いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

クリントン氏の古い認識・・・国際経済の変革を全く認識していません。アメリカは大丈夫か?

2016年02月24日 21時58分41秒 | 日記

 アメリカの大統領選挙を見ていて、がっかりすることが多くなり
ました。アメリカという国は、知性が後退してしまったのではない
かと、心配してしまいます。
 トランプ氏のような候補者が支持を集めていることを指すのかと
いうと、いや、今回は、むしろ、クリントン氏のことです。

 民主党の有力候補、ヒラリー・クリントンは、もちろん、クリン
トン元大統領の奥さんで、オバマ大統領の第一期の国務長官でした。
 アメリカの知識層を代表するような人物です。

 このヒラリー氏が、23日、中国や日本、ほかのアジア諸国は、
自国通貨を安くすることで人為的に商品の価格を下げてきたと指
摘、不正は商慣行と戦うと主張しました。
 また、TPP(環太平洋経済協力協定)にも、TPPはアメリカ
の雇用創出や賃金引き上げにつながらないので、反対だと主張しま
した。
 これは、アメリカの新聞にヒラリー氏が寄稿したもので、それを、
23日の朝日新聞の夕刊が伝えました。
 ヒラリー氏は、その前から、すでに、そういう感じの主張をし始めていました。

 同じように、共和党のトランプ氏も、もう早くから、中国と日本
は、不公正な貿易でアメリカに輸出を増やし、アメリカの富を奪っ
ているということを訴えています。

 トランプ氏は、まあ、ごらんのような人物ですから、いかにも、
そういう主張をするだろうと受け止めることが出来ます。

 しかし、ヒラリー・クリントン氏は、アメリカの知識層を代表す
るような人物であり、長く、ワシントンで政治の世界に携わってき
た人です。
 そういう人が、いまさらのように、日本は円安誘導で輸出してい
るというようなことを主張するようでは、がっかりしてしまうので
す。

 というのも、ヒラリー氏の主張は、1970年代から1990年
代前半まで、とくに、1980年代の日米貿易摩擦が華やかだった
ころのアメリカの言い分です。
 ヒラリーさん、あなた、いったい、いつの話をしているんですか?
と問い正したいようなことです。

 80年代、日本はアメリカに対し、ものすごい額の貿易黒字を出
していました。
 80年代、日本の貿易黒字は、ひと月で50億ドル、いまの為替
レートでいえばたった一か月で6000億円の黒字を出していたの
です。当時の為替レートは1ドル=240円ぐらいでしたから、5
0億ドルといえば1兆2000億円です。それだけの黒字を、その
ころの日本は、わずか一か月で出していたのです。
 ですから、1年間の日本の貿易黒字は、年によって違いますが、
だいたい、500億ドルから1000億ドル、いまのレートで6兆
円から12兆円ぐらいに達していました。

 この貿易黒字で、日本は、アメリカや欧州から激しい批判を受け
ます。
 批判の一番手は、アメリカでは、自動車のビッグ3です。とくに、
クライスラー自動車のリー・アイコッカ会長は、日本は円安で安い
車をアメリカに輸出していると、口を極めて批判していました。
 欧州では、イギリスのサッチャー首相です。サッチャー首相は、
当時の1ドル=240円ぐらいの円相場を、「日本は為替を円安水
準に維持する政策を取っている。日本の為替は、表面的には自由な
相場ということになっているが、実際は、政府が管理するダーティ
・フロート(汚い自由相場)だ」と、批判していました。

 こういう批判を受け、1985年9月に、ニューヨークのプラザ
ホテルに日本、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランスの5か国(G
5)が集まり、それまでの円安・ドル高を円高・ドル安似変えよう
という合意を結んだのです。
 それをプラザ合意といいます。

