【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

縊死な感覚

2007年09月25日 12時17分19秒 | トカレフ 2 
  


縊死ナ締マル感覚



夜の続きで早朝に、中央卸市場で一仕事やらかしても、疲れを知らぬ縄澤だった。
朝一番の定時連絡を本署にと、電話を借りようとして駅裏派出所にやってきた。
狭い派出署内の見知った警官らに朝の挨拶、頷き交わし、ダイヤル廻す仕草で電話を借りると。
受付カウンターの向こう側の、机の上の受話器を摑もうとしたら、眼の前の電話機が鳴った。

直ぐに、横から伸びてきた手が、摑もうとした受話器を取り上げた。

頷き返事で応対する警察官の喋り、徹夜勤務の夜勤明け、終了間近な気だるげな感じだった。
警官が電話の相手と交わす言葉、傍で朝刊を覗きながら流し聞いていた縄澤。
警官の切れ目な応対言葉から、何かを嗅ぎ取った。

自分が電話に出た方が、よくはないかと。


「なんかややっこしいぃんかッ?」

「夜中に空き巣にやれれたゆうてます 」

受話器を耳から離さず、目脂を指先で擦り落としながら言う。

「何処や?」

「○○町の○○アパートです 」

「貸せッ 」

警官の耳に貼りついていた黒色受話器、毟るような感じで取り上げた。
縄澤、受話器に幾つかの質問喋った。 直ぐに電話の向こうの相手が誰か、感づいた。
口が勝手に事務的にと電話の向こう側に訪いかけ、腹の中では、ほくそえんでいた。

当たりやッ!

感づくと、直ぐに行動するのが優秀な猟犬の性(サガ)。
縄澤、まだ相手が何かを話してる受話器に、隔てるように物言う。

「ほな、直ぐに行かせて貰いますわッ!」

最後の言葉を言い終わる前に、受話器を叩きつけ戻してた。
派出所の出入り口めざして大股で歩き出すと、連れの刑事が追う。

「縄澤さん、なんかあるんかぁ?」

背中に問われ、吐きだし言葉で応じた。

「なかったら、動けんのんかッ!」

「済んませんッ! 車ッ動かしてきますわッ!」


「今日は、おもろぉなるでッ!」


縄澤の肩押し退け、外に飛び出す若い刑事の丸めた背中、追いながらだった。



親の持ちもんのアパートの一室を、自分の寝グラとしている大家の息子が、午前様で夜遊びから帰宅した。
自分の部屋が在る二階へと鉄の階段上がると、薄暗い通路に見慣れない男二人が立っていた。
もう直ぐ寿命間近な切れかけた、通路灯の裸電燈の光を隔てていたので、不気味な影のように立っていた。


「あんたら、此処でなにしてますのん?」

中年半ばな息子、こんな夜更けにぃ? っと訝って。

「なにやぁ?お前だれやッ!」 背が低いほうが。

「オッきい声ださんでえぇやん、迷惑やッ!」

「なんが迷惑ちゅうねん 」 小男の後ろから、丸坊主頭でデブな男が。

「コナイナ夜中に、此処でなにしてますのん?」

「お前、此処のモン(者)かッ?」 チビが、部屋の扉を顎で差した。

「ウチの店子の部屋や、アンタら知り合いか?」

「ウチぃ? ナンや大家か?」

「息子や、あんたらこない晩いのに、勝手にウロウロせんといて欲しいわッ!」

「そんなら大人しゅうしたるさかいに、鍵ぃ出せや 」

「知り合いなんか?」

「ゴチャゴチャゆうとらんと鍵、貸せゆうとるんやッ!」


デブが脅し言葉で喋り、前に出て二人で狭い通路を塞ぐ。


「なんでワケ(理由)も言わんヤツに貸さなあかんねんッ!」

「なんやあぁ!イッペン絞めたろかッワレッ!」

「まぁえぇがな、こいつかて立場があるやろさかいにな 」


チビがデブを押さえる形で決めようとしていた。
 
息子、コイツラ ≪慣れてる≫ッと、此の時ぃ想ったそうです。
この二人は、こんな形で物事を仕切ってきたのだろうと。

ッデ、チビ、寒い夜更けなのに言います。


「なんやお前と喋ッとったら、暑ぅなったわ 」


襟首を指で引張り、首の付け根の青黒い墨絵(刺青)わざと僅かに覗かせ見せた。
それ、薄暗い明かりの下で観ると、不気味さがぁ・・・・・
襟を引張った指にも、墨で掘られた細い輪ッ架が チラリ見ッ!とだった。


