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神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 世界の涯ての夏

2016-02-15 23:35:26 | SF

『世界の涯ての夏』 つかいまこと (ハヤカワ文庫 JA)

 

2chでよく見かける“せつなくなる系”の夏の画像スレがよく似合う作品。

《涯て》=異世界による世界の侵食というのは、小説でもゲームでも割とよく見かけるネタで、あんまり新しさを感じない。しかし、それを上回るような圧倒的な夏のせつなさが魅力的。

そもそもなんでそうなったのかという理屈は良くわからないのだけれど、《涯て》の侵食を止めるには、人間の脳が計算した波動を《涯て》に投げ返せばいい。そのためには、人間は何かを意識的に計算するのではなく、なんでもいいから想起し続けるだけでいい。

この設定を読めば、もう結末はわかりきっているレベルなのだけれど、それでも読ませるのはミウの造形があまりにもせつない夏にぴったりとマッチしているせいなんだろうな。これもある意味典型的といえば典型的なのだけどさ。

ラストは著者がインタビューで言っている「愛」というよりは、エヴァ(旧映画版)の人類補完計画としか思えない。最後は、タッチンがミユの首を絞める。

ああ、そうか、やっぱり「愛」だ。

 


[SF] ユートロニカのこちら側

2016-02-10 23:59:59 | SF

『ユートロニカのこちら側』 小川哲 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

 

 

第3回「ハヤカワSFコンテスト」 大賞受賞作。

ユートロニカとは、すべてが思い通りになるような楽園のこと。たとえば、扉を開けるときにいちいちドアノブを意識するか。すべてのことが無意識にできるようになると、人々は意識を失うかもしれない。

物語の中心は、すべての個人情報、行動履歴を把握することにより犯罪に走るような危険な兆候を見つけ出し、事前にこれを阻止するシステム、BAP。すべての個人情報の提供と引き換えに生活を保障するというアガスティア・リゾートを取り巻く人々を背景に、BAPの誕生とその功罪が語られる。

P・K・ディックの『マイノリティ・リポート』が下敷きにあるのは明示されている。言うまでも無く、楽園(ユートピア)において個人の意識が喪失するというのは伊藤計劃の『ハーモニー』でも描かれている。犯罪の事前阻止といえば、そのものずばりのアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』がある。それらの影響を受けた上で、その先を描くことができたか。

たとえば新潮社や文藝春秋などではなく、ハヤカワの新人賞を受賞して出版されたということは、必然的にSF的な考察に関してはそれだけハードルが上がるということだ。著者がそれを応募時に意識していたかどうかは関係なく。

タイトルどおり、この物語はユートロニカの“こちら側”でとどまっている。そして、物語が進むにつれれて、“こちら側”にとどめようとする人々の想いが主眼になっていく。

この物語では“こちら側”へのこだわりが強く見える。すべてをシステムにゆだねてしまうのではなく、人間が人間として、システムにはじかれそうな人間を人間のままで救い出そうとする努力。システムの前に、人間として人間のまま立ち向かおうとする戦い。

システムによって世界が住みやすい楽園となる期待感と、すべてをシステムにゆだねてしまうことへの不信感のジレンマ。その葛藤が生む物語。しかし、どうあがこうとも、“エントロピーの法則”には逆らえない。

神林長平がコンテストの選評で「なぜ日本を舞台にしないのか」と書いていた。読み終わってみれば、人権意識の強さと、キリスト教的な倫理感が物語の大きな背景となる以上、日本を舞台にすることができなかったのが良くわかる。

しかし、逆に、日本でこのアガスティア・リゾートが始まっていたらどうなっていたかという考察もおもしろい。日本人の横並び意識、お天道様が見ているという倫理感、人権意識の違い、それらは、おそらく違った物語をつむぎ出すに違いない。

すべての個人情報、プライバシーを買い取る企業と言うと、世界的にはGoogleが思い浮かぶのだけれど、日本のCCC(TSUTAYA)もなかなかのものだ。しかし、日本人のCCCに対する意識は両極端だ。便利になったと喜ぶ人もいれば、セキュリティ面の杜撰さを声高に叫ぶひともいる。さて、GoogleやCCCがユートロニカへの第一歩なのだとしたら……。

はたして、すべての個人情報、行動履歴からビッグデータ解析によって、個人の行動すべてが推測可能なのであれば、自由意識はどこにあるのか。あるいは、自由意識が存在しないことは何が問題なのか、なぜ問題なのか。

