私たちのまわりで耳にする日本語、目にする日本語で、
これはちょっとおかしいなあという表現を、折に触れて取
り上げたいと思います。
きょうが第一回です。
まず、高速道路のETCの話です。
高速道路のETCは、当初は抵抗もありましたが、いま
ではもう、すっかり定着しました。
料金所をそのまま通過できるので、車をとめて係員と現
金をやりとりする必要がなくなりました。
その結果、渋滞が緩和されたのは間違いないと思いま
す。
それはいいのですが、問題は、ETCの案内の音声です。
料金所が近づくと、こういう案内が流れてきます。
「ETCがご利用可能です」
これがおかしい。
「ご利用可能です」という表現がおかしいのです。
ちゃんと言うなら、
「ETCがご利用になれます」
です。
「ETCが利用可能です」
というのであれば、問題はありません。
素直に「利用可能です」といえばいいのに、丁寧に言
おうとして、「利用可能」の前にわざわざ「ご」をつけて
「ご利用可能です」とするから、おかしくなります。
「ご利用」は、これだけで、ひとつの独立した言い方で
す。
たとえば、
「ご利用ありがとうございました」
「ご利用ください」
という具合です。
「可能」も同じように独立した言い方です。
「それは可能です」
という言い方になります。
しかし、「ご可能」とは言わないでしょう。
「それはご可能です」
と言ってしまえば、変な日本語になります。
「可能」という単語は、尊敬語・丁寧語にはなじまない
のです。
どうしても丁寧語にしたいのなら、
「ご可能ですか?」
ではなく、
「おできになりますか?」
でしょう。
「利用可能」というのは、「利用」と「可能」がくっつ
いた言い方です。決して「利用可能」というひとまとめの
熟語ではなく、「利用」と「可能」の二つの単語から成り
立っています。
確固たる「四文字熟語ではありません。
もし、「利用可能」を四文字熟語だというのであれば、
いくらでも四文字熟語が出来てしまいます。なにか、二文
字の単語に「可能」を付ければいいのです。
たとえば、
歩行可能
運転可能
入院可能
食事可能
喫煙可能
――という具合です。
別に漢字の二文字でなくてもかまいません。
たとえば、
ゴルフ可能
サッカー可能
スキー可能
カラオケ可能
――という具合ですね。
いまここで挙げた「**可能」という表現は、丁寧語に
なじみません。
やってみましょう。
「ご歩行可能」
「ご運転可能」
「ごゴルフ可能」
「おカラオケ可能」
――おかしいでしょう。
「ご利用可能」は、それと同じです。
いろいろ理由づけをしましたが、大事なのは、そういう
理由づけではありません。
そうではなく、
「ご利用可能です」
という表現に違和感があるという、その直感です。
「ご利用可能です」はおかしい日本語です。
正しくは、
「ご利用になれます」です。
お手すきにでも、ちょっと口に出して、言ってみてくだ
さい。
(1)ETCがご利用可能です。
(2)ETCがご利用になれます。
どうですか?
ETCがご利用可能ですーーというのは、どこか耳障
りでしょう。
ETCがご利用になれますーーというのは、日本語ら
しい優しい言い方です。
高速道路会社には、再考をお願いしたいですね。
追伸
きょうは、もう一本、原稿をアップしてあります。
あわせてお読みいただければと思います。