共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

特別展《国宝鳥獣戯画のすべて》

2021年06月17日 21時58分25秒 | アート
今日は、いよいよ待ちに待った《国宝鳥獣戯画のすべて》展の予約日です。

朝のうちに降っていた雨もすっかり上がって、打ち水効果の涼しい風の吹く中を上野まで出かけ、東京国立博物館平成館に向かいました。そして、



予約していた14時より少し早目に館内に入ることができました。

今回の特別展の目玉は何と言っても、京都・高山寺所有の国宝《鳥獣戯画》甲乙丙丁全4巻が全て出揃うという点です。今までにも幾度か《鳥獣戯画》が公開されたことはありますが、殆どが一番有名な甲巻と他1巻くらいで全巻公開されたことはありませんでしたから、今回の特別展は正に空前絶後の機会となったのです。

しかし、4月に始まったこの特別展は、折からの新型コロナウィルス感染拡大予防措置として東京都から出された緊急事態宣言により2度に渡って休止を余儀なくされてしまいました。その後、当初5月までだった会期が今度の日曜日まで延長され、私も無事にチケットをGETすることができたのです。

感想としては、正に圧巻でした。こんな有意義な特別展を、2度に渡って妨害した東京都知事のセンスが理解できません。

普段は買わないのですが、今回はあまりに感激したので、



ちょっと高かったのですが奮発して図録を買いました(汗)。この図録は実際の《鳥獣戯画》とほぼ同サイズの写真が見開きページいっぱいに掲載されていて、描かれている動物や人物の細部までよく観ることができます。

《鳥獣戯画》は12世紀頃の平安時代から13世紀頃の鎌倉時代にかけて制作された絵巻物です。かつては鳥羽僧正の筆と言われていましたが、どうやら一人の筆ではなく複数の人物が関わっているのではないかと言われています。

《鳥獣戯画》は甲乙丙丁の4巻からなる絵巻物です。

甲巻は恐らく一番《鳥獣戯画》をイメージさせる作品で





猿・兎・蛙といった様々な動物たちが擬人化されているものです。

今回の展示で特にユニークだったのが、この一番有名な甲巻の鑑賞方法です。

通常こうした有名作品の展示では、最前列で鑑賞している客が作品の前から立ち止まってなかなか動こうとせず、係員から

「恐れ入ります、立ち止まらずに少しずつお進みになりながらのご鑑賞をお願い致します。」

と促されても自分勝手で厚かましい輩が頑として動かずに、いつまで経っても列が進まないという現象が多発します。

今回の展示でも、特に有名な甲巻では大渋滞が予測されていましたが、その対策として東京国立博物館のキュレーター(学芸員)さんが編み出したのが

「客がテコでも動かないなら、強制的に動かしてやればいいじゃん!」

という逆転の発想でした。そしてその対策というのが、



甲巻の展示ケースの前に『動く歩道』を設置するという離れ技だったのです。

実際に私も乗りましたが、自身は立ったままで勝手に進んでいってくれますし、その速さも実にいい感じなので、長さのある絵巻物を鑑賞するには打ってつけです。これなら、さしもの厚かましい輩も作品の前で頑として動かないという暴挙には出られませんから、もしかしたらこの『動く歩道式強制移動鑑賞法』は今後流行るかも知れません(笑)。

それと、この『動く歩道』は思わぬ効果を発揮していました。というのも『動く歩道』が設置されていない乙・丙・丁巻の展示ケース前の人の流れも割合スムーズに進んでいたのです。もしかしたら『動く歩道』のペースが、他の展示ケース前で鑑賞していた人に何らかの心理的影響を及ぼしたのかも知れません。

