けろっぴぃの日記

最近、政治のことをはじめとして目を覆いたくなるような現状が多々あります。小さな力ですが、意見を発信しようと思います。

役割分担をした安倍総理とバイデン副大統領の演技

2013-12-05 23:55:00 | 政治
アメリカのバイデン副大統領が日本、中国、韓国と歴訪している。この中での話題の中心は当然ながら中国の防空識別圏問題であるが、バイデン副大統領と習近平国家主席との会談の中では、防空識別圏の撤回を求めなかったことが報じられている。さらには、アメリカの民間航空会社は中国からの飛行計画提出の要求に応じて計画を提出しているとも報道があり、日本政府が日本航空、全日空などに飛行計画の提出の自粛を要求したのと対照的な対応から、日本のマスコミの中には「ハシゴをを外された」感があるとの論評もある。今日はこの点についてコメントしたい。

まず最初に確認しておきたいことは、安倍総理にしてもアメリカ政府にしても、何らかの戦略をもって臨んでいるはずであるということである。戦略なしに一方的に好き放題言うのは無責任な評論家のすることで、国家の最高責任者たる安倍総理は、当然ながら国益を最大化するための戦略を持っている。アメリカという国は極めてしたたかで、軍事的な意味合いが強い案件に対してこの国が戦略なしに動くことは有り得ない。だから、国益を最大化するにはどうすれば良いかというのを熟考し、その結果得られた最良のゴールに向けて、中国が自ら進んでいくような仕掛けを考えていると見るのが妥当だろう。

少し話が逸れるが、例えば尖閣諸島の領有権問題を例に取って考えてみたい。日本の主張は明確で、日本固有の領土だから領土問題など存在しないという主張だが、アメリカはその日本の主張をそのまま認めることはせず、「領土問題にはアメリカは中立な立場を取り、どちらの側にもつかない」としている。元々、アメリカが沖縄を占領していた時代にはアメリカが自国領として好き放題に利用していたのだから、そんな殺生なことを言わないでよ・・・と言いたくなるところだが、アメリカの国益としては無駄に他国の争いに巻き込まれるのは好ましくない。一般的なマスコミの論調はこんなところだろう。ただ、日本の施政権自体は認めており、以前から尖閣は日米安保条約第5条の適用範囲であると宣言し、これを損なういかなる動きにも反対するとの立場を表明していた。つい先日にはケリー国務長官、ヘーゲル国防長官がそれぞれ声明を発表し、異例なことに国防長官名で公表した「文書」に尖閣諸島への日米安保条約第5条適用を明記までしたという。この様なニュースを聞くと、「まあ、そんなものか・・・」とスルーしてしまいそうだが、冷静に考えれば論理的に破綻している。もし、領土問題に巻き込まれるのがアメリカの国益に反するなら、日米安保条約第5条の適用範囲と明言することは賢明ではない。「適用されるかも知れないし、適用されないかも知れない」と言っておけば、中国に対する抑止力にはなるが、日本に対しても言質を取られないから、アメリカの選択肢をフリーにするメリットがある。それを敢えて捨てているというのは俄かには分かりずらい。

この問題の読み解き方が、一連の流れの答えだと私は最近気が付いた。それは、一見、自己矛盾しているように見える尖閣に関するアメリカのスタンスを、矛盾しない形で理解する方法がある。言われてみれば単純なのだが、それは「(日米安保条約第5条の適用範囲と明言することで)軍事的な意味を含む強制力による領土問題の解決に関してはアメリカは武力をもって阻止するが、国際司法裁判所などを通じた平和的な法の下での問題解決を図る限りにおいては、アメリカは中立を貫く」と高らかに宣言していることに他ならない。そして、アメリカは国際司法裁判所に提訴すれば日本が勝つことを熟知しているから、実質的には領土問題について「日本の側に寄り添っている」ことになるのである。今までもブログで何度も書いてきたが、安倍総理の口癖である「法の下の支配」がアメリカにとっても同様に原理原則であり、中国に対抗するための最大・最強のカードだと認識しているのである。この点では、安倍総理とアメリカ政府の認識は完全に一致している。

さて、この様に考えながら中国の防空識別圏に対する対応を考えてみる。日本からすれば、尖閣諸島という日本固有の領土を含む防空識別圏は、論理的に有り得ないので当然ながら「撤回を強く要求」するしかない。しかし、アメリカからすれば防空識別圏の設定は国際法上は何ら制限されるものではない。だから、尖閣諸島に対して軍事的な強制力を伴わなければ中立であるはずのアメリカ政府からすれば、アメリカ国内の民間航空会社が飛行計画の提出に応じてもそれを止めさせることは(領土問題で日本の側についていると宣言する)一歩踏み出すことに繋がる。しかし、中国が誤った最大の問題はその運用のルールであり、防空識別圏に侵入した航空機に対して「指示に従わない場合には防衛的な措置を講ずる」というのは公海上の航行の自由を定めた国際法に違反しており、この部分については絶対に受け入れることなどできない。だから、運用ルールの見直しはアメリカ政府として当然求めるし、東アジアの状況の一方的な変更を認めないという原理原則も当然中国に伝えているはずである。それが、日本人としては「撤回を求める」べきだと感じてしまうから、そこに温度差の様なものを感じてしまうのである。したがって、ハシゴを外されたと感じるのは単なる日本人の思い込みであり、実際にはハシゴなど外されてはいないのである。

