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Qatar2022 人権問題 LGBTQ 招致不正疑惑

2022年12月22日 16時29分18秒 | 2022FIFAワールドカップカタール




史上最悪のW杯? Qatar2022 人権問題、招致不正疑惑で大揺れ
 2022年11月24日、サッカーのワールドカップ(W杯)の開催国カタールをめぐり、欧州連合(EU)の欧州議会は、移民労働者やLGBTQ(性的少数者)の人権が守られていないことや招致に不正行為があったとして非難決議を採択した。
 開会式に5日後に、まさに異例の非難決議が採択されたのである。

 決議では、まずW杯開催に際して建設部門を中心に数千人の移民労働者が死亡したと指摘。カタール政府と国際サッカー連盟(FIFA)に対し、労働者とその家族に補償をするよう求めた。
 2021年2月、英紙ガーディアンは、W杯開催が決まった2010~20年、インド、バングラデシュ、ネパール、スリランカ、パキスタンなどからの移民労働者6751人が死亡したと報じた。その内、37人がW杯のスタジアム建設に関わっていたと報道した。
 これに対し、カタール政府はW杯関連の死者数について、14~20年にスタジアム建設に携わった計3人だけで、このほかに37人が死亡したがW杯の建設工事とは無関係だったとしている。
 しかし、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、カタール政府は死者数を隠蔽しているとし、「数千人の死者について調査が実施されていない」と批判した。
 天然ガスの主要産出国であるカタールは莫大な収入に恵まれ、周辺地域のみならず世界中から労働者が集まる。290万人いる人口のうち、カタール国民はたった38万人に過ぎず、残りの約9割は、低賃金で働く建設作業員から有力な会社役員まで、多様な外国人移民労働者が占める。この内、建設作業員の劣悪な労働環境が問題視されたのである。

 また欧州議会は、LGBTQ(性的少数者)の人権が守られていないとする決議も採択した。カタール政府に対して同性間の性的関係を犯罪と定める法律の廃止や、性的指向による差別を禁じる法律の導入を求めた。
同性愛はイスラム法(シャリア)では禁忌とされる。カタールでは不道徳だとされる同性愛関係を法律で違法と定めており、罰金から死罪までと幅広い刑罰が科せられる。

 欧州の複数のチームのキャプテンはこれに抗議するためにLGBTQへの連帯を示す虹色の腕章、『OneLove』を着用する計画をたてた。
 11月21日にグループBの初戦でイランと対戦するイングランド代表の主将ハリー・ケインが最初に巻く予定だった。 今回のFIFAワールドカップでは、イングランドのほかに、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、スイス、ウェールズ、オランダの9カ国のキャプテンがこの団結と包括の象徴である腕章を巻くことで合意していた。
 しかし国際サッカー連盟(FIFA)は腕章を着用すれば制裁を科すと通告され腕章の着用を断念した。罰金は払う覚悟でいたが、エローカードを出されたり、退場処分を科せられるへの懸念もあった。
 『OneLove』のキャンペーンは、2020年にオランダサッカー協会が始めたもので、団結というメッセージを表し、あらゆる類の差別に反対して声を上げることが目的だった。 ヨーロッパの9か国が支持し、UEFAネーションズリーグなどの2022年の国際試合で『OneLove』の腕章を巻くことが許されていた。
国際社会での抗議活動はそれでも収まらない。
 デンマークのシュミット元首相は虹色の腕章を付けて、デンマーク対チュニジア戦を現地で観戦した。また日本対ドイツ戦ではドイツの先発選手は、写真撮影時に口に手を塞ぐパフォーマンスを行い、「口封じ」をするFIFAに対して抗議の意思を表明した。
ドイツ国内ではスーパーマーケットチェーン『Rewe』は、ドイツサッカー連盟(DFB)のスポンサーを辞退することを表明した。理由として「FIFAの恥ずべき態度」とした。
 フランスでは、複数の都市でパブリックビューイングを中止、パリではモスクワ2018大会ではエッフル塔前の公園で巨大スクリーンやファンゾーンを設置して大勢の市民でにぎわったが、今回は設置をやめた。
 英BBCは人権問題を問題して、開会式や閉会式の中継を取りやめた。


