吉田山山頂の広場は月の光に照らされ、表情が読み取れるほどの明るさだった。遠く嵐山の花火を臨みながら、大文字や街並みをひと通り眺め終わると、改めてお互いの顔を確認しながら、自己紹介をした。
京子の友人は一美といい、やはり一度京子の部屋で会っていた。目を伏せがちに話す姿に、初対面の時の印象をはっきりと思い出した。
僕から西瓜を奪い取るようにした三枝君にも、見覚えがあった。その旨を告げると、
「一緒にちょっとだけビリヤードしたからちゃう?」と、素っ気なかった。
「じゃ、花見酒にするか~~」
小杉さんの声が響く。紙袋を持ち歩いていた背の低い男がつつっと近寄り、紙コップを出して切り株のようなテーブルに並べていく。
「君たちもどう~~?」
小杉さんが、肩を組み飽きることなく夜空を見上げている兄弟に声を掛ける。一升瓶をかざしている。
「いいんですか~~?」
振り向いた二人が、ゆっくりと近づいてくる。
「あの二人、大変な闘士なんやで。根がロマンチストやからなあ。…な、わかるやろ?」
小杉さんの耳打ちに小さく頷いていると、「タバコありますよ~~~」とハイライトを差し出しながら、二人は隣にやってきた。
「こんばんは~~」
頭を下げながら、僕は二人を窺う。素朴な顔立ちに光る鋭い眼差し。奇妙なアンバランスを感じる。
「新しい同志やね」
向けられた微笑みに戸惑いつつも、眼光の鋭さに思わず首を縦に小さく振ってしまう。
「いやいや、そういうわけではないんやけどな。僕が、彼に興味があってな。今日は誘ってみたんや」
小杉さんがフォローする言葉に、僕の背中を電流が走る。何か企みでもあるのだろうか。
「ま、飲もうや。今夜は、休戦の夜や」
小杉さんが一升瓶を差し出すと、紙コップを二つ手に取りながら、「我々は、敵対してへんやないですか。むしろ、これから共闘できないか、思うてるんですけど……」と兄弟の一方が言う。
「兄貴はいつもそう言うてるん……」
なみなみと酒が注がれた紙コップを受け取りながら、もう一方が言い掛け、近付けた口から入ってくる酒と一緒に言葉の後半を飲み込む。
「君!ちょっと!」
突然、耳元で言われて振り向く。三枝君が、顎で“こっちへ!”と僕を誘う。
「行っといで!」
目の端で三枝君の動きを捉えた小杉さんが、僕を追い立てるように手を払う。ロマンティック兄弟と共闘のための密談にでも入りたいのだろう。
三枝君は、一升瓶を受け取り酒を注いだコップを両手に、先を急ぐ。後姿を追いながら、全共闘過激派の新たな動きがこんな場所でこんなシチュエーションで胎動を始めるなんて!と信じ難い思いだった。
しかし、三枝君の話は、そんなこととは無縁の、不思議な話だった。
「京子のことなんやけど……」
いきなり真顔で切り出され、僕は戸惑った。紙コップの酒を一気に飲んだ。
「京子さんがどうしたんですか?」
一息ついて、聞く姿勢になった。少し後ろめたかった。
*月曜日と金曜日に更新する予定です。つづきをお楽しみに~~。
もう2つ、ブログ書いています。
1.60sFACTORYプロデューサー日記(脳出血のこと、リハビリのこと、マーケティングのこと、ペットのこと等あれこれ日記)
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