けろっぴぃの日記

最近、政治のことをはじめとして目を覆いたくなるような現状が多々あります。小さな力ですが、意見を発信しようと思います。

「台湾関係法」の堅持からも読み取れる米中首脳会談の成果の中身

2013-06-10 22:23:14 | 政治
米中首脳会談が行われた。報道では、そこでの8時間にも及ぶ両首脳の会談時間などを引き合いに出し、「日本は食事を含めて会談時間が1時間45分であることと比較し、アメリカが中国に接近している兆し」というニュアンスで伝えている。また、尖閣問題でも習近平主席が「国家主権と領土の統一を断固として守る」という原理原則を強調した一方で、アメリカは日米同盟に関する言及もなく中国に配慮したような伝え方をしている。

ある意味、中国によるアメリカへの積極姿勢は明らかであり、日本はもっと気を引き締めてかかるべき!というご指摘は十分に正しいものと思う。この点は同意する。しかし、「だから、日本政府は駄目じゃん!」という短絡的なイメージ先行の報道というのは間違いだとも考える。つまり、中国側に立って報道すれば、今回の報道の通りであるのだが、しかし、彼らが楽観的に「勝った!勝った!」と思っているかと言えば、口に出して言わないだけで、相当厳しく感じているというのが実態だろう。

まず、中国はG2という考え方をアメリカに認めさせたいという立場に立ち、すなわち「両者は対等」というスタンスを強調しようとしていた。しかし、冷静に見れば、今回の習近平主席の訪米の様子は、「実質的な世界の王者アメリカに、朝貢的な外交を行った中国」というように見えるのである。プライドの高い中国人だから、表向きは勝者として振舞いながら、心の中では「そんなんで、いいんか!」という意識が少なからずあるのだろう。

大体、今回の会談はアメリカが持ちかけた話だというのに、会談場所はワシントンではなかった。通常は当たり前のファーストレディ外交もアメリカ側に袖にされ、「今から、家族ぐるみの付き合いなど出来ないわ!」と見せ付けられた。オフィシャルには、「あなたとは交渉相手だとは思っているが、世界を2分して管理するパートナーとは思っていない」と突きつけられた訳だから、8時間もの会談が行われたことは体裁上は大歓迎と見ることが出来るが、言ってみれば「箒を逆さまに立てて手ぬぐいをかけて客がいる襖の向こう側で立てかける『逆さ箒』」状態と見るのが妥当だろう。

ついでに言えば、本来は国家間の首脳が会談するのは、本当であれば水面下で事務方が全てのお膳立てをして、後はサインをして世界に発信するセレモニーを待つだけとなってからである。だから、普通考えればトントン拍子に進む議題であれば8時間もの時間を要する訳がない。ある程度までの時間の長さは歓迎の意を表しているのであろうが、8時間もかけて共同声明のひとつも無いということは、日米の対立の深さを表したものと言える。特に、アメリカからの提案で行われた会談ということは、アメリカはサイバー攻撃を中心とする多くの議題で「中国に言いたいことが一杯ある」ということを意味し、それを「一杯、中国に言いたいことを言った」ということが今回の会談のひとつの成果なのである。

特に、尖閣問題では非常に長い時間が費やされたという。中国側の言いたいことはシンプルだから、それをアメリカが聞き流せば長い時間を要することはない。しかし、アメリカ側の主張が伝えられるから、話が長くなるのである。中国は「日本による挑発行動を控えるように!」と主張し、アメリカは「エスカレートさせるべきではない」と答え、報道では「中国に押し切られた」というニュアンスも伝わっている。しかし、この会話の流れを聞けば、当然の如くそこで伝えられたであろう言葉が容易に推測できる。つまり、「日本の挑発行為と言うなら、それを封じる良い手がありますよ!国際司法裁判所に訴えれば、『法の支配』を唱える日本は、裁判に応じざるを得ませんよ!」である。私の予想では、安倍総理はオバマ大統領に対し、事前にこの様に中国をたしなめることを求めていたのではないかと思う。アメリカは、習近平主席を招待した手前、日米同盟を引き合いに出したコメントを控えることにしたのだろうが、大事なことは中国にそのアメリカの意思を示すことである。国際司法裁判所への提訴を促す発言をするには、自らの立ち位置を「中立的」と振舞うのが好都合なので、敢えて「法の下の支配作戦」に向けて言葉を控えたのかも知れない。この辺は情報が無いので判断できない。

なお、興味深い視点として中国に詳しいジャーナリストの富坂聰氏が語っていたが、今回の米中首脳会談での感想として、「習近平主席には、意外に権限が与えられていないなぁ」とのことが言えるそうだ。この会談の開かれた場所というのも、お互いがざっくばらんに語り合える場を期待して選ばれたというのだが、習近平主席の発言内容はこれまでの発言の域から出るものはなく、リーダーシップを発揮できるものが何もなかったという。胡錦濤前主席の様に、ペーパーの棒読みのような低レベルではないが、一見、新しい指導者の雰囲気を醸し出しながらも、リスクを覚悟で事態を前に進めることが出来る人物であるという評価には至っていない。この意味では、ビジネスライクなオバマ大統領の評価は寧ろ下げた形であり、安倍総理の覚悟を決めた対応とのギャップを感じたのではないだろうか?

なお、最後に一点だけ追加のコメントを加えておく。実は、米中首脳会談の中でオバマ大統領は、アメリカにおける「台湾関係法」を堅持する姿勢を改めて習主席に表明したという。アメリカは1979年1月1日、中国との間で国交を樹立し、オフィシャルには台湾との国交を断絶し、中華人民共和国を真の中国として承認するに至ったが、その年の4月にこの法律を制定し、台湾を一般的な国家・政府として扱い、中国との国交樹立前の条約・外交の協定を堅持し、武器売却などが出来るようにして台湾国内でのアメリカの影響力を保つこととした。これを今回、中国がG2などといいながらも、そのお膝元から揺らいでいる証拠を見せ付けたのである。勿論、中国も訪米前に中米諸国を歴訪し、その中で反台湾・親中国の国家をアメリカのお膝元に作ろうと努力している。その努力はある程度報われたものとなっているが、アメリカもそれに反撃をした形であり、米中両国の間の溝の深さを再確認したようなものである。このことひとつとっても、アメリカが中国に大接近して日本が置いてけぼりを食っているという事態にないことが伺い知れる。

多分、外交というのは奥が深いのだろう。特にオバマ大統領は、ビジネスライクに切り込むところにズバッと切り込み、その結果得られたものが信頼関係であればその後の外交が好転し、不信感であれば地に落ちた外交となるのだろう。今回の会談は地に落ちる落第点ではないが、及第点でもなさそうである。日本は、特に慌てる必要はないのである。

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