神なる冬

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コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] プロバビリティ・ムーン

2009-02-14 19:57:42 | SF
『プロバビリティ・ムーン』 ナンシー・クレス (ハヤカワ文庫SF)




ネットの評判から地雷だと思って覚悟して読んだら,むちゃくちゃ面白かったよ!

確かに,量子系ハードSFとして読んだら,なんにも解明されずに「魔法のオーバーテクノロジーは無為に破壊されました」で終わってしまう.
しかし,これはそういう話じゃなくて,異星人類学SFですよ.

異星で“人類”学とはこれいかに,って感じですが,設定では異星人は遠い昔に枝分かれした人類と同種の生物で,遺伝的には類人猿よりも人間に近いという設定になっている.その“ホモなんとか(作中ではこんな言われ方はしないが)”が持つ共有現実という能力と,それによって形成された文化がこの作品の中心と読むべき.

で,この共有現実というのが,実に興味深い.
テレパシーのようだが,テレパシーではない.
群体意識のようだが,群体意識ではない.
それは何かと尋ねたら…….
日本人なら,みんな知ってるよね.“空気読め”.

共有現実は読むべき“空気”.
共有現実から外れた考えを持つと発生する頭痛は,「空気読め」という強力な圧力と,空気の読めていなさに気づいたときのものすごい気まずさからくる精神的ストレス.
空気の読めない非現実共有者は,ただの村八分.

空気も漢字も読めない総理大臣に率いられた我らが日本国民ほど,この小説に相応しい人種はいないのではないか.
そして,作中でデヴィッドが思い描く,共有現実によって空気を読みあうユートピアのすばらしさとおぞましさが理解できるのは,我々ニッポン人だけではないのか?

ネットの感想読むと,共有現実を“意識のネットワーク”とか,“現実の認識問題=クオリア?”とかの文脈で理解している人が見受けられる.
個人的には,どちらかというと,同調圧力とコミュニケーション不全の問題だと思って読んだのだが,こっちの方が読み違いしているのかも.

遺伝的にはほとんど変わらないために,器官構造としては同一の異星人の脳が,共有現実という機能を発現した理由は,もうひとつのテーマである量子力学的オーバーテクノロジーが係わっているらしい.しかし,ここで出てくる確率場を操作する機能に関しては,今のところ魔法と変わりないのでよくわかりません.原子番号75って,放射化の関連で性質が切り変わる意味があるんだっけ?