拝啓、世界の路上から

ギター片手に世界を旅するミュージシャン&映画監督のブログ(現在の訪問国:104ヶ国)

時代が変わる時(From Egypt /Watched ALJAZEERA TV Program)

2011-10-21 | 旅人のひとりごと


昨晩エジプトのホテルへ戻り、英語放送のアルジャジーラを見ていたのですが、
エジプトと国境を隣するリビアで、NATO軍の攻撃によってカダフィ大佐が死亡したニュースが、長時間にわたりLive放送されていました。

今週エジプトに滞在中、この数年その中立性で話題の、中東カタールの国営放送局であるアルジャジーラとはどんなものだろう?と興味があり、連日ホテルで見ていたのですが、この夜の放送はまさに、アラブ諸国にとって歴史上の1つの時代が変わる瞬間を報じたものだと思います。


象徴的だったのは、現地取材によるその情報量と、物事の両面性に向き合った報道の仕方。


NATO軍から入手したと思われる空爆時の映像や、Live中継されるトリポリの市民のインタビュー、ワシントン(US)やロンドン(UK)からの中継映像といった勝者である欧米側の声だけでなく、カダフィの残した功績と、今後のリビアについても多く時間を割いていました。


トリポリ市民は、「これですべてが終わった。新しいリビアが今日から始まる」と皆興奮していましたが、アルジャジーラの放送では
「NATOのミッションはカダフィを殺して終わりではない。NATOはこれからリビアをどうするつもりか?」という視点に軸足を置いているようでした。


NATO(今回は主に英仏が積極介入)の軍事介入は、隣国の「アラブの春」の民主革命に触発されたリビア国民の民主運動に対し、カダフィ大佐率いる政権側の空爆等による軍事的な制圧は、人道的に許すことができないというのが、NATO側の言い分です。


しかしエジプトを挟んで、反対側でまったく同じことが起こっている「資源の乏しい国シリア」には、NATOは見てみぬふり。

英仏が以前より利権のあるリビアの豊富な資源を、かねてより反欧米の姿勢を持つカダフィ政権を倒して、より有利に得ようとしているのは誰の目にも明白です。

これはブッシュJr.の前政権時代に、言いがかりをつけてアメリカが、石油資源の豊富なイラクへ侵攻したのと大差ありません。



歴史は常に時の勝者側、強者側の視点で語られるもの。

しかし全ての物事には二面性があり、語られる歴史と史実が、必ずしも真実であるとは限りません。

それは欧米のキリスト教諸国において聖戦の英雄だった十字軍が、エジプト等のアラブ諸国においては「悪魔のような侵略者」として今なお語られていることからもわかります。


歴史書物の編集と同様、TVや雑誌等各メディアの編集側の意図によって、いかようにも「見せ方」や「見え方」を変えることができるという事実があります。

独裁政権によるロシアや中国、北朝鮮等のメディア規制は極端な例ですが、実は欧米や日本にとってもそれは例外ではありません。



インターネット等の新しい媒体を通して、情報が乱立する現代。

国連軍のアフガン・イラク侵攻時においても、民衆へ自由を与える使者を自称する欧米側と、
所謂悪者であるテロリストのレッテルを貼られた側の両者の声、物事の両面にスポットをあてることでその中立性を前面に打ち出し、
各地にレポータを飛ばし独自取材で徹底的に生の声を集め、
かつ非英語圏である中東の小国カタールからアラビア語以上に、英語放送に重きを置き、
自国民向け以上に全世界に向けた報道を意識し、地上派や衛星放送だけなく、Youtubeやスマートフォン向けにもLIVE放送する同局は、
日々世界が急速に小さく(近く)なっていく現代において、1つの新しいメディアの形だと思います。



アフガン・イラク侵攻時には、欧米側からも、同局の当初のオーナーであるカタール首長一族や、タイアップしていたCNN等に対してもかなりの圧力がかかり(政治的な圧力を受けないことを目的に、スポンサー収入をあまり積極的に求めない同局は、海外メディアからの映像使用料が収入の大部分を占めるとか。日本ではNHKがかなり同局へ映像使用料を支払っているようです)、
欧米側メディアによる放送でも一時期、「テロリスト寄りのメディア」といったレッテルが貼られがちでしたが、ここにきて世界の人々もこの小さな放送局の存在価値を認めつつあります。



我々日本人は、過去の歴史においては、外敵から身を守る等の島国のメリットを享受してきましたが、世界が急速に小さくなる現代において、
その島国的な視点がデメリットに働いている部分も少なくないように思えます。



情報社会である現代において、入手する情報の内容と質は、これからの時代を生き抜いていく上でますます重要になっていきます。

欧米や日本だけなく、発展途上国であるエジプトでも、日常的にiPhoneを使う人々の姿が目につく時代。

11年前の世界一周の旅で訪れた際、インターネットカフェでISDN回線を使ってピー・ガーと遅いネットワークに接続していた頃のエジプトが、
現在のようになるとはまったく想像できませんでした。


この先の10年という単位を考えると、まさに「世界レベルでのメディア再編」という言葉が頭をよぎります。


日本も情報・メディアの分野において、新しい選択肢と価値観を真剣に考えなくてはいけない時代に突入したのかもしれません。


※写真:エジプトのホテルのテレビでみた、NATO軍の攻撃によりカダフィが死亡したニュースを伝えるアルジャジーラの放送