花の色みな澄み今朝の鶏頭は
冷やしおく葡萄に露の吹いており
秋夜電車の灯にみなケイタイ読む
秋芝のキャンパス少し坂の上
黄昏の一気に寄せて虫の声
虫の声鈴音のごときが地にころがり
鶏頭の立ったる土の乾ききる
ほうれん草お菜に茹でて暮れ早し
何事も思わず今夜の秋刀魚買う
秋祭りの近き空気がポストまで
新駅の広場に秋風よく通り
林檎食ぶそのあたたかき皮を剥き
黄花コスモス甍ある家を囲みける
晴れし日は桜が紅葉し始めぬ
楽隊のドリル演奏秋天へ
豆腐屋に秋日斜めに差し来たり
新豆腐すっぱと切りしを買い戻る
小さくも山椒黄葉の始まれり
秋冷に水はあたたかし手を洗う
つづれ鳴く虫音のときに高まるも
学生の頃の空なり鳥渡る
秋雨の暗渠にこぽこぽ澄みし音
秋雨の水輪澄みつつ重なり合い
座布団のごとき柿にてさわし柿
大根を刻めば老いもきらきらと
海の青日々に深まり柘榴の実
柘榴の実割ればこぼるることいつも
柘榴の実もろきガラスのごと割れぬ
雲奥に月のあること虹の円
置き始む露も虫音も銀色に
平らかな虫音も千々に月を浴ぶ
日を負うてバッタのみどりみずみずし
日のバッタ草を飛び出て草へ飛び
月の夜があければ木犀の香が流れ
朝はまだ木犀の香のつめたかり
祭笛はたと途切れぬもの書けば
祭笛佳き音なりて遠のきぬ
祭太鼓子が打つらしく弾みけり