見にでも耳を傾けること。
三つ、職場段階で判断できる事は、現場の長の差配に委ねる。
四つ、現場で判断に困る案件は、代官か執事長に上げ、
その判断に従うこと。
五つ、出来れば当主の前段階で解決して欲しい。
特に大事なのは最後の五つ目。
面倒事は当主に上げないで欲しい、そう希望した。
へへっ、やったね。
だから俺の耳に届いていないのだ。
良かった、確立していた。
「女子達の遠出の買い物はこのカブリオレか」
ジューンが余裕の笑顔。
「はい、執事長を説得するのに大変でしたが、そこは何とか、
私達女子総出で認めさせました」
ああ、ダンカンを押し切ったのね。
ご苦労様。
それで遠出の買い物は女子達のレクレーションの一つになった訳か。
まあ、厚生福祉の観点から良しとしよう。
でもダンカン、女子達に押し切られたので、言い難いのか。
「馬車に何か注文は」
「今のところはないですね。
特にあるとしたら、お尻が痛い、そこですね」
故郷の村に馬車製造工房があるので、このところの発注は、
カスタマイズが多い。
六頭立てや四頭立ての兵員輸送車輌がその代表例だ。
二頭立てや一頭立てのカブリオレなんてのは可愛いもの。
けど、お尻が痛い、ね。
その内に改良されると思う。
工房から馬車を納品しに来た者に、
四輪独立懸架方式を研究してると聞いた。
そうそう、工房のエンブレムは始祖を彷彿させる、ジョナサン佐藤様、
弓馬の神を象ったもの。
前世なら、ジョナサン佐藤からJ、戸倉村からT、だったな。
ああっ、「J」も「T」も拙いか。
グローバルメーカーじゃもんね。
「J」はイギリスの老舗メーカー、「T」はアメリカのお電気自動車メーカー。
先導が二騎、カブリオレと並走が一騎、後ろに二騎。
たぶん、陰供も付けられている。
今回の様な私人としての移動でも堅苦しい。
前の騒ぎがあるだけに、皆が慎重なのだ。
文句は言えない。
それを癒してくれるのが馭者のジューン。
隣で囁いてくれた。
「ダン様、このところお休みの日がないですよね」
そうなんだよな。
身体は一つしかないのに、忙しい忙しい。
寄親伯爵、生徒、冒険者、商会長。
内緒のダンマスで手を抜いていられるから、ちょっとは楽かも知れないが、
でも、纏まった休みが取れない。
児童虐待案件発生です。
「ジューン、少し仕事を増やしてあげようか」
「それは御免被ります、勘弁して下さい」
馬に軽く鞭が入った。
馬の足がちょっとだけ早まった。
アルファ商会の所在地は外郭南区にあった。
繁華街の外れに大型店舗を構えていた。
商会事務所、テニスショップ、ポーションショップ、駐車場、
そして二面のコートがあるテニス室内練習場。
更につい最近、個室のあるレストランとフードコートを増設したばかり。
相変わらず繁盛していた。
駐車場がほぼ埋まるだけでなく、往き来する人も多い。
貴族や平民富裕層の来店だけでなく、中間層も増えたということだ。
俺が商会長で、キャロル、マーリン、モニカ、シェリル、ボニー、
シンシア、ルース、シビルを含めた九人が株主だ。
もっとも、未成年が多いので、成人していたシンシア、ルース、シビル、
この三人に取締役に就いてもらった。
そのルースが馬車寄せで出迎え、エスコートしてくれた。
「ようこそ、ダン様」
「お邪魔でなかったかい」
「いいえ、このところご無沙汰ではないですか。
皆が首を長くして待ってましたよ」
ルースが案内してくれたのはレストランの個室。
必ず一つは身内用に確保してるとのこと。
俺とスチュアート、ジューン、警護二名でそこに入った。
個室で一人が待っていた。
トランス・アリだ。
元冒険者で現在は商会の会計チーフ。
