昭和少年漂流記

破壊、建設、発展と、大きく揺れ動いた昭和という時代。大きな波の中を漂流した少年たちの、いくつかの物語。

第三章:1970~73年 石ころと流れ星   15

2011年05月06日 | 日記

吉田山山頂の広場は月の光に照らされ、表情が読み取れるほどの明るさだった。遠く嵐山の花火を臨みながら、大文字や街並みをひと通り眺め終わると、改めてお互いの顔を確認しながら、自己紹介をした。

京子の友人は一美といい、やはり一度京子の部屋で会っていた。目を伏せがちに話す姿に、初対面の時の印象をはっきりと思い出した。

僕から西瓜を奪い取るようにした三枝君にも、見覚えがあった。その旨を告げると、

「一緒にちょっとだけビリヤードしたからちゃう?」と、素っ気なかった。

「じゃ、花見酒にするか~~」

小杉さんの声が響く。紙袋を持ち歩いていた背の低い男がつつっと近寄り、紙コップを出して切り株のようなテーブルに並べていく。

「君たちもどう~~?」

小杉さんが、肩を組み飽きることなく夜空を見上げている兄弟に声を掛ける。一升瓶をかざしている。

「いいんですか~~?」

振り向いた二人が、ゆっくりと近づいてくる。

「あの二人、大変な闘士なんやで。根がロマンチストやからなあ。…な、わかるやろ?」

小杉さんの耳打ちに小さく頷いていると、「タバコありますよ~~~」とハイライトを差し出しながら、二人は隣にやってきた。

「こんばんは~~」

頭を下げながら、僕は二人を窺う。素朴な顔立ちに光る鋭い眼差し。奇妙なアンバランスを感じる。

「新しい同志やね」

向けられた微笑みに戸惑いつつも、眼光の鋭さに思わず首を縦に小さく振ってしまう。

「いやいや、そういうわけではないんやけどな。僕が、彼に興味があってな。今日は誘ってみたんや」

小杉さんがフォローする言葉に、僕の背中を電流が走る。何か企みでもあるのだろうか。

「ま、飲もうや。今夜は、休戦の夜や」

小杉さんが一升瓶を差し出すと、紙コップを二つ手に取りながら、「我々は、敵対してへんやないですか。むしろ、これから共闘できないか、思うてるんですけど……」と兄弟の一方が言う。

「兄貴はいつもそう言うてるん……」

なみなみと酒が注がれた紙コップを受け取りながら、もう一方が言い掛け、近付けた口から入ってくる酒と一緒に言葉の後半を飲み込む。

「君!ちょっと!」

突然、耳元で言われて振り向く。三枝君が、顎で“こっちへ!”と僕を誘う。

「行っといで!」

目の端で三枝君の動きを捉えた小杉さんが、僕を追い立てるように手を払う。ロマンティック兄弟と共闘のための密談にでも入りたいのだろう。

三枝君は、一升瓶を受け取り酒を注いだコップを両手に、先を急ぐ。後姿を追いながら、全共闘過激派の新たな動きがこんな場所でこんなシチュエーションで胎動を始めるなんて!と信じ難い思いだった。

しかし、三枝君の話は、そんなこととは無縁の、不思議な話だった。

 

「京子のことなんやけど……」

いきなり真顔で切り出され、僕は戸惑った。紙コップの酒を一気に飲んだ。

「京子さんがどうしたんですか?」

一息ついて、聞く姿勢になった。少し後ろめたかった。

 

*月曜日と金曜日に更新する予定です。つづきをお楽しみに~~。

もう2つ、ブログ書いています。

1.60sFACTORYプロデューサー日記(脳出血のこと、リハビリのこと、マーケティングのこと、ペットのこと等あれこれ日記)

 2.60sFACTORY活動日記(オーセンティックなアメリカントラッドのモノ作りや着こなし等々のお話)


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