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[SF] 競馬の終わり

2009-12-14 21:42:14 | SF
『競馬の終わり』 杉山俊彦 (徳間書店)




日本SF新人賞の2冊目。こちらの方は非常に読みやすい。危うく、降車駅を乗り過ごしそうになったくらい。しかし、やっぱりSFとしては粗が目立ちすぎる。

競馬馬のサイボーグ化がメインにあるのは確かなのだが、それ以外にもSFネタが仕込まれている。

世界的な大災害を契機に、ロシアに占領された日本。しかし、そのロシアを経済的に飲み込もうとしている日本。

副脳ならぬ、腹脳が一般化しつつある社会。その中で、腹脳の暴走による腹脳ジャンキー=フッキーの増加問題。

そして、バーチャル・リアリティによる広告が社会を侵食する。

しかし、それらがクライマックスに向かって収束するのではなく、ジャスト・ワン・アイディアで終わってしまっている。シベリア抑留や妻との別れといった細かいエピソードも、なんだかとっちらかったモザイク模様に過ぎず、せっかくのSFネタもスペキュラティブに深化することなく、使い捨てのように忘れ去られてしまう。

競馬馬のサイボーグ化をメインに据えるのならば、パラリンピックのサイボーグ化問題や、動物サイボーグの軍事利用など、興味深い周辺ネタはいくつも転がっているはずなのに、それらは言及すらされない。

著者本人は奇跡的なダービーを描きたかっただけなのかもしれないが、SFとしての焦点の絞り方にどうしても不満が残る。

これだからSFモノはなんだかんだと言われるかもしれないが、これはほかでもない“SF”新人賞受賞作なんだろ。

SFならではの奇想に優れた作品と、小説としての完成度の高い作品2本立てで受賞というのは去年も同じだが、今年の作品はどちらも佳作レベルなんじゃないだろうか。両者を併せ持った作品がなければ、受賞作無しでもいいと思うんだけど。



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