テーブルには書類の山。
トランスが立ち上がった俺を出迎えた。
「お待ちしてました」
俺は彼と書類を交互に見て、苦笑いするしかなかった。
「ああ、待ってたのは書類の山だったか」
付いて来た者達が苦笑するが、一人だけ、ジューンは声を上げて笑う。
良いな、軽い役目の者は。
ルースが言う。
「トランスは演算スキル持ちですので、計算に間違いはありません。
ですが、最終的にはダン様のサインが必要になります。
よくお改め下さい。
・・・。
お食事も運ばせます。
新メニューの確認もお願いします」
目と舌に仕事させろと、無慈悲な。
それでも俺は表情には出さない。
「みんな、座って楽にしてくれ。
警護も試食に強制参加だ」
ます飲み物が運ばれて来た。
「珈琲の種類を増やしました」
ルースの言葉が終わると、真っ先にジューンが口をつけた。
「うん、大人の味が増し増しね。
私はこれも好き」
時刻柄か、ランチも運ばれて来た。
警護の一人が感心した様に言う。
「これ野営にも持って行けませんか」
魔物の肉を調理したホットドッグ。
それを横目に俺は書類と格闘していた。
当のトランスは余裕なのか、ホットドックを頬張っていた。
いいなあ。
するとジューンがホットドッグを俺の前に差し出した。
「はい、あ~ん」
騎士達は職業ながら慣れているので、すんなり騎乗した。
従者のスチュアートも。
俺はそのスチュアートを呼び寄せて指示した。
「先触れとしてアルファ商会に向かってくれ。
取締役への伝言は、私人なので出迎えは不要。
伝えたら、そのまま事務所で待機、分かったな」
「私人なので出迎えは不要ですね。
承知しました。
伝言後はあちらで待機します」
カブリオレがスムーズに発進した。
驚いた事にジューンの手綱捌きに問題はない。
「ジューン、慣れてるね」
「はい、馭者は本来は専門職ですが、当家では今回の様に、
一頭立てカブリオレは私達メイドが馭者を務めます。
特に遠出の買い物や雨の日に利用します。
これを機に、ダン様も私人の時には、この様にご利用くださいませ」
俺は初耳だった。
ん、待てよ、・・・。
厚生福祉の観点から当家の代官、執事長、侍女長、各将校等々には、
俺から通達をしていた。
当家に仕える者達全員が働き易い環境にして欲しい、と。
一つ、年に一度は、職場別に話し合いの場を設けること。
二つ、どんな意見にでも耳を傾けること。
三つ、職場段階で判断できる事は、現場の長の差配に委ねる。
四つ、現場で判断に困る案件は、代官か執事長に上げ、
その判断に従うこと。
五つ、出来れば当主の前段階で解決して欲しい。
特に大事なのは最後の五つ目。
面倒事は当主に上げないで欲しい、そう希望した。
へへっ、やったね。
だから俺の耳に届いていないのだ。
良かった、確立していた。
「女子達の遠出の買い物はこのカブリオレか」
ジューンが余裕の笑顔。
「はい、執事長を説得するのに大変でしたが、そこは何とか、
私達女子総出で認めさせました」
ああ、ダンカンを押し切ったのね。
ご苦労様。
それで遠出の買い物は女子達のレクレーションの一つになった訳か。
まあ、厚生福祉の観点から良しとしよう。
でもダンカン、女子達に押し切られたので、言い難いのか。
「馬車に何か注文は」
「今のところはないですね。
特にあるとしたら、お尻が痛い、そこですね」
故郷の村に馬車製造工房があるので、このところの発注は、
カスタマイズが多い。
六頭立てや四頭立ての兵員輸送車輌がその代表例だ。
二頭立てや一頭立てのカブリオレなんてのは可愛いもの。
けど、お尻が痛い、ね。
その内に改良されると思う。
工房から馬車を納品しに来た者に、
