《ニュース》

「米中諜報戦」に、改めて注目が集まっています。

 

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙とニューヨーク・タイムズ(NYT)紙が米政府高官らに取材し、米中央情報局(CIA)と中国情報機関の国家安全部(MSS)が"一騎打ち"を繰り広げていることを、立て続けに報じました。

 

《詳細》

前提として、MSSは中国の国務院(内閣)に属し、対外情報収集や中国国内での防諜、また通信傍受(シギント)など広範に活動を担う諜報組織です。

 

ウォール・ストリート・ジャーナル紙は昨年12月26日、ニューヨーク・タイムズ紙は翌27日にそれぞれ、「中国が一網打尽の米スパイ網、CIAは再構築に苦戦」「中国諜報機関がCIAの難題となっている」と題し、諜報戦において中国がアメリカへのプレッシャーを強めている状況を報じました(WSJは日本語版タイトル)。

 

習近平氏が共産党総書記となったのが2012年末、中国国家主席に就任したのが13年ですが、2010年から12年にかけて、アメリカは中国における工作員(情報提供者)のネットワークを喪失しています。米政府が公式に認めたことはないものの、中国政府が数十人に上るCIAの協力者を殺害・投獄したことは、公然の事実とされてきました。

 

この度WSJ紙が報じたのは、CIAが中国を最上位の諜報対象国としながら、「今もなお人的諜報能力の再構築に苦労している」ことです。

 

「最近まで機密指定の報告書を読んでいたという元情報機関高官は『中国指導部の計画や意図の本質を見抜けていない』と語った」

 

「中国に対する諜報活動は、10年前に工作員を失ったことで、当時より格段にやりにくくなっている。安全保障を最優先とする習氏の国家戦略の下で、ジョージ・オーウェルが描いた未来の全体主義社会のような監視システムが整備されたことにより、中国国内でのスパイ活動は極めて困難になった」

 

CIAが中国における工作員ネットワークに壊滅的な打撃を受ける一方、権力の座に就いた習氏は覇権国家を目指して広範な諜報活動を展開。アメリカの機密情報を手に入れるため政府関係者らを買収するなど、人的諜報活動を強化します。WSJが取材した現・元情報機関職員によると、習氏の独裁的傾向を危惧したCIAは、ホワイトハウスに繰り返し報告するも、当時のオバマ政権はこの分析をほとんど無視したとのことです。

 

NYT紙も、中国のMSSがAIなどの先端技術を使って、アメリカと対決しようとしていると報じています。

 

同紙は、MSSが情報機関としての実力を大幅に上げ、「今や世界的な情報収集と裏工作において、CIAと互角に渡り合っている」と指摘。特に、要注意人物を追跡する監視カメラやAIプログラムの技術開発が進んでいるといいます。

 

同紙によると、中国情報機関はコロナ・パンデミックの最中、自国の技術請合い業者と会合。彼らに対し、北京の大使館地域で外国人外交官や軍将校、情報工作員を追跡する監視カメラの技術がニーズを満たしていないと訴えたとのこと。その上で情報機関側は、車のナンバープレートや、携帯電話のデータ、連作先などを含むデータベースや多数のカメラ情報をAIプログラムに与えることを提案し、要注意人物の情報を即座に作成した上で、彼らの行動パターンを分析するAIプログラムを求めたといいます。

 

NYT紙が入手した内部会議メモによれば、AIが生成するプロファイルによって、中国情報機関はターゲットを選択し、対象のネットワークや脆弱性を正確に特定できるようになるとのことです。

 

ウィリアム・バーンズCIA長官は中国への対応を長期的な最優先事項にするとし、中国だけを対象とした活動統合機関「中国ミッションセンター」を設立するなどしていますが、なおアメリカが後手に回っているのではないかと懸念されています。