神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] クリスタルの夜 の感想のつづき

2011-11-06 12:05:59 | SF
またちょっと別な話になるが、シミュレーションの中のシミュレーションの話。

「クリスタルの夜」では、高速計算機の中の仮想生命体たちが、仮想世界の中でさらに計算機を作りだし、人工生命のシミュレーションを始めるっていうシーンがあるんだけど、これについてちょっとした疑問が。

シミュレーションの中のシミュレーションって、エミュレータ上でエミュレータを動かすような、大きなロスが発生しているんじゃないだろうか。普通に考えればそうだよね。仮想世界のコンピューターが、実世界のコンピューターより早いわけがない。

じゃあ、地球シミュレータは地球より遅いのかと言われると、そんなことは無くて、実世界の何年、何十年という気候変動を実用的な時間で再現することができる。これは、シミュレータの方が実世界よりも速いと言えないだろうか。

なんとなく、矛盾?

我々が生きている現実世界は、プランク長とかプランク時間みたいな最小単位があって、実は離散的世界であり、もしかしたらこの世界もシミュレーションなんじゃないか、みたいな話があるんだけど、そう考えた時に、我々の世界を実行している計算機の速度を、我々の計算機が超えることができるのかという問題を考えるのもおもしろい。少なくとも、我々の計算機は、まだクロックをプランク時間まで持っていけていないし、おそらく、そこまでクロックを速めることはできないんじゃないかな。やっぱりシミュレータの中のシミュレータは、外の世界の計算機を超えることができないのではないかと思う。

地球シミュレータが地球よりも速く結果を出せるのは、計算に必要なインプットをがりがり削っているだけで、別に地球より計算が速いわけじゃないんだ。地球シミュレータで地球上の全人類や全生命、もっというと、全分子、全素粒子の情報を演算しているわけではないし。

逆にシミュレーションの中の仮想人格が物理世界に出てきたときには、これまでカットされていた情報の中に溺れておかしくなっちゃうんじゃないだろうか。それとも、インプットデバイスのレベルで情報を制限すれば大丈夫? そうすると、それって物理世界に出てくるっていうのとはちょっと違うような。でも、それ以上にどうやって物理世界に……?

つまりは、シミュレータの中の生命がシミュレータの外へ出てくるっというのはなかなか難しいよね。という話。


ああ、量子カオス系ではプランク定数以下のミクロ構造が現れるとかwikipediaに書いてあるので、プランク定数シミュレータ仮説はひとまず却下されてるのか。量子カオス系ってどんなものか知らんけど(笑)



[SF] プランク・ダイヴ

2011-11-06 11:26:34 | SF
『プランク・ダイヴ』 グレッグ・イーガン (ハヤカワ文庫 SF)




既読だと結末がわかっているためにただのおさらいになるだけの作品と、読むたびに新しい発見(伏線とか、読み飛ばした描写とか)がある作品に分かれる。

ただ、それも、前回読んだ記憶がどの程度残っているかとか、読んでいる状況がどの程度集中力を保てるかに依存するのだろう。最近は通勤電車の中で読み飛ばしていることが多いので、注意深く読み直したり、気付かなかった伏線を見つけて身悶えたりすることは少なくなった。


『プランク・ダイブ』も既読が多かった。「ワンの絨毯」なんて、何度目だって感じで新鮮味が足りない(笑)

そんな中で今回おもしろいと感じたのが、イーガンの描く人間像、もしくは、イーガンの人間観についてである。

イーガンの作品はバカでかい大風呂敷を広げるSFネタが顕著なので、人間を描く部分についてはあまり考えたことが無かった。しかし、既読作品を再読したおかげか、SFネタ以外の部分に目が行くようになった。

表題作の「プランク・ダイヴ」は特に、主人公の女性の精神的解放を描いた感動作で、まさに人間性を描いた作品。これがイーガンの本質なのか、小説の技法、あるいはただのプロットとして人間性を扱っているのかは、自分にはよく分からない。

しかし、「伝播」のストレートな表現や、「クリスタルの夜」が生まれた経緯を読む限り、イーガンは文系的な意味での人間性、あるいは、人間的な人間性を比較的重要視しているのではないかと思える。『順列都市』や『ディアスポラ』あたりを読むと、そういう人間性を度外視しているように感じられるので、これは意外だ。

そういえば「祈りの海」はどうだったっけ。「ひとりっ子」はどうだったっけと考え出すと、実は昔からそうだったのかもしれない。俺は何か勘違いしてたのか。


ところで、「クリスタルの夜」を書く起点となった、人工生命に人権はあるのか的な問題は、あまり共感できない。少なくとも、現在でも可能な蟹レベルの人工生命に人権など不要だ。

