天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

小澤實先生徹底抗戦

2017-11-03 05:45:28 | 俳句


雑誌『俳句』11月号(角川文化振興財団)は、角川俳句賞を月野ぽぽなの「人のかたち」50句に授与した。
選考委員は小澤實、岸本尚毅、仁平勝、正木ゆう子の4氏。

受賞した月野さんの句は以下のようなもの。
水かけて家壊すなり橡の花
気付かれぬように雪から帰りけり  
エーゲ海色の翼の扇風機
黙禱を包むつくつく法師かな
いくたびも車窓に目覚め緑濃し
またたきで仕上げる春の付け睫毛
コスモスの風がギプスの子に届く
はじまりは紐のようなり揚花火
一匹の芋虫にぎやかにすすむ
息止めて聖夜の肉に刃を入れる
自らの蕊に汚れる白百合よ


仁平さんの◎、正木さんの〇で最終選考に残った。岸本さんも月野さんを押してもいいという雰囲気になったが小澤實さんが徹底的に反対した。
小澤「人のかたちは弱いと思います。句を詠むことによって新たな世界を開いていなくて、既存の中で終っているような。この先に俳句の可能性はないような気がします。
良さは感じています。でも、心地よいムードや言葉が新たな向う岸にまで行っていない気がするんです。ぼんやりとした内面にいる。五十句すべてそういう句だと思うんです。句を通して外の世界へ行けていない。」
小澤さんは特に白百合のようにありふれた句が入っていることを嫌った。小澤さんの反対が凄いのでほかの選考委員から受賞作なしでいくかという提案が出るほど。
しかし小澤さんが「受賞作なしはぜったいだめ」といい、再度人のかたちのよさを聞かせてください、納得したら賛成します、という。
正木「自分の感覚や見たものを細やかに素直に言葉にしている。それが無理なくてのびやか。やや大人しい感じはあるけれどウィットもほどよくあります。」
仁平「自分の言葉を探そうとしている姿勢を感じました。」
岸本「句のもとになる感情の幅はとても広くあります。表現のマイナス面はさんざん指摘しましたが、じわっと伝わるよさもあって、読めば読むほど傾きます。」
納得はしないが小澤さんはいちおう矛を納める。
小澤さんが月野作品より力があるとして評価したのが兼城雄(鷹)の「若草」。◎ではなく〇であったが選考の過程でえらく気に入ってきたらしく彼の次の句を挙げ、俳句は実体があるべきことをほかの選考委員に訴える。

雷鳴に殴られて町しづかなり 
拝所(うがんじゅ)の巌つめたし黒揚羽
うしろから父の来てゐる泉かな
基地出口即酒場町旱星
死者生者汗まみれなりデモの列
少年になつく自転車仏桑花
若夏や珊瑚は死して雲の色


ぼくは小澤さんが月野さんを認めないことがよくわかる。心地よいムードで実が乏しいという意見についていける。ぼくも月野作品より実のある兼城作品のほうにひかれる。
かつてぼくがこの賞に応募して予選に残ったとき小澤さんの〇がついたこともありソリッドを尊ぶ小澤さんの俳句観にひかれている。
けれど世の中は仁平さんが新たにこの賞の選考委員になったようにやわらかな方向へ流れていっている。それは止まらないだろう。
俳句界は仁平さん的やわらかさに小澤さん的な密度の濃さが対抗する。小澤さんは少数派のような気がする。そしてぼくも少数派なのだろうと思う。
そういう座談会であった。
コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ラインがこんがらかる | トップ | とにかくソフトバンクを応援... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして (けい)
2017-11-11 07:02:51
「鷹」の方と福岡にてお会いしたことのある俳句愛好者です。小澤先生徹底抗戦 興味深く拝読しました。
是非11月号を図書館で読もうと思いました。
畏れながら私もわたる様と同じ気持ちを抱いたと思います。(私がソリッドな句を詠めるわけではありませんが)
今後とも俳句愛に満ちた刺激ある記事を楽しみにしています。有り難うございました。
返信する

コメントを投稿

俳句」カテゴリの最新記事