【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

夜の重さは手の中に

2007年07月17日 16時16分15秒 | トカレフ 2 
   


晩冬の夜更けに、冷え切った黒色ナ空気を、薄い星明りで透かし視ます。
暗さナ線路の、レールを載せてる枕木の下で、厚く盛られ敷かれている砂利
無垢な鉄肌輝きのレールが、暗闇の向こうまで伸び消えて逝くのと同じで
その砂利も暗さナ中、夜目にも仄白い影となり真っ黒な闇の向こう側にと
見え無くなって逝きます

だから、そこに何処までもと並んでいる枕木、防腐の為に塗られてる黒いタールのせいで
仄白さな砂利なんだから、夜の中に黒く浮き上がって観えていました。


自分、無理矢理に疲れを知らない外人に、砂利の地面まで引き寄せられていました。
そのとき自分の顔、地面スレスレでしたけど目の隅には、夜行列車の前照灯の輝き、入ってきていた。
腹這いになっている砂利地面から、自分の腹に伝わる震動次第にハッきりと大きくなって
夜行列車が近づいてくるのを感じていました。

枕木に塗られている防腐タールの臭い、地面スレスレで腹這いになって嗅ぐと
列車から垂れ流しの糞便の臭いと混ざり、目に沁みるくらい臭かった。

自分、焦る気持ちよりも、如何にでも為れと諦めなもの、心に広がって着ていました。

此の侭やったら、何もかもが片付くなぁ・・・・

逃げへの想いは、なんだか簡単なんだよ。

叶うよと、誘うよぉでした。



≪夜は、逃がさない≫

怒りに任せて如何にかしてやりたいほど頑丈な、化け物外国人。
黒い地面から湧き出てくるような呻き声えさせ、苦しげな小さな咳をした。
酒臭い咳の飛沫が、よけきれない自分の顔に飛んできた。
外人、首が折れるかと上向きに首を折り曲げ、己の頭の上辺りをしきりに見まわし
叢めがけてもう片方の腕を伸ばし、指差しながら呻き喋り。

自分、地面まじかで何か喋りかけられても、異国言葉は解らんッ!
ただ、言葉の端々に聴こえた。

「・・・・・ダワイ・・・・ダワイッ!」 っと。

「なんやッダワイがなんやッ!お前、なにが言いたいねんッ!」

地面の暗さな中に外人の、星明りに照らされた、対の青い眼が光って浮き上がってッ!
自分、また、妖しげな化け物がッと、地面の下から見上げているッ!っと。

砂利敷きの地面に腹ばいになった自分、目線の隅には赤の点滅ッ!
夜行列車、警笛を連続鳴らしッ! 腹には、砂利を伝わってくる震動がぁ!
次第に、段々とぅ大きくなってくるっ!


突然、急に躯が持ち上げられたッ!

横たわった外人、躯の何処に残っていたのかッ! なックソ力で投げ飛ばされた。
無数の枯れ茎が顔面を襲って、皮膚に刺さりきれずに折れた。
直ぐに、顔面に、激しい鈍痛ッ!
硬く瞑った目蓋が、溜まった涙でパンクしそうッ!
躯が地面に落ちたとき、心も何処かに落ちたように感じた。

情けなさが、もぉぅ十分にッ! やったッ

顔面は革の鞄でシコタマにぃ! 打ったッ
革のボストンの中に詰まってる何か? 硬い物でッ!
自分このとき物凄く頭にきたッ!

だからヨロケながらもナントカ起き上がり、怒りに任せて勢いよくボストンの握りを摑んで
外人の頭に叩きつけるつもりだった。 けど、握りを摑んでいた手が滑った。
握りに擦れて手先が、焼けるように痛んだッ!

「ぁつ!・・・痛ぅ! 」 怒りは増すばかりッ!

今度は両手で握りを摑んで持ち上げた。心算だけだった。
鞄の中に、デッカイ漬物石ッ!ット自分、驚きながら思いました。

列車の警笛が再びッ!迫ってきます。
それと重なって外人の大声ッ!

「ダワイッ!ダワイッ!ダワイッ!」

鞄、両手で摑んで砂利の上を引きづッテ、外人の側に持っていった。

「コラッ!これをどないせぇちゅうねんッ!」

寝そべってる外人に怒鳴り問いしたら、背後から声が聴こえた。
踏み切りの警鐘と、列車の警笛の中で聴こえてきたので、なにを言ってるのかは解らんッ!

なにが?っと振り返ると、さっきのオート三輪の男二人が
懐中電灯の光を揺らせながら、踏み切りの向こうの下りの線路から
此方に向かって走ってきていた。

懐中電灯を持っていない方の男、右手を腰の後ろに廻し、廻した手を前にしたとき
踏み切りの点滅警告灯の赤い光りを反射させる得物ッ!摑んでるッ!

「クソッ!なんやねんッ!」

自分、どないもならんッ!ッチ!ックショウがぁ!!

「ダワイッ! 」

再び外人を視ると、懐に腕を突っ込んで起き上がろうとしてた。
自分の怒りは、急に萎んで逝きます。 自分、外人の前に跪いた。
っで、助け起こそうとすると、外人が懐から取り出したッ!
直ぐに自分の胸の方に向けられたッ!デッカイ銃口がッ!

「なッなにするねんッ!」

「ダワイッ!」

右の腕、肩の付け根辺りを強烈に叩かれた、左に吹っ飛ばされたのと
耳元で爆発が起きたのとが、殆どイッショだったッ!
発射の閃光が、眼の奥を眩ませたッ!

「・・・・・ダワイッ!ダワイッ!・・・」 遠くで喚いてるッ!

