今日のうた

思いつくままに書いています

ふたりご 9

2015-01-01 20:40:08 | ⑯第一歌集 『ふたりご』・その他
     柿のはな

葉洩(も)れ日のなかに咲きいる柿のはな乳歯のごとき光を返す

蚊のいない灼熱の地より帰り来て日本の夏は暑いとむすめは

「おばあちゃん、Rの音が違うの」と口尖(とが)らせてRightと言いぬ

小鉢置く音して「もっと」の声きこえ家族の食卓もどれるごとし

墓石(はかいし)の蟻に怯(おび)ゆるおみなごを亡き父母(ちちはは)に引き合わせたり

鏡にはわれに抱かるる孫うつる オバアチャンヲワスレナイデネ

色うすきアカイエ蚊のいる夏の夜(よ)を白湯(さゆ)をすすりてアルバム捲(めく)る

      バケツ・リレー

汗かきて乳房(ちぶさ)ひえゆく初夏(はつなつ)の山にひび交(か)うホトトギスの声

桃のうぶ毛に剃刀(かみそり)当つるようにして昼餉(ひるげ)にむかいき
舅(しゅうと)とわれは

わが苦労わらい飛ばして四度目の結婚記念日むすめは迎う

金銭に触れでひと日の過ぎてゆく食パン一斤(いっきん) Suica(スイカ)に払う

つぎつぎとバケツ・リレーをするごとく雨水(あまみず)はしる鎖竪樋(くさりたてとい)

紫蘇の実を笊(ざる)いっぱいに扱(しご)きゆく何ごともなく秋のいちにち

紫蘇の実のヤニ色に染まりし指を嗅(か)ぐ一服(いっぷく)をする農夫のように

打っちゃりの決まったような秋の空どこまでもどこまでもコスモス

      踏絵のごとく

余震かと起きれば荒れて吹く風は太き腕(かいな)に家を揺すれり

冬至にはミニ柚子あまた届きしを今年はもがぬと友は言いたり

すそ分けのできぬ白菜、大根が冷蔵庫の中ひしめき合える

工場にお節(せち)詰めゆく人がみな白防護服に見ゆる年の瀬

わが生(あ)れし日は「運命の日」と呼ばれゆく南東の風・二基爆発す
            三月十五日に、放射性物質が拡散して行ったことが後になってわかる

空を透かせど見えざりしものここに在り雑草(あらくさ)のびて人絶えし公園

あの朝は雨がはげしく降っていた 放射性プルームわが町通過す
                       放射性プルーム=放射性物質を含んだ気流

憎まれ役を貫き通す東電のスポークスマンに白きもの増(ふ)ゆ

踏み絵のごとく原発賛成・反対に人を分けつつ一年が過ぐ

わが町のはけより出(い)づる湧水を飲みておりけむ志賀直哉もまた
                 はけ=急傾斜の段丘斜面  志賀直哉の別荘があった

      小氷河期

おおいぬのふぐり、仏(ほとけ)の座が咲いていつもと同じ春がきていた

立体マスク顔の一部におさまりて街にあふれるエイリアンのひとり

地に触るる力の戻りこぬ春にプランターは土の容(い)れもの

ピンクと白の花筵(はなむしろ)なす芝桜 目立たぬように後(おく)れぬように

犬歯(けんし)もつ夫(つま)と糸切り歯もつわれと黙(もだ)して食べる豚の味噌漬
                         犬歯も糸切り歯も同じ歯のこと

除草剤に枯れし傾(なだ)りのその下に稲穂は青くふくらみてゆく

海を出(い)で陸に息する人間のひとりとして今わが咳やまず

晩年はいつからだろう梅雨の間(ま)を重なりながらゆく蟻の列

太陽は小氷河期に入(い)るという 自分のために生きていこうか

      卵かけご飯

アフリカの大地に育つルイボスを煎じてわれの一日(ひとひ)はじまる

砂漠の地に子は活花を習いいるオリーブの枝を剣山に挿して

炎天に黒く乾ける蚯蚓(みみず)おり 髪に手をやり汗を確かむ

わが胸が帰りくる場所 ドラえもんの枕とカップ、タオルを備う

帰国して検診・診察受けるなりアラブ料理は辛くて鹹(から)い
                           鹹い=塩分がつよい

八歳で二十カ国を旅したるおみなごの生命線はふとし

川の字に眠れば孫のあしが伸びわれは柱に押しやられゆく

牛丼と寿司は叶えど卵かけご飯が食べたかったとむすめは

お土産の死海の塩はざりざりと湯船に沈みやがて消えゆく


※2018年1月28日に反原発東葛連合が行った「福島の今とエネルギーの未来」の
 報告書に、東京電力福島第一原発事故後に、上空に巻き上げられた放射性物質の
 雲状の塊(放射性プルーム)のデータが載っていたので、引用させて頂きます。
 やはり2011年3月15日ー16日、20日ー21日に関東、東北地方に
 拡散したそうです。
 