たしかに、『ディアスポラ』のような仮想人格人(移相人類)の人権を考えると、原始的な人工生命とどこに境界線を引くべきかというのは大きな問題になるだろう。しかし、進化シミュレーションの人工生命と、仮想人格(高度なAI、もしくは意識のコピー)には大きな隔たりがあると感じられる。

それはたぶん、自分がかつて大学の卒論、修論あたりで人工生命がらみの話をやっていたせいもあるのだろう。制限され、最適化されたセンシング情報、人工的な評価関数、プログラムとして解釈可能な遺伝子と行動ルール……そういったものを見ていると、人工生命がどんなに“知的”な動きを見せようと、所詮、ただのプログラムにしか見えない。これはある意味、職業病的な偏見(いや職業じゃないけど)なのだ。。

人工生命たちが物理世界にコミットし、我々とコミュニケーションするようになれば、彼らの権利や尊厳を考えなければならない日が来るだろう。しかし、それって、現在じゃ考慮に値しない、ずいぶん先の未来なんじゃないかな。そして、たとえばゲーム機の中のAI(笑)と、未来の仮想人格人のどこに区別のラインを引くべきかは、現時点では結論の出ない議論になりそうだ。



「クリスタルの夜」
既読。人工生命の権利とか尊厳よりも、我々の世界がシミュレーションだったとしたら、我々はシミュレーションの外側にどうやってアクセスすることができるか、みたいな方向の感想を持ってしまった。

「エキストラ」
既読。人格を情報としてコピーする場合も含めてだが、copy禁止、moveのみ実装が正しい仕様だよな、とか。やっぱり、俺は職業病?
「暗黒整数」
既読。話がでかすぎて実感が……。人知れず、世界を守っていますという厨二病的解釈で読むと面白いが、怒られる?

「グローリー」
既読。なんだろう、理解はできるけど、共感できない。

「ワンの絨毯」
既読。何度目だ!って感じ。

「プランク・ダイヴ」
既読。ブラックホールの話は放っておいて、少女の半生と未来に焦点を絞って読むと、意外なほどに感動的なヒューマンドラマが!

「伝播」
これだけ未読。わかりやすいSF者の心意気。イーガンがこういう短編を書いたことを知っているかどうかは、彼の全作品をどのように読むのかに影響するような気がする。イーガンを知らない人は、一番最初にこの短編を読むべき(笑)


[SF] これはペンです の感想のつづき

2011-11-06 11:01:43 | SF
暗喩とかの問題についてちょっと考え直した。

文学的暗喩というのも、「良い夜を待っている」の文章圧縮のように、あるいは、変換、写像、正確にはなんだか分からないけれど、そういうものとして考えればいいのかもしれない。

つまり、SF者と純文学者は読んでいるレイヤーが違うのかもね。

「妻とはこの街で出会った」という文章を見て、SF者は「きおくのこうちうのしかた」と読む。そして、ブンガク者は「よいよる」と読むのかもしれない。そして、円城塔が複数のレイヤーで評価されるのであれば、それは素晴らしいことなんじゃないか。

ただ、小説から暗喩を読み取るというのは、例の現代国語の試験でよく言われる、試験作成者が著者の言ってもいないことを勝手に読み取る話にもつながるので、そこだけクローズアップするのもどうかと思う。まずは、一番の物理レイヤーである書かれたものそのものの解釈が重要でしょう。

物理レイヤーの読み取りでビット化けしてたら、論理レイヤーやアプリケーションレイヤーで飛んでもない再生結果になりそうだ(笑)

まぁ、それはそれで面白いし、書いてもいないことを勝手に読み取るのも文芸批評のうちなので、それはそれで問題ないか。


11月5日(土)のつぶやき

2011-11-06 03:06:35 | つぶやき
12:33 from Tween
納豆って300回以上混ぜると相転移してどうこうとかいうネタなのか事実なのかわからない話を昔聞いたのだが今ググっても出てこないところ見ると騙されたに違いない。でも、納豆の糸はD型アミノ酸なので地球上にはありえない宇宙生命体だというのは事実らしい。
12:43 from Tween
パパンドレウ首相って、いつみてもパパゲンドウ首相に空目する。当然、側近は冬月。
12:49 from 読書メーター
【奇跡なす者たち (未来の文学)/ジャック・ヴァンス】を読んでる本に追加 →http://t.co/YoQXs0WR #bookmeter
by kats_takami on Twitter