ゆっくりかえろう

散歩と料理

ブログ中の画像・文章の無断使用を禁じます。

音 4/4  最終話

2011-09-11 | フィクション


 あれから予定を聞いて 一週間後の今日 三人で会食しました

 かおりは「心配いらないわ」 とか 「うまくやってね」 とかいいますが
 僕は相手の迫力に気圧されそうです

 それから この会食にはかおりのお祖母ちゃんも 来る予定でしたが
 旅行中とかで連絡がつきませんでした
 
 しょうがない と観念して待合場所の都内某ホテルに向かいました
 ここは知る人ぞ知る セキュリティがわりとしっかりしたホテルのレストラン
 与党の代議士や 現役大臣も利用するくらいの安全が自慢です

 今日もまた肉メニューです

 肩肘張らないものをということで カジュアルな軽いメニューで会食になりました

 
 「本日はお越しいただきありがとうございます」
 「大上健と申します 商社で肉の買い付けをしております」

 「はじめまして 山野亮二といいます」「私立中学の教員をやっております」

 「お噂はかおりさんからお聞きしています 高校時代の家庭教師をされたとか」

 「かおりさんは頭の良い生徒でしたよ 僕が教えることはないくらいに」

  挨拶もそこそこに スープがでて オードブルが出始めた
  彼は手をつけない 肉以外に興味がないのだろうか

 

  料理がなくならないので 次の料理がなかなかでない
  彼の仕事の話 私の仕事の話 そしてかおりの高校時代の話をしながらも
  いまいち盛り上がらない

  
  緊張のあまり尿意をもようしてしまいました
  「大変申し訳ないですが ちょっと席をはずします」

  僕は用を足しにトイレに行きます

  席は個室ですから 私がいなくなれば 二人っきりになります
 
  僕が席をはずしている間 二人は接近します

  「大上さんの目は大きいのね」
  「それは君をしっかり見るためさ」

  「大上さんの口は大きいのね」
  「そう 可愛い君をたべちゃいたい」
  「・・・・・・・・・・・」

  「君にプレゼントした赤いコートを 今着て見せてくれないか」


   その頃僕はトイレを済ませ レジの前を通りかかったところで
   支配人に呼び止められました

  「お客様 これはなんですか?」
  「ん?」

  このお店には 店の玄関とレジ前に監視カメラがおいてあります
  かおりたちが入店したときのビデオが写っていて 僕はそれを見ました

  「?????!!!!!!!」

  僕は一瞬で理解してしまった。
  あの食べ方  あの風貌 肉好み ・・・・

  僕は急いで二人のいる部屋に戻り ドアを勢いよくあけました

  そこには赤いコートを着たかおりと 全身毛むくじゃらの怪物
  金色の光る目 ぴんと空を向いた長い耳 長い尖った爪 

  怪物はくちのはしからよだれを垂らし 大きな口を空けはじめました

  剣のような鋭い犬歯が無数に並び 真っ赤な長い舌 赤いてらてらした口の中
  真っ黒で底のないように見える食道に続く口の奥 生臭い息


  黒い大きなオオカミがそこにいました

  かおりは催眠術にかかったような無表情で 目はうつろに怪物の手に抱えられています
  部屋に入ったとたん 怪物の金色の目に射すくめられたのか 僕は金縛りにあったように
  足が動きません

  手は何とか動くのですが ギクシャクして使い物になりません

  「もうちょっと待ってろ かおりを食べたら お前も喰ってやる!」

  「かおりのばばあは先に喰っちまったが 骨ばっかりでまずかったぜ」

  僕はぎこちない手でポケットの中を探ります
  「あった」
  「昼間何かの拍子に 授業で使った画鋲が手に触りました

  僕は思いっきり画鋲を人差し指に刺しました 「イタッ!」
  赤い血が飛び散り 金縛りから解いてくれると同時に 痛さが僕に勇気をくれました

  僕はかおりのバックから 痴漢撃退用のスプレーを取り出し 怪物の顔めがけて
  スプレーしました。
  スプレーは特製の熊よけスプレーで 主成分に唐辛子エキスが入っています

  「ギヤッ ガウッ ガアーッ」
  怪物はかおりを離し 目を押さえます
  これは目と鼻同時に効きます
  なんせ浴びれば熊でも逃げ出してしまうくらいですから

  僕はかおりの肩を掴んで引き寄せます
  怪物がひるんだ隙に 逃げ場所を探しますが 入り口は怪物の後になっていて
  逃げられそうにありません

  このままでは二人とも 怪物に食べられるのも時間の問題です
   物音を聞きつけて外にいた人が騒いでいますが 助けに来てくれる人はいません

  僕は普段は臆病ですが このときばかりはかおりを助けてやりたいと勇気をだしました
  
  テーブルの上には食器が散らばっています
  僕は勇気を奮って 銀のフォークを握り 怪物の左胸めがけて体当たりして
  すぐ飛びのきました

  でもフォークくらいじゃ 怪物の厚い胸に数センチ刺さったくらいで
  痛くもなんともありません

  幸い怪物はよろけ ドアから離れました
  「よし」
  僕は怪物をさけ かおりを連れて入り口から部屋の外へ逃げました

  怪物は音のするほうへ走り出しましたが 入り口でつまずいて前のめりに倒れました

  「ギャーッ!」 
  勢いよく倒れた拍子に 中途半端に刺さっていたフォークが胸に深くつきささり
  怪物の心臓を貫いていました


  ・・・・・・・・・・

  
  
  

  こわかったわ・・・
  ・・・・僕だってさ

  ・・・・でも りょうしはあかずきんを助けるって 昔からきまっているんだよ

 ありがとう 亮二さん 私の命の恩人ね・・・・・・・


 ・・・・・ いつのまにか 亮二にいちゃんから 亮二さんにかわっていました・・・・

 また彼女は前髪をかきあげて うしろの髪を手でなでつけている


 中学の教師じゃ こんなレストランへは連れて来れないよ

 いいのかい?

   

 

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。