11月22日 「腕章の着用」断念を報道するCNN News

出典 DW


Qatar2022 のシンボル ルイサル・アイコニック・スタジアム 8万人収容の巨大スタジアムでFIFAワールドカップ開催に向けて新たに建設 かつてのアラブ諸国やイスラム諸国の特徴的な器や伝統的なランタンをモチーフにしたデザイン。 合計8つの豪華絢爛なスタジアムが整備された。 今回大会開催に向けて、スタジアムの建設を始め、鉄道やハイウエー工事、ホテル建設などで、約2200億ドル(約28兆)の巨額の資金を投入したとされている。 出典 FIFA+

 カタール大会招致を巡る疑惑も深刻な影を落としている。
 国際サッカー連盟(FIFA)は招致疑惑の調査に乗り出したが「買収」と認定する明確な証拠はなかったとした。しかし報告書では投票権を持つFIFA理事らへの豪華接待や天然ガスの輸出といったビジネス面の便宜供与などの疑惑行為が行われていたことを明らかにした。
 FIFA理事がいる国の代表チームの親善試合を巡る高額で不透明な手数料や、サッカー普及・振興を名目にした資金援助なども賄賂の抜け穴になった可能性があると指摘した。
欧州議会は、カタールでのW杯開催決定でプロセスの透明性と責任あるリスク評価を欠いたとして、「世界のサッカーのイメージと品位を著しく損ねた」とFIFAを厳しく批判した。 
 そしてドイツやフランス、イタリア、スペインといった大規模な国内リーグを持つEU諸国に対し、FIFAの抜本的な改革に向けて圧力をかけるよう要請した。前代未聞の要請である。

 Qatar2022 はイスラム圏で初開催のFIFAワールドカップとなるが、欧米とカタールの価値観の違いが浮き彫りになっている。欧米はLGBTQ(性的少数者)の人権を巡ってカタールへの批判を強めたが、一方で、欧米のこうした立場は価値観の押しつけと批判する意見もある。
 米シンクタンク、湾岸諸国分析(GSA)のジョルジオ・カフィエロ氏は「カタールは人権問題で批判を受けるべきだが、欧米諸国が上からの目線でこのような問題を語るのは幾重もの偽善がある」と強調。欧米が人権問題を取り沙汰される中東の独裁的な国家と協力関係を築いていることとの矛盾も指摘した。
 FIFAのインファンティノ会長は開幕前の記者会見で「欧州の人々は道徳を説く前に、世界で過去3000年間やってきたことを謝罪すべきだ」と主張した。

インファンティノFIFA会長 出典 FIFATwitter 
 
 カタールだけを人権問題で差別的とバッシングをするは如何なものかと筆者は考える。日本でもLGBTQ問題や人権問題がすべて解決しているわけではない。世界各国はさまざま人権問題を抱えている中で、それぞれが足元を見つめなおす必要に迫られていることを忘れてはならない。
 大会終了直後、フランスでは、アルゼンチンとの決勝戦でPKを失敗したコマン選手とチュアメニ選手が、インターネット上で人種差別的な罵倒にされているという。
 こうした事態を受けて、コマンの所属するバイエルンは公式ツイッターで「FCバイエルンは選手に対する人種差別的な発言を強く非難する。スポーツ界、そして我々の社会に人種差別の居場所などない」との声明を発表した。
 こうしたインターネット上での選手に対する人種差別はイギリスでも大きな問題となっていて、昨年開催されたEURO2020では、イタリア代表との決勝戦でPKを失敗したイングランド代表のサカなどの3選手は人種差別の被害に遭っていた。
 人種差別は、欧米各国で根が深い問題である。


フランス代表 FWコマン選手 出典 Kingsley Coman Instagram

 アラブ首長国連邦(UAE)のドバイが国際博覧会を成功させ、カタールがサッカーの祭典を開催したことで、中東では国際イベントの誘致が急速に進むとみられる。
 しかし、欧米と中東諸国との間にある文化や価値観の違いが、当面、解消される可能性は少なく、国際イベントの開催をきっかけに「摩擦」が顕在化する懸念が大きい。国際社会はこうした課題にどう取り組んでいったら良いのだろうか。Qatar2022 はこうした問題を投げかけた大会となった。
 豪華絢爛な8つの冷房完備のスタジアムで開催されたQatar2022大会、FIFAワールドカップ史上、「最悪の大会の汚名」を背負った大会になるのか、中東での初開催の金字塔になるのか、大会後にどのような評価が与えられるのか注視したい。



カタール市街地 出典 Qatar2022

出典 FIFATwitter



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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
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