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フォックスキャッチャー

2015-02-24 10:54:02 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
アカデミー賞発表の日(2月23日)に、「フォックスキャッチャー」を観に行った。
この映画は、1996年1月に起きたデュポン財閥の御曹司ジョン・デュポンが、
金メダリストを殺害した事件を元にしている。
観終わった後にパズルが完成するような緻密な作りになっていて、地味だが素晴らしい作品だ。

映画のあらましは
ソウルオリンピック・金メダル獲得を目指し、レスリングチーム「フォックスキャッチャー」
をジョン・デュポンが立ち上げる。
そのプロジェクトに、1984年ロサンゼルスオリンピックの金メダリストである兄弟、
マーク・シュルツ(弟)とデイブ・シュルツ(兄)が勧誘される。
最初は弟だけが誘いに乗るが、執拗な誘いと巨額な報酬に、兄も後から加わることになる。

兄の心境の変化の描き方が巧みだ。
2人の子どもと夫婦の穏やかな生活を送っている。
弟にレスリングを教える姿には説得力があり、真摯な態度と愛情が伝わってくる。
子どもたちはのびのびと可愛らしく、よきパパぶりが伺える。
初めてジョンが家に来た時に、妻はベッドの上から手をあげ軽く挨拶する。
そのことを弟が「あのデュポンだぞ!それなのに・・・」と非難しても、兄は取り合わない。
誰からも愛される善意のかたまりのような人なのだ。
どんな巨額な報酬を提示されても、今のここでの生活を捨てたくないと申し出を断る。

だがその後、兄も加わることになるが、そこで弟の変貌ぶりを知る。
弟はジョンの狂気を目の当たりにし、自らも堕落した生活を送るようになっていたのだ。
弟は2人でここを出て、大学のコーチに戻ろうと兄に提案するが、
兄は幼い頃の自分たちのような貧しい生活を、子どもたちにはさせたくないという思いから
留まることを決める。そして事件は起きる。

デュポン社は世界的な化学メーカーで、テフロンもデュポン社の商標という。
ジョンは若い頃にレスリングを目指したが、プライドが高い母は乗馬を好み、
「下品なレスリング姿を見たくないのよ」とジョンの夢を奪う。
トロフィー室には乗馬での優勝を物語るトロフィーが多く置かれ、
たくさんの名馬を飼っている。

プライドが高く、自分の価値観しか認めない強い母に育てられた息子は、
どうしてこうも、心に闇を持ち、歪んだ人間になってしまうのだろう。
まるで母の呪縛を身にまとっているようだ。
そして人から評価されることを常に求める。
大金を使ってまで、自分に都合のよい評価を言わせようとする。
無意味に練習場に銃を持って来たり、強引に車の屋根に機関銃を装備させるなど、
かなり好戦的だ。

母は車椅子でフォックスキャッチャーでの練習を見に来るが、絶望のあまり
黙って帰ってしまう。母が亡くなった後に、ジョンの狂気は炸裂する。

この映画は弟の兄へのコンプレックスや、兄弟へのジョンの嫉妬など、いろいろな見方が
出来ると思うが、私はジョンと母との関係が一番心に残った。
それにしても、ジョンを演じるスティーブ・カレルがすごい!
賞は逸したが、アカデミー賞とゴールデングローブ賞の主演男優賞のダブルノミネートは納得だ。
この映画で監督のベネット・ミラーは、カンヌ国際映画祭・監督賞を受賞している。





(画像はお借りしました)

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