では、一体どの様な戦略がそこにあるのか?まずは、中国政府はメンツを潰されるのを思いっきり嫌うから、防空識別圏の撤回要求を幾ら強く求めても、中国は絶対に認めるはずがない。中国のメンツを立てながら事態を改善に向かわせるには、日本政府が思いっきり怒ったふりをして、そしてアメリカ政府が中国に助け船を出し、中国政府が日本への対抗意識から日本にとっては当然受け入れられない条件にてアメリカと和解し、中国国内向けには「日本政府が呑めないような条件を勝ち取った」と言い訳が出来る落としどころに誘導するのである。それは、「飛行計画提出の強制」と、「指示に従わない航空機への防衛的な措置」の撤回を中国に呑ませるのである。

こう聞くと、「それって、中国の方が勝ち取ったものの方が大きいんじゃない?」と思われるかも知れないがそうではない。この撤回は、国際法のルールに則った行動を中国に呑ませることを意味する。そして、まずはここまで中国に後退させ、さらにその後で追い討ちを逐次かけるのである。このタイミングで日本政府は次のように中国を非難するのである。

「尖閣諸島はあくまでも日本固有の領土であり、その領土・領空に被る形で他国の防衛識別圏を設定することは国際法のルールに反する行為である。尖閣諸島は日本固有の領土だから日本政府が尖閣諸島上空に防衛識別圏を設定したのは当然であるが、中国政府はその当時(1969年)は尖閣諸島の領有権を主張していなかったし、その結果、日本による尖閣上空を含む防空識別圏設定に対しても中国政府は反対していなかった。だから、現状を一方的に変え、日本固有の領土である尖閣上空に防空識別圏を勝手に設定した中国の違法性を国際社会に問いたい!」

と訴えるのである。当然ながら、先日のブログ「国際司法裁判所に『日本の領土に中国が防空識別圏を設定した』と訴えろ!」に書いたように、国際司法裁判所に訴えるのである。このタイミングでアメリカは合いの手を差し伸べる。それはこんな感じだろう。

「中国は日本に対して『尖閣諸島の領有権問題を認めろ!』、『小平は尖閣問題の棚上げを主張したが、今回も棚上げに合意しろ!』と言っているくらいだから、尖閣諸島の領有権を日本が主張していることも確実に認識しているはずだ。つまり、中国的には領有権を争っていると自覚している地域に防空識別圏を設定するのは国際ルールに反する。中国が国際ルールを尊重してアメリカの提案した『防空識別圏の運用ルール』に合意したのだから、『法の下の支配』に従い領有権を争う区域に防空識別圏を設定するのはマズイ。だから選択肢はふたつあり、(1)取りあえずは尖閣上空を防空識別圏から外す、(2)日本の要求に応じて国際司法裁判所を通じて尖閣の領有権を主張する、のいずれかを選ぶべきである。」
と諭すのである。これはどちらに転んでも日本にとっては大きなプラスである。一方で、中国は(1)の選択肢を選ぼうものなら政権が持たないから実質(2)しか選択肢はない。もちろん、(2)も選ばずに無視を決め込むというのも中国的には選択肢になり得るが、国際社会はそれを認めはしない。国際法のルールに従う道を示した矢先に国際法を破り捨てるような行為だから、これは結構目立つ行為である。やはり、国際社会からは中国の特異性が強調され、中国への投資意欲は削がれるだろう。そうなれば、徐々に兵糧攻めをしている様なもので、中国の国力は削がれていく。

この様に考えると、日本とアメリカは絶妙の連携をしており、役割分担的に日本が起こったふりをして、アメリカが善意の第三者的に落としどころに誘導するのである。安倍総理とバイデン副大統領はこの辺の役割分担を確認し合ったのだろう。

最後に一言加えておくが、バイデン副大統領と習近平国家主席の会談の映像は何処かで見たような光景だった。以前、胡錦濤国家主席と菅元総理が会談したとき、菅元総理は愚かにも官僚の用意したペーパーを見ながら喋り続け、一方で胡錦濤国家主席はアドリブで相手の顔を見ながら喋っていた。菅元総理が下ばっか見ていて胡錦濤国家主席の顔を見れなかったのを見て、多くの日本人は悲しくなったが、今回の習近平国家主席の行動はそれに近い。つまり、習近平国家主席は政策的にはフリーハンドで自分の判断で出来るものが少なく、集団指導体制の中で決められた路線から外れないようにするために、下ばっかを見て会談する羽目になったのである。

考えてみて欲しい。あなたの交渉相手が菅元総理だったらあなたはどう感じるか?「楽勝間違いなし!」と思うはずだ。バイデン副大統領もその様に感じたはずだ。アメリカが中国に仕掛けた戦略の詳細はまだ伝わってきていない。しかし、それなりの仕掛けがあったはずだ。もう少しすれば、その辺の情報も伝わってくるだろう。楽しみである。

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