自分、心は急(セ)いていました。
ただもぅ、この嫌な状況から早く逃れたかった。
だから今度は突然、左足首を摑まれたときには、自然に体が反応した。
自分の右脚、自分でも驚くほどの素早さで、足首を摑んでる本体に蹴りッ! 飛ばした。
星の明りが黒い影になった外人の、噛み締め剥き出しになった歯を、仄白く照らした。
踏み切りの警鐘連打音鳴り響き、嫌でも耳に入ってくる。
自分、暗い地面を眺めて怒りながら、脚が勝手に激しく蹴り続けるのを
不思議な感覚だなと思っていた。
視界の隅では、踏み切りの両脇で警告灯が、赤く点滅していた。
夜の暗さナ中人の悲鳴、何度も蹴られるたびに黒い影になった躯を
海老が跳ねるように折曲げ、痙攣させながらだった。
列車の車輪に磨かれた二本の鉄の棒は、暗い向こうまで延び
それが暗さで闇に溶け込んで消える遥かから、小さな黄色ナ灯りが次第に近づいてくる。
自分、下りの夜行列車の前照灯だと直ぐにきづいた。
「あほがぁ~ッ!」
舌打ちじゃぁなく、思わず言葉がッ!
今は見た目も徐々にと近づく、列車の前照灯の灯り。
列車の警笛、遠くで間延びしたように二度鳴て消えた。
急に摑まれていた足首の締めつけ感がなくなる。
自分の躯よろけた。 尻もちをつく。
咄嗟に後ろ手で両手を砂利につくと、尖がった砂利で掌が痛かったッ!
その姿勢で、反対側の踏み切りの向こうを観ると、懐中電灯の上下に動く灯りッ!
厄介ごと、なんでこないに続くんやッ!くっそがぁあッ!
っと、胸の中で思っても、悔しさだけがぁ・・・・!
甲高い踏み切り警鐘音、しつこく耳に煩く付きまとっていた。
自分、叫びたかったッ!叫んで如何にかなるものなら、大声で叫びたかったッ!
だけど自分、心臓が止まるかと、驚いたッ!
後ろ手で砂利についてた右手首ッ 摑まれたからッ!
異国の男は、壊れにくい、頑丈だッ!
自分そう理解した瞬間、ほんとうに恐ろしかった。
化け物ッ! 今夜何回目かの化け物ッ!
恐ろしい力で、地面に再び引き寄せられる。
最初は抗ったけど、もぉぅ自分、その力に逆らえなかった。
地面スレスレで聴く、酒臭さナ異国の喋りは、自分には意味ナク聴こえてた。
ただ、異人の必死さだけは伝わってきた。
「なんやッどないせッちゅうねんッ!」
たぶんこの時、自分の口から出た言葉、悲鳴言葉やったと思う。
夜行列車、次第に近づいてくるッ!
自分が腹這いに為ってしまった地面の震動が
そぉぅ教えていた。
眼、思わず硬く瞑ったら、目蓋の裏側ッ
踏み切りの、赤の点滅以上に赤かったッ!