今日は都内でオーケストラの練習があるのですが、始まるまでに時間があったので、久しぶりに上野の東京国立博物館に行きました。
現在ここでは《ほほえみの御仏展》と題した展示会が開催されています。これは日韓国交正常化50周年を記念したもので、それぞれの国の国宝仏2体が特別展示されているものです。
日本史の授業でも習った通り、インドで興った仏教はチベットから中国、朝鮮を経て日本に伝来しました。その過程で様々なものが海を渡りました。そのひとつが仏像です。この展示会では、その中でも『半跏思惟像』という仏像にスポットを当てて、日本と韓国に遺されたそれぞれの国の国宝半跏思惟仏を展示するというものです。
『半跏思惟』とは、釈迦入滅の56億7千万年後に現れて衆生を救うという弥勒菩薩が 、悟りをひらくために修行を積んでいる兜率天において如何に衆生を救うべきか考えている姿のことで、右足を左足の腿に組み上げ(半跏)、右手を頬に当てて思索に耽る(思惟)かたちで表されます。今回の展示会では、日本からは7世紀作の奈良・中宮寺の御本尊が、韓国からは6世紀作の韓国国立博物館所蔵の国宝78号仏が、互いに向かい合うように展示されていました。
ポスターで見ると同じくらいの大きさに見えてしまいますが、実際には中宮寺像が126cmあるのに対して、韓国像は83cm程の大きさです。材質も、中宮寺像が榧の木の寄木造に漆と着色で仕上げられているのに対して、韓国像は青銅で鋳上げた像に鍍金が施されています。
2つの半跏思惟像にはおよそ100年の開きがありますが、共通点が幾つか見受けられます。
●徹底した正面性
2体とも、真正面から礼拝されることを念頭において製作されています。なので、ちょっと横に廻ると仕上げか簡素な部分が見てとれ、背面側は最低限の仕上げのみが施されています。韓国像の冠は、後頭部4分の1程が作られていません。
●台座に懸けられた衣の襞のデザイン
座っている台座には布が懸けられたような襞が表されていますが、2体ともほぼ同じようなドレープが連続したデザイン的パターンで刻まれています。
●口元に浮かぶ『アルカイックスマイル』
これも日本史のテストでお馴染みのワードですが、初期の仏像の特徴のひとつに挙げられる微笑み、俗に言う『アルカイックスマイル』が見られます。
一方で、同じようでいながら、それぞれに特徴的な違いを見せる部分もあります。
●裾の処理 ○と□
韓国像はスツールくらいの高さの台座に座っています。それをスッポリと覆い隠した天衣(腰に巻いたスカート状の衣)の裾が地面スレスレまで広がっていて、裾周りの形は四角く表現されています。
一方で中宮寺像は、もっと高さのある筒状の台座に座っています。天衣の裾は台座を覆っている布とは別に表されていて、丸い台座の裾周りには反花(かえりばな)という蓮を表した花弁が囲んでいます。
●踏み下げた左足
半跏の姿勢をとり左足を踏み下げている両像ですが、韓国像は台座とは別に蓮の花弁で飾った足台が裾から出っ張っていて、それを左足でしっかりと踏んでいます。
一方で中宮寺像は高さのある台座に座っているため、左足は宙ぶらりんなかたちになっています。それを、台座とは別に生えた小さな蓮の花が一輪、まるで左足を受け支えるかのように茎を伸ばしています。一方で像の左足はその可憐な蓮を踏んでしまうでもなく、左足と蓮との間には絶妙な距離の隙間が空いています。
●頬に当てた右手の表現
思惟の相を表す右手の表現にも違いがあります。
韓国像は人差し指と中指を頬に添えて思惟の相を表し、正に思惟の最中であることが見てとれます。
一方で中宮寺像は、今、正に思惟の相をとるべく、頬に右手を添える瞬間を表しています。
●シャープさと丸み
素材の違いもあるでしょうが、青銅製の韓国像はハッキリ表された目元や口元、指先に至るまでシャープな印象が強い像です。
一方で木製の中宮寺像は、微笑む口元の口角を曖昧に作り、全体に丸みを帯びた表現が女性的な柔らかさを演出しています。
今回の展示は、それぞれガラスケースに入った状態で360度鑑賞できるようになっています。普段、中宮寺では内陣に入ることができないため後ろ姿を見ることは不可能なので、間近に後ろ姿を拝見できる貴重な機会でもあります。
