金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)2

2023-12-03 13:27:07 | Weblog
 俺がカブリオレに乗り込むと同時に供回りの者達が騎乗した。
騎士達は職業ながら慣れているので、すんなり騎乗した。
従者のスチュアートも。
俺はそのスチュアートを呼び寄せて指示した。
「先触れとしてアルファ商会に向かってくれ。
取締役への伝言は、私人なので出迎えは不要。
伝えたら、そのまま事務所で待機、分かったな」
「私人なので出迎えは不要ですね。
承知しました。
伝言後はあちらで待機します」

 カブリオレがスムーズに発進した。
驚いた事にジューンの手綱捌きに問題はない。
「ジューン、慣れてるね」
「はい、馭者は本来は専門職ですが、当家では今回の様に、
一頭立てカブリオレは私達メイドが馭者を務めます。
特に遠出の買い物や雨の日に利用します。
これを機に、ダン様も私人の時には、この様にご利用くださいませ」
 俺は初耳だった。
ん、待てよ、・・・。
厚生福祉の観点から当家の代官、執事長、侍女長、各将校等々には、
俺から通達をしていた。
当家に仕える者達全員が働き易い環境にして欲しい、と。
一つ、年に一度は、職場別に話し合いの場を設けること。
二つ、どんな意見にでも耳を傾けること。
三つ、職場段階で判断できる事は、現場の長の差配に委ねる。
四つ、現場で判断に困る案件は、代官か執事長に上げ、
その判断に従うこと。
五つ、出来れば当主の前段階で解決して欲しい。

 特に大事なのは最後の五つ目。
面倒事は当主に上げないで欲しい、そう希望した。
へへっ、やったね。
だから俺の耳に届いていないのだ。
良かった、確立していた。

「女子達の遠出の買い物はこのカブリオレか」
 ジューンが余裕の笑顔。
「はい、執事長を説得するのに大変でしたが、そこは何とか、
私達女子総出で認めさせました」
 ああ、ダンカンを押し切ったのね。
ご苦労様。
それで遠出の買い物は女子達のレクレーションの一つになった訳か。
まあ、厚生福祉の観点から良しとしよう。
でもダンカン、女子達に押し切られたので、言い難いのか。
「馬車に何か注文は」
「今のところはないですね。
特にあるとしたら、お尻が痛い、そこですね」

 故郷の村に馬車製造工房があるので、このところの発注は、
カスタマイズが多い。
六頭立てや四頭立ての兵員輸送車輌がその代表例だ。
二頭立てや一頭立てのカブリオレなんてのは可愛いもの。
けど、お尻が痛い、ね。
その内に改良されると思う。
工房から馬車を納品しに来た者に、
四輪独立懸架方式を研究してると聞いた。
 そうそう、工房のエンブレムは始祖を彷彿させる、ジョナサン佐藤様、
弓馬の神を象ったもの。
前世なら、ジョナサン佐藤からJ、戸倉村からT、だったな。
ああっ、「J」も「T」も拙いか。
グローバルメーカーじゃもんね。
「J」はイギリスの老舗メーカー、「T」はアメリカのお電気自動車メーカー。

 先導が二騎、カブリオレと並走が一騎、後ろに二騎。
たぶん、陰供も付けられている。
今回の様な私人としての移動でも堅苦しい。
前の騒ぎがあるだけに、皆が慎重なのだ。
文句は言えない。
それを癒してくれるのが馭者のジューン。
隣で囁いてくれた。
「ダン様、このところお休みの日がないですよね」
 そうなんだよな。
身体は一つしかないのに、忙しい忙しい。
寄親伯爵、生徒、冒険者、商会長。
内緒のダンマスで手を抜いていられるから、ちょっとは楽かも知れないが、
でも、纏まった休みが取れない。
児童虐待案件発生です。
「ジューン、少し仕事を増やしてあげようか」
「それは御免被ります、勘弁して下さい」
 馬に軽く鞭が入った。
馬の足がちょっとだけ早まった。

 アルファ商会の所在地は外郭南区にあった。
繁華街の外れに大型店舗を構えていた。
商会事務所、テニスショップ、ポーションショップ、駐車場、
そして二面のコートがあるテニス室内練習場。
更につい最近、個室のあるレストランとフードコートを増設したばかり。
 相変わらず繁盛していた。
駐車場がほぼ埋まるだけでなく、往き来する人も多い。
貴族や平民富裕層の来店だけでなく、中間層も増えたということだ。

 俺が商会長で、キャロル、マーリン、モニカ、シェリル、ボニー、
シンシア、ルース、シビルを含めた九人が株主だ。
もっとも、未成年が多いので、成人していたシンシア、ルース、シビル、
この三人に取締役に就いてもらった。
そのルースが馬車寄せで出迎え、エスコートしてくれた。
「ようこそ、ダン様」
「お邪魔でなかったかい」
「いいえ、このところご無沙汰ではないですか。
皆が首を長くして待ってましたよ」

 ルースが案内してくれたのはレストランの個室。
必ず一つは身内用に確保してるとのこと。
俺とスチュアート、ジューン、警護二名でそこに入った。
 個室で一人が待っていた。
トランス・アリだ。
元冒険者で現在は商会の会計チーフ。
テーブルには書類の山。
トランスが立ち上がった俺を出迎えた。
「お待ちしてました」
 俺は彼と書類を交互に見て、苦笑いするしかなかった。
「ああ、待ってたのは書類の山だったか」
 付いて来た者達が苦笑するが、一人だけ、ジューンは声を上げて笑う。
良いな、軽い役目の者は。

 ルースが言う。
「トランスは演算スキル持ちですので、計算に間違いはありません。
ですが、最終的にはダン様のサインが必要になります。
よくお改め下さい。
・・・。
お食事も運ばせます。
新メニューの確認もお願いします」
 目と舌に仕事させろと、無慈悲な。
それでも俺は表情には出さない。
「みんな、座って楽にしてくれ。
警護も試食に強制参加だ」

 ます飲み物が運ばれて来た。
「珈琲の種類を増やしました」
 ルースの言葉が終わると、真っ先にジューンが口をつけた。
「うん、大人の味が増し増しね。
私はこれも好き」
 時刻柄か、ランチも運ばれて来た。
警護の一人が感心した様に言う。
「これ野営にも持って行けませんか」
 魔物の肉を調理したホットドッグ。
それを横目に俺は書類と格闘していた。
当のトランスは余裕なのか、ホットドックを頬張っていた。
いいなあ。
するとジューンがホットドッグを俺の前に差し出した。
「はい、あ~ん」

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