共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

特別展《神護寺》@上野・東京国立博物館

2024年07月30日 20時00分00秒 | アート
相変わらずの暑さの中、今日は思い切って上野の東京国立博物館に行きました。現在、こちらでは



特別展《神護寺》が開催されています。

京都北郊の紅葉の名所、高雄の神護寺は、和気清麻呂(わけのきよまろ)が建立した高雄山寺を起源とします。後に唐から帰国した空海が活動の拠点としたことから、このお寺が真言密教の出発点となりました。

この特別展は、824年に正式に密教寺院となった神護寺創建1200年と空海生誕1250年を記念して開催されています。平安初期彫刻の最高傑作である国宝『薬師如来立像』や、約230年ぶりの修復を終えた国宝『両界曼荼羅(高雄曼荼羅)』など空海ゆかりの宝物をはじめ、神護寺に受け継がれる貴重な文化財を紹介するものとなっています。

始めのコーナーには密教の法具などが展示されていたのですが、その中で人々の目を引いていたのが



『灌頂暦名』(かんじょうれきみょう・国宝)です。これは平安時代・弘仁3(812)年に書かれた空海の直筆の書です。

空海は書にも秀でていて、嵯峨天皇・橘逸勢(たちばなのはやなり)とともに三筆と称えられています。この灌頂暦名は灌頂会という法会の参加者名などを書き留めたメモのようなものですが、空海ともなればメモすら国宝になってしまうのですから驚きです。

この灌頂暦名に限らず、空海の遺した書状の中にはしばしば天台宗の祖である伝教大師最澄の名前が登場しています。灌頂暦名の右から三列目筆頭にも『釈最澄』と記されていますが、こうしたものを見ると空海と最澄という二大高僧が宗派を超えて交流をもっていたことが分かります。

そして、次に人々の目を引いていたのが



伝源頼朝像(鎌倉時代・13世紀、国宝)です。日本史の教科書で見たことのある絵だけあって特に大人たちが立ち止まって見ていたのですが、ほぼ等身大という思いの外の大きさに一様に驚いている様子でした。

第一会場の最後に登場したのは



江戸時代以来、およそ230年ぶりに修理された《両界曼荼羅》でした。紫の絹地に金泥と銀泥で描かれたこの曼荼羅は、高雄山神護寺に伝わったため『高雄曼荼羅』とも呼ばれていて、空海が在世時に制作されたことが確認できる現存最古の両界曼荼羅です。

金剛界と胎蔵界という、密教の二つの世界観を図示したのが両界曼荼羅です。今回は前期展示の胎蔵界のみの展示でしたが



4メートル四方もの大きさを誇る巨大なもので、その大きさと、描かれた夥しい数の仏たちの細密な表現に圧倒されます。

第二会場の目玉は、なんと言っても仏像彫刻です。

先ずは神護寺多宝塔に祀られている《五大虚空蔵菩薩坐像》(平安時代・9世紀、国宝)です。これは三筆のひとり嵯峨天皇の皇子である第54代仁明(にんみょう)天皇御願とされ、鎮護国家を願って制作されたといわれています。

空海の入定後に高野山をを継いだ真済(しんぜい)の代に安置された《五大虚空蔵菩薩坐像》は、日本で制作された作例のうち五体が揃う現存最古のものです。











品の良い顔立ちと均整の取れた造形は、当時最高の技術を持った工人によって制作されたものです。

寺外で五体揃って公開されるのは、今回が初めてのことだそうです。会場では五体の虚空蔵菩薩坐像が



法界虚空蔵を中心に円形の台座に安置されていて、360°あらゆる角度からじっくりと観賞することができるようになっています。

そして、今回の特別展最大の見所が



神護寺の御本尊《薬師如来立像》(平安時代・8〜9世紀、国宝)です。

この《薬師如来立像》は神護寺の前身寺院にまつられていた御本尊で、それを神護寺の御本尊として空海がお迎えした仏様です。つまり、この御像は空海自身も拝んだ尊像ということになります。

薬師如来というと穏やかで柔和な表情をされているイメージですが、神護寺の御本尊は





量感あふれる造形と威厳あふれる表情で独特の迫力を生み出し、厳しさすら感じさせます。平安初期の仏像彫刻の最高傑作といえるもので、今回は



脇侍の日光・月光両菩薩立像とともにお出ましになり、360°展示ではないにせよ、普段は絶対に拝見できないお背中も観ることができるようになっています。

今回は御本尊の台座の修繕に伴う出開帳で、神護寺史上初の機会とのことです。暑さをおして上野まで来た甲斐がありました。

その他にも



楼門に安置されている持国天と増長天、明治16年に小松宮彰仁親王が揮毫された『高雄山』の扁額が展示されていました。こちらでは撮影OKということで、観客たちが盛んにシャッター音を響かせていました。

厚木に戻ってきたら、どうやら私が都内に行っている間に雨が降ったようで、体感温度がだいぶ下がっていました。これくらいの気温がずっと続いてくれたら…と思うのですが、残念ながら明日も日中は暑いようです…。


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