この手のネタ的にはまだまだ掘れそうで、ひとつの分野になるポテンシャルがありそう。

 


[SF] マップメイカー

2016-02-10 23:59:59 | SF

『マップメイカー(上下)』 S・E・グローヴ (ハヤカワ文庫 FT)

 

懐かしいNHKアニメの雰囲気がするジュブナイル。『未来少年コナン』とか、『太陽の子エステバン』とか、あるいは、『ふしぎの海のナディア』とか……。

ちょっとSFチックで、NHKにしてはちょっとおふざけが入って、それでもなおかつ品行方正というか、そんな感じ。

物語の始まりは1891年のボストン。とはいっても、世界は〈大崩壊〉によってずたずたになっており、いろいろな時代のパッチワークとなってしまったという設定なので、年号は余り意味が無いかもしれない。しかし、それでも主人公であるソフィアの文化的背景を規定するものとして充分に意味のある設定になっている。

思えば、世界は狭くなり、フロンティアはどんどん減っていった。暗黒大陸も、新航路も、大西部も消えてしまった。それでも、冒険家は未踏の高峰や深きジャングル、さらには、宇宙へ深海へと冒険場所を求め続ける。そのフロンティア消滅が意識され始めた時期というのが、19世紀末ということなのだろうか。

そうしたフロンティアの消滅を無効化し、地球上に新たなフロンティアをいくつも出現させたのがこの〈大崩壊〉というわけ。これによって、誰もが冒険者になりうる世界がやってくる。その中でも、マップメイカーとして天賦の才能を持った少女が主人公として活躍するという構成。

いろいろな時代のパッチワークと言うと、世界史上のビッグイベントをはしごするような旅行記にでもなりそうなのだが、今のところそうではなくて、まったくの未知の時代(遠過去、もしくは遠未来)への冒険が主眼になっている。

実際、ボストンを含む北米東海岸(ニューオクシデント)の隣には、海賊時代のカリブ海がある程度で、他はほとんど人間の住まない怪しい土地のようだし、たどり着いたノクトランド(メキシコシティーのあたり?)は、どうやら世界史上には登場しない時代のようだ。そういった意味では、この世界はまだまだ謎に満ちている。

このシリーズにおいて、ソフィアの最終目的は両親を探し出すことにあるので、そもそも今回は世界を説明するための横道っぽい。両親を探しにヨーロッパへ赴く時には、もっと紀行文的な、あるいは世界史をたどる的な物語になるんだろうか。

実は、世界がいろいろな時代のパッチーワークになってしまうというのは、フレッド・ホイルの『10月1日では遅すぎる』と同じ設定なのだけれど、扱っているテーマや読後感はまったく異なる。比較して読んでみるのも面白いかも。

 

ところで、Googleで「マップメイカー ハヤカワ」を検索すると、あの“早川マップ”がサジェストされるというのが、なんともかんとも。

 


[SF] 叛逆航路

2016-02-02 23:59:59 | SF

『叛逆航路』 アン・レッキー (創元SF文庫)

 

処女長編にして、ヒューゴー&ネビュラのダブルクラウンをはじめ、全7冠という驚異の評価を残した作品。

分類的には、ニュー・スペース・オペラとか、ワイド・スクリーン・バロックとかになるのかな。かつて宇宙戦艦(!)だった主人公が、宇宙を支配する皇帝アナーンダ・ミアナーイへ復讐を挑むストーリー。

SF的なネタとしては、属躰(アンシラリー)と呼ばれるものがメインだと思う。属躰はいわば働きアリのようなもので、複数の個体が単一の意志や思考を持つ群体として存在している。属躰のひとつひとつは、クローンだったり、元は普通の人間だったりする。

主人公のブレクは戦艦、および、その乗組員としての群体であったが、艦を失い、たった一人の属躰として取り残されている。そして、彼女(属躰の三人称はすべて女性系)の過去の記憶から二つの事件が断片的に語られることにより、彼女の復讐の理由が明らかになっていく。

