共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

中音の魅力!バッハ《ブランデンブルク協奏曲 第6番 変ロ長調》

2024年09月02日 18時00分00秒 | 音楽
台風10号は昨日の昼頃に熱帯低気圧に変わり、今日は今までの悪天候を取り戻すかのような晴天となりました。ところが、昨日小田原市が出した決断は

『9月2日全校一斉休校』

というものでした。

この通達がメールで送られてきた16時過ぎの段階では、台風は既に熱帯低気圧になっていました。それなのにどうして一斉休校になってしまったのか甚だ疑問なのですが、とにもかくにも始業式は明日に持ち越しになってしまいました。

何だか出鼻をくじかれたような気分になってしまいましたが、こればかりはどうしようもありません。なので、今日は大人しく自宅にこもって音楽でも聴きながら過ごすことにしました。

ここ最近ハイドンが続いていましたが、今日はハイドンではなく、



バッハでいこうと思います。今日、主に聴いていたのは《ブランデンブルク協奏曲》ですが、今回は個人的にお気に入りの第6番をご紹介しようと思います。

改めて説明するまでもないかも知れませんが、《ブランデンブルグ協奏曲》は6曲のいろいろな編成とスタイルによる協奏曲を集めた曲集で、1708年から1723年にかけてバッハがケーテン公の宮廷楽長をつとめていた時代に、当地の宮廷管弦楽団のために書かれたものと考えられています。それらがまとめられて、後にブランデンブルク=シュヴェート辺境伯クリスティアン・ルートヴィヒに捧げられたので《ブランデンブルグ協奏曲》とよばれています。

ケーテン公レオポルトはたいへん音楽好きで、この時代としては比較的規模の大きな、しかも優秀な管弦楽団を抱えていました。主にこの楽団で演奏するためにバッハが存分に筆をふるった作品ですから、どの曲も独奏者には相当の腕前が要求され、音楽的にも密度の高い傑作ぞろいになっています。

《ブランデンブルク協奏曲》の最後を飾る第6番は実は一連の《ブランデンブルク協奏曲》の中では一番古く、1717年頃の作と考えられています。この曲にはヴァイオリンがおらず、高音楽器の音がしない渋い響きが特徴です。

楽器編成は

ヴィオラ・ダ・ブラッチョ✕2
チェロ✕1
(ヴァイオリン属)
ヴィオラ・ダ・ガンバ✕2
ヴィオローネ✕1
(ヴィオル属)
通奏低音(チェンバロ、オルガン等)

というように、ヴァイオリン属の楽器3部とヴィオル属の楽器3部に、鍵盤楽器などの和声楽器が即興で彩りを添えるという構造です。これだけの少人数ですので、協奏曲とはいうものの独奏と合奏の区別は殆どありません。

ヴィオラ・ダ・ガンバは、



古弦楽器の代表格ともいえるもので、ガンバはイタリア語で脚という意味(ガンバ大阪のガンバと同じ意味です)、つまりヴィオラ・ダ・ガンバは〝脚のヴィオラ〟という意味で、



両足で挟んで演奏するヴィオラということです。一方でヴィオラ・ダ・ブラッチョとは何かというと、ブラッチョはイタリア語で腕、つまり〝腕のヴィオラ〟となり、これが現在よく見るヴィオラのことです。

実は〝ヴィオラ〟というイタリア語は、元々は弦をこすって音を出す楽器の総称だったのです。ヴァイオリンも元をたどれば『こする弦楽器Viola + 小さい〜ino=Violino 』という意味で生まれたものです。

旋律は主としてヴィオラ2部とチェロが語り、ヴィオル合奏は主として和声を添える伴奏役ですが、2挺のガンバは時折メロディを担当することもあります。第2ヴィオラ・ダ・ガンバのパートは簡単に弾けるように配慮されていて、恐らくバッハ自身がヴィオラを弾き、当時のパトロンだったケーテン侯レオポルトが第2ヴィオラ・ダ・ガンバを弾いて合奏に参加していたのではないかと思われます。

第1楽章は変ロ長調、速度指定のない2/2拍子。ヴィオラのメロディは16分音符が切れ目なく演奏されたいるように聴こえますが、実際には



2挺のヴィオラが半拍ずれたカノンによってメロディを奏でるという、なかなかトリッキーなことをしています。ヴィオラ・ダ・ガンバも基本的には伴奏ですが




時折フーガや対旋律的に絡んでくることもあり、弾き応えのあるものとなっています。

第2楽章は変ホ長調、アダージョ・マ・ノン・タントの3/2拍子。




調性は♭3つの変ホ長調ですが調号は♭2つの変ロ長調のままになっていて、臨時記号を使って変ホ長調にしています。

この楽章ではヴィオラ・ダ・ガンバは完全休止で、一度も登場しません。また、ブランデンブルク協奏曲全6曲の緩徐楽章の中で唯一長調をとった曲であり、そのことも相まって魅力的なカンタービレとなっています。

第3楽章は変ロ長調、アレグロの12/8拍子。




とても軽快な曲調で、2小節目からヴィオラに登場するシンコペーションのリズムが特徴的です。ヴィオラ・ダ・ガンバも適度にメロディに絡んで、ただの伴奏ではない動きを見せています。

この楽章で謎なのが通奏低音の最後の音で、



この低音シ♭は鍵盤楽器では問題ないのですが、ヴィオローネでは通常出ない音なのです。当時最低音弦楽器だった16フィートヴィオローネでも現在使用されている5弦コントラバスでも最低音はドの音までなので、このままだと楽譜通りには演奏できないことになってしまうのです。

もしかしたらケーテンの宮廷楽団にとんでもなくニッチな低音弦楽器があったのかも知れませんが、この最低音の真相は今もって謎のままです。現在では、鍵盤楽器は楽譜通りに、ヴィオローネやコントラバスではオクターブ上げて演奏されるのが通例となっています。

そんなわけで、今日はバッハの《ブランデンブルク協奏曲第6番変ロ長調》をお聴きいただきたいと思います。ガードナー室内管弦楽団の演奏で、スコアにト音記号が一切出てこない中音域の魅力満載の名曲をお楽しみください。


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