 ここから、円高が始まり、紆余曲折を経て、現在の1ドル=11
0円台という水準になるわけです。

 そして、こうした円高で、日本の輸出はすっかり減り、企業は海
外に工場を移転しました。
 いま、日本の貿易収支は、巨額の黒字どころか、赤字基調となっ
ています。

 もう、日本の貿易、いや、経済構造は、すっかり変わってしまっ
たのです。
 「日米貿易摩擦」という言葉も、2000年代に入ってから、聞
くこともなくなりました。
 日本がかつてのような貿易黒字を出していない以上、貿易摩擦と
いうものは、アメリカとの間では、まず、ありえないのです。

 ヒラリー氏の夫、ビル・クリントン氏が大統領になった1990
年代前半は、日本が貿易黒字を抱えて、まだまだアメリカから批判
されていたころです。
 ヒラリー氏の「日本は円安で輸出している」という言い方は、夫
のビル・クリントン氏が大統領だったことなら、まだ、通用しまし
た。
 しかし、それから20年以上の時を経て、日本経済のありようは
もうすっかり変化し、アメリカとの間で、当時のような貿易摩擦を
抱えることもなくなってしまったのです。

 ところが、ヒラリー氏は、いま、2016年という年に、突然、
「日本は円安で輸出をしている」というようなこと言い始めたので
す。
 ヒラリーさん、あなたは、いったい、いつの話をしているのです
か、というのは、まさにそのことです。

 もしかすると、ヒラリー氏は、夫のビル氏が大統領をやっていた
ころの感覚で、まだ、モノを言っているのかもしれません。
 ヒラリー氏は、さっきから書いているように、アメリカの知性を
代表するはずの人物です。
 その人が、いまさらながら、日本は円安で輸出を、みたいなこと
を言い出すと、私は、がっかりしてしまいます。
 ヒラリーさん、あなた、この20年、30年の国際経済の変化を、
まったく分かってないんですね?と。
そう。
 分かってないとしか言いようがありません。

 いま、当時の日本の位置にいるのは、中国です。
 中国に対しては、ヒラリー氏の言い方は、まだその通りでしょう。
 しかし、中国と日本を一緒くたにするようでは、つい最近まで国
務長官をやっていたのは、いったい何をしていたのですかと、尋ね
たくなるような話です。

 トランプ氏のことも触れておきましょう。
 トランプ氏は、1980年代から90年代前半にかけ、若き不動
産王として、ニューヨークで名前をはせました。
 そう。年代的には、日米貿易摩擦が激しいころです。
 ですから、トランプ氏は、当時の「日本は円安で輸出を増やして
いる」という批判のまっただ中にいました。
 そして、いまも、そのときの考え方のまま、話をしているのです。
この人もまた、国際経済がすっかり変わってしまったことに、思
い至らないのです。
 
 ヒラリー・クリントン氏は、民主党で最有力の大統領候補です。
 トランプ氏は、いっときはエキセントリックな候補でいずれは消
えると思われていましたが、いまや、共和党で最有力といっていい
ような候補になってきました。

 このままでは、オバマ大統領のあとは、クリントン大統領か、ト
ランプ大統領です。

 困ったことに、クリントン氏も、トランプ氏も、1980年代、
90年代の、古いイメージで、政策を訴えているのです。
 時代は、もうとっくに変わってしまったのに、なお、80年代、
90年代の認識で、政策を語る。
 超大国アメリカの大統領候補が、古い認識で、いまという時代を
語ろうとしている。
 もちろん、いまここでは、経済分野のことを取り上げて記しました。
 しかし、経済は、国のもっとも基礎をなすものです。
 その経済でその程度の認識しかないのなら、政治も軍事も、科学
も、同じように、古い認識で、いまという時代を見ているのではな
いか。
 そういう不安、大いなる不安を抱かせます。

 こういう人たちが、有力な大統領候補であるということを見てい
ると、アメリカという国は、いったい、どうしてしまったのか。い
ったい、人材はどこに消えてしまったのか。
 アメリカという国は、もしかすると、知性が後退してしまったの
ではないかと、そう心配せざるをえないのです。

 本当に心配です。
 大丈夫か、アメリカ?