四輪独立懸架方式を研究してると聞いた。
そうそう、工房のエンブレムは始祖を彷彿させる、ジョナサン佐藤様、
弓馬の神を象ったもの。
前世なら、ジョナサン佐藤からJ、戸倉村からT、だったな。
ああっ、「J」も「T」も拙いか。
グローバルメーカーじゃもんね。
「J」はイギリスの老舗メーカー、「T」はアメリカのお電気自動車メーカー。
先導が二騎、カブリオレと並走が一騎、後ろに二騎。
たぶん、陰供も付けられている。
今回の様な私人としての移動でも堅苦しい。
前の騒ぎがあるだけに、皆が慎重なのだ。
文句は言えない。
それを癒してくれるのが馭者のジューン。
隣で囁いてくれた。
「ダン様、このところお休みの日がないですよね」
そうなんだよな。
身体は一つしかないのに、忙しい忙しい。
寄親伯爵、生徒、冒険者、商会長。
内緒のダンマスで手を抜いていられるから、ちょっとは楽かも知れないが、
でも、纏まった休みが取れない。
児童虐待案件発生です。
「ジューン、少し仕事を増やしてあげようか」
「それは御免被ります、勘弁して下さい」
馬に軽く鞭が入った。
馬の足がちょっとだけ早まった。
アルファ商会の所在地は外郭南区にあった。
繁華街の外れに大型店舗を構えていた。
商会事務所、テニスショップ、ポーションショップ、駐車場、
そして二面のコートがあるテニス室内練習場。
更につい最近、個室のあるレストランとフードコートを増設したばかり。
相変わらず繁盛していた。
駐車場がほぼ埋まるだけでなく、往き来する人も多い。
貴族や平民富裕層の来店だけでなく、中間層も増えたということだ。
俺が商会長で、キャロル、マーリン、モニカ、シェリル、ボニー、
シンシア、ルース、シビルを含めた九人が株主だ。
もっとも、未成年が多いので、成人していたシンシア、ルース、シビル、
この三人に取締役に就いてもらった。
そのルースが馬車寄せで出迎え、エスコートしてくれた。
「ようこそ、ダン様」
「お邪魔でなかったかい」
「いいえ、このところご無沙汰ではないですか。
皆が首を長くして待ってましたよ」
ルースが案内してくれたのはレストランの個室。
必ず一つは身内用に確保してるとのこと。
俺とスチュアート、ジューン、警護二名でそこに入った。
個室で一人が待っていた。
トランス・アリだ。
元冒険者で現在は商会の会計チーフ。
テーブルには書類の山。
トランスが立ち上がった俺を出迎えた。
「お待ちしてました」
俺は彼と書類を交互に見て、苦笑いするしかなかった。
「ああ、待ってたのは書類の山だったか」
付いて来た者達が苦笑するが、一人だけ、ジューンは声を上げて笑う。
良いな、軽い役目の者は。
ルースが言う。
「トランスは演算スキル持ちですので、計算に間違いはありません。
ですが、最終的にはダン様のサインが必要になります。
よくお改め下さい。
・・・。
お食事も運ばせます。
新メニューの確認もお願いします」
目と舌に仕事させろと、無慈悲な。
それでも俺は表情には出さない。
「みんな、座って楽にしてくれ。
警護も試食に強制参加だ」
ます飲み物が運ばれて来た。
「珈琲の種類を増やしました」
ルースの言葉が終わると、真っ先にジューンが口をつけた。
「うん、大人の味が増し増しね。
私はこれも好き」
時刻柄か、ランチも運ばれて来た。
警護の一人が感心した様に言う。
「これ野営にも持って行けませんか」
魔物の肉を調理したホットドッグ。
それを横目に俺は書類と格闘していた。
当のトランスは余裕なのか、ホットドックを頬張っていた。
いいなあ。
するとジューンがホットドッグを俺の前に差し出した。
「はい、あ~ん」