《本記事のポイント》

  • 欧米は軍部の術中にはまり、ミャンマーと中国とを接近させた
  • 日本型の民主主義をアジアに根付かせることは可能
  • 日本は憲法9条を改正し「保護する責任」を果たせ

 

 

ミャンマーで流血が続いている。15日、治安部隊がデモ隊に発砲し、最大で39人が亡くなり、クーデター後最悪の事態となっている。

 

そのミャンマーでクーデターが起きた後の2月下旬、軍部と中国とが非公開で行った電話会議がリークされた。外部への流出に関わったとされる外務省職員2人は、12日までに拘束されている。

 

地元メディアによると、中国は国軍との会議で雲南省昆明とミャンマー西部チャオピューを結ぶパイプラインの警備強化を求めてきたという。

 

国軍を擁護する中国に反発したデモ隊が、パイプラインの攻撃を主張しているため、中国側が懸念を伝えた模様である。

 

このパイプラインは、天然ガス用が2013年、原油用が17年に運用が開始されている。

 

中国は高まる天然ガスの需要の半分近くを、関係が悪化するオーストラリアから輸入してきたため、ミャンマー産を増やしている。また原油はマラッカ海峡を経由して中東から輸入しているため、インド洋から直接陸路で中国に輸送できるルートは、死活的に重要で、この点においてチャオピューは、中国のエネルギー安全保障の要衝となっている。

 

このパイプラインがデモ隊に狙われたのでは、たまったものではない──ということで、中国は現地メディアに圧力をかけることも要求したという。

 

ヤンゴンの中国大使館前では、市民が「中国はクーデターを非難しろ」と声を挙げているという。またSNSでは「中国のクーデター関与説」まで飛び交っている。「当局の取り締まり要員から中国語のような声が聞こえる」とも言われ、不信感が高まっている。香港デモにおいても、北京語を使う警察官が、香港人の警察のふりをしていると市民が噂をしていたのを思い出す。

 

状況証拠を積み重ねていくと、「軍部クーデターの後ろ盾に中国がいる」という国民の不信は高まっていくばかりだろう。今回の電話会議は、その一つの証拠となるはずだ。

 

 

欧米は軍部の術中にはまり、ミャンマーと中国とを接近させた

クーデター"成功"の最も大きな原因となったのは、2017年のロヒンギャ問題をきっかけに欧米がミャンマーと途端に距離を置き始めたことだ。アムネスティ・インターナショナルは、アウンサン・スー・チー国家最高顧問への賞を取り消し、欧米企業はミャンマーからそそくさと逃げ出した。

 

その八方塞がりになったミャンマーを「一帯一路」などで取り込んできたのが中国である。米外交評論家のウォルター・ラッセル・ミード氏によると、軍部はロヒンギャ問題をスー・チー氏と西側の協力者との関係を断ち切るために意図的に利用してきたという。これは、スー・チー氏の反対者や支持者の枠を超え、共通の見解となっているというのだ。

 

スー・チー氏を天使のように持ち上げたかと思えば、一転して悪魔扱いする。ハンチントンは宗教こそが今後の世界を占う断層線となるとしたが、その慧眼は届かず、欧米は「人権弾圧者」として、スー・チー氏を切り捨てた。

 

これはまたしても欧米の失策である。ウクライナ問題で、ロシアと中国を近づけたのと同様、本来は分断しておかなければならなかったミャンマーと中国とを接近させるチャンスをつくってしまったのである。

 

 

日本に世界の平和と安全のために貢献してほしい

そうはいってもミャンマー国民は反中だ。50年間軍事独裁に苦しみ、2011年からの10年間で民主主義を経験しつつあったミャンマー国民は、中国や北朝鮮のような体制に憧れはしない。あくまでも経済的実利から、中国との関係を深めていただけであった。

 

それを示すのは、シンガポールの独立系シンクタンクISEAS(The ISEAS-Yusof Ishak Institute)の研究結果である。この研究はASEANとアジアなどの地域について専門知識を有する域内有力者を対象にして、ASEAN10カ国で行われた調査である。

 

「米中覇権争いの下で連携すべき信頼できる戦略的パートナーは?」との質問に対して、「日本」との回答がトップで38%だったが、特にミャンマーでは53.3%とずば抜けて高い。「世界の平和、安全保障、繁栄、ガバナンスに貢献するために正しいことを実施する国であると信頼できる国は?」との質問に対し、ASEAN全体で「日本」とした回答は61.2%と、これまた最も高い。ここでも、ミャンマーは「信頼できる」、「少し信頼できる」との回答が合わせて57%にも上った。

 

しかし「政治および戦略面で最も影響力のある国」という問いでは、「中国」という回答が52.2%と最も多く、「日本」は1.8%にすぎなかった。だが「中国の影響力の拡大は懸念する」との回答が85.4%と極めて高いという調査結果もある。

 

総評すれば、ASEANとりわけミャンマーは、「日本への高い信頼度がありながらも、政治および戦略面での影響は低いと見ている。だが中国の影響力を拡大するのは心配。だからこそ世界の平和と安全のために日本に貢献してほしい」という期待感が高いということになるだろう。

 

 

日本型の民主主義をアジアに根付かせることは可能である

こうした日本への高い信頼の背景には、ODAの供与を含めた継続的な努力などが評価されていることもある。またロヒンギャ問題で、手のひらを反すように民主化支援を止めた欧米よりも、その後も継続的に支援をしてきたことへの感謝もあるかもしれない。

 

