【叶わぬ雪の旅宿】 前作。
(忘却はいたせぬものかと。)
雨が降る朝に、泊まり宿の丸窓から外をと、覗きましょうかと。
視れば港を覆う低きところの灰色な雨雲越しにの 朧げな暗き光が降っていました。
昨晩憶へし、慈しみあうエロスな出来事の果てに、雨降る薄暗さな朝の港を窺へば
雨雲覆う明かるさは、物の形を朧げ観へにと儚くと感じさせ、妖しさが隠れ視へました。
光は、暗さな優しきものなで射しきても 我の眼に映るは眩しきことでした。
眩しさなとの想いは、暗き処でふたり隠れ過ごし睦み合ったから。
逢瀬で過ごし往く時には、想わぬ事とて限りが御座いましょうに。
時がと浪費せし感覚は、深くと女(ヒト)と慈しむことほどには何方も、
キットお判りもいたしませぬかと。
雨は驟雨。 秋の初めの隠れ事隠しな、海風に吹かれ遠き沖より渡り来る。
隠し事を責めたる人の世の辛(カラ)さ雑じりな、降る音もなき噂が囁き混じりなり。
ふたりは雨宿りにと、何処かの軒の下にてでもと、隠れ過ごせぬ事でもなきに御座いましょうに。
遣らずな雨は、密か求めの肌を冷たさがで、責めたるものが潜まれして初秋に降るもの。
視れば、心隠すも透きとおる幕の如しな、静か降りな驟雨。
衣が擦れ音、微かにと背後より聴こへきて、我の汗な背に触れるゝはふたつ膨らみの硬き先。
細き腕は後ろよりと回され、冷たき掌は胸の上にて力なくとで抱かれる。
我の汗でまみれ濡れし左頬へと、肩越しに好きな女(ヒト)の冷たき頬が寄せられゝば。
耳朶(ジダ)が妖しき緩さで噛まれ、暫くは音たてゝ耳たぶ、ムシャブられまする。
ときに吐かれしは熱き吐息の如くな求め囁き。
其れは聴こへぬものぞとなふりな、我の下手な演技の耳元にて、好(ヨ)き匂いの吐く息で囁かれました。
「なにが観えるのぅ 」 っと、静か睦言喋りで我は問はれますれば。
応じるは、「観たくも無き物事、タダタダ視た気も無き、深く知りたくも無き物事 」
「いつもね、判らないことだらけみたい 」
「なにぉ知ればいぃ?」
「なにが知りたいのぉ?」
女が細くと吐く紫煙は部屋の中で低くと漂い、ふたりを窺う驟雨の幕かと。
漂いくる紫驟雨からの嗅げる匂い、我の脳裏で想う嫉妬が紡ぐ匂い。
「なにぉ知れば慰めになる、おまへの?」
「ジェラシー ?」
「馬鹿なっ!」
っと我は力なく呟き言葉応じ。
丸窓から聴こへしは、幾度となく細き汽笛の音。 霧雨の向こう側は港のほうから。
フット、懐かしむものが我の胸の心の中にて、刹那で去来いたしまする。
むかし一度となく間違へし、憶へし隠し出来事の既視感が、かもがと。
往時を偲べば或る日の時も、雪降りて白き帳(トバリ)の向こう側よりにと。
遠き記憶の向こう側にてより、咽ぶよな汽笛の音が何処までもと聴こへきた。
此処とは違うと或る場所にて、雪の朝に船出する古き船体の連絡船を。
自虐な物想いにて心ぉ塞ぎ、唯見送ることしかできぬ、あの時の姑息な卑怯者は我でした。
ときに忸怩たる想いする心の内は、卑怯者の悲しみを腐食させんもんと。
為に虐め尽くすかとな汽笛の音、意趣を返さんと迫らんと。
古き連絡船が港より出航し、沖にて影が消へ去るゝまで。
我は古き出来事、其のことを未だ憶へていたかと驚けば。
隠れていた忸怩たるな悔やむもの、永き時を経て再び心広がりしだしまする。
過ぎし日を懐かしむ耳の奥にて、汽笛の音は幻聴響きいたしました。
丸窓の濡れた面取り硝子越しから聴こへしは、細き汽笛の音。
我の惑乱し心を蝕み狂わせんものと。
驟雨の幕の中を突っ切り、裸足で冷たき水たまりを踏み、濡れるのも厭わずにと。
欧州は、阿蘭陀辺りの洋館風造りのバルコニーへと居出ますと。
剥き出しの肩肌は驟雨を纏うものゝ、濡れる冷たさは格別の物想い誘いましょうかと。
バルコニー手摺に身を任せ、驟雨に煙る港の風景ぉ望めば、其処に浮かびしは白き船体の遊覧船。
其れが古き船体なればと、深くと物憂げなものは胸の中で儚くも微かに。
「誰かゞ手ぇぉ振ってるはよ 」
っと聴こへるから、肩越しにと後ろを視れば。
泊まり客にと部屋に備へし双眼鏡にて、港を覗いてる女が居た。
ギリシャ神話の登場人が纏うキトンを真似たか、裸の躯の上に白きシーツ布を巻きつけた姿で。
「此れぇ重たい 」
「玉(レンズ)が大きいからな 」
一時代前の双眼鏡は、ズッシリと重たく大きかった。
覗けば、拡大されし風景が迫りくるような感覚で観えました。
好きな女が、「濡れて寒くはないのかなぁ 」 と。
我は応えきれずに、知らぬふりで応えました。
濡れたくもないけれど、濡れても隠せぬは心の隅の何処か。
憶へていても、言えぬこと。
言えば、ジェラシーなんか、かと。
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(忘却はいたせぬものかと。)
