神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 天冥の標Ⅲ アウレーリア一統

2010-07-29 23:04:41 | SF
『天冥の標Ⅲ アウレーリア一統』 小川一水 (ハヤカワ文庫 SF)




小川一水の10巻構想におよぶ天冥の標第3巻。2巻目までで、もう2010年代の代表作に決定してしまったという感じですが、第3巻もなかなかのもの。

遠未来の第1巻から、現代の第2巻へ飛び、そして今回は惑星時代の未来。2巻から1巻へのリンクを埋めるような位置づけであり、第1巻で匂わされた謎が第2巻の発端と繋がっていることがはっきりとしてくる。

セナーセー!
セアキ!
フェオドール!
カヨ!
極め付きはドロテア!

1巻からの読者にとっては、あれがあれで、これがこれでそうなのか。じゃあ、それはそれでどれはどれー! って感じで大盛り上がり。

それだけではなく、これまでと同様、この巻だけでも十分楽しめるエンターテイメントになっている。

今回のテーマはスペースオペラ。しかも、荒唐無稽というわけではなく、最近流行の“計算しながら読める”スペースオペラ。いや、まぁ自分は計算しながら読む習慣がないし、それは意味がないと思っているので、検算してませんが(笑)

主人公は宇宙生活に適応した人間、アウレーリア一統。もちろん、1巻での《海の一統》(アンチヨークス=アンチ・オックス)の始まりの姿だ。宇宙服なんかいらないぜ。腕から電撃ほとばしるぜ。やっぱりあれは宇宙空間用だったか。

しかも、艦長の姿は男の娘。
封建制度で家制度で選民思想が甚だしくて……、もう語尾に「~であろ!」が付いてないのが不思議。
そして敵は海賊。でも、傍から見れば、お前らこそ海賊。もう黒猫出しちゃえよ。
今回はこれまでの中でもっとも陽気で能天気。それでも、一行で2万人が死んでしまったり。銀色のセパレート着てろヨ!

彼らアウレーリア一統が生まれた経緯も少し触れられているが、これもまたいつか別の巻にて語られるのだろうか。Lose O2, We stand! も重要なキーワードになりそう。

それにしても、2巻があまりにも重たすぎたのでその反動なのか、著者がノリノリで書いているのがわかるような軽快さ。でも、一筋縄ではいかないのが《天冥》の宿命。バタバタ死ぬ。心が沈む。それでも復活する! どんなに困難な状況であっても、自分の力を信じ、常に前向きに未来を目指す。これが小川一水SF。

正義に燃えるアウレーリア一統と狡猾な海賊イシスの丁々発止のやり取りに、大出力兵器が条約で禁止されたことによって有効な戦術として考案された減速強襲戦術に、宇宙仕様の身体なので宇宙服を着なくてもいいという設定を逆手に取った展開に、手に汗握り、笑い、怒り、泣け!

次巻ではどんな世界を見せてくれるのか。シリーズ全体を貫く謎はどこまで明らかにされるのか。第4巻も期待して待つべし。