拝啓、世界の路上から

ギター片手に世界を旅するミュージシャン&映画監督のブログ(現在の訪問国:104ヶ国)

「アラブの春」のその後(From Egypt)

2011-10-22 | 旅人のひとりごと



昨日エジプトのハルガダで、流しのタクシーに乗った時のこと。

USBスティックを使ってインターネットからダウンロードしたアラブ音楽を車内でガンガン流す、イマドキの若者風なエジプト人運転手に、これはエジプトの音楽?ときくと、いや他国のアラブ音楽だよとのこと。

文字も言葉も音楽も、そして(大枠では)宗教もアラブでは皆同じだからねと、彼は会話を続けました。


市内近郊(10分程度)へのタクシー運賃が、約15~20エジプトポンド。(約200~250円)
郊外(15~20分程度)へは、約25~30エジプトポンド。(約300円~400円)

先日使ったカイロ空港からギザのホテルまで(早朝の渋滞が無い場合で30~40分、昼間の渋滞時で1時間~2時間)が、約100エジプトポンド。(約1300円)


相変わらず定価の無いこの国では都度言い値での交渉ですが、相場の金額は4年前にエジプトを訪れた際と殆ど変わっていません。



一方でアラブの春の民主運動のきっかけとなったのは、世界的に小麦の値段が上がり、国民がパンを買えない程生活に困窮したものの、長期独裁政権である政府が無策だったからとか。
(いわばその発端は米騒動や一揆のようなイメージでしょうか)


この民主革命を成功に導いたのは、日本の報道では、フェイスブックのようなSNSやツイッターの存在だと言われています。

しかし実際のところは、そのようなITツールやインターネット、既存のTV放送等を駆使して、
「パンが変えない程国民が困っているのに、何もしないお前のところの政府はオカシイぞ」、
「同じアラブのチュニジアでは、民衆のデモで長期独裁政権が倒れたぞ」、
「お前の国でも今度○×広場で抗議デモがあるらしいぞ。Facebookやツイッターでその情報が見られるぞ」、、、等といった情報を流した、
アルジャジーラのような新興メディアの存在が大きかったようです。
(世界に向けた英語放送と、アラブ人向けのアラブ語放送の2言語放送をしているアルジャジーラは、アラブの春の民主運動が始まった直後、
旧エジプト独裁政権から、同国内での報道許可を一時期取り消されたことからも、いかにその影響力が大きかったがわかります)



チュニジアから始まったこの「アラブの春」の民主革命ですが、エジプトに飛び火し、昨夜はリビアでも革命樹立の大きな節目を迎えました。
そしてこの後はアラビア半島でも、さらにその広がりが加速していくと思われます。




日本の報道ではアラブの春の後、リーダー不在のエジプトで、過激なイスラム原理主義政権が政権をとるのではないか?と危惧する声があります。


しかし今回の民主革命は、「もっと豊かな生活をしたい民衆」へ、「ITインフラやツールを駆使」し、「"自分達の生活と未来は自ら変えることができる"と具体的な成功事例と手法を、新興情報メディアがうまく伝達した」ことで実現したものです。


一時期過激な思想をもった政権が樹立したとしても、死後の世界での幸福を促し、現世に痛みや死を強要する過激な宗教政権を、「もっと豊かな生活をしたい民衆」は決して受け入れないでしょう。


世界中の若者がiPhoneを持ち、子供達はハローキティのグッズやニンテンドーDS、プレイステーションポータブルを親にねだり、外資系のホテルのプールサイドでアラブ人女性が、黒い全身水着を着て人前で泳ぐ時代。

アラブの春の半年後にエジプトに来てみて、はっきりと今それを感じています。


また中立的な民衆寄りの情報を提供するアルジャジーラのような存在がある限り、民衆は自分達の未来を自らの力で軌道修正していくことでしょう。


この構図は言い換えると、「情報メディア」の影響力が、独裁政権や厳格な宗教の教えよりも上回ることを意味します。



まだまだ産みの苦しみはあるでしょうが、この先、シリアやバーレーン、そしてアラブの最後の砦であるサウジアラビアでも、民主政権が樹立したならば、その先に見えるのは、EUのような「民衆によるアラブの統合」というキーワードです。


言語や文化が異なり、歴史的には対立してきた欧州各国も、国際社会の中での競争力を高める為、EUの加盟国拡大と連携強化、そしてEUROへの通貨移行と、この10年で欧州統合を進めてきました。

通貨については、ギリシャへの対策が一例に挙げられるようなEURO危機を迎えている今、まだまだ大きな課題はありますが、元々言語や文化を同じくし、イスラエルを除いて歴史的な対立が少ないアラブの方が、民衆の情報共有や教育水準が高まれば、関係強化への敷居は低いと思われます。


これまでの大きな課題としては、石油等の資源格差がありますが、半世紀という単位でみれば陰りが見えており、もしバイオエタノール等へ次世代エネルギーへの流れが傾けば、国土の大半が砂漠であるアラブ各国は、間違いなく衰退の道をたどっていくでしょう。


先述のiPhoneやハローキティグッズの例のように、情報技術や航空技術の発達と比例して、各国の独自性が減少して均一化が進み、めまぐるしいスピードで、日々世界が近く小さくなっています。


そのような国際情勢の中で、石油エネルギーが枯渇する前に、アラブ各国が国際競争力強化を目的に、欧州のように連携を強めることは容易に想像できます。



一方でアラブの春の民主運動は、欧米にも飛び火し、未来は絶望するものではなく、希望に満ちたものであるはずと、経済の停滞による所得水準があがらないイギリスやアメリカの若者にも、大きな力を与えています。
(暴動行為は推奨されるべきものではありませんが)



日本のバブル経済が崩壊してから約20年。希望に満ちた未来の光は未だ見えません。

日本人は世界でも屈指の忍耐強い国民性と言われていますが、いい加減に我慢するだけでなく、未来へ向けて行動すべき時なのではないでしょうか。


日本再浮上のキーワードには、「次世代エネルギー」、「国際競争力の向上」といったものがあげられますが、流行に流されやすく島国気質が根強い日本人の意識改革の為に、視聴率&部数主義といった古い体質の、日本のメディアの改革も必要だと思われます。



もはや「アラブの春」は、遠いアラブの国々だけの話ではありません。

「アラブの春」はこの先、いったい世界を、そして日本の未来を、どのように変えていくのでしょうか、、、。



※写真:アラブの春運動の発端になったエジプトパンのアエーシと、パンにつけるタヒーナ。