「コラッ!お前ッ、にぃやん暑がらせたらあかんがなッ! 」 デブ、一歩近づいてきた。


鉄の階段鳴らして、誰かが上がって来る。 三人、固まって耳を欹てる。


「どないしたんや 」

「あぁ、おやっさん、この人らが無茶言いますんやッ!」

「どなたさんかいな?」

「大家か?」 チビ。

「そぉやえけど、何方さんかいなぁ? 」

「○○○のもんやッ 」

「そぉか、済まんけど他の部屋の人らがお帰りなんや、上で騒いでるさかいに行けんゆうてますんや 」

「どいつが文句ゆうてるんやッ! 」 デブ、階下に聴こえるような大声。

「チョット着てもらえるか?」

「何処にやッ!」


「ウチの家にですがな 」


チビが大家と共に、アパートの敷地内の大家の家に行った。
デブは、イッショニ来て欲しいと誘う大家の言葉を、部屋の前に居ると突っぱねる。
息子は、自分の部屋に一先ず帰るために通路の奥にと。


「こないな夜中に騒いではると、警察に言わなぁアカンようになるけどな 」

「ゆうたらえぇがな、好きにせぇや 」

「あの部屋の人になんの御用がありますねん?」

「それ聞いてどないするねん、おやっさんかて儂らが出張るチュウ意味、判っとろぉもん 」

「まぁ・・・・・察しはつきますけどなぁ、迷惑なんは迷惑やねん 」

「チョット煩ぁにしたからゆうて、なんぼのもんやねん、口ぃ挿まんほうがええでッ!」

「あんた、口ぃ利き方気ぃつけた方がえぇんとちゃうかぁ 」

「ナンや! なんぞ文句があるんか? 」

「ないこともないけどなぁ、あんたんとこの○○は、わしも知らん仲やないねん 」

「なッなんやぁ、○○さん知っとんかぁ?」


「そやから、口ぃ気ぃつけんかいな 」


実はこの大家の爺さん、今はボロアパートの大家を託っていますが、若い頃にはケッコウナ遊び人。
其れも渡世家業な一匹狼を謳い文句に、夜の騒ぎ街辺りでは可也な名を馳せたお方でした。
今は、見た目は老いに一歩踏み出したようには観えますが、少しはその筋では有名人やったお方です。
ドサ廻りの名も売れてないような旅芸人らが、地方に往って興行を打つときに、其々の地元で世話になるのが
此のオヤジさんのような、金に潤沢な地方の名士や、顔役風情な方々。
此の大家、大相撲の地方興行の折には、勧進元を勤めていた程の財産家で、当時の顔役。

若かりし頃の爺さん、何処の組織にも身を置かなかったからか、戦後の一時代。
喧嘩や出入り討ち入りなどの、揉め事騒動の手打式など、立会人にと、なにかと便利にされたお方。


チビ、口は穏やかな物言いの初老の男が、急に大きく見えたのかも。
少しは、丁寧言葉になりました。


「オヤッサン、ワイらあの部屋で探しもんしたいだけですねん 」

「なんぉ探すんや、こないな夜更けになぁ?」

「それゆうと、ワイの首が撥ねますがな、勘弁してぇなぁ 」

っと自分の首を、墨の指輪が見えるように手のひらで撫でます。

「ワケも言えんのやったら、迷惑なだけやなぁ 」

ジィさん我、関せずな風情で煙草を燻らせ、煙を吐く。

「そこんとこ、判って欲しいんですわ 」


玄関引き戸が勢いよく開けられ、息子が血相変えて飛び込んで着たッ!

