高校公民Blog

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駒大苫小牧高校の体罰事件

2005-08-27 23:37:27 | 教育時事

体罰が刑事事件にならないということ

 今回の駒大苫小牧高校の部長による体罰事件を見ていると、その焦点が、優勝の取り消し問題に集中していることは、誰も疑わない。大体、誰も、体罰があることを疑わないでしょ?野球部で、「うちは絶対体罰なんかありません」などという学校は手を挙げてみな?というところだ。ばかばかしくてそんなことをいう人はいないはずだ。大体だ、そんなことをいえば、阪神の元監督というより、元中日ドラゴンズっていったほうがいいのかしら、星野仙一はどういうことになるわけですか?30・40発だろうが、なんだろうが、殴る数は問題ではないのだ。
 この間のマスコミの報道を見ていても、この体罰事件を「刑事事件」として扱っているものを私は見なかった。「体罰」がいけないなどとは誰も思ってはいない。いけなければ、通常、「刑事」「民事」の事件を形成するはずだ。しかし、私たちはその次元でこの問題を考えていない。せいぜい、優勝旗を返すの、返さないの、といったレベル、次に大会へ出るだの、辞退するだの、というしょぜん、彼らの〈内々〉のことでしょ、こだわっているのは。私のように、とっくの昔に――高校教員でありながら!――高校野球などという〈勤務外〉には興味を失った人間から見れば、目くそ鼻くそのこだわりに過ぎない。当事者はそりゃあ大変なことかもしれないね、汗と涙と根性の甲子園にとっては!しかし、殴られて顎ががくがくになったほうが、それについての慰謝料および犯罪性のほうが・・・極論すると、こんなことは今回の事件について言えばどうでもいいことなのだ。
  さて、では何が今回の問題が問題だったのだ?体罰をしてない学校などない。生徒が生徒に体罰をしていない野球部もない。そんなことは自明だ。じゃあ、何がいけないのだ?何がいけなくて、大騒ぎしているのだ!?

父親の発言

 ここで父親の発言を聞いてみよう。父親はこういっている。校長が、体罰の事実をみとめてくれて、衷心より、遺憾の意を示してくれれば自分は本気で表立てにするつもりはなかった。しかし、学校長の対応には誠意がなかった。そして、子供の〈名誉〉のために自分は、公表に踏み切ったのだ。
  父親は当初体罰をあきらかに〈問題〉にする意志はなかったのだ(ましてや〈事件〉になんぞ・・)。そして、最後まで〈事件〉にはしていない(ま、最後の最後にお金が内内にあったかもしれないが、正式には私は聞いていない)。この問題を〈問題〉とした理由は何か?〈名誉〉なのだ。誠意ある〈謝罪〉という〈名誉〉を得られなかったからだ、というのだ。体罰が事件だったからではない。体罰がいけなかったからでもない。行き過ぎの体罰があったからでもない。ここを見落としてはならない。

何で体罰はわるいのか?

 この問いはきわめて難解だ。ひとことでいえば、〈騒いだから〉なのだ。この殴られた生徒の父親が〈表立てにした〉からだ。そうなのだ、体罰が悪いから体罰がわるいのではない。体罰を事実として表立てにする、少なくも、マスコミに載せること、これが悪いことを構成するのだ。
 私が笑ったのは、この殴った部長が土下座をして謝罪したということだ。この部長が土下座をしたのは誰にか、わかるだろうか?もちろん、この生徒になんかじゃない、保護者に対してでもない。正確にいうなら、生徒および保護者に向かって土下座をしたということを世間に見せるために、まさに形式として土下座をしたのだ。この保護者も、土下座をさせること自体というより、土下座をして〈恥をかく〉こと、〈体面を傷つける〉ことをこそ対価として要求したのだ。これも形式なのだ。ま、むかしのお侍さんはこの程度のことで「腹を切って」いたのさ。
  もう少し時間が経ったとしてみよう。この部長は〈恨む〉のだ。あのやろうちくりやがって!!!
もちろん、部長はいまだって、これっぱかりも体罰それ自体を悪いことだった、などとは思っていない。なんと思っているかおわかりですか?ひとこと

「運が悪かった」

日本は近代社会ではない

 私の持論は、これである。部活動の場には身分制が露出している。身分制には人権などというものが入る余地はない。人権は対等な関係から始まるのだ。
 したがって、この父親が何ゆえ、表立てにしたか、という問いには私は、この父親は〈武士〉だったからだ、と答える。武士のメンツをつぶされたのだ。
  私たちはもう一度近代というものを、人権というものを考え直さなければいけない。何がその根拠となるのか。

