世界はキラキラおもちゃ箱・第3館

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天使の絵本

2015-01-20 07:17:50 | 冬の日差し・夏の月

かのじょは生涯を通じて、友人と呼べるような人はほとんどいませんでした。けれど別に、淋しさを感じてはいませんでした。人間が、苦手だったからです。

あなたがたにはわからないでしょうが、人間は言葉を話したり、何かをしたりするときに、時々、まるで金物をぶつけ合うような、騒音に似たものを発することがあるのです。それがわたしたちの感覚に入ると、非常に神経が疲れるということがあります。

だから人間と話をするよりも、かのじょは植物と話をするのが好きでした。植物は決して嘘はつかないし、とても美しい調和のとれた愛をくれるからです。

センダンやくすのきや小さなビワの木が友達でした。かのじょには、それで結構十分だったのですよ。彼らはみな、涼やかな本当の愛の心をくれるからです。人間の友達は、そんなに欲しいと思わなかった。

けれど、一時期、かのじょは絵本の読み聞かせボランティアのグループに入ったことがあり、ほんの何人かの同世代の女性たちと、しばしの友情を交わしたことがありました。みなかわいい人で、かのじょは気を使いながらも、結構、彼女らとの交流を楽しんだのです。

気を使うというのは、人間の前では、人間の振りをしなければいけないからです。素直な自分を出してしまうと、典型的な変人か狂人になってしまう。かのじょは一生懸命人間の女性に化けながら、友人たちといっしょに、子供たちの前でパネルシアターを演じたり、絵本を読み聞かせたり、時にはみんなでしゃれたレストランなどにいって、ランチをともに楽しんだりしました。

いっしょにランチなんかにいくときも、人間の女性ってこんなことをするのかと、軽くカルチャーショックを受けていましたよ。かのじょは女性でも、中身は男ですから。

ボランティア仲間の中には、おいしい手作りのパンを作れる人がいたり、外国風のきれいなカップに香りのいいお茶を入れてくれる人がいたり、玄関先の壁や靴箱の上に、きれいな小物を並べてセンス良く飾りつけることのできる人がいたり、かのじょは彼女たちのそういう細やかな女性らしさに、いつも感動していました。

なんてかわいいんだろう、なんてきれいなんだろう。

よい女性は、さりげなく、みんなのために、小さなよいことをたくさんしてくれるのです。

こんな女の子たちを、幸せにしてあげたい。かのじょの胸には、そういう思いがいつも明るく灯っていました。わたしたちは、このように、本当に簡単なことで、馬鹿みたいにまっすぐに、人間を愛してしまうことがあるのです。

なんでもしてあげたくなる。

かのじょは、友人たちのために「ゆきしろばらべに」というグリム童話を、自分風に書き直して、たくさんのかわいい絵を描いて、ブラックパネルシアターの作品を作りました。何でそんなことをしたかって、みんなを愛していたからなのです。それ以外に理由はない

わたしたちが、あなたがたのためにすることは、すべてが、愛です。

「ゆきしろばらべに」は、意地悪な小人に困っていた女の子たちが、小人をやっつけてくれた王子さまと幸せな結婚をする話。それにはかのじょの小さな愛の思いがある。まだ子供みたいな男の子で苦労している女の子たちに、正しい愛の心がわかる、王子さまのようなやさしい男の人と幸せな結婚をさせてあげたい。

かわいらしい夢でしょう。でもかのじょは生きている時、その夢を叶えるために、自分にできることは何でもしていこうと思っていたのです。



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