 柏市(千葉県)3月15日、10時――93・3ベクレル
         3月21日、9時――319ベクレル
 取手市(茨城県)3月15日、9時――113・3ベクレル  
         3月21日、9時――497ベクレル
 福島市(福島県)3月15日、22時――45・5ベクレル
         3月21日、15時――104・1ベクレル (引用ここまで)
 (2018年2月5日 記)
  
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ふたりご 10

2015-01-01 13:42:44 | ⑯第一歌集 『ふたりご』・その他
      荒神(こうじん)様

いちはやく秋を知りたりわが胸に笛のちいさく音たつる夜(よ)は

傾(なだ)りにはかたまり咲ける曼珠沙華あかき舌先しゅるりと伸ばし

巨(おお)いなる貌(かお)が空より現れて「ワタクシガセキニンヲトリマス」と言う
             二〇一二年六月八日、大飯(おおい)原発三、四号機の再起動決定

敷島のやまと積まれし焼却灰 今日より落葉は不燃ゴミの日
                    敷島の=「やまと」にかかる枕詞
                    焼却灰に含まれる放射性セシウムの測定値が高く、
                    二〇一二年六月より落葉や草は焼却できなくなる

                          
二十人は入れるほどの穴掘られ小(ち)さき公園の除染はじまる
                           原発事故から一年半が過ぎた

勢いを持ちてドミノの倒れゆく 原発輸出・武器の開発
                  二〇一三年六月七日、安倍政権は日仏共同声明を発表

後悔のなきよう言葉を残しゆく いつかその日の言質(げんち)のために

火を怖れ荒神(こうじん)様を祀(まつ)りしはほんの五十年前の暮らしぞ
                           荒神様=かまどの神様

新米を取りにおいでの無くなりて二十三年 五キロを買いぬ

六十歳(ろくじゅう)をすぎて気づきぬ足の甲ひらたきゆえに靴下まわる

乾きゆく白子(しらこ)の脳を想いおり人の名前の出(い)で来(こ)ぬ夜に

老いるとはかくもさびしき口角(こうかく)を上げることなく一日が過ぐ

手足病む母はベッドに臥していき父を目で追い父の名を呼び

タイルの上に父は正座しその膝に母すわらせて背中洗いし

うす味の鰤の照り焼き食(は)みしこと母の最後の食事と気づく

寒鰤(かんぶり)にあら塩を振るそのせつな能登の荒波しずもりおらむ


      反転ボタン

空飛ぶはみな美しきフォルム持つ オスプレイには瘤(こぶ)ふたつあり

校庭に臙脂(えんじ)のジャージが並びいる十七歳のからだを隠(かく)し

風邪という病気は無いと言う医者の待合室に【東大】の文字

片陰(かたかげ)に身を寄せあるく夏の午後 男が握る反転ボタン
                   反転=ネガ像をポジ像に、あるいはその逆をすること

一瞬にわが軸足を奪いたり悔しまぎれの君の言葉は

食いぶちを稼がぬことのさもしくてパンを頬張りことばのみこむ
                          さもしい=卑しい

柱には笑いつづける貌(かお)があるわれには見えて夫(つま)には見えぬ

男(お)の子あらば冬樹と名付けむやわらかき光をまとい閑(しず)かに立てる


      なにやらたのし

とつぜんに蝌蚪(かと)の卵が産まれたり視野にひろがる無数の点・点・
                          蝌蚪=おたまじゃくし

悪意なき人の中へと身を置きぬただ前をむき讃美歌を聴いて

「創世記」は史実であると言う人の眼鏡(めがね)の中のまなこの円(まろ)し

湯の中にアサリが殻(から)をひらくごと半年ぶりに力が抜ける

若鶏の唐揚げかりかり食(は)みており ひとりに居るはしみじみうれし

  
笠智衆(りゅうちしゅう)の「やあ」に会いたく観ていたり尾道弁の「東京物語」
                        小津安二郎監督作品に多く出演した

重心をひくく坐れるうしろ姿(で)は父と見まがう笠智衆なり

ふるさとの〈甲子(きのえね)正宗〉そなえたり禁酒を解(と)かれし父の墓前に

長身に痩せいし父の肋骨のくぼみを指になぞりたき夜

「母さんに鼻の線(ライン)がそっくり」と嫌がりもせずに今は子が言う

子の内(うち)に何歳(いくつ)のわれが棲(す)むならむ 二十年のち、五十年のち

色違(たが)うハンド・タオルを子と持ちてなにやらたのし紅椿咲く




(画像はお借りしました)
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