1.風の払暁
船戸与一『満州国演義』(新潮社)は以下のように全9巻で、原稿枚数7500枚を超すという大作である。
1.風の払暁 (2007年4月)
2.事変の夜 (2007年4月)
3.群狼の舞 (2007年12月)
4.炎の回廊 (2008年6月)
5.灰燼の暦 (2009年1月)
6.大地の牙 (2011年4月)
7.雷の波濤 (2012年6月)
8.南冥の雫 (2013年12月)
9.残夢の骸 (2015年2月)
2.事変の夜 (2007年4月)
3.群狼の舞 (2007年12月)
4.炎の回廊 (2008年6月)
5.灰燼の暦 (2009年1月)
6.大地の牙 (2011年4月)
7.雷の波濤 (2012年6月)
8.南冥の雫 (2013年12月)
9.残夢の骸 (2015年2月)
内容(「BOOK」データベースより)
霊南坂の名家に生を受けた敷島四兄弟は、異なる道を歩んだ。奉天総領事館に勤務する外交官、太郎。満州で馬賊を率いる、次郎。関東軍の策謀に関わる陸軍小尉、三郎。左翼思想に共鳴する早大生、四郎。昭和三年六月、奉天近郊で張作霖が謀殺された。そして時代の激流は彼ら四人を呑みこんでゆく。「王道楽土」満州国を主舞台に、日本と戦争を描き切る、著者畢生の大河オデッセイ。
満洲のことはずっと興味があり2年前のある時期、満洲関係図書を30冊ほど読んだ。そのとき船戸与一のこの大作はむろん知っていたが、フィクションに没頭する気になれなかった。
しかし、出来事や事柄を取り込んでも教科書を読んでいるようで満洲のことはいまいちピンと来なかった。その後、偶然読んだ角田光代の『ツリーハウス』は満洲ものの傑作であった。自堕落な生活を送る孫が自分のルーツに興味を抱き、呆けが来た祖母に付き添い満洲を訪ねる内容。
満洲の気象、空気感、生きた人々の匂い、等々を血肉とし感じ、フィクションのリアリティを再認識したのであった。
ノンフィクション、フィクションという分類はあるにはあるが、ノンフィクションと謳ってみたところで書くことは事実そのものを伝えることにはならない。必ず書いた人の思惑が入る。
船戸与一は、
「当時起きたどんな事象も、後世の高みから断罪する気はないからね。満州と聞くとすぐ日本の侵略となじる連中も、もしその場にいたら何をするか知れないし、俺らの世代は“状況が人間を作る”ってことが身にしみている。過酷な状況に置かれた人間がどう行動するかを、一切の是非も感傷も抜きに書いたつもり」という。
第1巻の「風の払暁」では、敷島四兄弟に接する関東軍特務機関の男が不気味。特に無政府主義にかぶれていた四郎がその男の指示で上海の東亜同文書院へ送られて、日本国ないし満洲国に有意な人材になっていく気配がして不気味。
作中、特に次の語彙にはじめて遭遇し勉強になったとともに想像を掻き立てられた。
易幟(えきし)=張作霖爆殺事件の後、父・張作霖の後を継いだ張学良が、北洋政府が使用していた五色旗から蒋介石率いる国民政府の旗(青天白日満地紅旗)に換え、国民政府に降伏した事件のこと。
廕(いん)=アヘン中毒
便衣(べんい)=一般市民と同じ私服・民族服などを着用し民間人に偽装すること。
緑林(りょくりん)=盗賊のたてこもる地。また、盗賊。
攬把(らんぱ)=馬賊の首領