もうひとつのネタである、ジェンダーの存在しない社会というのは、この属躰の副産物なのではないかと思う。つまり、働き蟻なのであれば、全員女性なのだろうさということ。

そういった意味では、この作品をジェンダーの方向から読むのはあんまり意味が無いと思うんだけど、どうだろうか。確かに、言語的にはすべて女性型として語ることによる混乱は異化効果をもたらし、物語的なスパイスにはなっている。しかし、やはり複数群体である皇帝アナーンダは複数の年齢のクローンを含み、そこから生まれるちょっとした混乱も読者に提示されている。

すべての三人称が彼女という設定とか、クローンの区別をつけないとか、そういう文章的試みはすべて読者を混乱させることに主眼があると思われ、ジェンダー的なテーマがあるとすれば読み手の側に内在するものではないかと。

で、自分の読み方では、ここからはブレクの外見的特長が描かれていないことからの個人的妄想なのだけれど……、実はブレクは相当魅力的な女性型をしているのではないかと考える。

もうひとりの主人公であるセイヴァーデンとのバディものとの読み方もできるのだが、このセイヴァーデンはジェンダー的にかなり男っぽい、というか、いわば麻薬で身を落としたダメンズなのである。

瀕死の状態でブレクに拾われたセイヴァーデンは、当初は心を閉ざしているものの、だんだんとブレクに惹かれていくわけだが、そこはほれ、やっぱりブレクが美少女型だったら、とたんに絵になる立派な萌え作品になるじゃないですか。

そんな感じで、なんだか叙述トリック的にいろいろな解釈が出来そうなので、何度か読み直しても楽しいかも。

 


[SF] S-Fマガジン 2016年2月号

2016-01-14 23:59:59 | SF

『S-Fマガジン 2016年2月号』

 

 隔月刊になってから、毎回買うのを忘れがちなのだが、今回は年末の発売ということもあって気付いたのは年明けも1週間過ぎてから。それでも書店に平積みになってたのはスターウォーズ効果もあるんだろうか。

ということで、特集は『スター・ウォーズ』。まあ、SFファンのお祭りみたいなものですね。

先にエピソード7を見ていたので、ネタバレも怖くないわって感じで読んでいたのだけれど、それほどびっくりするネタもなかったか。どちらかというと、1977年の『スター・ウォーズ』公開がいかに当時のSF界を熱狂させたか、そして、今回の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』をSFファンがどれだけ待ち望んでいたかがストレートに伝わってくる紙面になっていて、SFマガジンらしい。

他にも、『火星の人』を原作とした映画『オデッセイ』の記事もあり、こちらも公開が待ち遠しい。

「冲方塾」は小説家発掘というより、『マルドゥック・スクランブル』の二次創作小説集みたいな感じ。なんだか知った名前もあっって面白いんだけれど、小説塾としては借り物の設定やキャラクターでいいのかという気も。あと、塩澤さんの講評が意外に辛口。

連載からは、『ウルトラマンF』の“F”はその“F”だったのかよというので大笑い。


○「契約義務」 ジェイムズ・L・キャンビアス/中原尚哉訳
これが必然の帰結であると、意外ではなく納得できることと、人工知能に対する恐怖感の克服をどうやってバランスしているのかは自分でも不思議。

○「有機素子板の中」 早瀬耕
『グリフォンズ・ガーデン』はなんとなくしか覚えていないけど、北大の描写が懐かしかった。長距離寝台列車というのも、なんとなくノスタルジーを感じるものになってしまったなぁというのが感想。

 


[SF] ガンパレードマーチ 2K 西海岸編

2016-01-12 23:59:59 | SF

『ガンパレードマーチ 2K 西海岸編 (1)-(3)』 榊涼介 (電撃ゲーム文庫)

『ガンパレードマーチ 2K 5121小隊帰還』 榊涼介 (電撃ゲーム文庫)

 

積読消化。

正月休みに何か軽いものでも読もうかと思って手をつけたのだが、なんだかんだで休み中にはほとんど進まず。まだ完結編も残ってるんだよね、これ。

今回のシリーズを一言で言えば、サンディエゴにおける少年兵による熊本戦の再現と、それを国家に叛逆してでも救いたい5121小隊という図式。

シアトル政府のサンディエゴ戦線における補助兵は、高校卒業後とはいえ年少の新兵を使い捨てるような、まさに熊本の学兵に匹敵するようなおぞましき制度。これを熊本の生き残りである彼らが見過ごせるはずが無い。

