明日元気になれ。―part2

毎日いろいろあるけれど、とりあえずご飯と酒がおいしけりゃ、
明日もなんとかなるんじゃないか?

愛あるお店

2008-12-02 00:06:48 | 美味しいもの
久しぶりにおすすめの店を。

今年もいろいろいい店に出会ったが、
「ああ、もうここは絶対常連になるな」と感じられたお店はそれほどない。

昨日訪れた店はそういう店だった。

京都は西木屋町六角西入ル北側にある「なな治(はる)」。
カウンター7席に4人がけのテーブルが1つという、小さなお店だ。

17時半開店だったので、ちょうどくらいに夫と行った。
入るとすぐに「美味しいものが出そう」な予感……。

「寒くなりましたね」
「どちらから?」
「何か見ていただきました?」
「今日は紅葉でも見に来たついでに?」
など、大将がすぐに気さくに話しかけてくれる。
それだけで「歓迎されている気分」になるから不思議だ。

決してお洒落ではない、普通の飲み屋といった店構え。
だけど、音楽はなぜかアン・サリーで。
それが延々と流れている。

「こちらの選曲はご主人が?」
思い切って尋ねてみると、
「ええ、もう1年半もこれです。こういう音楽ってなかなかなくて」と言う。
「アン・サリーですよね。うちも休日はいつもコレです」
と言うと、満面の笑みで
「アン・サリーを知ってるお客さん、初めてです。ありがとうございます。嬉しくてテンション上がりますね」と喜んでくれた。
(けんちゃん、ありがとう!※けんちゃんにもらったCDなのだ)

そんな雰囲気もさることながら、串カツが絶品で。
一品料理がいろいろあるのだが、ここの売りは串カツ7本セット。
ただ、普通の串カツを想像してもらっては困る。
串カツなんて言葉が似合わないほど上品で手が込んでいる。


例えば、「芽キャベツです」と出された串。
食べてみると、芽キャベツの中からミートソースのようなひき肉が出てくる。
また、「ホタテみたいでしょ」と出された串。
どう見ても、見た目はホタテ。
齧ってみてびっくり!
中はえのき。
えのきをホタテに見立てて作っているのだ。

この意外性、手の懲りよう。
技術云々じゃない、好きで楽しくないとできない仕事だ。
だから、美味しい。
なのに安い。7本で1150円って、ありえない。

その後、ひらめのお造りを頼み、


他のお客さんが注文した「から揚げネギソース」のネギをごま油で炒めた香りにやられて、それを注文し、


それから、タラ白子のステーキと


タコの柔らか煮をいただいた。


どれも本当に美味しい。

そして、お酒もよかった。
私も見たことのないお酒がいくつかあって。
大将が自分の舌で選んだお酒だから、どれも美味しい。
彼と合わせて5種類飲んだ。

不老泉の山廃純米吟醸(米は雄町)は、ちょうど3日ほど前にネットで注文したもの。
まだ届いていないが、注文してよかった。
雄町の山廃なんて、クセがあるんじゃないかと躊躇していたのだが、ここはやはり不老泉の力。
かなりうまい。
たぶん夫は一番気に入っていたのじゃないだろうか。

食中酒を意識されているのか、大将の好みなのか、どちらかといえば、すっきりとしたきれいなお酒が多かった。
私の好みとは違うものの、やはり旨い酒は旨い。
渡り船というお米を使った滋賀県の「萩の露」は、私があまり飲んだことのない、本当にきれいなお酒だった。
一口飲んだとき、ちょっと身震いしてしまった。
そういう感動的にきれいなお酒。

お客さんは常連さんが多いようだった。
あっと言う間に、こじんまりした店内はいっぱいに。
そして、みんながなぜか酒の話ばっかりしている(笑)。

ヤバイ。
こういう店、あかんねん。好きやねん。
なんか幸せになってしまった。

「また来ます」と本気で言って帰った。
必ずまた行くお店だ。

やっぱり「心」だなと思う。
私はいいお店を見つけるのが、それこそ自慢じゃないけど(自慢だな)、天才的にうまい。
それは、だいたい雑誌を見ていくんだけど、
世の中にこれだけグルメ特集があふれていても、絶対間違えない。
それは、自分がもの書きだからだ。
取材人が本気で書いているかどうかくらい、すぐわかる。