甲巻に続く乙巻は、さながら動物図鑑の様相を呈しています。

前半は馬や牛、犬、鶏といった馴染みのある動物たちが描かれています。その中で個人的に目に留まったのが、



馬の顔を正面から描いた場面です。馬の横顔の絵はよく見ますが、こんなに正面から描かれている馬の絵は他に観たことがありません。

他にも



角突き合いする牛の絵では、簡潔な線ながら雄牛の隆々たる筋肉が見事に描かれています。

乙巻の後半は麒麟や竜や獏といった想像上の動物たちが登場します。その中で特に際立っているのが



2頭の白象です。平安時代の日本人は実物の象を見たことは無いはずなのですが、この象はなかなかのリアリティを以て描かれていて、ちょっと驚きました。

丙巻は2部構成になっていて、前半では人間たちの様々な様子が描かれています。巻頭では囲碁や将棋、双六といった遊戯を楽しむ人々が登場し、中には



首に輪をかけて互いに引っ張りあう『首ひき』や



現代のにらめっこにあたる『目くらべ』に興ずる人々が、闊達な筆使いで描き出されています。

丙巻後半では、またしても擬人化された動物たちが登場します。競馬をしたり踊ったりする楽しげな動物たちが次から次へと出てきますが、個人的に気に入ったのが



この丸々としたニャンコです。茶トラなのかキジトラなのかは分かりませんが、狐と並んで騒ぎを見ている様は実にユーモラスです。

最後の丁巻は、他の3巻よりも少し時代が下った鎌倉時代の作と見られています。

丁巻は、さながら中世のスポーツ一覧といった感じのものとなっています。



流鏑馬や蹴鞠、中には



現代のホッケーのような打毬という競技がいきいきと描かれていて、全4巻の中でとかく評価が低いものの、どういたしましてなかなかの見応えです。

この丁巻が鎌倉時代の作とされている根拠は、使われている紙の質や



描かれている公家の装束が、鎌倉時代以降に登場した『強装束(こわしょうぞく)』という糊の効いた硬い線の装束を身にまとっていることにあります。特にこちらを振り向いた公家の顔はかなり精緻な似絵(にせえ)の手法で描かれていて、技術的にもなかなか素晴らしいものです。

この他には、



本来《鳥獣戯画》の中にあったものが後の時代に一部切り取られ掛け軸に仕立てられた断簡(上の写真は東京国立博物館に所蔵されている甲巻の断簡)や、様々な時代に描かれた写本が展示されていました。特に各写本は、断簡が切り取られる以前の《鳥獣戯画》本来の姿を伝えるものとして貴重な存在です。

後半は、高山寺中興の祖の誉れ高い明恵上人にまつわる展示が繰り広げられており、明恵上人自身の筆による夢日記や和歌、死後数ヶ月後に制作された明恵上人の木像などが展示されていました。その中で、特に来場者の目を引いていたのが



一番最後に展示されていた仔犬の木像です。

明恵上人は人間だけでなく様々な動物たちも慈しんでいたといいますが、その中でもとりわけ犬を可愛がっていたようです。この仔犬の木像はかつて明恵上人の木像の横に一緒に置かれていたもののようですが、小首を傾げてこちらをつぶらな目で見上げる様は何とも愛らしく、来場者の目を細めさせていました。

一時はどうなることかと思っていましたが、コロナにメゲずこうして無事に貴重な展覧会が開催できたことは、実に有り難いことでした。今後こうして《鳥獣戯画》全巻が公開されることもそう無いことでしょうから、いい冥土の土産ができました(笑)。

今回の展覧会では鑑賞者全員にマスクの着用と検温が義務付けられました。また、会場内では鑑賞者同士のソーシャルディスタンスが図られ、鑑賞中の会話をしないよう注意喚起がなされていました。

しかし、何度係員から注意されても無駄話の止まらない残念な輩もいて、終いには別の客から説教される奴までいました。何故にそうした要請が出されているのかという意味が分からないオツムの足りない輩は、ハッキリ言って迷惑でしかありません。

今日、東京都をはじめとした各自治体に発令されていた緊急事態宣言が20日の日曜日に解除されることが一応決まりましたが、解除後も様々な感染予防対策をとらなければならない状況は変わりません。今後も一人一人がマスク着用やソーシャルディスタンスの意味を理解して、引き続き蔓延防止に努めたいものです。


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