「おやっさん、部屋めんでるわッ!」 (壊してるッ!)

チビ、ニヤリと顔がほころんだッ!


「お前、計ったんかッ!」 爺さん。

「コラッ!なに偉そうにしてるんやッ!ボケッ!誰ぉ知ってるやっとぉ?」

「ナッ!何ぉするきやッ!」

「部屋ぁ改めるチュウてるやろ、大人しゅうしとったらええんやッ!」

「警察やッ!おやっさんッ!」

「待ったらんかい、チョットの辛抱チャウんか、ワレッ!」 チビ。

「言わんでえぇ 」 オヤッサン。

「なんでやッ!コナイナ奴に嘗められてますんやでッ!」

「言うたらえぇがな、ナンボでもゆえやッ!」

「判った、そやから他の人に迷惑だけはかけんといてくれッ!」

「ぁあッ あんたに免じてそないしたるわ、そやから息子ぉ大人しゅうにさしとけやッ!」

「おやっさんッ!」

「ァホ!もぉぅえぇんやッ」


「ヤット判りくさったんか、ボケが!時代がもぅ昔とチャウんやッ!」


チビが表に出たので、親子もあとから表に出た。
夜の中を窺い観ると、背中に組の名が大きく染められた、職人半纏を纏った男たちがいる。
アパートの二階から、物を壊す音がしてくる。
半纏の男たち其々が、鉄のバールや大きな木槌など、家の解体道具を提げるか担いでいる。

此の大騒ぎなのに、どの部屋からも住人は出てこない。
警察が此方にと、近づいて来ているような、パトのサイレンノも鳴り響かない。
誰もが、此の騒動に巻き込まれまいと、しているのだろう。

荒々しい男達の声が、二階から降ってくるッ!


「ぉいッ!何処にもないがな、ソッチはどないやねんッ!」

「在るかぁ、なぁ~んも見つからへんがな 」

木が叩き割られる音の合間に、声が交わされる。

「モット、よぉぅ探さんかッ!」 下から禿げボウズの、デブ。


大家親子、唯ぁ無言で見物しているだけだった。
自分らの世界が、無法な土足で踏み込まれたことよりも、
アパートの店子を守って遣れないことの方がと。

恐らく不甲斐ないと悔やむものが、二人の心、蝕まれる酷い顔つきだった。

二人は黙って、破壊の様子を眺めていた。


「ほな、大人しゅうに帰ったるわ 」 デブ。

「オヤッサン、文句あるんなら○○さん通してゆうてんか?なッ!」


捨て台詞を残して男たちが消えたのが、空が白みかけた朝方だった。




「ッデ、なんでそん時にぃ警察に通報せぇへんかったんやッ?」

縄澤が、後ろに若い刑事を従えて、訊く。
爺さんと息子、互いに顔を見合わせると、爺さん顔が堕ち込みだす。
息子は、何かの憤りで顔が真っ赤に為ってきた。


「あんたら、ゆうたら助けてくれたんか?」 息子

「助けるもなんも、連絡くれんかったらコッチも判らんやろッ!」 縄澤

「もぅえぇがな、もぅ 」

「オヤッサンぅ、そやけどぉ 」


「もぉええんやッ!」


自分、如何にもなぁっと、想いが深まるばかりでした。


「ぉい、なにか盗られたんか?」


縄澤、肩越しに振り返り、少し離れた所で煙草を吸っている自分に声、かけて来る。


「ナニ盗られますんや?」

「儂が訊いてるねん、応えんかいなッ!」

「そやから、なにが盗られたらえぇねん、なぁ?」


「巧いこと隠したんやなぁ、お前ッ 」 縄澤、口を歪めながら笑った。


首だけが此方を見据え、目ぇ、全然笑わない冷たい目ン玉ぁしてました。

縄澤、瞬きせずにユックリと挙げた腕の手招きで、コッチに来いと仕草言葉ッ!

自分、小動物が獣に睨まれる心境は、コナイナ感じ?なんかぁ・・・・・・ット。



背中で冷や汗噴き出し、躯は固くな塊と為って竦んでしまった自分、遣った。




  


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