そして、「心」があるお店の記事というのは、必ずそういったことが盛り込まれている。
単純に「旨い」とか「素材にこだわって」とか「コストパフォーマンスがよい」とかではなくて。

このお店も雑誌で見つけたのだけど、たくさんある中で「絶対ここだ」と思った。
それは、この1文で決めた。

『必ず活けを使うタコの柔らか煮、磨きゴマをすって作る自家製ゴマ豆腐など、手間を惜しまず心を込めた品々には、「お客さんが喜んでくれたらそれが一番」という、大将の心意気が詰まっている』

料理ってたぶんこういうことなんだと思う。
最近、私は手を抜いて、ゴマを煎らずに「煎りゴマ」を使ってしまうんだけど、以前は必ず洗いゴマを使って自分で煎ってすっていた。
このひと手間で、単なるほうれん草のゴマ和えでも全然違うのだ。
「手間を惜しまない」
これは美味しいものを作るのに、とても大事なことだと思う。
手の込んだものを作るという意味ではない。
たった10分でできるんだけど、ゴマを自分で煎るかどうか、その違い。
このお店はそういう「手間を惜しまない」良さがあった。

あとは、お店の雰囲気。
いいお店というのは、なぜかいいお客さんが多いのだ。
例えば、料理はそこそこでも、雰囲気がいいだけでまた来たいと思ってしまう。
逆にせっかく美味しいものを出しているのに、雰囲気が悪くてもう二度と行かない店もある。

昨日、このお店の後に行った三条の近くにある日本酒バーはもう二度と行かない。
すごくいいお酒をたくさん置いているけど、本当に居心地が悪かった。
お酒はやっぱり楽しくて幸せな気分で飲みたいもの。
むっつりしたマスターを目の前にして飲んでも美味しくない。
値段も非常に良心的じゃなかった。

やはり、自分でいつも日本全国からいいお酒を取り寄せて飲んでいると、日本酒は値段じゃないと思う。
1升が3000円もしないのに、感動的に美味しいお酒がたくさんある。
それなのに、たった60mlや半合で800円もとられると、何なんだろうなぁと思う。
この人は日本酒が好きで、日本酒の美味しさを広めたくてお店を始めたんじゃないんだろうかと、不思議になる。
あんな高い日本酒バーに行ったら、せっかく美味しいと思っても「やっぱり美味しい日本酒ってのは、こんな値段がするんだな」と思わせて、よけいに敬遠されるだけ。

その点、「まゆのあな」等、「山中酒の店」系列のお店はいい。
90mlで350円~飲める。どれも美味しい。
本当にお酒を愛してる感じがする。
スタッフもニコニコして感じがいい。

そういう意味では、我が家から徒歩1分にできたバーも素敵だ。
元々はお好み焼き屋の跡地で、油ベタベタでどうしようもなかったボロ屋だったんだけど、本当に素敵に生まれ変わった。

オープン前、毎晩お友達がたくさん来て、みんなで手作りしていた。
それを毎日見るのが楽しみだった。

ある晩、通りかかったら、マスターが
「こんばんは」と声をかけてくれた。
「何ができるんですか?」と聞いたら、
「バーです」という。
嬉しくて、「できたら来ますね」と言った。

今、もうすっかり常連になって、週に2回は夫と通っているが(一人でも)、マスターが何度か言った。
「あのとき、『できたら行きますね』って声をかけてもらったのがすごく励みになった」と。
こちらとすれば、近くにバーができるなんて、本当に嬉しかったのだが、励みになったならよかったなぁと思った。

このバーは、来ているお客さんもみんな良くて。
20代くらいの若い人が多い。
やっぱり町民は飢えてたんだなぁと実感する。
私の住んでいる町は大阪でも一番北にあり、かなりお上品で(いや、ほんまに)、生活水準も高い。
なのに、店がない。
みんな近くで飲むなら高槻か河原町まで出る。

だから、本当にいいお店が出れば、みんな行く。
ただ、このバーが成功しているのは、もうマスターの人柄が何より。
いつも癒される。
だから、友達が多くて、みんながこのお店を応援しているのがわかる。
それがわかると、お客も応援したくなる。

びりけんもそうだけど、お客さん同士が会話できるお店。

世の中に「美味しい店」はたくさんあるけど、「愛のあるお店」ってそんなにない。
愛ある店はいいわ、やっぱり。

★なな治
京都市中京区西木屋町通六角西入ル北側
075-211-0784
17:30~23:00
水曜定休

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