雨が降る朝に、泊まり宿の丸窓から外をと、覗きましょうかと。
視れば港を覆う低きところの灰色な雨雲越しにの 朧げな暗き光が降っていました。
昨晩憶へし、慈しみあうエロスな出来事の果てに、雨降る薄暗さな朝の港を窺へば
雨雲覆う明かるさは、物の形を朧げ観へにと儚くと感じさせ、妖しさが隠れ視へました。
光は、暗さな優しきものなで射しきても 我の眼に映るは眩しきことでした。
眩しさなとの想いは、暗き処でふたり隠れ過ごし睦み合ったから。
逢瀬で過ごし往く時には、想わぬ事とて限りが御座いましょうに。
時がと浪費せし感覚は、深くと女(ヒト)と慈しむことほどには何方も、
キットお判りもいたしませぬかと。
雨は驟雨。 秋の初めの隠れ事隠しな、海風に吹かれ遠き沖より渡り来る。
隠し事を責めたる人の世の辛(カラ)さ雑じりな、降る音もなき噂が囁き混じりなり。
ふたりは雨宿りにと、何処かの軒の下にてでもと、隠れ過ごせぬ事でもなきに御座いましょうに。
遣らずな雨は、密か求めの肌を冷たさがで、責めたるものが潜まれして初秋に降るもの。
視れば、心隠すも透きとおる幕の如しな、静か降りな驟雨。
衣が擦れ音、微かにと背後より聴こへきて、我の汗な背に触れるゝはふたつ膨らみの硬き先。
細き腕は後ろよりと回され、冷たき掌は胸の上にて力なくとで抱かれる。
我の汗でまみれ濡れし左頬へと、肩越しに好きな女(ヒト)の冷たき頬が寄せられゝば。
耳朶(ジダ)が妖しき緩さで噛まれ、暫くは音たてゝ耳たぶ、ムシャブられまする。
ときに吐かれしは熱き吐息の如くな求め囁き。
其れは聴こへぬものぞとなふりな、我の下手な演技の耳元にて、好(ヨ)き匂いの吐く息で囁かれました。
「なにが観えるのぅ 」 っと、静か睦言喋りで我は問はれますれば。
応じるは、「観たくも無き物事、タダタダ視た気も無き、深く知りたくも無き物事 」
「いつもね、判らないことだらけみたい 」
「なにぉ知ればいぃ?」
「なにが知りたいのぉ?」
女が細くと吐く紫煙は部屋の中で低くと漂い、ふたりを窺う驟雨の幕かと。
漂いくる紫驟雨からの嗅げる匂い、我の脳裏で想う嫉妬が紡ぐ匂い。
「なにぉ知れば慰めになる、おまへの?」
「ジェラシー ?」
「馬鹿なっ!」
っと我は力なく呟き言葉応じ。
丸窓から聴こへしは、幾度となく細き汽笛の音。 霧雨の向こう側は港のほうから。
フット、懐かしむものが我の胸の心の中にて、刹那で去来いたしまする。
むかし一度となく間違へし、憶へし隠し出来事の既視感が、かもがと。
往時を偲べば或る日の時も、雪降りて白き帳(トバリ)の向こう側よりにと。
遠き記憶の向こう側にてより、咽ぶよな汽笛の音が何処までもと聴こへきた。
此処とは違うと或る場所にて、雪の朝に船出する古き船体の連絡船を。
自虐な物想いにて心ぉ塞ぎ、唯見送ることしかできぬ、あの時の姑息な卑怯者は我でした。
ときに忸怩たる想いする心の内は、卑怯者の悲しみを腐食させんもんと。
為に虐め尽くすかとな汽笛の音、意趣を返さんと迫らんと。
古き連絡船が港より出航し、沖にて影が消へ去るゝまで。
我は古き出来事、其のことを未だ憶へていたかと驚けば。
隠れていた忸怩たるな悔やむもの、永き時を経て再び心広がりしだしまする。
過ぎし日を懐かしむ耳の奥にて、汽笛の音は幻聴響きいたしました。
丸窓の濡れた面取り硝子越しから聴こへしは、細き汽笛の音。
我の惑乱し心を蝕み狂わせんものと。
驟雨の幕の中を突っ切り、裸足で冷たき水たまりを踏み、濡れるのも厭わずにと。
欧州は、阿蘭陀辺りの洋館風造りのバルコニーへと居出ますと。
剥き出しの肩肌は驟雨を纏うものゝ、濡れる冷たさは格別の物想い誘いましょうかと。
バルコニー手摺に身を任せ、驟雨に煙る港の風景ぉ望めば、其処に浮かびしは白き船体の遊覧船。
其れが古き船体なればと、深くと物憂げなものは胸の中で儚くも微かに。
「誰かゞ手ぇぉ振ってるはよ 」
っと聴こへるから、肩越しにと後ろを視れば。
泊まり客にと部屋に備へし双眼鏡にて、港を覗いてる女が居た。
ギリシャ神話の登場人が纏うキトンを真似たか、裸の躯の上に白きシーツ布を巻きつけた姿で。
「此れぇ重たい 」
「玉(レンズ)が大きいからな 」
一時代前の双眼鏡は、ズッシリと重たく大きかった。
覗けば、拡大されし風景が迫りくるような感覚で観えました。
好きな女が、「濡れて寒くはないのかなぁ 」 と。
我は応えきれずに、知らぬふりで応えました。
濡れたくもないけれど、濡れても隠せぬは心の隅の何処か。
憶へていても、言えぬこと。
言えば、ジェラシーなんか、かと。
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