今日も厚木は猛暑日となりました。夜になっても気温が一向に下がらず、連日熱帯夜が続いて寝不足気味です…。
ところで、昨日のヴィヴァルディとバッハの祥月命日にバッハの《オルガン協奏曲ニ短調》をご紹介しましたが、それを見た知り合いから
「どうせなら、元ネタのヴィヴァルディの作品も紹介すればよかったのに。」
と言われました。なので、今日はそのリクエスト(?)にお応えしようと思います。
昨日も書きましたが、バッハの《オルガン協奏曲ニ短調BWV596》は
ヴィヴァルディの《調和の霊感》の中の第11番ニ短調が元ネタとなっています。ヴァイマール時代のバッハはイタリア音楽を熱心に研究し、その過程でヴィヴァルディやマルチェロといったイタリアの作曲家たちの作品を積極的にチェンバロやオルガン用に編曲していて、その中で《オルガン協奏曲ニ短調》が書かれました。
《調和の霊感(L'estro Armonico)作品3》は、ヴィヴァルディが作曲した全12曲からなる協奏曲集です。1711年にアムステルダムのエティエンヌ・ロジェ社から出版されたヴィヴァルディ初の協奏曲集で、トスカーナ大公子フェルディナンド・デ・メディチに献呈されました。
上の写真は初版の表紙で
『偉大なる大公子フェルディナンド3世に捧ぐ』
という献辞が書かれています。ただ、当時フェルディナンド・デ・メディチはまだフェルディナンド3世には就任しておらず、しかも大公になる前に若くして他界してしまっています。
《調和の霊感》は
ヴァイオリン・ソロ✕4(+チェロ)
ヴァイオリン・ソロ✕2+チェロ
ヴァイオリン・ソロ
という3パターンの編成による曲が4回巡回するかたちで構成された全12曲の協奏曲集です。その中からバッハは、『ヴァイオリン協奏曲第3番ト長調』をチェンバロ独奏用に、『4台のヴァイオリンとチェロのための協奏曲第10番ロ短調』を《4つのチェンバロのための協奏曲イ短調》に、そして『2つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲第11番ニ短調』を《オルガン協奏曲ニ短調BWV596》に、それぞれ編曲しています。
『2つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲 ニ短調』は3楽章形式ですが、第1楽章を3つの部分に分けて考えると5楽章形式と解されるコンチェルト・グロッソ(合奏協奏曲)です。今回は5楽章形式として見ていこうと思います。
第1楽章はアレグロ。2つのヴァイオリン・ソロが全く同じ音型を1小節ずれで追いかけるカノンが続いた後にチェロのソロが始まり、下降音階で最低音のレの音まで駆け下りていくと、そのまま第2楽章へと続きます。
第2楽章はアダージョ・スピッカート。第3楽章に向けての橋渡し的なわずか3小節だけの楽章で、これまたそのまま第3楽章へと続いていきます。
第3楽章はアレグロのフーガですが、実際にはよりライトなスタイルのフガートで書かれています。最初にチェロがフーガ(フガート)のテーマを演奏し、次にヴィオラ、第2ヴァイオリン、第1ヴァイオリンというように重なっていきます。ヴィヴァルディの音楽にしては珍しいくらい対位法的で、実は最後の部分でヴィオラが大活躍します。
第4楽章はラルゴ・エ・スピッカートのシチリアーナ。低音部を除いたヴァイオリンとヴィオラだけで演奏されるヴェネツィアの運河のさざ波のような8分音符の刻みの上に、第1ヴァイオリンソロが伸びやかにメロディを歌います。因みにバッハはこの曲をオルガン協奏曲に編曲する際、この楽章だけは手を付けずにほぼ原曲通りに書いています。
第5楽章はアレグロ。第1楽章と同じように2つのヴァイオリンによるカノン的なソロが続いた後、半音階で降りていく音型が印象的なチェロのソロが加わります。第3楽章のような厳格な音楽ではないものの16分音符が多い活発な曲で、最後は下降半音階の低音部にのって華やかに終わっていきます。
ヴィヴァルディにはちょっと失礼ですが、この第11番はフガートや半音階を積極的に使っていることもあって、ヴィヴァルディ作品らしからぬ古めかしさと固さがあります。それ故に、かつてはバッハのオルガン協奏曲の方がオリジナルだと言われていた時代すらあったようです。
それでも、第4楽章のシチリアーナのメロディはヴィヴァルディの真骨頂とでも言うべき優美さをそなえていますから、やはりこの音楽はヴィヴァルディだからこそ書けたものであることに違いはありません。そんな音楽だからこそ若きバッハも魅了され、研究し編曲してみようと思い立ったのでしょう。
そんなわけで、今日はヴィヴァルディの《調和の霊感》から第11番ニ短調をお聴きいただきたいと思います。バッハも魅了された、《四季》などで親しんでいるヴィヴァルディとは一味違う音楽をお楽しみください。