天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

鷹1月号2句欄を読む――その2

2018-01-03 09:39:33 | 俳句

発行所:鷹俳句会 
〒102-0073 東京都千代田区九段北1-9-5-311
購読料(送料込)6か月:7800円、1年:15600円


残る蟬婚活パーティー四回目  大塚絵里香
婚活パーティーはテレビドラマの中のものと思っていた。行き違いなど興味深くドラマは展開するが、この句を読むと実際たいへんだと痛感する。「婚活パーティー四回目」と事実でおさえた句は強い。残る蟬のあとは冬が来る…季語の斡旋が巧みで句はおもしろいが現実は辛いね。


名月を誉め植木屋の仕舞ひけり  坂本淳子
よく働く植木屋である。作者と懇意で暗くなるまでやってくれるのだろう。「名月を誉め」でていねいな仕事ぶりがうかがえる。


味噌を搗く赤城颪の農学校  内堀順子
赤城颪は群馬県の空っ風である。それはさらに「かかあ天下と空っ風」と発展する。「味噌を搗く」に働き者を称える風情があり、土地柄の出た親しみに満ちた句である。


家毎の短き橋や石蕗の花  松井大子
街道の端を小川が流れそれをまたいで家並がある。そういう地勢は親しみがある。1メートルほどの橋と清水の流れを感じ、清新の気が得られる内容。


月見会母の形見に袖通す  須田英子
形見の物を詠んだ句は多いがこれは「月見会」を出して洒落ている。着物の種類を言っていないがここは読み手が想像して楽しむところ。


見えぬ雨降りてをりたる寒さかな  飯島俊子
細かい雨を小糠雨というがこの雨はもっとかそけき感じ。幽玄の世界でこころ遊ばせている。


犬連れて犬の話や草紅葉  柳沢紘子
むかしシベリアンハスキーを飼っていた。広場へ犬を連れて行くと必ずこういう場面に遭遇した。この雰囲気が嫌で犬は好きだが犬好き人種は嫌いだった。さて作者も犬を連れて犬仲間と話しているのだろうか。


一面の白き蕎麦畑バスを待つ  寺島智子
花と書いてないが蕎麦の花である。こういう場所なら1時間ほど待ってもいいと思わせる内容。


浜風に髪の重たき花野かな  廣田昭子
潮が髪にしみついて潮湿りしているのだろう。海近くの花野の特殊性が出ている。潮湿りのみでなく盛りを過ぎた女の懈怠のようなものが出ているところがいい。


けふの月塾の終りを待ちにけり  大川重炎
作者が講義を受けていて嫌になっているのか。あるいは塾にいる人を待っているのか。いずれにしても名月と塾のからみは味がある。


居待月通夜の弁当余りたる  村上景子
死んだ人を抒情的に描こうとすると俳句はだいたい破綻する。このように物でおさえて側面から迫る句は切実でやるせない。


霧の湖窓に現の夫映る  岩佐恭子
「現の夫」がこの句のおもしろさの決め手。ロマンチックな景色に、一瞬作者は夫でない、もっと素敵な、星の王子様を夢想したのではないか。夫婦で旅した場面と考えるとおもしろみは倍増。


母の耳遠し一位の実の赤し  中川倫子
一位の木じたい静かで実の赤さもつつましい。それゆえ母の耳の遠いことを支援するような風情がある。母も一位も静かな時間にあるのを肯う作者がいる。


星飛べる旅の小暗き湯殿かな  野田悠美子
東北の山奥の温泉を思う。共同浴場ではないかもしれぬが鄙びた湯で昼なお暗い感じ。旅情を誘う句である。


行く秋や十円拾ふ部屋の隅  杉浦昭夫
1円でなく百円でなく十円というのが季語に合う。小生の部屋と違いいつもきれいで畳が見える部屋だと推察する。乱雑な部屋でないから十円がさびしいのである。


手相見の灯影の揺れてそぞろ寒  木谷晴子
だいたい手相を見てもらうという行為がうらぶれた感じがする。そういえばあの灯影は揺れている。


浄瑠璃の情に倦みけり添水聴く  塩田シノブ
人形にしては情を巧みに表現する浄瑠璃。「情に倦みけり」が作者の言葉で押してくる。添水があるとは奥ゆかしい。


追ひかけて渡す財布や銀杏散る  田中なお
おもしろい場面である。財布は居間の卓上とかにあったのだろう。そうでないとこの句はできなかった。


見上ぐれば見下ろす麒麟秋高し  栗栖住雄
「おまえなに者」というふうに麒麟の顔が下りてくる。人間の小ささを感じるときである。自嘲の意識がおもしろい句にした。


満州の追はれし家の氷柱かな  西尾欣享
作者は80歳を越えているか。満州からの引揚者なのだろうか。特異な事情を回想している。作者からかの満州に展開した事実のあれこれを聞きに行きたい思い。


神無月沖を黒潮蛇行せり  端野文子
黒潮が大蛇行する年だと気象庁がいう。そういうときは大災害が起こると心配する。神無月を配したことで気象庁発表を見事に詩に昇華した。


秋燕や牧のはたての海の色  久保いさを
書いてはないが海の色は紫紺かあと思う。配した季語や言葉の運びでそう思わせるのがうまい。


レントゲン透かす主治医や秋深し  岡 篤
異常がなくてもこのシーンは嫌。身体が白く見えるのも無機質でぞっとする。


夕鵙や薄く畳まれ車椅子  和田妙子
デイサービスを離れるときか。「薄く畳まれ」は車椅子を車に積み本人は座席に介助されて乗りこんだのだろう。季語がなんともいい。


ひとり言ひとり笑ふや秋の風  古川英子
さびしさの極致。何をいって笑ったのだろう。たぶんたいしたことでないと思うとなおさらさびしい。


観覧車天辺檸檬齧りけり  笹木裕美
この心理はわかりますね。空と自分だけという意識が行動を自由にする。仲のいい男女なら抱き合って……ということになろうか。


やんわりと子に言い聞かす熟柿かな  兼口文子
ユニークが熟柿の句である。子は熟柿をゼリー菓子のようにスプーンですくって食べているのだろうか。


あやまちの帰りたわわの柿灯る  今岡直孝
鷹主宰が注目している作者で調子のいいときは「今岡ワールド」と称賛する。「あやまちの帰り」が自分勝手ながら味のあるところ。読み手は不純異性交遊などを想像すればいいのか。


十二月八日屑米島に撒く  千光寺昭子
真珠湾を奇襲攻撃した日。屑米も島もかの太平洋戦争に大いに関係した言葉。どこの島かわからず大ざっぱであるがこの二つの言葉が戦争を象徴している。


買物は父の襁褓よ穴惑  藤本ちどり
突き放した言い方に作者と父上の置かれている事情が端的に出ていてせつない。それにしても「穴惑」はきつい季語である。ここでぎらぎら本音を見せたのがいい。


影に影重ねて秋の蝶ふたつ  高木風華
蝶が別々の方向から来て出会ったのだろう。「影に影重ねて」がていねいで抒情を醸す。これは春の蝶より秋の蝶の趣。


鶏の飛ばぬ羽ばたき秋の暮  田上比呂美
見逃しやすいところを言葉にした俳人魂を感じる。たしかに鶏は飛べないがたまに羽ばたく。それが切ない秋の暮。


アトランダムに気になった句をみてきて、知った名前より圧倒的に知らない人が多い。
約1300名いる鷹の面々のなかで、顔を知っている人はせいぜい100人ていど。こうして読んでみて名前を知る。会って話してみたい人を知る。
実にたくさんの雰囲気のある名前があってそれも知ることも楽しい。
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