【 rare metal 】

此処 【 rare metal 】の物語や私的お喋りの全部がね、作者の勝手な妄想ですよ。誤解が御座いませんように。

獏 (夢に喰われる)

2008年10月16日 12時31分08秒 | トカレフ 2 
獏 (夢に喰われる)


酒に呆(ホウ)けて迷い込みしは、異形な世界。


自分、気がついたら大草原の真ん中で、嵩高(カサタカ)い草に囲まれ、
土漠色した乾ききった地面に這い蹲っていた。
突然なにがおきたのかと、少し訝る気持ちが急に爆発的パニックとなり脳裏を駆け巡った。
何かに背中を抑えつけられ、其れが精神の乱れと重なり、張り詰めた緊張感で躯を動かそうとしても重かった。
呼吸を止め息を詰めていたので、息苦しさで胸が張り裂けそうになる。
苦しさで新鮮な空気をとの想いが募り、荒い息を始めると、
眼の前の乾いた地面から立ち昇るは埃っぽい泥煙。
其れを息で吸い込み続けると口腔内、砂を噛む感覚になり喉奥が粉塵で乾きイガラッポクなる。

幾度も土混じりの唾を吐くが、地面に唾以外の水滴が重なりながら滴り落ち続けていた。
其の滴が、自分の顎先や眉の辺りからの汗だとは、想いもしなかった。
慌てて辺りを見回すと、背中に大きな地雷を載せた人々が叢に潜んでいました。
服とは呼べない襤褸な軍服を纏った男や、まだ幼顔の女性や老人らも雑じっていた。
全員が、背中に地雷を載せ、蒼白な顔を引き攣るかと緊張させながら、叢で這い蹲っていた。
直ぐに自分、背中の重さは、同じように地雷を背負っているのだと、気がついた。

旧大日本帝国陸軍の、野戦用対戦車地雷を其のまま背負い、個人用特攻兵器にと転用し爆雷にと。
背中に負う重量は、人が駆けるのには重すぎて、敵が自分に向かってくるのを隠れ潜んで待つ重さ。
敵が此方にと来れば、自分が自分ではない兵器物に為り、確実に死ぬ物の重さ。
戦車の装甲は分厚くて、爆雷ぐらいでは破壊できないから、人が背負う地雷で壊しやすい無限軌道をと。
自分を踏みつぶす戦車の無限軌道を間近で見れば、キット恐怖以上の感情に為る筈。
そんな事には自分、絶対に耐えられない。


ナンでこないなトコに居るねんっ!


肘をつき起き上がろうとしたら、後方から叱声が飛んできた。

其処っ!動くなっ!


あんた、逃げるんかっ!

顔じゅう泥と汗に塗れ眼ん玉、此れ以上ないほどヒン剥きギラツカセタ隣の男に言われた。

おまはん男やろっ!泣くなっ!

言われ自分が泣いているのに気がついた。

アホっ!オナゴモ気張ってるんやで、自分だけエェ目するなっ!ドアホっ

別の男にも罵るように言われた。


突然、、周りから、幾つもの堪え切れずな、嗚咽みたいな啜り泣きがしてきた。


済まんけど、自分、ドナイなっとるか分かりませんねん。

誰もナンも解らんわいっ!そやけどなワイらが此処で踏ん張らんかったら助かるモンも助からんやろもっ!


突然遠方から馬のいななきが聴こえてきたので、首を持ち上げ観る。
雑多な銃器で武装した、大陸馬賊の騎馬の一団が、草原の草波を蹴散らし勢いよく疾駆っしてくる。
其の後から、大勢の民間人が走りながら追いかけてきていた。
其れらの人々の手には武器とは名ばかりの、棒キレや竹やり、良くて空き瓶製の即席火炎瓶が。

地面を微かに振動させながら近づいてくる騎馬群の先頭で一番を駆け、
馬賊衆団を率いていたのは、旧陸軍将校用乗馬服姿の、あの若い女だった。

騎馬団が目の前を横切り、暫くして追従していた民間人らが走り過ぎようとしたとき、
空気が擦られるような連続音が此方に近づくと想った瞬間突然、自分の目の前。
必死の形相で突っ走る民間人集団のど真ん中で、地面が沸騰した。

何処までもと、地平線まで続く緑の大草原は連続する爆発により、
見渡す限り、勃発し続ける泥土の噴流群で埋まり、人の群れと地面が破壊され空にと昇る。
自分、爆発の衝撃で大揺れする地面に鼻がつぶれるかと顔面を、此れ以上くっ付け様がないほど押し付けた。
全身に降り注ぐ、爆発した火薬滓の臭いと焼け焦げた泥の臭い混じりの土砂の中、頭を抱えていた。
頭上で無数の砲弾が、空気中を飛来し通過する擦過音がし、直後に連続した着弾の爆発。
そして遠くからの、長閑なほどの間延びした砲声音。

遠くからの砲声は、地面の爆発の後から届いてきた。
砲弾は、発射の音よりも速く大気中を突っ切りながら飛んでくる。

人の躯が爆発の衝撃で、バラバラで無数な破片状態にと分解され、
噴霧状の血糊とともに空高くと噴き揚げられる。
金切り声が辺りを駆け巡り、人の脅えと興奮した意識を抑えつける命令口調の号令が発しまくる。
自分、訳も分からず咄嗟で起き上がり、走ろうとしたら足首を掴まれた。

ドアホっ!立ったら見つかるやろ、ボケっ!

自分、馬賊の騎馬団が、地平線までもと埋め尽くす数える事も困難なほど莫大な数の重戦車の群れに、
其の赤い国の機甲軍にと、なんの躊躇もしないで喚声を挙げながら、馬を疾駆させ突貫するのに魅入ってた。
鋼鉄の小山のような重戦車の群れにと、全騎が怯むこともなく突っ込んで逝くのに。

転ばんかいっ!

此の時、上着の裾を掴まれ引き倒されそうになったとき、
周りの厳しい状況に我慢し耐えようとする自分の軟な根性も、此処までだった。

悲鳴を上げ抱え持っていた小銃を投げ出した。
背負った爆雷が外せ難くと雁字搦めに荒縄で縛られていたのを、銃剣で切り裂き爆雷を放り出した。
呼び戻そうとする怒声を背に、前線後方に向かって走り出し、逃げた。

躯の前後左右を銃弾が掠めながら奔り去る。
空気中を革鞭打つような唸りで飛び交う銃弾。
機銃の水平射撃の掃射で、辺りの草っ葉が何列にも渡って、刈られ、消え飛ぶ。

自分の走りながらの必死な喚き声は確かに発してるのに、己の耳に聴こえず。
息を喘がせ肩越しに振り返り観る、逃げて後にしてきた世界に音は消えていた。
何もかもが想いだしたくもないと、過去で過ぎ去り無音なで亡くなっていった。


随分走ってきたと想ったとき、露西亜兵のバラライカ(短機関銃)が連射される発射音が耳元で。
突然なことで如何仕様もなく、脚が縺れそうになり前のめりで地面に転がった。
咄嗟に頭を抱え、膝を引き寄せ胎児のように躯が丸まった。


「ダワイ、ダワイッ!」

顔面迷彩化粧で、露西亜軍の着古した野戦服の上にも雑草で迷彩を施した、
二名の凶暴そうな斥候兵が軍靴で、ワイの背中を蹴りながらやった。



夢なら、醒めろっ!

「ダワイ! ダワイッ!ダワイ!」


夢なら醒めろぉぅ!



自分再び、堕ちて逝きました。


  
  


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