共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

今日はタルティーニの命日〜人間技とは思えない名曲《悪魔のトリル》

2022年02月26日 16時00分16秒 | 音楽
今日は天気予報通りの、春のように暖かな晴天に恵まれました。久しぶりにベランダにテーブルを引っ張り出してお茶してみたのですが、とっても気持ちのいいひと時となりました。

ところで今日2月26日は教科書にも載っている二・二六事件の日でもありますが、一応音楽を中心としている拙ブログとしては音楽家のことを取り上げたいと思います。今日はタルティーニの命日です。



ジュゼッペ・タルティーニ(1692〜1770)はバロック期のイタリアで活躍した作曲家・ヴァイオリニストです。

タルティーニの両親は彼をフランシスコ会の修道士にしようとしていたらしく、そのために彼は勉学と共に基礎的な音楽の教練も受けていました。彼はパドヴァの大学で法律を勉強していましたが、1710年に父親が没した後はパドヴァを後にしてアッシジの聖フランシスコ修道会に入り、この間にヴァイオリンの演奏を始めたといわれています。

タルティーニの技能は目覚ましい成長ぶりを見せて、1721年にはパドヴァのイル・サント礼拝堂付きの指揮者に、しかも彼自身が希望するなら他の団体で演奏してもよいという、当時としては珍しい契約つきで任命されました。1726年には自身のヴァイオリン教室を始めてヨーロッパ中の学生達を引きつけたタルティーニは次第に和声や音響学といった理論にも興味を持つようになり、1750年以降生涯にわたって多くの学術論文を発表しました。

さて、タルティーニといって真っ先に思い浮かぶのがヴァイオリン・ソナタ ト短調、通称《悪魔のトリル》でしょう。超絶技巧を要するこの作品はバロック期の作品としてのみならず、数あるヴァイオリン・ソナタの中でも屈指の難曲として知られています。

この《悪魔のトリル》という何ともおどろおどろしい通称は、タルティーニ本人が付けたものといわれています。それを裏付けるものとして、



タルティーニと同時代のフランスの天文学者ジェローム・ラランド(1732〜1807)が1769年にイタリアを旅行した際に記した旅行記の中で、タルティーニ自身から聞いたというこの作品にまつわるエピソードを記載しているものがあります。

それによると…


「1713年のある夜に私は夢の中で悪魔と、魂と引き換えに望むもの全てを手に入れる契約をした。その時、私は思いついて悪魔にヴァイオリンを手渡してみた。」

「すると悪魔は、



それはそれは素晴らしいヴァイオリン・ソナタを弾いてみせたので、私は驚愕してしまった。その演奏は優れた技術と知性に満ち溢れ、この世のものとも思えぬ美しい音楽だった。」

「そのあまりの美しさに心を虜にされた私はハッと目覚めると飛び起きてヴァイオリンをつかみ、夢で聴いた悪魔のソナタを再現しようとして慌ててメロディを奏で始めた。そうして作曲されたソナタは、私の今までに書いたどの作品よりも素晴らしいものとなり、私はこの作品を《悪魔のトリル》と名付けることにしたのだ。」


と、タルティーニ本人が語ったのだそうです。

何とも荒唐無稽な逸話ですが、これは当時としては…いや、現在でもかなりの超絶技巧を織り込んだ作品なので、もはや悪魔に魂を売って書いたくらいのレベルの作品だという賛辞と取れないこともありません。ただ、旅行記には1713年と書かれていますが、作品の書法などからそんなに若い頃ではなく、実際には1740年代くらいに書かれたのではないかとされています。

この《悪魔のトリル》は、その強烈なエピソードも相俟って様々なヴァイオリンの名手に愛奏されてきました。また後の世に様々な改訂も行なわれていて、現在モダンヴァイオリンで演奏する際には



20世紀の名ヴァイオリニストであるフリッツ・クライスラー(1875〜1962)が作ったカデンツァが使われることもあります。

そんなわけでタルティーニの命日である今日は、彼の代表作にして屈指の難曲《悪魔のトリル》をお聴きいただきたいと思います。動画の8:05くらいからトリルを含む第3楽章が始まって、9:30のところからいわゆる『悪魔のトリル』が始まりますが、先ずは全曲通してトータルの美しさを堪能してみてください。




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