またアジアの仏教国という文化的なつながりから、民主化への手本となる──という面もあるだろう。なぜなら法制度は歴史の中で、特に宗教的土壌から発展するものであり、合理的につくられるものではないからである。その点、アジアの諸国がそのお手本を、文化・文明的に同じ根を持つ日本に求めるのは極めて自然なことである。ローマ帝国が拡大したのも、軍事力のみならず、ローマという国に対する尊敬や魅力があったことを忘れてはならない。

 

彼らの期待に応えるには、「人権」「民主化」は主要な戦略になる。

 

欧米ではプロテスタントが生まれる過程で、近代民主主義の中心的な価値が成立してきた。一方日本には、大乗仏教の教えが伝わり、一人ひとりに仏性があるという考え方が根を下ろした。これは西洋のデモクラシーと一致するもので、「神仏の子としての自由が尊重されなければならない」という意味で人権の根拠となった。

 

高齢のスー・チー氏を拘束し、衰弱死させれば、後継者が育っていない国民民主連盟(NLD)は空中分解させられる。そんな軍部の思惑を実現させてはならないだろう。

 

日本政府は、人権および民主主義を掲げる立場から、スー・チー氏の即時解放、民間人への殺戮行為の停止等を求めると共に、国際的な世論づくりを急ぐべきである。

 

 

日本は憲法9条を改正し「保護する責任」を果たせ

気になるのは、軍部側がさらに危険な本心を持っていることだ。大川隆法・幸福の科学総裁はこのほど、ミン・アウン・フライン最高司令官の守護霊霊言を行った。その中で同守護霊は、「手本としては、カンボジアがそうだね。だから、外国帰りの人たちをみんな総狩りっていうか、みんな粛清して、インテリを粛清したら、国は平和になるということやね」と、未来の"シナリオ"を述べていたのである。

 

要するに、ミャンマーのカンボジア化である。カンボジアでは共産主義化の過程で200万人が虐殺された。眼鏡をかけているだけで、外国帰りのインテリと見なされて虐殺の対象となったと言われる。

 

粛清を本心で肯定する軍事政権下で今後、カンボジアのように数百万人単位のミャンマー国民が虐殺される未来が来るかもしれない。その時、日本はどのような対応をすべきか。

 

参考になるのは、大川総裁が2012年に行った、幕末の思想家・横井小楠の霊言である。

 

けれども、もし、日本が、先の大戦で負けておらず、強国のままでいたとしたら、要するに、先の第二次大戦で、アメリカに負けずに、アメリカと対等の状態で平和条約を結んでいたとしたら、『中国で、文化大革命が起きて、三千万もの人が殺される』というような状況に対しては、当然、日本軍は出動して、それをやめさせに入ったはずだ」(『横井小楠 日本と世界の「正義」を語る』)

 

つまり現代の国際政治における「保護する責任」を、大国としての日本は果たしていたはずだということである。

 

「保護する責任(Responsibility to Protect)」とは、近隣諸国で大量虐殺等が行われている場合、迅速な介入をすべきであるという理論である。コソボ危機などでセルビア人によるアルバニア人の虐殺を防ぐために、この理論が援用された。

 

内政不干渉を超えて介入すべきであるとするこの理論の根底には、ユダヤ人の虐殺は、国際社会のドイツに対する宥和政策から起きてしまったことにあるという反省がある。このことから「迅速な介入」は正当化されることが多い。

 

では、日本は「保護する責任」を担えるのか。HSUで安全保障学等を教える河田成治アソシエイト・プロフェッサーはこう述べる。

 

「1993年に、ルワンダでのツチ族とフツ族の争いを止めるために、国連PKOが人道的介入を行いました。しかし1994年、PKO部隊に十分な人員と装備がなかったため、PKOベルギー部隊が政府軍に襲撃、惨殺されてしまいます。そのためベルギーおよび全欧州部隊は撤退を決定する一方、PKOは強化されることなく、4月以降の約100日間に50万人~100万人のツチ族とフツ族が虐殺されてしまいます。このPKOによる人道的介入は、大失敗となってしまいました。

 

これらの教訓から、PKOは変化していきます。『保護する責任』と呼ばれますが、主権国家が自国民を保護する責任を果たせない場合、国際社会がその責任を負うという考え方です。この『保護する責任』は、国家主権や内政不干渉の原則に優先して、国際社会は人道的介入が許されるという考え方です。また、PKO部隊は、対立者間に対する中立性よりも公正を重視し、どちらかが不正なら厳粛に対処し、必要なら武力行使(強制措置)を行うと決めました。

 

このことから、近年、PKOは戦闘員として派遣されるようになってきたため、自衛隊は難しい立場に置かれることになりました。日本は2015年のPKO法改正で、正当防衛などの自己保存の目的のみならず、現地住民の安全確保などのために武器の使用が認められるようになったものの、自衛隊は憲法9条で禁じられた『武力行使』にならないよう、この武器の使用には厳しい制約が課せられています。したがって、自衛隊がPKOなどで人道的介入に加わったならば、殉職者が出る恐れは高いでしょう。

 

やはり交戦権を認めないとする憲法9条の改正をしなければ、アジアの平和と安全を護る任務を自衛隊が果たすことは難しいのです」

 

先ごろ開催された「クワッド」こと日米豪印の電話会議では、アメリカ側がクワッドをアジア版のNATOにしていく意志は、限りなく低く、アジアへの軍事的コミットに及び腰であることが伝わってきた。

 

アメリカも日本も及び腰であれば、東南アジア諸国での虐殺が放置されることになりかねない。それではユダヤ人虐殺の人類の反省を生かすことにはならないだろう。傍観はエゴイズムに過ぎない。「戦後」を終わらせ、ミャンマーの人々の日本への期待を裏切ることがあってはならない。

(長華子)

 

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