ところが、5121小隊はただの視察団に過ぎず、戦うことができないというジレンマ。

そこはなんのかんのと理由を付け、司令に善行が復帰。遠坂も財界から支援。5121フルメンバーで参戦となれば、もう幻獣にとってはまさに災禍というわけですな。

使い捨てにされる少年兵という構図に視点が集中しすぎて、幻獣側は何を思ってサンディエゴ戦線を維持してたのかが良くわからないのがもやっとする。これまで幻獣側の情勢も描いていただけに、ここはちょっと不満。

戦場の悲惨さを体現するための補助兵という設定と、スーパーヒーローになりすぎた5121小隊の狂気の描写はうまいこと持ってきたなと思うのだけれど、やっぱりマンネリ感はぬぐえず。

『帰還』での銀狼師団壊滅のくだりは、正直言って蛇足のような気もするのだが、これが次の最終シリーズに繋がる引きとなるのかどうか……。

 

 


[SF] 軌道学園都市フロンテラ

2015-12-31 16:02:45 | SF

『軌道学園都市フロンテラ(上下)』 ジョーン・スロンチェフスキ (創元SF文庫)

 

詰め込み過ぎで長過ぎ。それでいながら、坦々と出来事が過ぎ去っていくだけなので若干退屈。

エイリアンとのファーストコンタクト、メディアに操作された大統領選挙、人工衛星都市フロンテラの危機。たしかにすべてが絡み合っていくのだけれど、どれかひとつを本線としてクローズアップしておいた方が良かったんじゃないか。

ただでさえ、新語や造語を説明もせずに使っていくスタイルなので、序盤はそれについていくのが精一杯。そのうえでストーリーも迷走していくとなれば、これが読みやすい小説になるはずもない。

細かいネタのひとつひとつは確かに面白いのではあるけれども、小説として面白くないのは致命的。学園ものらしく、登場人物だってキャラ立ちした女の子も各種取り揃え、BL方面だってしっかり押さえているという絶好の設定にも関わらず、なんとも残念な結果に。

訳者あとがきの通りに、本当に本国では学園を舞台としたオフビートのコメディとして評価されているのであれば、たぶん訳文が失敗している。

訳者の金子浩さんはベテランなので、もしかしたら下訳の人の問題もあるんじゃないかと思うけれど、文章は日本語としてこなれていないし、完全に海外文学の翻訳調。十代の少女を主人公としたストーリーには大きなハンデになってしまった感じ。

たとえば、ヴォネガットとかを読み慣れている人なら楽しめるかもしれない。だからと言って、そういう方にはお勧めしないけど。

ここは思い切ってラノベ調、せめて新井素子調にでも訳すべきだったんじゃないか。ついでに萌え絵も付けて……って、それじゃハヤカワか。

 


[SF] 絶深海のソラリスII

2015-12-10 23:59:59 | SF

『絶深海のソラリスII』 らきるち (MF文庫J)

 

 

かなり衝撃的だった『絶深海のソラリス』の続編。

生き残った二人と、前作での犠牲者の姉を含めた新たなパーティが、深海生物アンダーの殲滅に挑む。

これまたライトノベル的に強烈なキャラクター小説でありながら、壮絶なアクション・サスペンス・スリラーでもある。この見事なアンマッチ振りはとにかく凄い。

前作が前作だっただけに、いったいどういう結末になるかと思っていたのだけれど、これは一本取られた。冷静に考えれば、予想の範囲というか王道なのだろうけれど、壮絶すぎる戦いに引き込まれてしまって、そこまで頭が回らなかった。

ああきて、こうきたとすると、次は……。なんて、ちょっと不純な楽しみ方をしてしまうあたりが、ちょっと自分でもズレてるとは思うが、それもまた魅力のひとつとして考えてもらえれば。

ところで、タイトルにある“ソラリス”の意味がいまだに明らかにされていないのだが、これは最終的に解決されるのだろうか。「僕が考えた最強の……」という前振りが、“ソラリス”の正体に関係しそうでもあるのだけれど、果たしてどうだろうか。

あと、今のところ、「深海」という舞台設定も隔離された場所程度の意味しか持っていないので、深海ならではのアクションや悲劇にもちょっと期待したりして。

 

(↓ネタバレ↓)

 

 

 

 

 

 


ミナトが見せた映像は即興にしてはずいぶんと芝居がかっているというかなんというか……。あの極限状態でここまで悪ノリできるとは、こいつ性格が相当悪いな。

 


