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行列式と逆行列。

2013-05-26 20:19:45 | mathematics
行列式と行列は,名前も見かけもよく似ているが別物であるという認識が大事である。

行列は数値を長方形や正方形の形に並べた表(リスト)であるが,行列式はそれらの数値データを圧縮して一つの数値に変換したものである。その圧縮データがもとの数値のリストのどのような性質を反映しているかというと,正則であるかそうでないかを表している。

正則な(正方)行列とは,逆行列を持つ行列のことである。つまり,正方行列のある一つの性質を表すのに

「正則である」 = 「逆行列を持つ」

という二通りの言い回しがあるだけのことである。中学校で習った一次関数 y=ax+b について,同じ係数 a が「変化の割合」と呼ばれたり,「直線の傾き」と呼ばれたのと似たようなもので,一つの事柄を言い表すのに二通りの言い方があるわけである。

逆行列をもとの正方行列の成分を用いて表す公式はよく知られていて,たいていの線形代数の教科書にはちゃんと書いてある。それを見ると,逆行列の公式にもとの行列の行列式の逆数が顔を出していることに気づく。

逆行列とは,行列の世界における「逆数」のようなものである。実数や複素数のような「普通の数」においては逆数を持たない数は 0 ただ一つである。つまり,0 は「正則でない数」である。0 以外の数はすべて逆数を持つので,強いて言えばそれらは「正則である数」である。普通の数は正則である,つまり逆数を持つのが普通であるため,わざわざ「正則である」などというものものしい専門用語は必要ない。それに引き替え,正方行列は一見しただけでは正則であるかどうかがすぐには見抜けないし,零行列以外に逆行列を持たないものが無数にあるため,そうした行列たちを表すグループ名として「正則でない」という用語が必要になる。

さて,先ほど逆行列の公式には行列式の逆数が出てくることを注意した。そうした事情から,行列が正則であるかどうかの行列式の値による判定条件を次のように理解しておくと記憶しやすいだろう。

「正方行列 A の行列式 |A| の値は 0 でない。」=「|A| は逆数を持つ。(|A| で割れる。)」=「A は逆行列を持つ。(A で割れる。)」=「A は正則である。」

「正方行列 A の行列式 |A| の値は 0 である。」=「|A| は逆数を持たない。(|A| で割れない。)」=「A は逆行列を持たない。(A で割れない。)」=「A は正則でない。」

つまり,行列式 |A| という数値が逆数を持つかどうかが,ちょうどもとの行列 A が逆行列を持つかどうかにぴったり対応しているのである。そのことに着目して上のように関連を把握していれば,行列式の値が 0 かどうかでもとの行列が正則であるかどうかを判定する際に迷ったり間違えたりする余地は一切なくなるはずである。そのあたりのところの理解があやふやな人は,ぜひここで紹介した考え方を参考にしてもらいたい。
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