かつて、といっても、せいぜい10数年前、1990年
代初めまで、日本を言い表すのに、こういう言葉がありま
した。
「経済は一流、政治は二流」
というのです。
日本は高度成長を経て、アメリカにつぐ世界第二位の経
済大国になりました。
MADE IN JAPAN の製品が世界の市場を席
巻しました。
エズラ・ボーゲル氏の「ジャパン アズ ナンバー1」
が出版されたのもそのころです。
1970年代から1990年代初めにかけて、
日本経済は、
「ぴかぴかの時代」
にありました。
当時は、みんな、「経済は一流」といわれて、おもはゆ
いような感じを持ちながら、誇らしい気分でした。
それに対し、「政治は二流」というのは、これもまた、
我々はみんな、ごく自然に、そうだと思っていました。
自民党が長い間、ずっと政権の座にあり、人々は、自民
党になんとなく飽きていました。しかし、当時の最大野党
である社会党が政権を取る可能性はほとんんどありません
でした。みんな飽きてはいたけれど、自民党の政権は安泰
でした。だから、自民党は、派閥抗争ばかりやっていました。
どう考えても、「政治は二流」に見えました。
しかし、当時、日本は経済が一流であれば、それでなに
もいうことはないという雰囲気があり、政治が二流でも別
に、気にはしなかったのです。
だから、「経済は一流、政治は二流」というとき、気分
としては、政治が二流であることを嘆くのではなく、経済
が一流であることを誇らしく思うという感じでした。
政治? 別に二流でもいいんじゃないの。経済が一流な
んだからさ。大事なのは経済だよ。
そんな感じです。
そうはいっても、経済には景気循環があります。
何年かに一度は、必ず景気後退があります。
1980年台、日本経済が不況期を迎えた時、経団連会
長が記者会見で「政府は、早く景気対策を打ち出してほし
い」と要望しました。
自民党の幹事長だった小沢一郎氏は、その発言を聞いて、
痛烈な皮肉を飛ばしました。
「ほほう、一流の経済が、二流の政治に助けてくれとお
願いするわけですか」。
それは、皮肉であると同時に、経済に比べて格下に見ら
れている政治からの、うっぷん晴らしでもあったのでしょ
う。
私たち日本人は、「経済は一流」すなわち、日本経済が
一流であることが誇りのようなものでした。
世界中のどこに行っても「MADE IN JAPAN」
があふれている。日本経済なしで、世界は語れない。
世界の大銀行の上位10行を、ほとんど日本の銀行が占
めていました。銀行は、日本での順位がそのまま世界での
順位だったのです。
日本は素晴らしいんだ。
そんな気分でした。
「経済は一流」といわなくなったのは、バブル崩壊後で
しょう。
世界の上位を占めていた日本の銀行が次々に経営不安に
陥ります。
バブルの崩壊で、日本経済は、どんどん後退していきま
す。後退というより、縮小といったほうがいいでしょう。
90年台後半には、落ちてきた日本経済を、
「政治は二流、経済も二流」と呼ぶようになりました。
しかし、日本経済は、バブル崩壊から10年たっても、
なお、回復しません。
いわゆる「失われた10年」です。
そのうち銀行がどんどん倒産し、90年台末になると、
「政治は二流、経済は三流」
という状況になってしまいました。
では、いまはどうでしょう。
政治も落ちるところまで落ちたかもしれません。
いま、私たちが目の前で見ている政治は三流としかいい
ようがありません。
そうすると、いまの日本は
「経済は三流、政治も三流」
ということになってしまったのかもしれません。
(続きます)