[SF] 絶深海のソラリス

2015-12-02 23:59:59 | SF

『絶深海のソラリス』 らきるち (MF文庫J)

 

各処で絶賛、必読とされていたので読んでみた。たしかに、これはスゴイ。

万人に薦められるかといえばそうではないが、ラノベ、ホラー、SF関係の人なら、とにかく前提知識ゼロで読むべき。

なお、SF成分は2巻以降に持ち越しなので、まだ評価不能。

スゴイ部分はちょっとでもネタバレすると意味が無いので、下の方に。未読の方はback推奨。

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ、ストーリーとしては要するに良くあるホラー物の定石ではある。深海で皆殺しといえば、どう見たって『ディープ・ブルー』。

それを、ハーレム系ライトノベルでやったというところが、あまりに明後日の方向を向いていたがゆえに、“スゴイ”という感想しか出てこない。

思えば、子供向けとも取られかねないアニメ絵で壮絶なドラマを描いた『まどか☆マギカ』があったわけで、あれを文章でやれないはずは無いのだ。まさにコロンブスの卵。

だからと言って、この大きなギャップを簡単に再現できるというわけでもないので、そこは著者の計算と力量が、読者側の予想を大きく上回ることができたということだろう。

はっきり言って、その点だけをみれば、並み居る先人たちを凌駕している。秋山瑞人も、冲方丁も、虚淵玄も越えたよ。この絶望感と、ラストの意地悪さ加減は。

なんといっても、ヒロイン級のキャラの死ぬタイミングの悪さ。まさに、もっとも読者の度肝を抜くタイミングでやりやがった。

そして、最後に付け足しのように再会した女先輩。

まさに、すべてにおいて、いかに読者へ嫌がらせをできるかを、最大限に考え抜かれた作品。

2巻ではSFネタ関連の種明かしがされるのか、さらに意地悪さを見せるのか、はたまた出オチで終わるのか、かなり期待。

 


[SF] 孤児たちの軍隊5 ―星間大戦終結―

2015-12-01 23:59:59 | SF

『孤児たちの軍隊5 ―星間大戦終結―』 ロバート・ブートナー (ハヤカワ文庫 SF)

 

孤児たちの軍隊シリーズの完結篇。

相変わらず、政治家は無能、前線は有能。部族社会は野蛮。共産主義は悪……。といったステレオタイプに彩られたわかりやすい世界観。

その中で、ピンチに陥りながらも、何度も立ち上がる主人公。

まぁ、わかりやすい戦争SFではありますが、「孤児」というテーマが途中から活かしきれていないのが非常に残念。

第1作の『孤児たちの軍隊』では、主人公が孤児であることがストーリー上で意味を持っていたのだが、いつの間にやらただのタフなヒーローになってしまった。

名付け子が孤児になって、孤児の再生産が始まりはするものの、主人公にとってはオード軍曹やその他の人たちが擬似家族としての救いになっていて、あんまり孤児感(?)がなくなっている。

最後の作戦は命がけの危険な賭けとして、再び孤児だけの兵士で編成し、あのガニメデ作戦を再現するとか、あるいは、地球人類こそが銀河文明に見捨てられた孤児だったとか、どうにでもオチがつけられるはずだったのに。

敵のナメクジ星人は単一の群体生命であることはわかっていたが、その親玉の正体が大陸ほどもある巨大なナメクジっていうのもわかりやすいというか、芸が無い。

で、主人公と敵の親玉は最後にコンタクトするわけだけれど、これも唐突な上に会話が噛み合わないせいでなんともカタルシスが無い。今さら、単一生命だから孤独な孤児だったとか言われても、最初から持たないものと、奪われたものが比較できようこともなく、どうにも納得がいかない。

ここまで来たなら、決裂の末に最終兵器発射で終わった方が良かったんじゃないか。

だいたい、人類同士が何千人も殺しあっているというのに、今さら何を躊躇することがある。

それとも、同じ人類としてのキズナよりも、孤児同士の親近感の方が勝っていたとでも?

 

[SF] 孤児たちの軍隊 ―ガニメデへの飛翔―

[SF] 孤児たちの軍隊2 ―月軌道上の決戦―

[SF] 孤児たちの軍隊3 ―銀河最果ての惑星へ―

[SF] 孤児たちの軍隊4 ―人類連盟の誕生―