10日までの期間限定展示ですので、興味のある方は、涼みがてらお出かけになってみては如何でしょうか。
現在ここでは《ほほえみの御仏展》と題した展示会が開催されています。これは日韓国交正常化50周年を記念したもので、それぞれの国の国宝仏2体が特別展示されているものです。
日本史の授業でも習った通り、インドで興った仏教はチベットから中国、朝鮮を経て日本に伝来しました。その過程で様々なものが海を渡りました。そのひとつが仏像です。この展示会では、その中でも『半跏思惟像』という仏像にスポットを当てて、日本と韓国に遺されたそれぞれの国の国宝半跏思惟仏を展示するというものです。
『半跏思惟』とは、釈迦入滅の56億7千万年後に現れて衆生を救うという弥勒菩薩が 、悟りをひらくために修行を積んでいる兜率天において如何に衆生を救うべきか考えている姿のことで、右足を左足の腿に組み上げ(半跏)、右手を頬に当てて思索に耽る(思惟)かたちで表されます。今回の展示会では、日本からは7世紀作の奈良・中宮寺の御本尊が、韓国からは6世紀作の韓国国立博物館所蔵の国宝78号仏が、互いに向かい合うように展示されていました。
ポスターで見ると同じくらいの大きさに見えてしまいますが、実際には中宮寺像が126cmあるのに対して、韓国像は83cm程の大きさです。材質も、中宮寺像が榧の木の寄木造に漆と着色で仕上げられているのに対して、韓国像は青銅で鋳上げた像に鍍金が施されています。
2つの半跏思惟像にはおよそ100年の開きがありますが、共通点が幾つか見受けられます。
●徹底した正面性
2体とも、真正面から礼拝されることを念頭において製作されています。なので、ちょっと横に廻ると仕上げか簡素な部分が見てとれ、背面側は最低限の仕上げのみが施されています。韓国像の冠は、後頭部4分の1程が作られていません。
●台座に懸けられた衣の襞のデザイン
座っている台座には布が懸けられたような襞が表されていますが、2体ともほぼ同じようなドレープが連続したデザイン的パターンで刻まれています。
●口元に浮かぶ『アルカイックスマイル』
これも日本史のテストでお馴染みのワードですが、初期の仏像の特徴のひとつに挙げられる微笑み、俗に言う『アルカイックスマイル』が見られます。
一方で、同じようでいながら、それぞれに特徴的な違いを見せる部分もあります。
●裾の処理 ○と□
韓国像はスツールくらいの高さの台座に座っています。それをスッポリと覆い隠した天衣(腰に巻いたスカート状の衣)の裾が地面スレスレまで広がっていて、裾周りの形は四角く表現されています。
一方で中宮寺像は、もっと高さのある筒状の台座に座っています。天衣の裾は台座を覆っている布とは別に表されていて、丸い台座の裾周りには反花(かえりばな)という蓮を表した花弁が囲んでいます。
●踏み下げた左足
半跏の姿勢をとり左足を踏み下げている両像ですが、韓国像は台座とは別に蓮の花弁で飾った足台が裾から出っ張っていて、それを左足でしっかりと踏んでいます。
一方で中宮寺像は高さのある台座に座っているため、左足は宙ぶらりんなかたちになっています。それを、台座とは別に生えた小さな蓮の花が一輪、まるで左足を受け支えるかのように茎を伸ばしています。一方で像の左足はその可憐な蓮を踏んでしまうでもなく、左足と蓮との間には絶妙な距離の隙間が空いています。
●頬に当てた右手の表現
思惟の相を表す右手の表現にも違いがあります。
韓国像は人差し指と中指を頬に添えて思惟の相を表し、正に思惟の最中であることが見てとれます。
一方で中宮寺像は、今、正に思惟の相をとるべく、頬に右手を添える瞬間を表しています。
●シャープさと丸み
素材の違いもあるでしょうが、青銅製の韓国像はハッキリ表された目元や口元、指先に至るまでシャープな印象が強い像です。
一方で木製の中宮寺像は、微笑む口元の口角を曖昧に作り、全体に丸みを帯びた表現が女性的な柔らかさを演出しています。
今回の展示は、それぞれガラスケースに入った状態で360度鑑賞できるようになっています。普段、中宮寺では内陣に入ることができないため後ろ姿を見ることは不可能なので、間近に後ろ姿を拝見できる貴重な機会でもあります。
10日までの期間限定展示ですので、興味のある方は、涼みがてらお出かけになってみては如何でしょうか。