ちょっと気になる日本語の二回目です。
今回は、「数」です。
数といっても、1,2,3の数ではなく、数日、数年、
数人の「数」です。
あるとき、こんなことがありました。
50人ぐらいが出席したちょっとした講演会で、講師が、
「数日というと、何日ぐらいのことだと思いますか?」
といい、続けて、「2日だと思う人?」と尋ねて、挙手を
求めました。何人かの手が上がります。
そうやって、「3日と思う人?」から、4日、5日、6
日、7日、最後は、「8日と思う人」まで行きました。
それを講師がまとめて、
「2日とか3日と思うというところで手を上げた人は、
若い人が多いでしょう」
「5日とか6日と思う人は、年配の人が多いんです」
「若い人と年配の人では、時間の進み方が違うんですね」
と言いました。
へえ、そういう分析をする人もいるのかと、驚きました。
でも、ちょっと変でしょう。
というのは、数日を何日と見るかというのは、「数」と
いう日本語が、どのぐらいの数量を指すのかという、ただ
それだけの問題だからです。
「数」が、人によって違うとすれば、それは日本語がお
かしいのです。
そんなものが、年齢による違いなどであるはずがありま
せん。
もうひとつ、例を挙げます。
きょう、ネットでニュースを見ていたら、こんなまとめ
記事がありました。
「いま、バブル崩壊から数十年たって」
というのです。
どうですか?
違和感があるでしょう?
というより、これははっきり間違っています。
バブルが崩壊したのは、1990年代前半のことです。
いまが2012年ですから、それから、まだ20年です。
太平洋戦争が終わってから数十年ーーというのは、これは
ぴったりした言い方です。
しかし、まだ20年しかたっていないのに、
「いま、バブル崩壊から数十年たって」
といわれると、バブル崩壊がえらい昔のことのように見
えてしまいます。
ここでいえるのは、「1」とか「2」とかの単位を、「数
年」とか、「数日」とか言うとおかしいということです。
2年を「数年」、2日を「数日」というと、おかしいで
しょう?
20年を「数十年」というのは、間違っています。
同じように、「数日を2日という人は若い人だ」という
のも、間違っています。
それは、単純に、日本語がおかしいという話なのです。
「数」で辞書を引いてみると、
三省堂の新明解国語辞典には、「複数、原則は3以上を
指す」としてあります。
岩波の広辞苑には、「ア 数の多いこと。例えば、数珠」
とあります。なるほど、数珠 じゅず ね。あれは、玉が
多いから、数珠というのか。勉強になります。
ところが、続いて「イ 漠然と数の少ないこと。例えば
数日」とあります。一見、反対の解釈です。しかし、この
場合、「漠然と数の少ないこと」というのは、30日間も、
50日間もかかりませんよ、そんなにかかりませんよーー
という意味です。いいかえれば、1日では無理だけれど、
30日もかからないーーというわけです。1日と30日の
間、そんなに多い日数ではないけれどーーということです
ね。
しかし、広辞苑は、では「数」が3か4か5か6か、何
も書いてません。
どうも、日本語は、「数」という言葉が何単位をいうの
か、明確には定めていないようですね。
そこで、独自に整理をしてみましょう。
数日とは何日か。
1日ということはありえない。
1日であれば、「1日」と書けばすむことです。
2日でもない。
なぜなら、日本語には、「一両日中」という言葉があり
ます。一両日中というのは、1日か2日で、ということで
す。
逆に、10日というと、二桁にのってしまうので、感覚
的には、おかしい。
8日とか9日も、10日に近い感じがして、ちょっとお
かしい。
そうすると、数日というのは、3日ぐらいから7日ぐら
いまでではないか。
しかし、3日を数日というのは、私は、個人的には、違
和感がある。
結論的にいうと、「数日」というのは、「5、6日」のこ
とでしょう。
数年は、5,6年
数人は、5,6人
数か国は、5、6か国
数万円は、5、6万円
それが、正解ではないかと思います。
少なくとも、1日や2日を、数日というのは、おかしい。
3日を数日というのも、ちょっと違和感がある。
振り返ってみれば、かつて、小学校では、「数日は、5,
6日のことです」と教えていたように思います。
これまで長い間、「数日」というのは、5、6日ぐらい
という使い方をされることが多かったと思います。
暗黙の前提だったといってもいいのではないでしょうか。
最近、それが崩れてきたのかもしれませんね。