体罰と互酬制

 要するに、体罰でも殴るのでもいいのだが、なぜ、親と生徒が訴えたかというと、体罰の見返りがなかったからなのだ。ここを注意しなければいけない。僕のような人間にも親はいいますね。

「先生、少々殴るぐらいしてください」

って。殴って見返りがあれば、なぐってもいいのだ。見返りがなければそれはどうなります?殴られたということだけが残るわけでしょ。しかも、この世界は反論はできない。つまり、この世界独特の交換関係があることを私たちは理解しなければいけないのだ。愛のムチってのは、こうした交換関係を示している。殴ることと等価な見返りがあればこそ、その殴ることを正当化するのだ。こういう世界があるということだ。それは近代社会ではないのである。互酬制の世界である。
 くどいようだが、もしも、この互酬制において、片手落ちがあった場合、相手が百姓なら〈筵旗〉になるまでは、「泣き寝入り」なのだ。しかし、この保護者は〈御恩〉と〈奉公〉の住人だったのだ。だから、〈名誉のための闘争〉という挙にでたのである。


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5 コメント

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体罰なんて運動部じゃあ・・・ (匿名)
2005-09-02 16:10:56
始めてコメントさせてもらいます。名前は伏せさせていただきます。

ところで、運動部における体罰はどこでもあることだし今更こんな新聞沙汰になることでもないと思います。現に以前中央高校のとある部活でも、先輩が後輩を殴ることや監督(教師)が試合前にベンチで生徒を殴っていました。もちろん法律上立派な暴行罪であり犯罪です。でもその体罰が嫌なら部活なんぞやらなければいいと思います。部活をやる義務は学生には無く、単位を修得して卒業すればいいことだし、高校なんて単なる通過点なんです。運動部というのはそういう閉鎖されたなかでの汚く泥臭いことばかりあるのが現状です。間違ってますかね?
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Re:体罰なんて運動部じゃあ・・・ (木村正司)
2005-09-04 07:45:10
匿名さんへ

 今回書き込みありがとうございます。お返事がおそくなりました。あなたの現状認識はおそらく、間違っていませんよ。つまり、僕は間違っていないから問題だ、という立場です。むしろ、こうお尋ねしたい。この見ようによっては、あきらめてしまうほどに運動部の体罰的風土は根深いということです。それに対して、あなたのようなお立場に立つことは十分可能です。

 さて、私は立場上、体罰を人権という角度からとりあげていますが、こちらのほうもお読みいただければ、幸いです。

http://blog.goo.ne.jp/kmasaji/e/2167e8c4a1fc9247076dad1913054d58
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戸塚ヨットスクール (体罰反対)
2006-05-02 22:19:50
初めて書かせていただきます。駒大苫小牧の体罰の文章を読んで、質問があるんです。

最近静岡刑務所に服役していた戸塚ヨットスクールの校長戸塚宏さんが出所し世間を騒がせました。私は彼の言葉に驚愕したのです。刑務所に行き少しは反省したと思っていたのですが、彼から出てきた言葉は「体罰は教育」でした。私はこの方の教育方針に大きな問題があると思ったんです。教育基本法では「生徒に懲戒を加えることはできても体罰はしてはいけない」とありますよね?なのに彼は未だに体罰肯定主義者なんです。これって木村さんはどう思いますか?戸塚さんいわく「今の教育(体罰を否定する教育)が日本をダメにした」とも言ってました。生徒に暴力をふるう行為は暴行罪、また死なせるなんてのは殺人罪に該当するのに体罰を続けるっていうんです。このことを踏まえて意見をお聞かせください。私は体罰が絶対理解できないんです。
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戸塚氏の件はまた正式に書きたいと思います。 (木村正司)
2006-05-06 19:13:53
体罰反対様

このたびは私のブログにお越しいただきましてありがとうございました。お返事が遅れましたことをお詫び申し上げます。戸塚氏についてはまたじっくり書きたいのですが、一応応急の事を書きました。名前をクリックしてください。
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Unknown (体罰反対)
2006-05-06 20:50:52
このたびはわざわざ記事にしてくださり有難うございました。これを機に皆さんの体罰への関心はもとより、体罰と教育のあり方を考えていきたいですね。
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