発射の衝撃音で、一時、耳が遠くなってるッ!
視界の中に、発射の閃光の残像が輝き、視にくかったが
外人、銃口を踏み切りの方に向け、しきりに何かを話しかけてくる。

「なんやッ!なにするねんッ!怒アホッ!」

大きな掌の中の大きな拳銃が、自分に向けられた。

「ぁ!撃つなッ!」

直ぐに傍らの革鞄と、自分の方とに、銃口が行ったり来たりッ!

ッデ、一際大声でッ!

「ダワイッ!」

自分、飛び起きて鞄に近づき持ち上げた、腰までッ!
あれほど重たかった革ボストンッ!必死な状況の、馬鹿力ッ!

「ダワイッ!」

デッカイ拳銃が、線路の向こうを何回も指し示す。

もぉぅ其処までッ!ッナ 列車の前照灯、眩しかったし警笛は耳を劈くッ!
自分間々よと、如何にでも為れっと、鞄抱えたままレールを跨いで向こう側にと。
二本目のレールで躓いたッ! 前のめりに為りかけたら、近づく列車が押す風圧ッ!
ッを躯がモロに受け躯が前にとよろける、ット直ぐに背後を列車が通過ッ!
今度は、躯が後ろにモッテ逝かれるッ!

必死で堪える、抱えてる重たい鞄のお陰でッ! なんとかぁ・・・・!

辛くも如何にか持ち堪え、前に倒れこんだ
思わず振り返ると貨物列車の貨車が、次々と何両も過ぎてゆく。
その通過する貨物列車の、幾つも連なった貨車の轟音とは違う
他の、鋭く弾けるような発射音ッ! 何発もッ!

走り逝く列車の車輪の隙間から覗く、レールと枕木の間の空間
発射の音がすると、フラッシュが瞬くようにぃ!
一瞬、車輪が静止して視えたッ!

慌てて起き上がると、今度は登りの線路を跨いだ。
同じように、二本目で躓いてしまう、情けなさが益々ッ!

反対側の鉄条網柵、自分が乗り越える前に、先に革鞄をと
向こう側に投げた心算が、革ボストン柵に引っ掛かりながら、落ちていった。
自分、乗り越える時、安コートとズボンの裾や他の何処も引っ掛けまくって
生地が破れる音聞きながら、なんとか乗り越えることができた。



漸く自分の寝ぐらい帰りついたとき、息も絶え絶えやったッ!
外灯の少ない裏道を、抜けるようにしながら、やっと此処までッ! だった。
安アパートの鉄の階段の下で、息を整えないと二階まで躯が持ちそうになかった。

階段を上がる時、鞄が階段に当たっては、金属音な響きがしていた。
夜中の騒音が、他の住民の迷惑なんかになるとは、想いも由らなかった。

背中の後ろで玄関の薄いドアを閉めると、急に吐き気が襲うッ!
慌てゝ便所に駆け込み胃の中の物、前屈みで吐き戻すと、今度は立ち眩みがッ!
両側の壁に手を突っ張って、なんとか堪えた。

便所の戸を開けっ放しで台所にいって、水道の蛇口に直接口つけ、がぶ飲みした。
その侭倒れてしまいたいのを我慢し、今夜手伝いに行こうとしていた青果店に電話連絡。

「○○の大将ぉ、居ッてかぁ? 」

「ぁ~、まだ着てへんがな、どないしたん? 」

「ぅん、今夜なぁチョット飲み過ぎてもたさかいになぁ、休むって云ってなぁ」

「なんや、そぉかぁ云うとくわ 」

「すまんなぁ 」

「えぇわいな、ホナ、なッ」


この言い訳が、何処まで通じるかは解らんかったけど、この時にはこぅ云うしかなかった。
自分、早く横になって眠りたかったけど、なんとか玄関に。


薄暗い、狭い玄関のコンクリの土間に、黒革のボストン。
静かに、何事もなかったように蹲っていました。
多少、鉄条網の柵で着いた引っかき傷は、ありました。
自分、低い框に胡坐座りして、暫くボンヤリとボストン眺めていた。

今夜飲み食いした物は便所で全部、吐き戻していたので気分は少しは良くなっていた。
だけど、違う気分の悪さが胸の何処かに、新たに湧いてきていた。


ボストン抱えて、部屋の中に持ってゆこうとしても、無理だった。
腕もに力が入らない、躯中が悲鳴を挙げていると、此処で初めて気がついた。
仕方がなかったので、玄関で中身を調べることにした。

突然、頭のどこかでぇ・・・・・

「此れなぁ、中を見ぃひんと警察にぃ届けるんがえぇんとチャウかぁ」

刹那、そぅかと。その方が後々面倒にぃ巻き込まれんでいいよと。


黄色の銅色のジッパー、簡単に引けた。

自分の頭が、玄関の裸電燈の明かりの邪魔をしていて
鞄の中を覗くのを、視にくゝはしていた。
だけど、なにが入っているくらいは、解った。

鉄で造られている、厄介な代物だった。
自分今夜、ヤッパシ逃れられなかったのを、悟りました。

中の一つを摑んで裸電燈に翳すと、鈍い金属輝きしてました。

自分の手に余る、大きな軍用拳銃ッ! 暫く見つめていました。
人を人が殺す為にだけの、単純な機能美ッ!
妖しいぃまでのなにかが、拳銃を握ってる掌から腕を伝い
脳へと、語りかけてくるようでした。

裸電燈に翳してた腕を下げ
銃の重さを腕を上下しながら計りかねると

自分、こぉぅ想いました。


夜の重さは、我の手の中やなぁ・・・・・!



何かが切っ掛けで、人の何かが変わることもあると
この晩に、気づかされました。




    


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